インタビュー
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昨年の「TOEFL®メールマガジン」10周年100号記念アンケートで、「英語を使う企業へのインタビュー」のご要望をいただき、企業における「グローバル人材育成のための英語への取組」や「英語力の重要性」、「英語の利用状況」についてのインタビューをお届けします。
今回は、日本ヒューレット・パッカード株式会社の人事統括本部長 有賀誠さんにお話を伺いました。将来、グローバルスタンダードな舞台で活躍したい方必見です。

日本ヒューレット・パッカード株式会社(日本HP)
取締役 執行役員 人事統括本部長
有賀 誠さん
貴社について及び業務内容についてお聞かせください。
- 有賀さん:
- 私どもは世界最大級のIT企業であるヒューレット・パッカード社の日本法人で、業態としてはサーバー、ストレージ、ネットワーク、ソフトウェア、サービス、コンサルティングからパソコン、プリンターなど全てを取りそろえており、例えればITの分野のデパートです。強みとしては最新のテクノロジーを駆使したハードウエアからソフトウェア、サービスまで、すべてを使って、フルパッケージでお客様にソリューションをご提供していることです。
- 編集部:
- ハードウェア、ソフトウェア、サポートまで、全て含めてということでしょうか?
- 有賀さん:
- そうですね、ITのテクノロジーの部分だけではなくて、業務プロセスですとか、組織づくりも含めて提供させていただいています。
業務における英語の使用頻度はどの程度でしょうか。
- 有賀さん:
- 部署あるいは担当している業務によって使用頻度がかなり異なります。ただ、社内のどのセクションにおいても、キャリア開発ということも含めて英語は非常に重要であることは間違いありません。一つ、組織の成り立ちからご説明させていただくべきかと思いますが、日本HPという日本法人の社長に全ての組織がぶら下がっているわけではなく、例えば私の上司はシンガポールにいるアメリカ人です。HPというグローバルな組織の中で、たまたま日本で仕事をしている人たちが集まっている、いわばマトリックス組織になっています。一方で、当然のことながら日本の中では社長を中心に日本ヒューレット・パッカード株式会社という日本法人がビジネスを行っています。これを縦軸横軸で表すと縦軸は商品やサービスごとの事業部、横軸は国ごとのマーケットやお客様になります。国を横軸とすると縦軸は日本にとどまらず海外につながりますので、上司が外国の人間、あるいは外国の人間が部下であるということが日常業務では当たり前になります。例えて申しますと私が日本の人事担当役員ということになっておりますが、人事の中にも採用を担当しているグループ、給与を担当しているグループ、人事異動やシステムのインプットを担当している縦軸のグループがあり、各々が海外のマネージャーにレポートしております。横軸については私が主に担当してチームとしてまとまって仕事をしているので、スタッフは少なくとても二人上司がいるような環境です。

キャリアパスにおける英語の重要性についてお聞かせください。
- 有賀さん:
- マネージャー、リーダークラスの人間であればまず英語ができないと仕事になりません。社内のコミュニケーションが成立しないことにもなりますし、逆に、ある一定のレベルにまで達していないとマネージャーにはなれません。
- 編集部:
- そうなると昇進に必要な基準などあるのでしょうか。
- 有賀さん:
- 点数等の基準は設けておりません。必ずしも業務上使える英語力とテストの点数というのはダイレクトにリンクはしないと考えておりますので、日常の会話や業務の中でどれくらい使えるレベルにあるのかというところで見ています。
- 編集部:
- 英語力や会話力を測るような面接など行っているのでしょうか。
- 有賀さん:
- 特にそのための面接を設けなくても社内のコミュニケーションでは英語の部分が多いので自然と把握できます。例えば、先ほど申し上げました縦軸の組織で行われる会議の際は、部門のリーダーが全世界の自分の配下のスタッフを集めて電話やWEBを使い英語で行います。その場で自分の意見を言ったり、聞いたことをすぐに理解しなくてはいけないので、その様子を見ていれば『誰がどのくらいできるか』はすぐにわかります。
社員教育について、特に英語教育への取り組みをお聞かせください。(英語研修など)
- 有賀さん:
- キャリア形成につきましては『キャリアは自分で作るもの』というのが世界32万人いるヒューレット・パッカードのポリシーで、マネージメントの役割はそれをサポートすることです。そして会社の役割はそのためのインフラをつくることです。もう少し具体的に申しますと、年に何回か定期的にマネージャーと社員でキャリアについての相談を行います。「自分は将来こういうふうになりたい」「3年後にはこういう仕事がしたい」など希望をきいて、「これをやるなら英語が必要だよね。」「今、このレベルだけどもっと向上させていこうよ。」などキャリア開発とそのために必要なスキルを身に付ける計画を定期的にマネージャーと社員が話し合うのです。それを受けて会社としては、色々なトレーニングやプログラムを用意しています。あくまで会社から押し付けるのではなく、会社はインフラを用意して、本人が考えて主体的に受講するというスタイルです。時には例外として、「3ヶ月後にこのスタッフをグローバルなプロジェクトに加えたいため3ヶ月間で集中的に英語力をつけさせる」といったケースもあります。その際は英語教室に行かせたり、個別の特訓をしたりすることもあります。

