TOEFL Mail Magazine Vol.40

e-Language in Action
第4回:慶應義塾大学湘南藤沢キャンパスとメルボルン大学のLanguage&Culture Exchange(3)
 
慶應義塾大学環境情報学部教授 兼 慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科委員 鈴木 佑治先生

鈴木 佑治
慶應義塾大学環境情報学部教授 兼 慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科委員

 
 報告
長谷部 葉子氏

長谷部 葉子
慶應義塾大学 環境情報学部訪問講師

関口 幸代氏

関口 幸代
メルボルン大学文学部 アジア言語社会研究科専任講師
同大学文学部大学院 言語教育工学(CALL)科博士課程在籍

角谷 隆介氏
角谷 隆介
慶應義塾大学湘南藤沢メディアセンター
マルチメディアサービス担当
 

 慶應義塾大学湘南藤沢キャンパスとメルボルン大学のLanguage & Culture Exchangeは月日を追うごとに盛んになりカリキュラムの中に制度化されつつあります。将来はこれをモデルにさらに多くの授業が展開され、内容も多岐に亘ることになるでしょう。今回は、長谷部・関口ジョイントクラスの詳細を報告し、慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス、メディア・センター、マルチ・メディア・サービス担当の角谷隆介氏よりテクノロジー・サポートに関する報告と意見を掲載いたします。このようなオンライン・ジョイント授業には優秀なテクノロジーの専門家の協力が不可欠です。


 長谷部葉子さんの報告

前回に引き続き今回は、2004年秋学期から2005年度春学期までの2期に亘る交流授業の実践報告を以下の3名の視点からさせていただきます。まずSFCの長谷部は今までの交流のまとめ、次にメルボルン大学の関口先生から、2005年前期の改善されたよりcollaborative なプロジェクトのシステムと成果、学生の感触を、そして最後に、SFC側のシステムサポート担当のメディアセンターの角谷さんには遠隔授業におけるトラブル対処に焦点をしぼった報告という構成でまとめました。

では、まず長谷部から、今までの交流のまとめを報告させていただきます。

2004年春学期、秋学期、2005年春学期と3期に亘って、交流授業を継続してきましたが、まさしく毎回階段を一段ずつ踏みしめて上るような、反省→改善→新たなる提案→実践という作業サイクルの繰り返しで、今後もそれは尚一層激しくなると確信しています。ただそのサイクルが上向きのプラスのスパイラルで繰り返されていくことが大切だと実感しています。今回の実践報告では、上記の2学期間の交流授業の経緯を踏まえて、今一度交流授業の目的を再確認し、そこから生まれた成果を中心に進めます。

まず前回の実践報告でメルボルン大学の関口先生が、CALLの研究者としての視点から、交流の目的を「日本文化に関心が強い意欲的な学生に、実際の場面をカリキュラムの一環に取り入れ、メルボルンにいながら学生に同年代の日本の大学生と定期的な交流の場を提供し、自分たちの興味のあることを様々なメディアを使って話し合い、お互いの言語、社会、文化への理解をその交流を通して深めることができる最適な場にすること」と述べられ、全く同感です。そして「言語教育におけるコミュニケーション環境の構築」という長谷部の視点からは、次の6項目を交流授業の目的に据えています。

1.
「言語学習」から「言語コミュニケーション」への意識及び態度変容
2.
外国語での言語コミュニケーションにおける心理的バリアーの緩和
3.
言語学習の「場」の概念の移行(教室は仮の入れ物、学習の「場」は同世代の「友達」と向き合うその瞬間)
4.
言語学習における「先生」の概念の移行(言語学習の先生は、参加者全員。「生」の教材を通してのインターラクティブな学生同士の学習環境作り、それに起因する、最終的な言語学習4技能のスキルアップ)
5.
交流授業内の協働作業、作品製作による継続的コミュニケーション関係の構築
6.
多角的な言語コミュニケーション環境の構築(CALL, chat, blog, Virtual Reality(3D)、VC, e-mail, cell phone)

