インタビュー
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昨年の「TOEFL®メールマガジン」10周年100号記念アンケートで、「英語を使う企業へのインタビュー」のご要望をいただき、企業における「グローバル人材育成のための英語への取組」や「英語力の重要性」、「英語の利用状況」についてのインタビューをお届けします。
将来、グローバルスタンダードな舞台で活躍したい方必見です。
今回は、あずさ監査法人のパートナー宮原正弘さんにお話を伺いました。

あずさ監査法人
公認会計士
アカウンティング・アドバイザリー・サービス事業部長
兼KPMGアジア太平洋地域の同サービスの責任者
パートナー 宮原正弘さん
貴法人について及び業務内容についてお聞かせください。
- 宮原さん:
- 主たる業務は会計監査となります。簡単に申しますと、多くの上場企業が発表する決算を外部の独立した会計士がチェックを行って正しいかどうか意見を表明する、それが会計監査の業務です。あずさ監査法人はビック4と呼ばれるグローバルアカウンティングファームの一つであるKPMGのメンバーファームですが、各国のKPMGのメンバーファームはそれぞれ独立しており、親子関係にあるわけではありません。アメリカ、ヨーロッパ、アジアをはじめ、ロシア、アフリカや南米にもKPMGのネットワークは広がっており、それぞれ会社の名前は違いますがメンバーファームとして協業できる仕組みになっています。我々は日本の法人ですので、主に日本企業に対する会計監査や財務・会計に関するアドバイザリーといったサービスを提供しております。
業務における英語の使用頻度はどの程度でしょうか。
- 宮原さん:
- 実際の業務として一番多いのは、メールやドキュメントを英語で読んだり書いたりすることです。KPMGの各メンバーファームとの諸連絡は英語でのメールとなりますし、ミーティングでの使用言語も英語です。日本企業に対するサービスが中心になりますので、全体でみると英語の使用頻度が高い方ではありませんが、クライアントという観点からみると、昨今どんな日本企業においてもグローバル化は進んでおり、世界各国に販売拠点、生産拠点をもっているわけです。ですから企業の大きさに関わらず、私たちもそのグローバル化についていかなくてはいけません。
キャリアパスにおける英語の重要性についてお聞かせください。
- 宮原さん:
- どのランクにおいても英語力は必要になってきています。役割に応じて求められる英語の使用方法・頻度は違ってきますが、パートナーは、グローバルな視点で経営者と話ができるか、KPMGのメンバーファームと協業するときに英語が的確に使えるか、スタッフなら英語の業務指示を正確に理解できるか、日常的な業務上の読み書きやコミュニケーションが英語でできるか、などきちんと目標を持ってやっていくことになっています。監査のアプローチというのは、全世界で同じ視点で会計監査をするという点で、KPMGの本部で用意されたツール、KPMG Audit Methodology通称KAM(カム)と呼ばれるメソッドがあり、全世界のKPMGメンバーファームが使っています。例えば、日本のA社という会社がアメリカのNYに拠点があるとすると、我々からKPMGのNY事務所に、「この監査はこういうポイントで会計監査をして欲しい」と依頼します。監査のアプローチは同じツールを使っていますので、たとえば「あのドキュメントを作ってほしい」といった時、「あのドキュメント」の言葉の定義は一致しているわけです。上記KPMGの監査メソドロジーは、グローバルのナレッジセンターから提供されているもので、現在はそのほとんどを原文(英語)から日本語に訳して日本のメンバーに周知していますが、近い将来には、原文のまま提供していく方向です。また、日本でも2010年3月期からIFRSという国際会計基準の任意適用が始まっていますが、世界的にこの流れは止まりません。
- IFRSが世界のどの国でも使用されるようになると、今までそれぞれの国が定めていた会計基準が全世界で統一されます。もちろん、IFRSの原文は英語ですから、基準をきちんと理解するためには、英語の能力が必要不可欠となります。私が20年前に入社したときは英語の使用頻度も少なかったですし、日本企業のグローバル化といっても当時は今ほどではなかったのですが、現在は環境がガラリと変わった感じですね。20年前は国内での活動が中心だった多くのお客様が、今では海外拠点を数多く持ち、押すに押されぬグローバル企業になっています。そういう意味では企業のグローバル化のスピードはとても速いので、それについていくために、我々も英語の能力が問われる機会が多くなっています。会計監査の過程では、経営者に対してビジネス環境や今後の戦略等の質問をさせていただくのですが、ある日突然経営者が日本人から外国の方に変わってしまうということもあり、その場合は、日本企業の経営者に対するインタビューにも英語を使わざるを得なくなるでしょう。20年前は外国人のCEOなど考えられませんでしたしね。私が入社した時には、英語は全くできませんでしたが、グローバル企業に対する仕事や駐在経験の機会に恵まれ、ある程度の英語力を身に付けることができました。でも自分の英語力はまだまだと感じていますし、本当の意味で外国の人と真にコミュニケーションができるかというと、いまだに難しさを感じているのが現状です。
