前回に引き続き今回は、2004年秋学期から2005年度春学期までの2期に亘る交流授業の実践報告を以下の3名の視点からさせていただきます。まずSFCの長谷部は今までの交流のまとめ、次にメルボルン大学の関口先生から、2005年前期の改善されたよりcollaborative
なプロジェクトのシステムと成果、学生の感触を、そして最後に、SFC側のシステムサポート担当のメディアセンターの角谷さんには遠隔授業におけるトラブル対処に焦点をしぼった報告という構成でまとめました。
では、まず長谷部から、今までの交流のまとめを報告させていただきます。
2004年春学期、秋学期、2005年春学期と3期に亘って、交流授業を継続してきましたが、まさしく毎回階段を一段ずつ踏みしめて上るような、反省→改善→新たなる提案→実践という作業サイクルの繰り返しで、今後もそれは尚一層激しくなると確信しています。ただそのサイクルが上向きのプラスのスパイラルで繰り返されていくことが大切だと実感しています。今回の実践報告では、上記の2学期間の交流授業の経緯を踏まえて、今一度交流授業の目的を再確認し、そこから生まれた成果を中心に進めます。
まず前回の実践報告でメルボルン大学の関口先生が、CALLの研究者としての視点から、交流の目的を「日本文化に関心が強い意欲的な学生に、実際の場面をカリキュラムの一環に取り入れ、メルボルンにいながら学生に同年代の日本の大学生と定期的な交流の場を提供し、自分たちの興味のあることを様々なメディアを使って話し合い、お互いの言語、社会、文化への理解をその交流を通して深めることができる最適な場にすること」と述べられ、全く同感です。そして「言語教育におけるコミュニケーション環境の構築」という長谷部の視点からは、次の6項目を交流授業の目的に据えています。
1.
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「言語学習」から「言語コミュニケーション」への意識及び態度変容 |
2.
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外国語での言語コミュニケーションにおける心理的バリアーの緩和 |
3.
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言語学習の「場」の概念の移行(教室は仮の入れ物、学習の「場」は同世代の「友達」と向き合うその瞬間) |
4.
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言語学習における「先生」の概念の移行(言語学習の先生は、参加者全員。「生」の教材を通してのインターラクティブな学生同士の学習環境作り、それに起因する、最終的な言語学習4技能のスキルアップ) |
5.
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交流授業内の協働作業、作品製作による継続的コミュニケーション関係の構築 |
6.
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多角的な言語コミュニケーション環境の構築(CALL, chat,
blog, Virtual Reality(3D)、VC, e-mail, cell phone) |
以上の2方向からの目的をふまえて、より自然で、より人間性豊かで、自由闊達なコミュニケーション環境を構築し、さらに内容を深め、学生の自発性を促していくかが交流授業を継続する限り付随する課題だと実感しています。この一つの交流授業を例に挙げても、担当教員それぞれの目的意識が、多様性と同一性の2面性を持ち、それ故に教員側のコラボレーション作業として、とても興味深く、またお互いに切磋琢磨される良い経験の場を与えられていることに気がつきました。この点も交流授業の実践を通して、今後の言語教育に新たな視点を付加する大きな側面ではないでしょうか。
今までの交流授業でのトピック、交流回数など具体的な実践報告はパワーポイントの内容をまとめて添付しますので、こちらをご覧下さい。それらの交流環境の改善・推移により次のことが結論付けられます。
交流には、相互のコミュニケーション環境を構築するのに少なくとも7〜8回の交流回数が必要であり、またその際にVCなどによるパブリック的側面と半匿名性のCHATのプライベート的側面の両面が整って始めて円滑な交流環境が構築できるということです。それは交流記録から、その各々の会話が全く異なる内容、表現形態を持ち、表裏一体となってコミュニケーション環境の構築に役立っていることが明確になりました。そしてこのようなコミュニケーションの「公私」の二面性により、学生同士の親密度、信頼関係の形成が容易になり、プロジェクトとして「与えられた交流チャンス」から、「自ら交流チーム内で作り上げてゆく交流」へと意識変容及び自立的方向への態度変容が見られました。そして交流授業を提供することの主旨、参加することの意味、このプロジェクトが言語コミュニケーションにおける将来的に果たす役割をより明確にし、学生に各自の将来のライフプランと関連付けて考えをまとめる機会を提供することで、具体的な方策と今後への展望を持った数多くのレポートを提出課題として得ることができました。
そして全ての提出課題を英語と日本語の両方で作成することで、学生はそれぞれの母語と学習中の言語の両方でそれを理解し、またそこから、さらに本質的な深い交流がはじまり、真の相互理解が生まれるのではないでしょうか。
色々な問題発見と問題解決を常にはらんだ交流でしたが、一番の成果は、参加した学生のプロジェクトへの取りくみ方が「発信型」になり、つまり、今後もこの交流授業を「提供してください」という受信型から「さらに良くなるための提案」を前面に押し出した発信型になったことです。このような交流授業は、担当教員や、システムサポートの皆様の力だけで継続できるものではありません。何よりも実際に交流を行う当事者である学生からの自発的な動き・提案こそがこのような交流授業を継続させ、成功へ導く秘訣です。それを得られたことが、2005年度春学期までの一番大きな成果といえるでしょう。
パワーポイントの中で、2005年度秋学期の授業概要を挙げていますが、これは学生からの提案や希望をも盛り込んだものです。ここまで時間をかけてやっと、真の交流授業実践のための入り口に教員・学生ともにしっかりと共に立つに至ったと思います。最後に、このプロジェクトの段階的な展望及び目標は、2005年度春学期までは、このプロジェクトの「初期基盤作りの段階」、来期のプロジェクトを「中期発展段階」、そして2006年度秋学期までのプロジェクトで「安定段階」でより多様性のある交流プロジェクトを共に正規授業で提供することです。次回はこの2005年度秋学期の交流プロジェクト終了後にまた皆様に実践報告をさせていただく機会があれば幸いです。
では、次に関口先生、そしてシステムサポートの角谷さんからの実践報告をお願い致します。
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