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このコーナーでは、TOEFL®テストの実施運営団体であるETSのプロダクツをご利用いただいている高等学校・大学での導入事例を、現場の教室からお伝えします。

ETSプロダクツとは、TOEFL®PBT(Paper-Based Testing)テストの過去問題を使った「団体向けTOEFL®テストプログラム:TOEFL ITP® テスト」や、インターネットに接続できる環境があればどこからでもアクセスができ、短時間で採点とフィードバックを自動で行う、ライティングの授業には欠かせない「オンライン・ライティング自動評価ツール:Criterion®」など、現在日本国内のみならず世界の教育現場の皆様に多くご利用 ・ご活用いただいているETS開発のテスト・教材です。

今回はTOEFL®テストの活用法について明治大学国際日本学部の大須賀直子先生からご寄稿いただきました。

大須賀直子

大須賀直子(おおすか なおこ)先生プロフィール:
明治大学国際日本学部准教授
東京外国語大学スペイン語学科卒業
米国マンハッタンビルカレッジ大学院修士課程修了(TESOL専攻)
桜美林大学、法政大学等の非常勤講師を経て、2005年より秋草学園短期大学助教授、2008年から現職
専門は英語教育、中間言語語用論、言語学習ストラテジー

1.はじめに

明治大学国際日本学部は、2008年に発足したばかりの若い学部です。この3月に1期生が初めての卒業生として巣立っていき、完成年度が終了します。この4年間を振り返ると、様々な試行錯誤もありましたが、全体としてはかなり順調に進んできたと言えると思います。

本稿では、国際日本学部が明治大学の国際化の中心としてどのような教育をおこなっているのか、とくに本学部の大きな特色となっている英語教育についてご紹介し、その中でTOEFLテストをどのように活用しているかについても述べさせていただきます。

2.明治大学の国際化と国際日本学部

以前は、明治大学には「国際的」というイメージはあまり強くなかったかもしれませんが、近年では非常に熱心に国際化を推進している大学のひとつとなっています。とくに、2009年に文部科学省の国際化拠点整備事業(グローバル30)に採択されたことにより、さらなる国際化が急速に進んでいます。そしてその中心を担っているのが国際日本学部です。

国際化拠点整備事業とは、日本の大学が質の高い教育を提供し、海外の学生が日本に留学しやすい環境を整えられるように、国が国際化拠点の形成の取組みを支援する事業のことです。2009年に国内の13大学が国際化拠点大学として採択され、明治大学も高い競争率を潜りぬけてそのうちの1校に選ばれました。これにより、英語による授業等の実施体制の構築や、留学生受け入れに関する体制の整備、戦略的な国際連携の推進等に国から支援を受け、本格的に取り組むことになったのです。

まず、英語による授業等の実施体制の構築ですが、これに伴い2011年度から国際日本学部にはEnglish Trackというコースが新たに設置されました。これは、すべての単位を英語による授業でとることができ、4年間で学士号が取得できるコースです。このコースでは、日本の伝統文化に加えて、クールジャパンと呼ばれるような現代文化、さらにその土台となる日本の社会システムなどについて学ぶことができます。もちろん日本語習得のための授業もあり、日本語が上達すれば日本語による授業も受講することができます。このような新コースの設置により、今までよりも幅広く留学生を招致することができ、ひいてはそれが日本人学生に切磋琢磨する機会を与え、国際人の育成にもつながることが期待できます。すでに定員いっぱいの15人の世界各国からの学生がこのコースで学び始めています。

留学生受け入れに関しては、2010年度の明治大学の留学生は約1100人でしたが、これは5年前の約2倍です。国際日本学部はとくに積極的に留学生を受け入れており、300人の定員の20%(English Trackを含む)を留学生枠に当てています。また、明治大学の協定校の数は約130で、5年前に比べると約5倍となっています。今後このような体制をさらに強化して、より多くの留学生を受け入れていくことになります。さらに、外国人教員が占める割合も年々増加しています。国際日本学部でも、非常に多くの外国人教員が専任教員および兼任教員として活躍しています。