- 編集部:
- 海外駐在することも多いのでしょうか。
- 有賀さん:
- 決して多くはありませんが、もちろんあります。多くない背景は私どもが国や時間の垣根を越えていつでもどこでも仕事ができるというインフラの構築を生業にしているので、それを自分たちで証明するという意図もあります。例えば私はあるグローバルなプロジェクトのリーダーをしていますが、メンバーは170カ国にいるわけです。そういうグローバルな仕事をする上では、働く社員がアメリカにいようが、ヨーロッパにいようが、アジアにいようが同じです。時差や、国と国の垣根を越えるような仕組みを我々は提案して、実際に作って、世の中をより住みやすく働きやすい環境にしていきたい。そのために、自分たちをある意味実験台に使っています。
貴社の採用制度(特に新卒採用)についてお聞かせください。
- 有賀さん:
- 時期も含めて、新卒者の採用につきましては、一般的な日本の企業様とそんなに大きく変わる点はありません。唯一あるとすれば、職種採用を基本としており、営業職やエンジニアといった職種、さらにいえばエンジニアでもサービス系のエンジニア、ソリューション系のエンジニアというように分野ごとに募集を行っております。
貴社で働くことの魅力は何でしょうか。
- 有賀さん:
- ビジネスの面でいうと範囲の広さです。グローバルという広さもありますし、企業向けのハード、ソフト、サービスからそれを繋ぐネットワーク、さらに個人向けのPC、プリンターまで全てありますので、自分の興味や関心を広げ、仕事に挑戦していくことで1+1=3にできる幅の広さがあります。また、組織文化が我々の一つの強みだと思っております。発祥がアメリカ西海岸のシリコンバレーのベンチャー企業ということもあるのかもしれませんが、オープンでフランクなコミュニケーションを大事にする組織文化です。例えば、昨年入ってきた新入社員から私のところに「有賀さん今日ご飯食べませんか?」「今晩カラオケ行きませんか?」など誘いがあります。役員のオフィスもなくしておりますので、非常に社内のコミュニケーションを取りやすいというか、取らざるをえない環境です。「働く人がハッピーになる」ことが重要だと考えていますし、仕組みもあります。そうすることで離職率も下がり、社内もより活性化します。
- 編集部:
- 日本の企業で、新入社員の方が役員の方とお話しする機会はめったにないと思います。
- 有賀さん:
- そうですよね、でも、HPはそういう組織文化で垣根がありません。また、リーダーも若手に積極的にオープンに話しかけることが奨励されています。各職場でOne on One といってリーダーとスタッフが面談をしたり、ラウンドテーブルという形で部署のメンバーが集まって話をすることもしばしばあります。また社内では「コーヒートーク」と呼ばれていますが、各職場の組織長が主催し、「今、会社でこのような動きがあるけれど意見ある?質問ある?」と、社員の声を聞く場を毎月設けています。
- 編集部:
- 様々な場所で色々な形でコミュニケーションをとられているんですね。
- 有賀さん:
- はい、そうですね。そのコミュニケーションもメンバーによっては英語になったりもしますね。
採用にあたり、学生に期待することは何でしょうか。
- 有賀さん:
- もちろん営業系なのかエンジニア系なのかで変わってはきますが、3つほどあります。皆さんに求めるベースの1つめは“チームワーク”と“リーダーシップ”の両立です。全世界で32万人、日本で約5300人が働く大きな組織ですので、お客様にサービスを提供するにあたり、自分一人でできることはまずありません。仲間が持っている知識やノウハウをうまくつないで1+1を3や4にしていくことにすることが重要ですのでチームで仕事ができるということがまず1つ目の大前提です。でも、チームの中に埋もれてもいけません。グローバルな仲間と仕事をしていて、お客様が日本の場合は自分がハブになるわけですから、自分の考えあるいは自分が担当しているマーケットを代表して仲間に伝え、技術やノウハウを引き出してお客様にとって意味のある形で提案しなければいけません。自分できちんと考えて、それを言葉や行動に移し、そして仲間を引っ張っていくという“チームワーク”と“リーダーシップ”の両立ということが職種に限らず求められます。積極性も協調性もあるということですね。2つ目としてそれを実現する力としてコミュニケーション能力というのは非常に重要であり、まず日本語が上手でなければいけません。日本のマーケットを担当して日本の中で仕事をする時に自分の母国語である言語がきちんと使えるのは大前提で、その上で英語を含めた外国語が非常に堪能であるということが重要です。コミュニケーション能力の中には、単に言語が使えるということだけではなくて、例えば情熱であったり、信念をもって仲間に語りかけるということであったり、ということも入ってくると思います。3つ目はテクニカルな面で、エンジニアであれば、しっかりキャリアにつながるような勉強をしてきてください、ということになります。
