For Lifelong English
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様々な世代の人々が様々な場で、生涯を通して何らかの形で英語にかかわって仕事をしています。英語は人それぞれ、その場その場で違います。このシリーズでは、英語を使って活躍する方にお話を聞き、その人の生活にどう英語が根付いているかを皆さんにご紹介し、英語の魅力、生涯にわたる楽しさをお伝えしていきます。英語はこんなに楽しいもの、英語は一生つきあえるもの。ぜひ英語を好きになってください。
第48回 For Lifelong English
– 立命館大学BKCの誕生にみる、
産学連携の先駆となった大学改革について その3

谷口 吉弘先生
1980年代後半から、21世紀学園構想委員会に委員として参加して、「21世紀の立命館学園構想」中で、新しい理工学部の教育と研究の展開について答申し、理工学部のBKC(びわこ・くさつキャンパス:滋賀県草津市)への移転後、理工学部再編拡充事務局長として理工学部の改革を実施した。1998年から3ケ年間、理工学部長を務める。また、2007年から、生命科学部・薬学部の設置にかかわり、2008年から3ケ年間初代生命科学部長を務める。現在、学校法人立命館 総長特別補佐。文部科学省国費留学生の選考等に関する調査・研究協力者会議 主査、経済産業省アジア人材資金構想 評価委員、日本国際教育大学連合 常務理事を務める。

聞き手:鈴木 佑治先生
立命館大学生命科学部生命情報学科教授
慶應義塾大学名誉教授
大学生の教養として英語
- 鈴木佑治先生:
- 文科省の『留学生30万人計画』では、学生を海外に派遣しますが、同時に日本にも30万人の留学生を受け入れることを目標にしています。日本に留学する学生は、日本語を学びながら、多くの授業を英語で受けることになると思いますが、入学を許可するに当たってはやはりある程度のスタンダードをクリアする必要があるでしょう。そこで考えられる、例えばTOEFLテストなどの診断テストについてはどう思われますか。そのスタンダードはどのようなもので、どのようなことを診断したらよいのでしょうか。
- 谷口吉弘先生:
- 重要なことは、大学生活や授業、研究内容が理解できる英語のコミュニケーション(読む、聞く、話す、書く)能力です。中でも、自分自身の考えを英語で発信する能力こそが重要です。大学院で学ぶ場合、英語で研究内容をディスカッションする必要があります。それができないと自分の研究を遂行することはできません。ですから、生命科学分野の研究を目指す学生諸君には英語によるコミュニケーション能力をぜひ高めてもらいたいですね。グローバル化の時代、日本の大学(大学院)においても、英語がナショナルスタンダードとなり、大学生の教養として少なくとも、英語によるコミュニケーション能力は当たり前になっていくでしょう。その能力を測る基準の一つとして、TOEFLテストが考えられます。TOEFLテストは世界の多くの国と機関で英語運用能力の証明に用いられ、英語圏の大学のみならず世界の多くの国の入学基準として使われています。これはTOEFLテストがグローバルスタンダードで英語運用能力を公正に判断できるものだからです。留学生がTOEFLテストの一定の基準をクリアすれば、当該国の大学が受け入れることになれば、学生のモビリティーは以前にもまして増えるでしょう。TOEFLテストのスコアを判断して、日本の大学が留学生を受け入れるということになれば、日本にくる学生はもっと増えると思います。今後、学生の送り出しと受け入れについて学生のモビリティーを上げるためには、英語運用能力に関してTOEFLテストのような明確な基準が必要になってくると思います。
- 鈴木佑治先生:
- 日本語の方はどうでしょうか。日本語版のTOEFLテストの様なものになるのでしょうか。但し、AさんとBさんを比べて、テストのスコアが高い方を入れるのではなくて、この程度できれば入れてよいという、入学許可をする上でガイドラインになるスタンダードというか指標を示す、そうした使い方がよいのではないかと思いますが。
- 谷口吉弘先生:
