 |
第5回:慶應義塾大学湘南藤沢キャンパスと藤沢市公立中学校選択英語の授業での実践 |
|
|
鈴木 佑治
慶應義塾大学環境情報学部教授 兼 慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科委員
|
|
|
|
|
慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス(SFC)は、1990年に藤沢市の郊外の遠藤地区で産声を上げました。それ以来、藤沢市と色々交流があり、多くの研究プロジェクトが立ち上がっています。SFCの英語プログラムに属する専任教員も何らかの形で藤沢市のコミュニティーと意見交換し、これまで培ってきた英語教育のノウ・ハウを基に、藤沢市の公立中学校の英語教育になんらかの貢献ができればと考えていました。そんな時、8年ほど前のある日、『コミュニケーションとしての英語教育』 (鈴木佑治ほか、アルク)を読んだ藤沢市教育委員会の中学校英語研究グループの先生方がSFCの私たちを訪ねて来ました。今回の報告をする東麻子先生もそのグループの一人です。これまでに東先生は私の研究グループと共同し、幾つかのオンライン・プロジェクトを立ち上げ、アメリカやアジアの中学校と交流してきました。当初は中学校でインターネットを使うことは技術的にも制度的にも困難であったにもかかわらず、校長先生や教頭先生のご理解のもと地道に活動し、今やカリキュラムの一環として機能し始めました。生徒は授業で習った英語を実際に使える「場」を持つことで、英語のみならず外国への強い興味を持つようになります。東先生の報告を聞いてみましょう。
|
|
|
|
1999年夏、私自身アメリカの文化について英語で学ぶ機会に触れ、中学生でもおもしろい学習ができるのではないかと感じたことがきっかけになり、鈴木佑治教授の示唆をいただきながら、これまで慶應義塾大学SFCの外国人招待講師やプロジェクト、研究会とその学生の方々と協同授業をしてきた。
中学校の学習指導要領では、実践的なコミュニケーション能力の育成を掲げている。この選択授業では、発展的な学習として、必修授業での学習をもとに、実際に英語をコミュニケーションの手段として利用する。単なる知識ではなく、十分活用して、実際に英語を使用する力をつけることをねらっている。それは、@授業の中では、覚える要素の強い活動から、使う要素が強い活動をさまざま組み合わせることによって、英語力を伸ばしていくことができる。Aコミュニケーションのための英語力は、できるだけ現実のコミュニケーションに近い活動を通して、言語を学ぶ喜びを味わわせながら習得されるべきである、という考えをもとにしている。さらに、国際理解教育の側面での気づきや学びの場としたいとも思っている。
選択英語の授業内容
年度
|
授業時数
|
おもな活動
|
|
1999
|
3学年
通年週1
|
「となりのトトロ」を英語で観る。ブルース、ダンスを通して、歴史や文化を学ぶ。文化交流。情報の発信、個人と個人のつながり、生徒の視点を発信するビデオ会議(アメリカ
ミシシッピー州Vicksburg High School) |
ビデオ
インターネット
ALTとのTT※ |
2000
|
3学年
通年週1
|
他地域の生徒と同教材(テーマ:ブルース)を利用して学びながら交流する。
ビデオ会議(アメリカ ミシシッピー州Vicksburg High School)
|
教材
OPENWIDE |
2001
|
3学年
通年週1
|
他地域の生徒と交流する。共通テーマ:音 電話の音の違い、好きな音
ビデオ会議(アメリカ ハワイ州Waipahu High School)
ビデオ・レターの交換 ニューヨークMott HallU
|
教材
TAP
インターネット |
2002
|
3学年
前期週3
|
多読を用いた語彙指導と総合的な活動
ビデオ会議(韓国 多松中学校)11月と3月の2回ビデオ会議。
ビデオの交換(韓国 多松中学校、台湾 懐生國中)
|
CAMILLE
ビデオ
ビデオ会議 |
2003
|
3学年
通年週1
|
実際に英語を使ってみよう。
ビデオの作成(アメリカ ロードアイランド州 Classical High School, フロリダ州Nutillus
Middle School、オーストラリア メルボルン大学)ビデオ・レター、手紙、クリスマスカードの交換、ビデオ会議実験
|
ビデオ
インターネット
ビデオ会議 |
2004
|
2学年
後期週1
|
英語を使って、他地域の生徒と交流する。
自己紹介(アメリカ ロードアイランド州Classical High School, フロリダ州Lincoln
Memorial Middle School,)ホームページの作成(学校、身近なことの紹介)
|
インターネット |
2005
|
3学年
通年週1
|
英語を使って、他地域の生徒と交流する。
自己紹介(アメリカ ロードアイランド州 Classical High School 他)
手紙、ビデオ・レターの交換、ブログの作成、意見交換、ビデオ会議を予定
|