以上の2方向からの目的をふまえて、より自然で、より人間性豊かで、自由闊達なコミュニケーション環境を構築し、さらに内容を深め、学生の自発性を促していくかが交流授業を継続する限り付随する課題だと実感しています。この一つの交流授業を例に挙げても、担当教員それぞれの目的意識が、多様性と同一性の2面性を持ち、それ故に教員側のコラボレーション作業として、とても興味深く、またお互いに切磋琢磨される良い経験の場を与えられていることに気がつきました。この点も交流授業の実践を通して、今後の言語教育に新たな視点を付加する大きな側面ではないでしょうか。

今までの交流授業でのトピック、交流回数など具体的な実践報告はパワーポイントの内容をまとめて添付しますので、こちらをご覧下さい。それらの交流環境の改善・推移により次のことが結論付けられます。

交流には、相互のコミュニケーション環境を構築するのに少なくとも7〜8回の交流回数が必要であり、またその際にVCなどによるパブリック的側面と半匿名性のCHATのプライベート的側面の両面が整って始めて円滑な交流環境が構築できるということです。それは交流記録から、その各々の会話が全く異なる内容、表現形態を持ち、表裏一体となってコミュニケーション環境の構築に役立っていることが明確になりました。そしてこのようなコミュニケーションの「公私」の二面性により、学生同士の親密度、信頼関係の形成が容易になり、プロジェクトとして「与えられた交流チャンス」から、「自ら交流チーム内で作り上げてゆく交流」へと意識変容及び自立的方向への態度変容が見られました。そして交流授業を提供することの主旨、参加することの意味、このプロジェクトが言語コミュニケーションにおける将来的に果たす役割をより明確にし、学生に各自の将来のライフプランと関連付けて考えをまとめる機会を提供することで、具体的な方策と今後への展望を持った数多くのレポートを提出課題として得ることができました。

そして全ての提出課題を英語と日本語の両方で作成することで、学生はそれぞれの母語と学習中の言語の両方でそれを理解し、またそこから、さらに本質的な深い交流がはじまり、真の相互理解が生まれるのではないでしょうか。

色々な問題発見と問題解決を常にはらんだ交流でしたが、一番の成果は、参加した学生のプロジェクトへの取りくみ方が「発信型」になり、つまり、今後もこの交流授業を「提供してください」という受信型から「さらに良くなるための提案」を前面に押し出した発信型になったことです。このような交流授業は、担当教員や、システムサポートの皆様の力だけで継続できるものではありません。何よりも実際に交流を行う当事者である学生からの自発的な動き・提案こそがこのような交流授業を継続させ、成功へ導く秘訣です。それを得られたことが、2005年度春学期までの一番大きな成果といえるでしょう。

パワーポイントの中で、2005年度秋学期の授業概要を挙げていますが、これは学生からの提案や希望をも盛り込んだものです。ここまで時間をかけてやっと、真の交流授業実践のための入り口に教員・学生ともにしっかりと共に立つに至ったと思います。最後に、このプロジェクトの段階的な展望及び目標は、2005年度春学期までは、このプロジェクトの「初期基盤作りの段階」、来期のプロジェクトを「中期発展段階」、そして2006年度秋学期までのプロジェクトで「安定段階」でより多様性のある交流プロジェクトを共に正規授業で提供することです。次回はこの2005年度秋学期の交流プロジェクト終了後にまた皆様に実践報告をさせていただく機会があれば幸いです。

では、次に関口先生、そしてシステムサポートの角谷さんからの実践報告をお願い致します。

 
 関口幸代さんの報告

<2005年前期:交流授業3>
2004年の2つの交流授業の経験を通じ、交流授業の最大の利点は「教室」という特異な外国語学習の活動の場に、学生が勉強する外国語の話者と、実際の場面に近い形で言語学習活動のためのコミュニケーション空間をもたらすことが出来る点だと考えています。

この目的のもと、2005年の前期の交流授業では学生にとって意味のある言語活動を推進することが重要だと考え、学生間の交流を発展させるために、協働プロジェクトを通してお互いを理解するためのコミュニケーションを行なえる環境を設定しました。それぞれ同じテーマの相手側の大学チームと一緒にそのテーマについて調査し、そのテーマを一緒に話し合うための3D virtual roomを作り上げていくこという課題(詳しくは長谷部先生の報告のpower pointをご覧ください)を与えました。学生はその空間を自分たちのcommunity, meeting placeとして意識することができます。学生は約10週間の間、グループごとに週1回のクラスセッションをビデオコンフェレンス(VC)をメインに行ないました。クラスはマルティタスクの活動形態をとり、ひとつのグループがVCを行なっている間、他のグループはチャットで交流を続けました。チャットでは、VCで不明だった点を確認したり、インターネットの機能を駆使し、会話についていこうという努力をしていました。例えば辞書のサイトを開き、わからない日本語を調べたり、言語で表現するのが難しいもの、映像で見せたほうが理解が早いものなどは写真のウェブサイトのアドレスを送ったりして、話をすすめる方法も使われていました。