以上のように、急速に国際化が進む明治大学の中で、国際日本学部は重要な役割を果たしています。では、次に国際日本学部の教育の特色について述べたいと思います。

3.国際日本学部の特色

「国際」と「日本」という一見矛盾した言葉が合わさった、ちょっと変わったネーミングの学部なので、学生は就職活動の面接などで「何を勉強する学部なのですか?」と尋ねられることもあるようです。国際日本学部は、日本のことをよく知った上で、国際的な視野を持ち、世界に向けて積極的に日本を発信できる、そんな真の国際人を育成することを目標として作られた学部です。非常に学際的な学部なので、教育内容は多岐に渡っています。たとえば、日本の伝統文化に加えて、マンガ・アニメ・オタクなどのいわゆるクールジャパンと呼ばれる現代文化について学問的に学ぶ授業がある一方で、コンテンツ産業やメディア、ものづくりなど、最先端の日本の産業社会について学ぶ機会もたくさんあります。もちろん、国際と名のついているとおり、アジア、アフリカ、アメリカ、ヨーロッパ、など世界各地域の文化や社会についても学ぶことができ、さらには異文化交流や多文化共生について深く学ぶこともできます。学生は自分の興味に応じて、どの授業やゼミをとるかを選択し、4年間で日本の文化や社会についての広い知識と理解を得ると同時に、世界の他地域の文化や社会も学んで国際的視野を身につけ、最終的には世界に向けて日本が発信できるようになることを目指します。

さて、国際日本学部の特色のひとつに、たくさんの留学生の受け入れと送り出しがあります。受け入れについてはすでに述べましたので、ここでは留学生の送り出しについて述べましょう。

国際日本学部では、できるだけ多くの学生に在学中に留学を経験してもらいたいと願い、本学部の学生のみを対象に、様々な留学プログラムを用意しています。まず大きく分類すると、半年間のセメスター留学と1カ月間の夏期語学留学があります。さらにセメスター留学には、現地の大学で正規学生として授業を受けるアカデミックな留学と、フロリダ大学で短期間講義を受けたあと、ディズニーワールドで実際の仕事に就くインターンシップ留学があります。

インターンシップ留学は他にあまり類のないとてもユニークなもので、国際日本学部の学生の間でも抜群の人気を誇っています。多くの学生が憧れるディズニーワールドで、実地体験を通してホスピタリティを学べるうえ、仕事にたいして給料が支払われるので、結果的に留学費用が安くすむというメリットがあります。毎年かなりの数の学生が参加しますが、私の聞いた限りではとても満足度が高いようです。インターンシップ留学以外のセメスター留学は、より勉強に重点を置いたアカデミックな留学です。

国際日本学部はアメリカのオレゴン大学や、インディアナ大学、ニューヨーク州立大学、アラバマ大学、さらにイギリスのオックスフォード大学と独自に協定を結び、毎年留学生を送り出しています。現地の大学でみっちり勉強するので、後述するように、半年間で英語力が大きく伸びます。セメスター留学では、インターンシップ留学も含めて、留学先の大学で習得した単位が明治大学の単位に一部移行できるので、卒業が遅れることはありませんし、2年次に参加すれば就職活動に差し支えることもありません。

一方、語学留学は夏休みを利用して行く、約1カ月間の留学です。期間も短く、費用も低めなので、オレゴン大学、ニューヨーク州立大学、オックスフォード大学などの協定校でおこなわれるプログラムに、毎年多くの学生が参加しています。1カ月という短い期間ですが、学生にとっては貴重な異文化体験になる上に、後述するように、英語力向上という点でも大きな効果が認められています。

国際日本学部では、積極的に留学を奨励し支援していますが、全員に義務として課しているわけではありません。また、セメスター留学については、受入先の要件がありますから、いくら希望しても事前のTOEFLテストで基準点以上をとらなくては、応募することができません。そこで、英語教育担当者は、ひとりでも多くの学生が基準点を越えられるように、授業の内外で支援をおこなっています。では次に、国際日本学部の英語教育について述べさせていただきます。

4.国際日本学部の英語教育

国際日本学部の学生に学生生活について聞くと、「1年生のときはとにかく英語に明け暮れた」と少なからずの人が答えます。このようなコメントが示すように、国際学部の英語教育の特徴のひとつは、1年生から2年生の前期にかけて集中的におこなうことにあります。1年生のときは年間を通じて週8コマ、2年生前期では、週6コマの英語科目が必修です。具体的には、1年生ではSpeaking、Listening、Reading、Writingの4技能科目をそれぞれ週2コマずつ、2年生前期では、Academic Writing、Speech & Presentation、TOEFL Preparationの3科目を週2コマずつ履修します。なぜ2年生前期までかというと、2年生後期にはなるべく多くの学生にセメスター留学に参加してもらいたいという理由で必修科目を置いていないのです。もちろん、留学に参加しない学生のためには、後述するように様々な選択科目が用意されています。