社員教育について、特に英語教育への取り組みをお聞かせください。(英語研修)
- 宮原さん:
- 大きく分けると、戦略的にグローバル人材を育てていく取り組みと、中長期的に全従業員に対するグローバル化への底上げをしていく取り組みの2つがあります。前者の取り組みは将来KPMGの地域やサービスラインのリーダーや、超グローバル企業の会計監査やアドバイザリーをリードできる人材を戦略的に育てていく取り組みです。後者はあずさ監査法人に所属する構成員すべてがグローバルの視点を持つとともに、一定の英語能力を養っていくというものです。この2つの取り組みを通じて、「あずさ監査法人には、一定の英語力を持ち、グローバルなマインドセットをもった人間が揃っている」と言われるように、社内での研修や独自のプログラムを展開しています。

- 監査法人は、物を作る会社ではないので、私共の資産は人材となります。ですから良い人材を作らないと法人の発展もありません。若手向けの海外サマースクール、1~2年のトレーニングも兼ねた各国KPMGメンバーファームへの派遣、ハーバード大学を始めとしたエグゼクティブプログラムへの参加など、危機意識がある分、研修や独自のプログラムを多く取り入れているわけです。また、英語だけできればいいというわけではありません。英語はあくまでもツールですから、仕事をきちんとできることが最優先です。ですから、上記プログラムを通じて海外へ派遣する場合でも、日本において日本語できちんと仕事ができる、もしくは将来のポテンシャルが高い人間を海外に送るよう徹底しています。仕事ができて、かつ英語もでき、異文化を受け入れながら、外国の方とも一緒に仕事ができることが非常に重要なのです。海外に出ないと、外国の方がどのように考えているか、どのような仕事をしているかわかりません。英語はあくまでもツールであり、いかに相手の立場に立って考えられるか、相手の言うことに耳を傾けることができるか、日本人として独りよがりにならないか、ということが非常に重要です。そういうことがわかってこそ相手の国の立場で話ができる、話が聞けるようになるし、この「肌感覚」を養ってほしいのです。一方で、海外のKPMGのメンバーファームのプロフェッショナルを2~3年日本に常駐させる取り組みもしています。イングリッシュスピーキングの人間が側にいれば、英語で話さなくてはならない状況になりますよね?そうすると、自然とグローバルマインドも育ってきます。海外に人を派遣するとその人1人のメリットとなりますが、海外から受け入れれば部署全体の底上げが可能になるのです。
貴法人の採用制度(特に新卒採用)についてお聞かせください。
- 宮原さん:
- 会計監査を行う場合には、会計士試験に合格していることが、基本的な前提となります。なお、英語の能力や海外経験等に関しては、明確な基準を設定していませんが、プラス要因として考慮されることは間違いありません。
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貴法人で働くことの魅力は何でしょうか。
- 宮原さん:
- 我々は企業の外側にいて、企業の海外進出も含めて会計監査やアドバイザーの立場から企業にサービスを提供しています。特に会計監査では、海外展開も含めた企業のあらゆる側面に触れることができ、そのなかで企業のダイナミズムが我々の仕事にそのまま跳ね返ってくるわけです。そしてそれはKPMGのメンバーファームとして、世界中のメンバーとともに日本企業の課題に対して挑戦していくことにもなります。あずさ監査法人を中心としたKPMGジャパンのメンバーは現在約6,600人いますが、海外のメンバーファームも含むKPMG全体では約145,000人のメンバーがおりますので、例えば私のお客様がベルギーで何か課題があると、ベルギーのKPMGのメンバーにメールで協力を依頼すれば、すぐに対応できる仕組みとなっており、日本の6,600人だけではなく、152カ国・地域の145,000人の仲間と仕事ができるチャンスがあるのです。会計士というと、電卓をたたきながら、会社の帳簿とにらめっこしているといった暗いイメージがあるかもしれませんが、実際はまったく違います。