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様々な世代の人々が様々な場で、生涯を通して何らかの形で英語にかかわって仕事をしています。英語は人それぞれ、その場その場で違います。このシリーズでは、英語を使って活躍する方にお話を聞き、その人の生活にどう英語が根付いているかを皆さんにご紹介し、英語の魅力、生涯にわたる楽しさをお伝えしていきます。英語はこんなに楽しいもの、英語は一生つきあえるもの。ぜひ英語を好きになってください。

第57回 今こそ日本の教育を世界レベルへ その3 
~二人の教育・言語の著名教授が語る教育の向上・発信とは~

鈴木 孝夫(すずき たかお)先生

鈴木 孝夫(すずき たかお)先生
慶應義塾大学名誉教授
慶應義塾大学医学部入学後 文学部英文科に移籍し卒業
ミシガン大学及びカナダ・マギル大学に留学
後にイエール大学及びイリノイ大学客員教授
ケンブリッジ大学エマニュエル校及びダウニング校訪問フェロー
日本野鳥の会顧問

谷口 吉弘先生

谷口 吉弘先生
1980年代後半から、立命館大学「21世紀学園構想委員会」に委員て参加し、新しい理工学部の教育研究の展開について答申した。1994年、理工学部が京都の衣笠から滋賀県草津市へ移転後、理工学部再編拡充事務局長として理工学部の教育改革を実施した。1998年から3ヶ年間、理工学部長を務める。また、2007年から、生命科学部・薬学部の設置にかかわり、2008年から3ヶ年間初代生命科学部長、その後、学校法人立命館総長特別補佐を歴任、2012年3月立命館大学を定年退職。現在、平安女学院大学副学長、平安女学院中学校高等学校校長、京都府立医科大学客員教授、立命館大学名誉教授。文部科学省、経済産業省 各種委員。滋賀県産業教育審議会会長

鈴木 佑治(聞き手)

