TOEFL Mail Magazine Vol.39
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e-Language in Action
第3回:慶應義塾大学湘南藤沢キャンパスとメルボルン大学のLanguage&Culture Exchange(2)
 
鈴木 佑治先生
慶應義塾大学環境情報学部教授
兼 慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科委員
 報告
長谷部 葉子先生
関口 幸代先生
長谷部 葉子
関口 幸代
慶應義塾大学環境情報学部訪問講師
メルボルン大学文学部
アジア言語社会研究科専任講師
同大学文学部大学院
言語教育工学(CALL)科博士課程在籍
 

 前回に引き続き、メルボルン大学の関口幸代さんの日本語と、SFCの長谷部葉子さんのスキル英語の授業がどのような形態でLanguage & Culture Exchangeのジョイント授業・プロジェクトを展開しているのか現場から報告いたします。今回は関口さんが学生の声を交えてそれぞれの立場から生の声を直接伝えます。

 関口幸代さんの報告

私の研究分野はインターネットを使ったnetwork-based language learning で、カリキュラム向上と語学習得促進のために、リアルタイムでメルボルン大学の日本語のクラスと日本の大学の英語のクラスを結ぶ交流プロジェクトの開発に力を注いでいました。この研究活動の一環として、2003年末に神戸大学の加藤先生を訪れた際に、SFCの鈴木教授をご紹介いただきました。幸運にも、鈴木教授の研究室が力を注いでいらっしゃるプロジェクト発信型の英語授業の活動と、メルボルン大学で行っているproject based collaborative activityは共通の目的を持っていることがわかり、この活動を交流授業として行う計画が始まりました。また、それまでメルボルン大学ではチャットや掲示板、ウェッブベースの3Dバーチャルリアリティを交流の柱としていましたが、慶應義塾大学SFCが使用しているビデオ会議の機材がなかったので、そのときにメルボルン大学への機材借用の手配もしていただきました。お互いの目的を理解しあい交流活動を進めていくことが第一ですが、双方の交流授業を行う設備について確認しあい、不足の点を早速サポートしていただけたことも、2004年からプロジェクトを迅速に立ち上げることができた大事な要因でした。

オーストラリアでは日本語学習熱が高く、小・中学校から日本語が勉強でき、ほとんどの大学で日本語が開講されています。メルボルン大学では日本語科は文学部に所属し、日本研究専攻として履修できますし、選択科目として様々な学部の学生も学位の一部としても履修することができます。メルボルン大学では数多くの言語が学べますが、日本語はその中で学生数が最多となっています。バブル経済崩壊後も日本語学習熱が依然高いのは、経済的利益だけではなく、日本社会や文化の様々な分野に興味のある若い大学生が増加していることに強い関連があると思われます。初級・中級日本語コースでは、このような学生の多様な、高い学習意欲、目的をサポートし、主体的な学習を促すために日本に関する研究テーマを各自自由に選択し、日本語で研究発表する活動を行ってきました。受身の学習ではなく、学生は自分が興味ある内容をどのように日本語で表現し、発信したいかということを意識しながら、研究発表活動を行います。交流授業は、実際場面をカリキュラムの一環として提供することを可能にし、メルボルンにいながら学生に同年代の日本の大学生と定期的な交流の場を提供し、学生の興味のあることを様々なメディアを使って話し合い、お互いの言語・社会・文化への理解をその交流を通して深めることができる最適な場ではないかと考え、この研究プロジェクトのクラスを交流授業とすることで、計画を進めていくことになりました。

2004年4月に長谷部先生をビデオ会議で紹介され、最初の5月の接続実験のための準備を進めていきました。双方の学生にとって意義のある交流にするためにお互いのコースの内容、進度、学生について理解は不可欠と考え、この時期から交流授業にむけて定期的にビデオ会議を行い、Eメールでの交信を頻繁に行いました。実は長谷部先生とは、後に2004年11月下旬にSFCを再訪したときに初めて直接お会いすることになるのですが、もうすっかり長い間一緒にお仕事をしてきたような感じで、その日は初めてにもかかわらず具体的な内容の濃いミーティングができたことを覚えています。交流授業で学生が経験するだけでなく、私も教員としてビデオ会議、Eメール等を使い、交流を深め、他大学の先生方とのよい関係をゼロから築くことが可能だと自ら体験することにもなりました。