もちろんそういった側面も一部にはありますが、シニアマネージャーやパートナーになると、もっとダイナミックな仕事が増え、企業のグローバル化の中で、世界を舞台に仕事をリードできる機会が増えてくるのです。職位が上がれば交渉事も増えますから、コミュニケーション能力が非常に重要になってきます。そういった交渉事が嫌で辞めていく人間も多いですが、我々のようなグローバルアカウンティングファームでは、クライアントが世界の最前線で戦っている企業が多いわけで、英語を使用したコミュニケーション能力は必須となってきますね。日本語のコミュニケーション能力についても、同じことが言えます。クライアントの様々な問題に対して、経理部長を説得し、CEOを説得しなければならない状況も多々あります。クライアントのビジネスを理解し、その会社の置かれている状況を理解し、日ごろからきちんとしたコミュニケーションをクライアントとしていないと、急に間違っている会計処理について会計基準を振りかざして正そうとしても、「うちのビジネスをわかっていないあなたのような会計オタクに、とやかく言われたくない」となってしまいます。こういったことも含めて、世間のみなさんが思う会計監査のイメージと実際とでは、印象が全く違うかもしれませんね。
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採用にあたり、学生に期待することは何でしょうか。
- 宮原さん:
- 何にでも興味を持ってチャレンジするマインドセットのある人、きちんと自分の言葉で自分の意見を明確に伝えられる人がいいですね。言いたいことがあっても、モゴモゴ言っていては仕事になりません。英語は、今の時代、入社してからでは間に合わないので、学生のうちから我慢してやるしかないと思います。私たちの時代は、英語が出来れば仕事の幅が広がって活躍の場も広がる、要するに英語はプラスαの要素でしたが、現在はクライアントのビジネスやそこで働く人たちが、どんどんグローバル化していますので、今の若い人たちには、「英語ができないと今後はない」と伝えています。
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- 特にグローバルアカウンティングファームに働いている人間で英語ができないことは致命的です。その傾向は最近5年で顕著に表れていますので、とにかく英語をやりなさい、と言っています。企業のグローバル化にともなって、クライアントの課題やニーズが国を超えて複雑化してくると、当然、英語ができる人のほうが優位です。私の中学生の子供たちには、英語ができないと就職すらできないぞ、と言っています。私の子供が就職する時には、今よりももっと英語ができるのが当たり前になっているでしょうから、就職してから使える英語を習得することに多くの時間を費やしているようであれば、就職先で勝ち残っていくためには、圧倒的に不利となるでしょうね。
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現在の大学での英語教育について感じることがあればお聞かせください。
- 宮原さん:
- 企業に勤務する一個人としての意見ですが、現在はずいぶんと増えているようですが、自分の意見を言う、ディスカッションをする、ディベートをするといったアウトプットを磨く訓練は、大変重要だと思います。アメリカで入社した1年目の人間と日本で入社した1年目の人間と実際に話すと、それぞれ母国語を使用した場合であっても、コミュニケーション能力のレベルが全然違います。社会の問題、政治の問題、経済の問題に対して、きちんと自分の意見に、理論的背景を加えて発信できるのがアメリカ人で、実際にそういう訓練を経てきているのだと思います。ですから、大学だけの問題ではありませんが、もう少し双方向のコミュニケーションを重視した機会を増やしていく必要がありますね。個々の意見は、人によって異なっていても良いのです。自分で自分の意見を第三者に説得力をもって説明できることが重要です。アメリカだと、小学生から、様々な場面で自分の意見を周りに伝える、相手の意見を聞いて、それに対して自分の意見を述べることが求められます。一方で、日本人はそのような訓練が不足していますし、昔から阿吽の呼吸と言われるように、ロジックをきちんと構成し、相手に対して意見を発信する、または、人の意見を聞いて、それに対して、自分の意見を述べる力が、弱いと思います。しかしながら、様々な歴史手的背景や文化的背景をもった人たちが混在するグローバルな世界では、このことは致命的です。私も時々、自分の意見をきちんと英語で伝えられないことを、自分の英語の能力不足のせいにしてしまうのですが、良く考えると、英語の問題ではないことがあります。つまり、日本語でも自分の意見がまとまっていないことも多いのです。