インターネット |
今年で7年目になる。上記のように、内容は多少変化しているが、同世代の子どもたちと直接交流することが欠かせない活動である。99年秋当初、7名の生徒とスタートした時は、家にコンピュータがあった生徒は1名、その年度内に買うことになりそうという家庭を入れても3割にも満たない状況であった。コンピュータを使うこと、ビデオ会議に新鮮さがあった。2年目からは、希望選択制で多くの生徒が受講している。普段の生活の中でも、各家庭でコンピュータが普及し、携帯電話、メール機能、画像のやりとりが一般的になってきた。機械操作が巧みになっている。一方、ビデオ会議自体に、珍しさは薄れてきているようだ。実際の英語での交流に関心が向きつつある。
藤沢市はインターネットの利用に慎重な対応であることもあって、本人・保護者・学校などの承諾を得ながら活動を進めている。地域によっては、閉鎖的な利用の方向に進んでいるところもあると聞くが、ネチケットなど適切な使い方の指導、個人情報の保護に気をつけながら、効果的に機器を利用したい。
|
|
【生徒(3年)の自己紹介作品例】
Hello,
everyone. My name is XXXXX. I'm a Muraoka Junior High
School student. I'm 14 years old. My birthday is December
24.
I like to play the piano. I have been learning piano
for 7 years. My favorite music type is classical music.
I want many classical music CDs. Have you ever played
the piano?
I have a sister .Her name is YYY. She goes to S Elementary
School. She is 10 years old. She plays the piano too.
But she likes PE better than music.
My favorite subject is English. So, I chose this English
class. Especially I like to write English.
Thank you for reading. |
既習の表現を使ったり、過去の作品を読んで参考にするなどして仕上げている。
|
|
今年度はまだ途中経過であるが、生徒の様子を述べたい。ビデオ・レターが届くと大喜びで、熱心に観た。画面のすべてが興味深いようで、相手校の生徒と話してみたい気持ちを強くしていた。自分たちのビデオ・レター作りにも、真剣さが増した。相手のある活動であることが、どれだけ意欲的に励まされるかを感じる。Communicatively
authentic situationがコミュニケーションへの関心・意欲・態度を育てている。
去年2年生での実践では、自己紹介の準備をしながら、単語を質問する生徒が多かった。既習語や文法の定着の不足を感じた。英文の打ち込みにも慣れていないので、内容は個性的に仕上ったが、つづりのまちがいなどが多くなった。グループで身近なことを紹介する活動では、ALTとのTTから、作品に関して「血液型を話題にするのは、日本だけである」とか、「Macといえば、マクドナルドではなくてアップルコンピュータである」などアドバイスを得た。これらから、日本らしさにも気づいてほしいと思った。アメリカの2つの相手校をインターネットで検索してみると、ホームページがあり、学校の様子が少しわかった。生徒の人種のバランス、生徒の家庭の経済力、統一テストでの数学・英語などの学力のレベルといった項目に、私自身驚いた。活動を重ねることによって、英文の準備に少しずつ慣れてきた。まだ書くことは難しいようだ。読む活動については、書く活動よりも自信をつけた。作品を読む中で、表現を自然と学ぶ利点もあるようだ。またアンケートによると、77%の生徒が、英語で身近なことについて書くことに慣れた、84%の生徒が、手紙や英文を読むことに慣れた、82%の生徒が、他地域への関心や理解が深まった、66%の生徒が、日本のことについて、理解や関心が深まった、と回答した。
生徒の肯定的なふり返りにも後押しされて、改良しながら、授業実践を続けていきたいと思っている。 |
|
|
|
東先生と生徒はSFCに来て外国の学校とビデオ・カンファランスをしたことがあります。一番印象的なのは外国の友達と話す生徒達の顔がとても明るく積極的であったことです。教育の現場に笑顔が満ち溢れ、時間がまたたくまに過ぎ、その場を離れたくなさそうな生徒達の真剣なまなざしが印象的でした。
本連載についてのご意見ご感想等は nysuzu@sfc.keio.ac.jpまでお寄せ下さい。
|
|
|
上記は掲載時の情報です。予めご了承ください。
最新情報は関連のウェブページよりご確認ください。
©2006 All Rights Reserved.
|