今回は双方のプロジェクトのメンバーとして帰属意識をもたせるために、チャット、ブログ、Eメールなど、クラス外でも交流ができるメンバーサイトの設備も整えました。その結果、クラス内のVCで交流するだけでなく、クラス外でもEメールやブログでの交流が盛んになり、個人個人の結びつきが深まり、過去2回の交流に比べ、より密のある交流になったと思います。アバターチャットを使った3D内の交流活動は、残念ながら交流開始直後にメルボルン大学にfirewall問題がおき、クラス内交流が不可能になってしまい今回はご報告できません(ネットワークの問題は現在では解決し、2005年後期に使用されることになっています)。学生の感想はこちらをご覧ください。

<これからの交流のために>
日豪間で交流授業を行なう場合、時差は問題になりませんが、学期の時期が異なるため、同時進行で交流授業を行なうことができず、今回はメルボルン側が学期外に参加することで問題を解消しました。定期的に交流を続けていく場合、学期時期は大きな問題になると思われますが、私たちは以下のようにすることで問題を解決できると考えています。まず学期の始まっているメルボルン側が最初のリサーチを始め、研究したことをクラス発表の課題として日本側の学期のスタートに開始に間に合うようにビデオで収録しておき、それをグループの自己紹介もかねてSFC側の最初の授業におくり、SFCの学生はビデオを見て、興味のあるメルボルン側のグループに合流します。共通の授業期間はほぼ1ヶ月続き、様々なメディアを使い、この間、協働プロジェクトとして取り組みます。メルボルンの学生はこの交流期間終了時点で課題としてのプロジェクトを完成させます。SFC側はメルボルンとの交流を参考に日豪比較の形としてまとめあげ、自分たちの学期末に課題提出とすることができるでしょう。オーストラリアの大学の日本語学習者は主に初級、中級者です。日本の大学生の英語力の基礎力のほうが高いのでこのように活動前にオーストラリア側で準備をしておくと交流も円滑にすすみます。

<さいごに>
先のとおり、目的を明確にした課題設定、異なるコミュニケーションメディアの利用法、授業日程の調整の仕方など、長谷部先生とともによりよい交流授業への開発、改善に力を入れてきました。この3学期間、学生たちが自発的に交流の中で自分たちの疑問をお互いになげかけ、双方の文化、社会、言語について理解が深まっていくのを見るのは感慨深いことでした。学生たちは自己の文化に関する質問を受けながら自分たちについて理解してほしいと感じることを経験しました。自分自身の生きる社会、日常生活について意識し、自分たちの文化、社会が一定のステレオタイプで見られていることも認識したようでした。同時に自分たちも異文化にどのように接するべきかと考える場にもできたようでした。また、SFCの学生が回を重ねるごとに英語で話そうと積極的になっていく様子を見るのは、日本でかつて効果的とは言い難い英語教育を受けた私にとってとてもうれしいことでした。

コミュニケーションテクノロジーの発達とともに、将来、交流授業が言語学習のカリキュラムの一部として有効利用されることを願ってやみません。同時に、このような交流授業のsocialization を通じての言語習得についてはまだまだ研究が必要だと痛感しています。来学期も共同研究を進め、今度は学生の言語習得を調査研究の形で発表したいと考えています。

 
 角谷隆介さんの報告

私の所属している部署は、SFCにおいて、オーディオビジュアル(AV)に関することであれば、メディアセンターに限らず、教室、スタジオ、ホールなど、AV技術サポートを行っています。その一環として、遠隔授業のサポートも行っています。今回は、長谷部先生担当の遠隔授業、メルボルン大学とSFCのVCをサポートした事項を、トラブル対処を中心に報告します。