- 日本語基準で日本に留学を希望する学生に対しては、日本留学試験があります。科目は、日本語、理科(物理、化学、生物)、総合科目と数学で、日本に留学するためにはこの試験に合格する必要があります。また、世界で日本語を学ぶ人のために日本語能力試験があり、世界各地で一斎に実施され、受験者数最大の日本語の試験です。日本語の文字・語彙・文法と読解・聴解を通して日本語コミュニケーション能力を判定する試験です。BJTビジネス日本語能力テストは文法、語彙、漢字などの知識があることを前提に、これらの知識を活用して、与えられた情報をいかに対応できるかといった日本語のコミュニケーション能力を測るテストで、日本企業で活躍するために必要とされる日本語能力です。いずれもガイドラインとして利用されています。これらのガイドラインに基づいて入学しても、当然、日本語運用能力には個人差があります。このため、大学入学後も日本語運用能力の向上のためのフォローアップが大切です。オーストラリアの大学では、一定基準の英語運用能力を備えた学生を入学させ、TOEFLテストのスコアに応じた木目の細かい予備教育を行っていました。留学生を捕まえたら離さないという感じです。多くの留学生を受け入れるには、そういった教育の仕組みが必要です。大学は専門教育には力を入れますが、予備教育は付加的なものだと思われているのではないかと思います。留学生にとって予備教育も専門教育と同程度に重要です。グローバルスタンダードのテストで入学した後、フォローアップをきっちりしないと、高等教育の国際競争には負けるでしょう。留学生にとって、予備教育は大変重要で、今後、予備教育をしっかりしている大学に留学生は行くようになると思います。また、スウェーデンの大学を訪問した時に、日本からの留学生に、「スウェーデンに留学して感じたことは何ですか?」と質問したところ、「スウェーデンに来てから、授業外でも勉強することが多くなりました。宿題も多く、日本にいるときよりもはるかに自主的に勉強しています」と言っていました。スウェーデンの大学教育は少人数でディスカッションをする機会が多く、自分の考えをまとめることが多いということでした。
- 鈴木佑治先生:
- 以前、先生とお話しさせていただいた時に、理系の学生も、大学にいる間に色んなことを考えたり、読んだりすることが必要であると力説されていらっしゃいました。文系に限らず理系の学生も小説を読み情緒性を豊かにすることが必要であると。ご自身も若かかりし学生時代に、研究書以外にも、おおいに読み、考え、語り合ったと伺いました。
- 谷口吉弘先生:
- そうですね、今の学生は専門外の本を読んだり、無駄なことをしないですよね。だから考え方がすごく狭いように思います。
- 鈴木佑治先生:
- どうしても資格とか、すぐ眼の前にある理解しやすいものに目がいってしまいがちですが。
- 谷口吉弘先生:
- そういうことを大学が誘導しているふしもあります。
- 鈴木佑治先生:
- そうですね。
- 谷口吉弘先生:
- 無駄飯食いという言葉がありますが、僕は無駄飯は無駄には食べてないと思うんですよね。
- 鈴木佑治先生:
- そうですね、無駄ではないんですよね。
- 谷口吉弘先生:
- 学生時代はもっと自由で、専門外の本を読んだり、海外留学したりして、専門とは異なる分野の見聞も広めないといけないと思います。それから、知についてハングリーでないといけません。アップル社の元CEOの故スティーブ・ジョブズは、スタンフォード大学でのスピーチで、オリジナルなことを始めようと思ったら、ハングリーでフーリッシュたれと言っています。今、日本の大学は、かごの中の鳥のようです。でも大学から一歩出たら、社会は大変な荒波です。だから会社に就職しても、社会の荒波を乗り切れずに、辞めてしまう結果になります。タフじゃないですね。失敗を恐れてチャレンジしないし、危険なものには近づかない。
- 鈴木佑治先生:
- それがこの頃の学生たちが留学したがらないことにもつながっていますよね。
- 谷口吉弘先生:
- 留学したら、就職のチャンスを逃してしまうと考えているからなんですよ。
- 鈴木佑治先生:
- でもその方が、人生の選択としては危険かもしれません。
- 谷口吉弘先生:
- 人生長いですからね。
- 鈴木佑治先生:
- そうですよね。
- 谷口吉弘先生:
