TOEFL Mail Magazine Vol.39
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大学トップに聞く!
津田塾大学学長 飯野 正子 氏
 

TOEFLメールマガジン大学トップに聞く!イメージ本シリーズでは、特色ある大学のトップの方々に大局的な視点から大学の運営・指導方針、授業の改善などについてインタビューさせていただいた内容をご紹介しています。

今回は、伝統ある女子大として常に注目され続けてきた津田塾大学飯野 正子学長にお話を伺いました。伝統の継承と未来への挑戦という強い意志が、穏やかな眼差しの中に込められていました。

 
 プロフィール:飯野 正子(いいの・まさこ)氏
津田塾大学 飯野 正子学長
1944年 大阪府生まれ。
シラキュース大学大学院歴史学科修士課程修了(MA)。津田塾大学助教授・教授を経て、 2005年11月より津田塾大学長。その間、McGill大学客員助教授、Acadia大学客員教授、California大学Berkeley校客員研究員などを歴任。
日本カナダ学会役員、日本移民学会役員、日本アメリカ学会常務理事、文部科学省中央教育審議会委員、日本私立大学連盟常務理事、大学基準協会理事などを兼務。
カナダ首相出版賞受賞・国際カナダ研究カナダ総督賞受賞。

【主な著書】

『日系カナダ人の歴史』 (東京大学出版会、1997年)(カナダ首相出版賞受賞)
『もう一つの日米関係史-紛争と協調のなかの日系アメリカ人』 (有斐閣、2000年)

 
津田塾大学は伝統ある女子大として知られていますが、その伝統をどのように継承されているのでしょうか?
 本学は女性が教育を受けられなかった時代に、教育を通して女性が社会的に自立することをめざし、創立されました。その伝統はいつも重く受け止めています。社会で精神的に自立するには、経済的に自立しなければなりません。そのために教育が必要です。創立者の津田梅子は、教師や他人に依存する教育は卒業して校門をあとにすると終わってしまうと述べています。つまり教育には「何かに頼って学ぶのではなく、自分から学ぶ」自主性が求められるのです。今はよく生涯教育という言葉を耳にしますが、生涯教育とはどんな状況におかれても自分が自主的に学ぼうとする姿勢です。本学ではこの伝統にのっとり、切り売りされた知識の分配ではなく、教育を通して生涯にわたって学ぶ自主性の基盤を与えることをめざしています。
 津田梅子は、女性も男性と同等の学問を受けることができ、教育を受けた女性はそれを社会に還元できるのであり、またそうするべきだという信念を持っていました。当時は、この考え方自体が斬新でしたが、彼女はこの信念を女子英学塾創立によって実践したのです。彼女は自分が受けた恩恵を他の多くの女性と分かち合うことで社会に貢献しました。そしてさらに卒業生が社会貢献をし、その輪が広がることを期待したのです。
 幸運なことに、本学には創立者が培ったこのように大きな遺産・伝統があります。これを今の社会に適用し、現代のニーズに合う人材を育むべく教育を行っています。
 
最近は大学間競争が熾烈を極めていますが、その中で生き残るためにどのような点が重要だとお考えですか?また、男女平等が進むにつれ女子大の意味は問われ続け、海外でも多くの女子大が共学になったり廃校になりました。津田塾大学を含め、女子大の特色は何ですか?なぜ女子大でなくてはならないのでしょうか。

津田塾大学 飯野 正子学長 初めのうちは学内にも、大学間の競争に巻き込まれることにかなり抵抗がありました。一生懸命に教育をするだけでは不十分なのか、競争原理に乗る意味があるのか。しかし議論を重ねるうち、独自性・ユニークさなど、本学の持ち味をまず自分たちが再認識することが競争の基盤になると気がつきました。本学の教育の成果は卒業生がどのように社会で生きているかという点で評価され、それがいずれ競争に反映されるのでしょう。競争に流されることなく、本学の特色を生かしてまっすぐに教育をしていくことが重要なのではないでしょうか。
 確かに100年前は、男女不平等社会の中で高等教育機関が女性に門戸を開いていなかったので、学問を希求する女性が集う場として女子大は意味を持っていました。現在は環境も違いますので、女子だけを育てている大学なのではなく、「人間を育てている」という意識を持つ必要があると思いますが、一方で本学が女子大の淘汰の波を越えてここまで生き残ったというのは、本学が女子大の持つよさを活かしているからなのでしょう。  
 よさの一つは、女性の教職員や先輩を通して、女性として社会に出てからの一つのロールモデルを間近で見られることがあげられます(もちろん、男性の教職員から教わることも多いのですが)。女性の人生の先輩がすぐそばにいる環境はとても刺激になります。もう一つは、共学の大学よりリーダーシップが養われやすいことです。共学の大学では卒業生総代はほとんど女性だといわれるくらい、学問のできる女性は多いのですが、セミナーなどで誰にも先んじて意見を言ったりすると女らしくないとか可愛くないと言われるのではないかと考える女性も少なくないと聞いています。男女平等社会だといいながら、学生の作る組織の長などメンバーを引っ張る役は男性で、副議長などサポートになるのが女性という例は今でも多いのではないでしょうか。