最初の交流授業は接続実験として2004年5月、初級・中級日本語のクラスとSFCの英語のクラスをビデオ会議で行いました。学生は自己紹介をしあった後、各自自由課題の研究テーマについて発表、質問をするという形で参加していました。3クラス行いましたが、どのクラスの学生もリアルタイムで同年代の日本の大学生と意見交換をする機会を楽しみ、学期の終わりということもあり、積極的に日本語を使い、自分の研究テーマを話したり、お互いについての質問をしあったりと、笑いの絶えない楽しいセッションとなりました。しかしながら、一度にカメラの前に参加する人数が多く、(日本側はクラス全員、メルボルン側は4-5人のグループ)、誰に話しているか、誰が話しかけられているか、対象者がはっきりしない時もあり、全体的な交流になってしまったことが残念でした。選択科目で受講しているので学習意欲が高い学生が多いので、各グループに与えられた交流時間が短く、発言の機会が十分に与えられないことを不満に感じたようです。一回きりの短時間の交流だと大半の時間は自己紹介に費やされ、言語使用のレベルが限定されてしまい残念だったという学生もいました。大半の学生が肯定的な感想を述べてくれましたが、下記の学生のコメント(日本語、原文のまま)のように、セッティングが学生の言語使用に影響を与え、プレッシャーを感じさせるということもわかりました。

『クラスのビデオコンファレンス:これは私の初めてのビデオ・コンファレンスでした。画質はあまり重要なことじゃなくて充分だったと思ったけど、音質はなんだか聞きにくくて自分の声を照れくさく感じました。そして、その授業でみんながビデオ・コンファレンスで話していないとき他のやることは何もなかったので、自分のグループをずっと見ていたのは恥ずかしくさせることでした。自由な話をしたくてもクラスメートの前だから不慣れな言葉などを遠慮することにしました。その短いあいだに丁寧なこと以外、何もできなくてちょっとそのいい機会は無駄にした感じがしました。』

クラス活動の中へのビデオ会議の取り入れ方、他の交流メディアを同時進行する必要性、教室内でのセッティング、カリキュラムへ交流授業を定期的なセッションとして導入するための工夫、十分にお互いを知り合うためのウォームアップの時間・機会を本題に入る前に与えてトピックについて話し合うまでの段取りを工夫する必要のあること等が課題として残りました。このようなこと全てに対応するために私たちは教室でいろいろな活動を同時進行させるクラスのfacilitatorとしての役割を果たす必要があると痛感しました。

学生の充実感、達成感を高めるために、より自由な形で交流できるシステムを作り上げることを課題に、その後も長谷部先生と連絡をとりあい、2004年後期の3週間の交流授業を行いました。さらに改善を重ね、学生同士の共同活動の形がより反映する形に2005年前期の交流授業を練り上げ、今学期の3ヶ月弱にわたる交流を行いました。その改善されたcollaborative な交流授業のシステムと学生の感想などを次回ご報告したいと思います。私たちのこの試みがひとつの指標となり、交流授業が外国語教育の新しいlearning system のひとつとして定着することを願ってやみません。

先に、クラスの中でこれから私たちはfacilitatorとしての役割を果たさなければならないと書きましたが、教室外でも、クラスを運営するためのいろいろな調整をする必要があります。ITサポートの方や交流授業の相手校の担当者の方の協力を得るために円滑にコミュニケーションを進めていくことも重要な役割のひとつです。今回、私がこの役割は果たすことができたのは、SFCの鈴木教授、長谷部先生、ITサポートの角谷さんの暖かいご助力のおかげです。感謝の気持ちをここに述べ、今回の報告とさせていただきたいと思います。

 
多くの英語の授業がこのような言語と文化の交換が行われたらグローバル社会の理解を深められる場となるでしょう。それにしてもオーストラリアの人々の日本語への熱意はかなりのものです。多くの小学校に日本語の授業が導入されており、小学校の英語教育を始めようとしているこの時期、あまり難しいことを考えずにまずオーストラリアの日本語の授業と言語・文化の交流をすることを勧めます。関口幸代さんの周囲でも小学校の日本語の先生が会合をもたれていました。さて関口―長谷部ジョイントクラスの授業風景はWEBサイトで見ることが出来ます。また、本連載についてのご意見ご感想等はこちらまでお寄せ下さい。
上記は掲載時の情報です。予めご了承ください。 最新情報は関連のウェブページよりご確認ください。
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