聞き手:鈴木 佑治先生
立命館大学生命科学部生命情報学科教授
慶應義塾大学名誉教授

鈴木佑治先生:
お二人は生粋の東京人と生粋の京都人ということで対照的ですが、共通点をお持ちです。谷口先生は応用化学の専門家であるだけではなく、京都の中心で生まれ、京都文化に精通し学生時代より文学・思想の本を愛読された文化人でもあります。鈴木孝夫先生は、言語社会学がご専門ですが、医学部で医学も学ばれた経験をお持ちです。理系にも文系にも通ずるという点で、お二方とも非常に似ていらっしゃいます。学生が先生方の対談を聞けたら本当に喜ぶと思いますが、こういう場が足りないことを残念に思います。先生方の話についていける教養を持とうと思うようになるでしょう。私が現在行っている「プロジェクト発信型英語プログラム」の授業では、英語を全く話せない学生にも英語でセルフ・アピールをさせるところから始めておりますが、日本語でも自己紹介さえしたことがなく、ましてや、異性と話したことがないので、女子学生だけ、男子学生だけでひそひそ話に逃げる傾向があります。同世代の人同士でこうですから、世代や性別を超えて誰とでも自由に英語を話せといっても無理なんです。ここから変えていかないと知的なものが生まれません。先生方がおっしゃっていた教養ということにもつながる気がします。幅広い教養があれば立場の違う人にも関心をもつはずです。
谷口先生:
今は、中高一貫の学校で校長をしているのですが、生徒は本を読まないですよね。何故かと思って生活習慣の調査をしたんです。そうしたら、彼らはとても忙しいんです。家に帰るとTV、ゲーム、スマートフォンなど情報機器がたくさんあります。ゲームや携帯で夜中まで過ごしている生徒もいます。
谷口先生
鈴木佑治先生:
一人完結型の物事で埋め尽くされています。
谷口先生:
自分の部屋にはいろいろな遊び道具(情報機器)がある。だから食事して、すぐに自分の部屋にこもって、夜中楽しんでいる。だれも注意しない。子供たちが情報の洪水の中でさまよい、情報をうまく選択できないのではないでしょうか。
鈴木佑治先生:
そういうものには、人と触れ合って話す場などありません。それでは、人が作ったものを見て遊ぶだけの消費活動で終わってしまい、人と接して発信することで生まれる生産活動につながりません。
谷口先生:
時間を無駄に過ごしている感じがします。知識として残るものが何にもないですよね。夜中ブログやゲームで遊んで、学校に来て眠い眠いと言っている。情報が氾濫し、子どもの学習にとても悪い影響を与えていると思います。
鈴木孝夫先生:
すごく悪いですね。
谷口先生:
だから家庭教育は大切です。このことは、子どもの世界だけではなくて、大人にもいえることですよね。電車に乗っていてもみんなスマホをいじっていて、足を踏まれてもきづかず、夢中になってメールをしている人もいます。
鈴木孝夫先生:
道を歩いていても、交差点でもやっている人がいますよね。
鈴木佑治先生:
要するに誰かが加工した情報を瞬間的に受けるだけで、面白くあればいい。情報といっていてもそれが、発信する情報にはなっていません。例えばゲームが好きでもいいのですが、自分でゲームを作ろうとしない。昔我々が小説を読んだ時に、我々は下手でも小説を書いたりしたものですが、それに対応するような反応がありません。
谷口先生:
そういうモデルがないことも理由だと思います。
鈴木孝夫先生:
結局は、核家族がいけないのではないのでしょうか。昔は子供が5人くらいいて、兄さん、姉さんが下の子の面倒をみていました。家族の中で役割が分担されて、社会ができ、縦の人間関係で相手を労わったり、敬ったり、教えたりしていました。人と関わらなければ一人前になれないんです。一人では人間の本能としての学習のチャンスが全て奪われてしまう。結局それは、理工系の人が悪いわけではありませんが、今は様々なものを作る技術がありますし新しい製品を作ることができる。しかし「それを作ると、どうなのか」ということを考える哲学や想像力がないのではないでしょうか。それは自分にとって何なのかということを考えることが、一番ない民族が日本人であってそれを一番供給するのがアメリカなんです。
鈴木孝夫先生
鈴木佑治先生:
お二人の先生のお話を聞いていると、先ほども申し上げましたが、とてもバランスがとれて理系のことにも文系のことにもよく精通されていらっしゃいますが。
鈴木孝夫先生:
数学者で「日本人の品格」を書かれた、藤原 正彦先生の話ですが、「先生のような偉い数学者になるには、どのような教育をしたらいいですか。」と尋ねられると必ず、日本の古典を読みなさいと言うそうです。人間は結局母語でもって思考能力がなければ数学はできないんです。数学っていうのは言語で母語なんです。物理学者の湯川先生も寝ているときにぱっとひらめく最先端の物理は古典の知恵が影響しているとか、そんなことを言っているんです。一流の数学者・物理学者は、専門分野だけではないんですね。それは文化人にもいえます。夏目漱石は随分、世の中のことを知っているし悩んでいるし、だから100年たっても読まれているわけです。だから学校にいたってやれることは本当に少ない。昔は逆に「先生のいうことなんかいい加減で、俺のいうことだけ聞いていればいいよ。」っていう困った親父がいて、余計だと思われることも学ぶことができました。日本ではだめですが、アメリカは今でもそうですよね。学校に行かずに親が自分で教育するっていうのが許されている。それだけ、自己中心的なんです。街頭録音した際に日本で一番典型的なことでみんなが「やっぱり」っていうんですよ。「やっぱり」っていうのは自分が考えたことではなくて、みんなが言っていることや、新聞や雑誌などの内容のことを言っているんです。アメリカでは、「さっきみんなが言ったことは、間違えだ、おれの言うことが正しい」とはっきりいいますよね。それも極端ですが、日本は勇み足を避けたいのか、いいかっこをしていると言われるのが嫌なのか自分の本音を出したがらないのだと思います。
鈴木佑治先生:
それは本を読んでいないから、判断しようにも大した情報もなく、巷間に流れている情報をそのまま受け入れて、そう言わざるを得なくなっているのではないでしょうか。誰もが言っていることに賛同する表現を使い、相互確認して安心したいのでしょう。
鈴木佑治先生
鈴木孝夫先生:
あんまり日本の事を知らない学生が多いので、ある大学で12月8日にこの日は世界を変えるような事件が日本に起こったが、それはなんだと思いますか?と質問したら、ジョンレノンが死んだ日っていうんですよ。なるほどって思いましたが、真っ先に真珠湾攻撃っていう歴史的な出来事を言える学生が殆どいませんでした。歴史や日本を知らないんですね。だからインドネシアに終戦後、負けた時に、2000人の日本の軍隊が残ってそれで、インドネシアの独立運動を助ける為に、一生懸命武器の調達や軍隊を訓練したなんてことは誰一人知らないんです。ところが慶応のSFCで、インドネシア語を入れたんです。そしたら、そういう歴史を知る人が育ってるんです。だから大学でそういう教養を教えれば、日本人にがっかりしないだけの抵抗力がつくのではないでしょうか。
鈴木佑治先生:
我々はご存じのようにプロジェクト発信型英語と言うことで、お二人の先生方が危惧する風潮を変えようと思っておりますが、「発信する」という言葉は鈴木孝夫先生が1970年代におっしゃったことです。私はこの重要性に気が付き、どうしたら具現できるか試行錯誤しているうちに、立命館大学生命科学部・薬学部、そしてスポーツ健康科学部では、かなりいい学生が育つようになりました。また、とても献身的な若手の同僚が後に続いております。
鈴木孝夫先生:
鈴木佑治さんが一生懸命にやった英語教育もこれだけの知識があればずっとよくなりますよ。それはね、英語教育を英米の知識輸入としてではなくて、日本の情報や歴史など日本についての教科書を英語で学べば外国人と話す時に日本についていえるようになると思うんです。

鈴木佑治先生の感想

1990年に慶應義塾大学SFCの英語プログラムを開くにあたり、鈴木孝夫先生は、英語で自分が勉強し考えていることを日本から発信させるべきだと強調されました。それを受けて、それから20年間、私は、加藤寛先生(当時学部長)のサポートのもとで、SFCにて発信型の英語プログラムを立ち上げ、多くの成果を得られました。ただ、私の授業だけで学部全体の英語プログラムとしては広めることができずに退官してしまったのが心残りです。その後、谷口先生にお招きいただき立命館大学の生命科学部・薬学部で全学部の全学生のために最新版の「プロジェクト発信型英語プログラム」立ち上げ、現在に至ります。英語が話せなかった新入生も3回生になると、全員、専門テーマでプロジェクトを立ち上げて英語でポスタープレゼンテーションをしております。中には、国際学会で発表する学生もおります。この間、鈴木先生と谷口先生には、何度も相談に乗っていただき励まされました。お二人の先生との3回の対談を通して、プログラム発展のためのヒントを得ることができました。感謝いたします。

–「鈴木孝夫先生、谷口吉弘先生、2人の名誉教に聞く」–全3回
112号–第55回 今こそ日本の教育を世界レベルへ その1
113号– 第56回 今こそ日本の教育を世界レベルへ その2 

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