 
そうですね。社会でも男女平等だとはいいますが、実際に財界や政界でトップの座を占めている女性の数は非常に少ないです。その点ではまだまだ男性中心社会と言えなくはありませんね。
 その点、女子大では全てを女性がしなければなりません。たとえば本学の長い歴史の中では学生がシェークスピアの劇などを上演してきましたが、裏方の舞台背景や大道具など力が必要な、男性の仕事とされてきたようなことも全てしなければならなかった。ですから非常に平等な基盤でことが進められ、ものが測られます。その点で、やはり女子大は女性がリーダーシップを磨く場になりやすいのではないでしょうか。
聞いたところによると、専門職についたり、非伝統的な分野に参画する女性は、女子大出身が多いという調査結果がでているそうです。
 今、再び女子大が見直され、復活していると言われていますが、女子大VS共学という二極分化ではなく、それぞれの特色があり、両方の選択肢が現代でも存在することの意義を、むしろ認めるべきでしょう。国立と私立という選択肢があるように、大学選択時に共学か女子大かという選択肢があることは、個人の選択の幅を広げます。可能であれば両方経験すると一番いいのかもしれません。私は中学、高校と男子が女子の二倍もいる学校でしたから、女子大に来たときはとても嬉しかったです(笑)。ただ誤解が多いようですが、女子大といっても最近は大学同士の交流や単位互換などもありますし、そんなに「女の園」というわけではないんですよ。
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現在、教師に対する評価はとても重要だと考えられています。学内での教員に対する評価はどのようにしているのですか?
 学生が評価します。全クラスの教員が学生評価を受けますので、教員は常によい教育をするための努力を求められます。それは教師だけが立派でなければならないのではなく、学生が頑張るから教師が立派になるという相乗効果もあるのです。宿題を出してもどうせやってこない学生だと思えば、教師のほうだって努力しなくなります。しかし学生が一生懸命食いついてくると思うと、教師も必死になります。英作文でも、教師が一生懸命添削するから、学生も「あれだけ見てもらえるなら」と頑張るわけです。もちろん学生の100%がそう思っているわけではないかもしれませんが(笑)。そのプロセスで、教師も自分を磨くことが必要だと認識するのです。
 
津田塾大学の国際交流は盛んであると伺いましたが、実際の受け入れは何名くらいされていますか?また留学状況はどのようになっているのでしょうか?
 本学が受け入れている留学生の数はまだまだ少なく、2800人ほどの学生の中で20人程度です。しかし留学生の出身国は英語圏にとどまらず、台湾・韓国・メキシコ・ウズベキスタンなど多様です。留学生は、本学で日本文化や日本語を学ぶだけではなく、広い視野を持って勉強しているようです。たとえばウズベキスタンから来ている研究生は、津田梅子について、また日本の女性について研究したいということで本学に在籍しています。そういう人が来るのはとてもありがたいことです。
津田塾大学 飯野 正子学長 受け入れに比べて、海外へ出て行く学生はとても多く、語学研修や夏のショートプログラムに参加する学生が毎年約300人以上、1年留学する者が毎年70人前後います。3年生になった時点で、海外渡航経験がない人はほとんどいないといってもいいほどです。本学の学生はとても積極的で、協定を結んでいる大学だけでなく、自分で大学などを探してどんどん海外に出て行きます。単位互換は計算や評価など大変ですが、きめ細かく行うように制度化しています。
 一昨年に開設された多文化・国際協力コースには、国際関係学科と英文学科の学生が2年生から入ることができます。各学科に属しながら、ブリッジのように配置されたコースをとれる仕組みです。そこでは国際ウェルネスや多文化共生を学びます。またフィールドワークという、自分の研究対象となる地域に一定期間滞在し、実際にそこで得たものを論文に書く課題を課しています。希望者も多く、現在は60人のコースです。2年から英語の授業もそれにふさわしいクラスをとるので、少しずつ他の学科と違ったカリキュラムになります。
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津田塾大学は英語が強いというイメージがありますが、英語教育にはどのような点で力を入れておられるのでしょうか。
 今は他大学でも様々な機器や特別なカリキュラムを用いて効果的な英語教育に取り組んでおられ、「英語の津田」と呼ばれた時代はもうはるかかなたに去ってしまったようです(笑)。そのような中でも本学の特徴は2点あります。一つは、「英語という道具」を大きな文脈の中で教えることです。英語教員は英語のみならず、文学や歴史など多様な他の専門分野を持ちながら教育する構造をとっています。ですから英語をただ機械的に教えるのではなく、文化などの背景をしっかりと伝えながら英語教育をすることが可能です。
 もう一つは、ライティング(英語で書くこと)に力を入れている点です。最近はリスニングやスピーキングには多くの機関で力を入れておられ、本学も遅れをとらないようにしていますが、このインターネット時代に、Eメールなど英文を書く機会が多くなり、書く力はあらためて必要とされています。本学では、書く力には昔から特に重点を置き、ライティングのコースを地道に行ってきましたが、いまもそれは続いています。そのクラスでは、毎週、「英語で書く」宿題が出され、提出されたものを担当者が添削して返却し、修正版の提出を求めます。求められる学生も大変ですが、求める担当者の方も毎週全部添削をして返すのでとても手間がかかります。しかし多くの卒業生が、「振り返ってみると、英語教育の中でこの授業が一番役に立った」と言います。もちろん、在学中は面倒な授業だと言っていますが(笑)。
 英語能力を評価する際にはTOEFLテストも大いに活用しています。推薦入試でTOEFLテストのスコアを提出してもらったり、留学の時にはTOEFLテストの要求点が大学によって決まっています。TOEFLテストに関する訓練プログラムもあります。
 