もちろん、英語できちんと自分の意見をストレートに伝えられれば素晴らしいのですが、まずは、日本語できちっと自分の意見が言えることが重要です。あとは英語にそれを置き換えるだけなのです。自分の意見さえまとまっていれば、それなりの英語力があれば伝えられるはずです。外国人とのコミュニケーションにおいて、時に、「あ~。」とか、「う~。」とか言って、英語が出てこないのは、英語がわからないのではなく、自分の意見が日本語でもまとまっていないことも多いのではないでしょうか?また、日本は色々な面で恵まれていることが多く、我々が正しいと思うことは世界でも正しいと思いがちです。しかし、日本の常識で言うと当たり前のことが、他の国ではそうではないことが多々あります。外国の方と話をし、理解しあうコミュニケ―ションをするには、相手の歴史的・文化的背景や置かれた立場をきちんと理解しようと、まずは耳を傾ける姿勢が必要です。
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秋入学を検討する大学がでてきましたが、そのことについてはどう思われますか。
- 宮原さん:
- 個人的な意見ですが、秋入学は大学のグローバル化という観点からきていると思うので、そのことについて大学側が積極的に考えていることはとても良いことだと思っています。ですが、秋入学の導入で全てが解決するかどうかは別の問題です。授業でのディスカッションも、大学であれば英語だけでディスカッションをする機会があってもよいのではないでしょうか?交換留学をもっと促進したり、就職前にインターンシップとして海外で就職経験する等の取組みをしたり等、大学としても、学生のグローバル化をもっと後押しすることが重要だと思います。その上で、秋入学がグローバル化の議論のきっかけになっていることは良いことだと思います。
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最後にTOEFLメールマガジンの読者にメッセージをお願いします。
- 宮原さん:
- TOEFLメールマガジンに既に登録をしていること自体、皆さんの方向性は間違っていないと思います。英語や海外に興味を持っていることが重要で、結果として海外の大学に留学したり、海外の会社で働いたりすることは、大変素晴らしいことだと思います。留学はゴールではなく、それを通じて、海外で英語スキルにさらに磨きをかけ、外国の人たちの考え方をきちんと理解し、国際舞台で活躍する力をつけることはとても重要です。また、日本企業もグローバル化が進んでいますから、海外で培った英語力、コミュニケーション能力、異文化交流経験を生かした上で、日本で日本の(会社の)ために働くという選択肢もあります。私たちの例で言うと、日本人で、渡米後アメリカで会計等の勉強をした後に、アメリカのKPMGに就職し、日本企業へのサービス対応で働いているメンバーが大勢います。このように渡米後、米国KPMGに直接採用されているプロフェッショナルの強みは、日本人であることと、日本語がネイティブであるバイリンガルであること、日本の文化を理解していることです。アメリカで活動している日系企業に、日本企業文化を理解し、日本人としての思いやりや心配り等のマインドをもって対応できる日本人プロフェッショナルは、日本や日本企業にとって、大変重要な存在ですね。私は先日、アカウンティングアドバイザリーサービスというKPMGのサービスラインのアジア太平洋地域のヘッドになりましたが、文化的・歴史的背景の異なる各国のプロフェッショナルに対して、日本人らしい思いやりを持って、接するように心がけています。グローバルな舞台で活躍しようというチャレンジ精神があれば様々なチャンスが広がりますし、いろんな可能性がありますから、TOEFLメルマガ登録者のみなさんには是非、夢の実現に向けて頑張ってもらいたいと思います。
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以上
インタビュー:2012年4月5日
国際教育交換協議会(CIEE)日本代表部
管理部 景山傑
企業プロフィール
有限責任 あずさ監査法人
有限責任 あずさ監査法人は、全国主要都市に約5,700名の人員を擁し、監査や各種証明業務をはじめ、財務関連アドバイザリーサービス、株式上場支援などを提供しています。
金融、情報・通信・メディア、製造、官公庁など、業界特有のニーズに対応した専門性の高いサービスを提供する体制を有するとともに、4大国際会計事務所のひとつであるKPMGインターナショナルのメンバーファームとして、152ヵ国に拡がるネットワークを通じ、グローバルな視点からクライアントを支援しています。

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