学生さんに対して感じることはありますか。
- 有賀さん:
- 自分自身が学生だった頃との比較、あるいは節目節目の転換期との比較ということになりますが、思うのは皆さん“まじめ”だということです。就職活動というものについてよく勉強して準備をしてきていますね。逆に言うとある質問をした時に皆さん同じ答えが返ってくるので、模範解答やマニュアルがあり、よく練習をしている印象をうけます。ですから、わざと典型的な質問からずらして質問をすることでこちらもその時の対応をみさせていただいてます。その要因の1つは偏差値世代ということの影響もあるのではないかと思います。常にマニュアルがあり、順位順列があり偏差値がある中で育ってきていますので、例えば何か四角があってそれを綺麗に塗りつぶすのは上手ですが、一方で真っ白な紙に四角でも丸でも三角でも自由に書いてくださいといったら、なかなか書けない。当社はそれができる人を採用したいと考えています。
現在の大学での英語教育について感じることがあればお聞かせください。
- 有賀さん:
- 昔に比べて各大学さんが工夫をされていて「うちの卒業生は英語力が高いです」「プレゼンテーション能力が高いです。」など色々考えてやられているなぁと感じます。1つあるとすれば、私は学部が日本で大学院がアメリカだったので、比べるとやはりアカデミズムとビジネスの距離が日本はまだまだあるように感じます。アメリカの大学ですとビジネスと大学の距離が非常に近くてインターンの制度やあるいは色々な研究のテーマで企業を取り上げたり、共同研究も盛んで、そこがアメリカとは異なる気がします。
秋入学を検討する大学がでてきましたが、そのことについてはどう思われますか。
- 有賀さん:
- 趣旨はわからないではないですし、ある意味問題提起をされた大学さんは世の中にそういう議論を投げかけようという意図もあるのかとは思いますが、全体が変わらなければ、あまり意味がないような気がします。ある大学は4月から、ある大学は9月からということになりますと色々と混乱が生じるのではないかと思います。特に日本の場合は会計年度が4月からという企業が多いですから、そのサイクルとずれるとデメリットがあるのではないかと思いますので、社会全体が変更しないと本当にメリットがでてこないのではないかと思います。当社の場合は新卒採用は通常の日本企業と一緒ですがキャリア採用は通年行っておりますので、あまり影響はありませんが、そうではない企業にとっては大問題だと思います。
最後にTOEFLメールマガジンの読者にメッセージをお願いします。
- 有賀さん:
- 学生の時は「自分が人生の中で何がやりたいか」ということを突き詰めて考えるいい時間だと思います。若い人を見ていると大学に入るのが目的で、その後は会社に入るのが目的になっているように感じますが、本来は「自分はこんな人間になりたい」「こういうことがやりたい」「こういうふうに社会に貢献していきたい」そのために、「こういう勉強がしたい」「こういう大学に入りたい」「こういう会社に入りたい」ということではないかと思います。その本質のところに立ち返ってほしいと思います。我々は面接のプロなので自分のやりたいことや夢や信念がない方はすぐにわかります。夢や信念をもった上でもちろん妥協しなければいけない点もあるかとは思いますので、正直に語ってくれることが一番ですね。とはいえ、我々の世代にも責任があると感じています。信念をもって勉強したり、仕事をしたりというロールモデルがあって初めて目標ができると思いますので、若い人にとって我々がいいロールモデルではなかったのかなぁという反省もあります。そのためにもアカデミズムとビジネスの距離がもっともっと縮まってくれば大学の先生以外の大人をみる機会が増え、優秀な経営者、優秀なビジネスリーダーに早くから接する機会があることで、「自分が人生の中で何がやりたいか」ということを突き詰めて考えることもできるようになるのではないかと思います。

以上
インタビュー:2012年4月4日
国際教育交換協議会(CIEE)日本代表部
管理部 景山傑
企業プロフィール
日本ヒューレット・パッカード株式会社(日本HP)
日本ヒューレット・パッカード株式会社(日本HP)は、米国カリフォルニア州パロアルトに本社を置き世界170カ国で事業を展開するヒューレット・パッカード社(HP))の日本法人です。HPは、世界最大級のIT企業として、企業の情報システム基盤やクラウドを支えるサーバー/ストレージ/ネットワーク/ソフトウェア製品とサービス、パーソナルコンピューターをはじめとするデジタル端末、プリンターなど幅広いポートフォリオと最新の技術を通じて、お客様のビジネスの成長をご支援し、より豊かな暮らしと社会の実現に貢献します。

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