必修科目には様々な特色があります。まず、プレースメントテストにより、クラスは英語習熟度に応じて3レベルに分けられて編成されます。各レベルは、共通のシラバス、共通のテキスト、共通の期末テストを使用しますので、クラスや担当教員によって内容や進度が大きく異なることはありません。1クラスの人数は約20名に抑えられているので、教師は学生一人ひとりに目を配ることができます。また、1年生のときに学生同士は1週間に8コマつまり12時間も英語授業で同じクラスメートと顔を合わすので、クラスに結束が生まれ、コミュニカティブな活動をスムーズにおこなうことができます。そして、英語クラスが学生生活4年間の人間関係の基盤になるという思わぬ副産物も生まれるようです。

授業内容に関しては、留学を積極的に奨励しているため、アメリカの大学が要求しているTOEFL iBTスコア(61点)に到達できるように、そして英語圏の大学に留学をしたら支障なく授業についていけるように、ということを念頭に置いて構成されています。1年生のSpeakingでは日常会話よりもディスカッションやスピーチ、プレゼンテーションを中心とし、Listeningでは英語によるレクチャーを教材としています。Readingでは読解ストラテジーを指導し、また精読だけではなく、分量の多い英文を速く読む力がつくように多読もカリキュラムに、組み込んでいます。Writingはいわゆるアカデミックライティングで、パラグラフやエッセイの書き方を徹底的に指導します。2年生のAcademic Writingではかなりの長さのエッセイを書き、Speech & Presentationでは、1年生よりもさらに高度なレベルで、スピーチやプレゼンテーションをおこないます。そしてTOEFL Preparationでは総合的な英語力の向上を目指します。

国際日本学部の英語授業は、英語のネイティブスピーカーを中心に、様々な国籍の教員によって担当されています。専任教員だけでも12人のネイティブスピーカーを擁しています。そして、教員の多くが、欧米の大学院でMATESL(第2言語としての英語教授法修士号)を取得しており、どのように指導すれば効率よく英語を習得できるかを熟知しています。そして、日本語を介さず、学生に英語のインプットを大量に与え、学生がアウトプットできる機会をできる限り作り、教室をコミュニケーションの場とします。国際日本学部の英語授業は、英語の知識を増やすことではなく、英語を使えるようにすることを目的としているのです。たとえ日本人教師が担当であっても、教室内では英語以外使用禁止です。また、教室の中で実際に英語を使う機会を多く作るため、ペアワークやグループワークなどのインタラクティブなアクティビティが多く使われます。

それでも、一歩教室の外に出れば、英語を使う機会がほとんどないのが日本のEFL環境です。そこで国際日本学部では、オフィスアワーと呼ばれる、ネイティブの先生と自由に会話できる時間を豊富に設けています。先生1人に対し多くても学生10人くらい、少なければ2,3人なので、たくさん話すことができ、また週に何回でも好きなだけ参加できるので、会話力を伸ばしたいと思っている学生には貴重な機会となっています。

最後に、選択科目ですが、2年次前期で必修科目が終了した後は、選択科目を通して英語学習を継続することになります。選択科目には、TOEFLテストやTOEICの準備講座の他に、Literature Reading、Practical Drama、Current English、Integrated Englishなど様々な科目があります。Integrated Englishは数名の教員が担当していますが、それぞれの教員の得意分野を活かして、ユニークなContent-basedの授業が展開されています。たとえば、“Ethics and Society”や“English for the Travel and Hotel Industry”などのテーマの授業があります。

アカデミックかつコミュニカティブな国際日本学部の英語教育は、高校までは大学受験を主目的に英語を勉強してきた学生にとってかなりのカルチャーショックのようですが、比較的早い段階でほとんどの学生が順応するようです。以上が、国際日本学部の英語教育の概略ですが、次に、英語教育の中でTOEFLテストをどのように活用しているかについて述べたいと思います。

5.TOEFLテストの活用について

国際日本学部にとって留学プログラムは非常に重要ですので、留学に必須のTOEFLテストは英語教育の中でも大きな役割を果たしています。

まず、4月の入学時におこなうプレースメントテストには、TOEFL ITP テストを使用しています。これは、新入生にTOEFLテストの内容に触れてもらうのと同時に、今の実力を自覚させるという意味もあります。このテストの結果によってそれぞれの学生がどのレベルに振り分けられるかが決まるのですが、これまでの経験からすると、かなり適切にレベルが測られていると思います。また、学生には入学と同時にTOEFLテスト対策問題集が配布され、本番のTOEFLテストに向けて自分で準備を始めるように指示されます。