- 僕は、卒研生が大学院にチャレンジするときに、海外の大学院に行くことを勧めています。卒研生の一人がイギリスの大学院へ進学しました。イギリスでは修士号(マスターオブサイエンス)が1年で取れます。そこで、英国の大学で1年間英語学習の後、大学院に進学して、1年間でマスターオブサイエンスの修士号を取得して、帰国しました。その後、1年遅れて、就職活動を行い、海外での学習が高く評価されて、有名企業に就職し、今海外で活躍しています。だから、若い時代に一度でもいいから、外国で勉強する経験をするように進めています。日本とは違う世界を身をもって体験することは重要です。
- 鈴木佑治先生:
- 今では、パックツアーのように言われたところしか行かない留学もあるそうですよ。
- 谷口吉弘先生:
- それではあまり意味がないですね、女子学生は元気があるような気がします。スウェーデンでインタビューしたのも女子学生でした。学生からは「日本の大学の先生の教え方が下手なので、日本の大学にティーチャーズトレーニングセンターを作ってください」と言われました。やっぱり海外での経験は将来の大きな財産になりますからね。日本の大学教育は変わっていかないと、将来、日本は難しい時代を迎えるのではないでしょうか。僕は、留学生関係の仕事に長く関わってきましたので、留学生を通して、日本の大学教育を変える必要を強く感じています。
- 鈴木佑治先生:
- それは日本に来る留学生ということですね。
- 谷口吉弘先生:
- はい、内なる国際化です。日本の学生が海外に行きたがらないなら、海外から多くの留学生を受け入れて、日本の大学の中で、国際化を実現しようというものです。そうでもしないと日本の大学は世界の孤児になりかねません。
- 鈴木佑治先生:
- アメリカでは80年代にホームレスに身を落とした人たちが、90年代にベンチャー企業を立ち上げたりしているんですよね。考えてみたら私たちの学生時代の60年代にも似たような状況がありましたから、身を落とすことにあんまりショックがないんですよね。落ち込んでもまた立ち上がっていく。今の若い日本人は、職を失ってしまうと、The endと思い込んでしまいがちですが、そんなの一過程にすぎません。やり直せばいいんです。
- 谷口吉弘先生:
- この閉塞感というのは、なんともいえないものがありますね。昨年10月に韓国ソウルで世界の学長クラスのフォーラム(Presidential Forum)で話す機会がありました。テーマは「ボーダレス エンド クリエイティブ エディケーション」(Borderless and Creative Education)というもので、僕は ①「トランスボーダーエディケーション」(Trans-border Education)、②「トランスレイショナルリサーチ」(Translational Research)、③「トランスボーダーサイエンス」(Trans- border Science)という話をしました。今まさに、高等教育には、国を超えた教育・研究と基礎科学から応用技術への移行が必要とされています。
- 鈴木佑治先生:
- ライティングの件で、立命館の生命科学部の英語履修者の英語によるポスター・プレゼンテーションも先生にご覧いただきましたが、特に書くということに関して先生は力を注いでいらっしゃると思うのですが、今後、日本人にはどういう形で書くことをすすめていけばいいでしょうか。
- 谷口吉弘先生:
- ライティングについて、高校3年のとき、英語担任の先生が、「英語というのは手で覚えるもんや」と言われたことは、今でも鮮明に覚えています。つまり、何度も練習して基本的なパターンは暗記し、考えなくても、自然に手が動いて書けるまで練習しなさいという意味です。やはり最初は真似からはじまります。きちんとした形を真似るということは大事です。基本パターンを徹底的に覚える。また、書く前によく考える、そういう訓練も必要です。書くことは構想力や考える力がないとだめです。基本は本を読むこと、特に哲学書などの難解な本を読むことを勧めます。最近の学生は本を読まないですね。本を読むことと徹底的に書いて覚えること。英語以前に学ぶことがたくさんあります。
- 鈴木佑治先生:
- たとえば日本人の学生も外国人の学生も、英語や日本語ができる、できないという問題以前に、コンテンツ・デベロップメントができないから、話せない、書けないのではないでしょうか。好きなように読ませて、考えさせ、人とは違うオリジナリティーに富むコンテンツを発展させ、それについて話し、書く機会をもうける。もちろん、同時に、英語や日本語の基礎パターンをしっかり学習できる仕掛けも備える。そういう授業を文系、理系問わずやってみるべきではないでしょうか。まず、最初の段階では、日常一般的なことを聞き、読み、自分の考えを表現してみる。その後で、それぞれの専門分野について学び、考え、日本からオリジナリティーに富むメッセージが発信されていく。その為にはライティングセンターのようなサービスも整備した方がよいと思いますが。
- 谷口吉弘先生:
- そうだと思います。やはり、最初、基本パターンは無理してでも教え込まないといけないと思います。基本がしっかりしていて、考える力が備われば英語の文章が自然に書けるようになると思います。どうも考える力がないからなのか、文章が書けないですね。コンピューターソフトが発達して文章作成が便利な反面、失ったものもたくさんあると思います。昔は文章作成にコンピューターがなかったので、文章の構造を頭の中でとことん考えてから書きますよね。今は何でもかんでもとりあえずコンピューターに打ち込んで、並び替える様な思考になっています。本を読むことは、元々あった人間の思考回路を活性化するということだと思います。今は文章作成が便利になった分、失われたものもあるのではないでしょうか。僕が昔書いたものと最近書いたものの文章を比較すると、日本語が荒い。すーっと流れるように書かれていない。それは頭の中でよく考えて整理されていないということだと思います。
- 鈴木佑治先生:
- 単語が羅列されているような、ツイッターでつぶやいているような日本語ですよね。
- 谷口吉弘先生:
- いわばそれは文章ではなくて、携帯メールのような語句の羅列ですね。それは本当の意味で文章とはいえません。
- 鈴木佑治先生:
- 世界どこへ行っても同じようなインフラがあるにもかかわらず、どうも日本人に特にその傾向が強いような気がします。
- 谷口吉弘先生:
- コミュニケーションをしてないからじゃないからかな。他者とではなく携帯とコミュニケーションしている。海外では日本のように携帯に頼ったコミュニケーションは誰もやってないですよね。ちょっと恐ろしい気がします。
- 鈴木佑治先生:
- 向こうでは、携帯はあくまでも話す道具として使っていますよね。同じ携帯を使ってはいても、日本人のコミュニケーションは話すことをはしょって指先で完結してしまっています。向こうではもっともっと実際に口に出して話していますよね。そういう意味で失われた部分は何かということを皆で考えて、そこをケアしていかないといけないですよね。
- 谷口吉弘先生:
- それが教育ですけれどね。
鈴木佑治先生の感想
谷口先生は、専門科目以外に、理系用日本語「アカデミック・ライティング」の授業を担当されてまいりました。手間暇のかかる科目であると伺っております。アカデミック・ライティング(英語)を1年生と2年生の必修科目として課しているアメリカでさえ、理系の学生に特化したものはないでしょう。大方は英文学の先生が担当しているもので、谷口先生のようなライフサイエンティストの著名な研究者が直接するものはあまり耳にしたことはありません。立命館大学の生命科学部の学生はこうした授業がとれるのですから幸せです。受講生の中には留学生もいるようで、このような授業が全学的に展開されたら素晴らしいでしょう。今回の谷口先生のお話には、こうしたアカデミック・ライティング・プログラムを立ち上げ、長年担当されてきた経験が随所に感じられました。理事や学部長などの要職につきながらも、こうした現場に直接携わってこられた谷口先生に敬意を表します。いつか、私たちのプログラムの英語アカデミック・ライティングと共同でさせていただけたらと勝手に考えています。私たちの英語プログラムがここまで成長できたのも、学部長時代の谷口先生のサポートと助言のお陰です。
–「立命館大学 総長特別補佐 谷口吉弘先生のお話を聞く」–全3回
103号– 「立命館大学BKCの誕生にみる大学のイノベーション」 その1
104号– 「産学連携の先駆となった大学改革について」 その2

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