TOEFLテストは来年から次世代TOEFLテストとなり、読む・聴く・話す・書くの4技能を全て測るテストに変わります。より正確に英語の運用能力を測るテストとして期待されています。
 次世代TOEFLテストが英語そのものだけでなく、その人が言いたいことや考える力がきちんとあるのか、相手の言うことを聞いて自分の考えが述べられるか、というところまで測れれば、とてもいいですよね。本学にはTOEFL講座も設けています。600点取ることも大切ですが、重要なのは技術だけでなく内容です。その点は本学の教育方針とも一致しています。
 現在のTOEFL講座は在学生向けですが、地域の人びとに向けたいくつかのプログラムの中にも加えたいと思っています。ただ現在の状況を見るととても人気があるので、地域の人びとが登録する前に本学の学生でいっぱいになってしまうのではないかと心配しています(笑)。ですから地域の人びとの枠を設けるなど、違った形にしようといった議論もなされています。
 
最後に、現在学んでいる在校生に、そしてすでにご活躍されているとは思いますが、卒業生へのメッセージをお願いします。
津田塾大学 飯野 正子学長 本学では卒業後に社会に貢献できる姿勢を学びます。つまり在校生には、表面的な知識や試験の点数だけではなく、その背後にあるものを学んで欲しいと思います。たとえば英語であれば、言語自体の習得もとても重要ですが、それを通してもっと社会を見たり視野を広げて欲しい。また、バランスのとれた見方や考え方は、社会に出ていかに自分の力が発揮できるかに関わってきますので、やはり広い視野でものを見ることを学んでほしい。そのためには、まず自分が今納得できる学生生活を送って欲しいですね。
 先輩から学ぶことも重要なので、卒業生を呼んで在校生に対する講演会も行っています。たとえば英文学科ではフレッシュマン・キャンプというプログラムがあり、新入生に早く大学での生活に慣れてもらうために、泊りがけで教師も参加して学生と共に過ごします。その中ではグループ・ディスカッションなどに加え、講堂で卒業生の話を聞く機会があります。新入生が自分はこれからの4年間をどう過ごせばよいか考え、将来の自分の姿を可能性の一つとして漠然とではありますが想像する、そんな機会を作るわけです。また、いくつか公開授業や講座があり、そこに卒業生を招いて話してもらうこともしています。
 卒業生には、大学で学んだことを活かしてぜひ社会に貢献して欲しい。その方法はたくさんあります。社会貢献とは、自分が大学で得たことを何らかの形でこれからの国際社会に、そして地域社会に還元し、後に続く人びとに道を開くことではないでしょうか。そういう考えを持ってどんどん社会に入っていっていただきたいと思います。先日の卒業式でも言ったのですが、卒業生は我々の宝なのです。今後もさらに宝を増やしていきたいですね。
 
ありがとうございました。

(インタビュー:2005年5月20日 TOEFL事業部 部長 高田幸詩朗)
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