セメスター留学の提携をしている海外の大学は、すべてTOEFL iBTのスコアを基準に受入条件を定めています。そこで、国際日本学部では1年次の11月までに、全員がTOEFL iBTを受験するように求めています。受験料1回分については、大学が補助しています。TOEFL iBTでは、ペーパーベースのテストとは異なり、ひとりが1台コンピュータを使用して、「読む」「聞く」「書く」「話す」の4技能すべてがコンピュータ上でテストされます。合計4時間以上もかかる大変なテストですから、あらかじめ予備知識を持ち、練習をしておくことが必要です。そのために国際日本学部では、6月にTOEFLテストの日本事務局であるCIEEにおいでいただき、1年生向け説明会を開催して、TOEFL iBTの内容や、受験手続について詳細に説明をしていただいています。またその際に、オンライン上でTOEFL iBTと同じ形式の練習問題をおこなうことができるTOEFL iBT Complete Practice Testのauthorization numberを全員に配布しています。

上述のとおり、TOEFL iBTはコンピュータを使って4技能を測る、従来とは違った形式のテストですので、受験者は形式に慣れることが必要です。いきなり受験してしまうと、内容以前に答え方などの形式に戸惑って、実力が発揮できないままに終わってしまうことになります。しかし、正規のTOEFL iBTは受験料が日本円にすると2万円くらいかかるので、何回も受けることは経済的に大きな負担となります。そこで、TOEFL iBT Complete Practice Testのように、オンライン上でTOEFL iBTを疑似体験できる教材が非常に有効です。4技能すべてについてテストを受けられ、speakingやwritingも自動採点もされるので、自分の実力を知ることができます。また、時間制限有りかなしかを選べ、中断したときはそこから再開することができるので、自分のペースに合わせて使うことができます。国際日本学部では、大学が費用を負担してTOEFL iBT Complete Practice Testを導入し、学生が正規のTOEFL iBTを受けたときのハードルが下がるように支援しています。学生からしても、問題集などを使って学習するよりも、オンライン上での学習は臨場感もあり、やる気を起こさせるようです。

こうして学生は11月末までに個々にTOEFL iBTを受験して、大学に結果を報告します。そして留学の基準点(61点)に達した学生は、セメスター留学やディズニーインターンシップ留学に参加申し込みをする資格が得られるのです。ちなみに、2011年度にTOEFL iBTのスコアが基準点を超えた学生の数は約100名で、そのうち約70名の学生がセメスター留学する予定です。

国際日本学部では、2年次の後期終わりに、再度TOEFL ITP テストを全員に実施しています。これにより、学生は入学後にどれだけ英語力が伸びたかを知ることができます。教員側としても、入学時と2年終了時の両方のTOEFL ITP テストのデータを統計的に分析して比較することにより、全体的にスコアは伸びているか、どのレベルの学生が伸びているかまたは伸び悩んでいるか、留学の効果はどのくらい出ているか、などを知ることができます。ちなみに、2008年度入学者全員と2009年度入学者全員のデータについて統計的に分析したところ、両年とも、上、中、初のどのレベルにおいても統計的に有意に(1%レベル)スコアが伸びていることが確認されました。ただし、どのレベルで伸びがよかったかは年によって異なり、2008年度の学生については、上級と初級の学生において伸びが大きく、2009年度の学生については中級と初級の学生において伸びが大きいという結果が得られました。今後さらにデータを蓄積して検討する必要があります。また、留学が英語力の伸びに及ぼす効果についてですが、セメスター留学者についても夏期短期留学者についても、伸びは非常に大きく、全体の伸びの平均の約2倍伸びていることがわかりました。TOEFLテストの内容の性質上当然と言えますが、とくに、アカデミックなセメスター留学をしたグループの学生の伸びが大きく、1年入学時の平均スコアは504点でしたが、2年終了時の平均スコアは556点に上がっていました。このように、TOEFL ITP テストを時間をおいて2度実施することにより、英語教育や留学の効果がどのくらい表れているかを知ることは、今後カリキュラムをさらに良くしていく上で大変役に立つと思います。

6.今後の課題

国際日本学部の英語教育には、取り組むべき課題もたくさんあります。入学時に基礎的な英語力が十分身についていない学生が一定数いる中で、どのように高いレベルの英語教育を保っていけばいいのか、もっと多くの学生に留学の基準点をクリアさせるためには、さらにどのような改善をおこなえばいいのか、集中的な英語教育が終わったあとの学生の英語力が下がらないようにするためには、どのような方策があるのかなど、一朝一夕には解決できない課題ばかりですが、地道に取り組んで、国際日本学部の英語教育に魅力を感じて入学してくる学生の期待に、もっともっと応えられるように努力していきたいと思います。

2012年3月30日(金)、東京・青山にて教職員向けセミナー開催決定!

明治大学での大須賀直子先生の取り組みについてもお話いただきます。詳細についてはこちらのページをご覧ください。

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