まず使用している機器ですが、SFCは、当初ポリコム社製のVC専用機のViewStation128を使用し、リアプロジェクターTV(50インチ)に映像音声を出力し投影しています。(現在は、ソニー製のVC専用機に変わりました)
映像、音声共にオート調整ですので、基本操作は簡単です。

メルボルン側は、同じくポリコム社の製品ですが、PCに専用のマイク一体型カメラをUSB接続して使用するタイプのViaVideoUを使用し、教室上部から吊り下げられている大型テレビ?(状態を実際見ていないので想像です)にPC画像を映し出しているようです。PC依存型の機種ですので、ある程度のPCスキルを必要とされます。

● 事例 1 ●
  SFC側からコールしても繋がらず、メルボルン大学からコールすると繋がる。

これは、どこの大学や企業等でも、インターネットの出入り口に当たるサーバーに、ウイルスやハッカー等の攻撃を防ぐためのファイヤーウォールが導入されているためです。ファイヤーウォールの設定によっては、VCのデータも攻撃とみなし受付けてくれません。
SFCは、日本のインターネット発祥の地として、インターネットを利用した研究や実験が常に行われており、ファイヤーウォールがかえって妨げになることがあるので、最低限の設定で運用しています。また、キャンパスネットワークからは、グローバルIPアドレスが取得できるので、教室や研究室などどこからでもVCが行えます。
メルボルン大学から接続してもらうと、SFCからのデータには、メルボルンに対しての返信というような情報がついていきますので、VCが可能になります。数回のVCの後に、SFCからコールが出来るようになりましたので、メルボルン大学の技術の方が気付いて、設定を変更していただいた模様です。

● 事例 2 ●
  メルボルン大学で、SFCの音声が異常に大きく、小声で話しても音が歪んでしまう。

SFCで使用のポリコムは、専用機であり、専用のマイクで音を拾い、音量を自動調節で適量の状態で送り出します。一方、メルボルンは、PC依存型の機種であり、専用ソフトの音声調整の他に、PC自体の音声調整も相互に関係してきますので、両者のバランスが崩れると、音が巨大で歪んだり、小さくてよく聞こえないなどの問題が生じます。上記のバランスを、関口先生にメールで説明して、技術の方に設定変更していただき解決しました。

● 事例 3 ●
  VCの最中に、映像がフリーズしたり、音声が途切れたりする。

インターネットを利用したVCは、数多くの中継地点を経由して目的地にたどり着きます。メルボルン大学とSFC間も、国内外の中継地点を何地点も通過するのですが、その途中どこかの地点で混雑や不具合が発生すると上記のような症状がでます。通常ホームページを見たり、ダウンロード等の場合は、完全にデータが届くまで、何度もやり取りするのですが、VCでは、インタラクティブ性が重要ですので、混雑して届かないパケットは飛ばしてしまいます。
対処法としては、遠い地点、特に海外とVCを行う場合は、画質音質は落ちますが通信速度を低くして、混雑地点を通り抜けやすくしておき、ネットの状況を見て速度を上げていくと良いかもしれません。

● 事例 4 ●
  まったく通信が出来ず、VCが行えなかった。

メルボルン大学とのVCで一回だけありましたが、原因は日本国内の中継地点の不具合(機器類の故障等)で、国内でしたので連絡がとれ、復旧作業中という情報までは得られたのですが、こちらからは何も出来ず、復旧を待つのみで、結果として授業内には間に合いませんでした。
インターネットは近年急速に発展し、インフラ整備も進みましたが、機器故障やウイルストラブルなどの事故は避けられませんので、VC不成立の場合の代替策は考えておかなければなりません。但し、この回は、最終発表だっただけに、技術面トラブルで不成立という悔しい思いをしました。

最後に、VCは、まだ、歴史が浅く、思いもよらないトラブルで通信が途絶えることがあります。このトラブルをいち早く解決するには、サポート担当が、相手先のサポート担当者と電話連絡を取り、お互いの状況を伝え合えるのが一番の近道です。これからVCを始めてみようという方は、まず、現場で電話が出来る環境を整えることをお勧めして、私の報告とさせていただきます。

次回は公立中学校のオンライン・ジョイント授業について報告する予定です。
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