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     SELHi校の試行錯誤

メールマガジン第43号で「特別寄稿」と題し、SELHi第1期指定校である滋賀県立米原高等学校にて研究主任を務められた山岡 憲史(やまおか・けんじ)先生にご寄稿いただいた記事はおかげさまで大好評でした。今後さまざまなSELHi校を取り上げるべく、シリーズ化が決定しました。
それぞれのSELHi指定校は特色のある研究課題を設定していますが、目標とする生徒の英語力は「読む・聞く・話す・書く」という4技能を駆使して自分の考えを発信できる力です。これはまさに北米大学が留学生の入学要件として期待している力であり、次世代TOEFLテスト(TOEFL iBT)はこの要望に応えるために開発されました。そのため、日本の英語教育とTOEFLテストの方向性は同じであると考えます。
本シリーズでは、指定を終了した学校にその学校ならではの成果に焦点を絞りそのエッセンスを報告していただくことを予定しています。高等学校のみならず、中学校・大学、更には小学校の教員の皆様にとっても有益な情報源となるものと期待します。同僚の先生方とも情報を共有し、皆様の授業改革の一助となれば幸いです。

今回は、SELHi第一期指定校である岡山県立岡山城東高等学校で研究開発にあたられた小橋雅彦(こばし・まさひこ)先生(現・岡山操山高等学校教諭)にご寄稿いただきました。


岡山城東高校のSELHiを支えてくれたもの
岡山県立岡山操山高等学校 教諭 小橋 雅彦
小橋 雅彦先生 プロフィール

小橋 雅彦先生広島大学教育学部教科教育学科英語教育学専修卒業。平成14年度4月〜平成16年度3月文部科学省スーパー・イングリッシュ・ランゲージ・ハイスクール(SELHi)第1期校・岡山県立岡山城東高等学校における研究開発責任者。平成17年11月「英語教育の研究実践などを通しての高等学校の充実」に寄与した功績が奨励に値すると評価され、岡山県教育関係功労者表彰を受ける。平成17年4月より岡山県立岡山操山高等学校に勤務。


SELHiはテーマパークにあらず
 メールマガジン第43号の滋賀県立米原高等学校、第45号の千葉県立成田国際高等学校と同じく、平成14年にSELHi第1期校として岡山城東高校が指定された。何の先行事例もない状況の中で、締め切りに追い立てられながら実施希望調書と格闘していたのを昨日のように思い出す。
 申請にあたっての最初の難関は「研究開発課題」とその課題の設定理由を述べる部分である。実施希望調書作成当時は、この指定が「研究開発」であるということの意識が薄く、シラバスという名を借りて、個々の職人芸と言ってもいい「指導技術」「学習活動」をこれを機に体系化してみよう、というぐらいのものであった。
 しかしながら、何はともあれ「研究開発課題」を設定せねばならず、何とかそれらしいものを見繕うのに時間がかかった。そして、設定した課題が「英語教育における発信型コミュニケーション能力育成方法に関する研究」というものであった。当時の実施希望調書には、研究の概要を「本研究は、高校英語教育において、英語を通して、積極的にコミュニケーションを図ろうとする態度の育成、とりわけ発信型の能力の養成に焦点をあて、その育成のための方策とともにその評価方法を研究・開発することを目的とする。」とし、「発信型のコミュニケーション能力を育成するための効率的かつ体系的なシラバス開発の研究」と、「こうした発信型のコミュニケーション能力が育成されたかどうかを評価する方法の開発」の2つを研究の柱として掲げた。
 これだけを見れば、調書作成当時からシラバス研究開発を見据えてスタートしていたかのように見えるが、「研究計画」の中では、「講演会」「他教科の英語による授業」「エッセイコンテストへの参加」「他の関係機関との連携による遠隔英会話授業」等、教育課程の中での位置付けを問われると何とも返答のしようのない、総花的な事業実施を計画していた。
 このような研究開発の展開は、他校でも同様なものが少なからず存在していたらしく、SELHi担当者を集めて東京で行われる連絡協議会の場で、そのようなSELHi校は「テーマパーク化」していると形容された。本校は幸いにして、完全にテーマパーク化してしまう前に、本来の研究開発課題へと向かわせる契機を研究開発1年次途中に得ることができた。

「岡山城東高校の英語教育における課題は何ですか?」

 この質問は平成14年、指定1年目の文部科学省実地調査の際に我々に投げかけられたものである。この質問は、事前に尋ねられることがわかっていたので、答えられるよう入念に準備をしておいた。準備した答えは、文部科学省の方を喜ばせようと学習指導要領を参考にして作成し、目標に書いてある言葉をちりばめた一分の隙もない代物であると確信していた。
  しかしながら、相手が喜ぶどころか次のような言葉が返ってきた。「それは、日本全国の英語教育の課題ではないですか?私たちがお伺いしているのは、岡山城東高校の課題は何かということなのです。岡山城東高校の英語教育を3年間受けるとどのようなことが英語でできるようになるのか?たとえば、卒業時に英字新聞を読んで、その概要を述べることができるであるとか、トピックを与えられるとすぐにそれについてのスピーチをすることができるであるといった岡山城東高校における具体的な達成目標を設定することが、現在の課題ではないですか?」
 我々はこの指摘に返す言葉がなかった。応接室で対面したまましばし沈黙が続いた。この実地調査は以後の研究開発をしっかりと方向付けることとなった。その後、シラバスの研究開発は次の点に注意しながら進められた。

1.
卒業時達成目標(長期目標)の設定
2.
卒業時達成目標に向けての各科目年間目標(短期目標)の設定
3.
短期目標実現のための学習内容・学習活動の設定
4.
評価方法の明確化
5.
授業の進度や家庭学習で必要となる要件の明確化

長期・短期目標を達成するための学習活動を設定するにあたり、学習指導要領における各科目の「内容のまとまり」ごとに学習活動をまとめていくことにしたのであるが、「内容のまとまり」は、「英語T」と「オーラル・コミュニケーションT」については、国立教育施策研究所教育課程研究センター作成資料(平成14年度教育課程研究指定校調査研究資料)を参考にした。その他の科目の「内容のまとまり」については、本校独自に設定したが、この作業には予想外の時間と労力を要した。
 遅々として進まぬその作業を目の当たりにした運営指導委員から「この作業に多くの時間と労力を費やすべきではなく、長期・短期目標達成のための学習活動の設定、すなわち発信型コミュニケーション能力の伸長に寄与する活動の設定を早急に行うべきである」との助言がなされ、「学習活動の設定」、及び「それぞれの学習活動の目標」、さらに各学習活動を通して、観点別評価を行うための評価規準の作成に着手した。
 この段階を経てシラバスの研究開発は「外国語科 学習活動と評価規準」という形で結実した。学習活動をベースとし、その活動ごとに目標があり、観点別に評価規準が策定され、それぞれの活動の目標は科目の目標、さらに卒業時達成目標へと向かう。このシラバスは、後に教員が共通のフォーマットによって作成することとなる具体的な評価規準を明示した学習指導案の作成や 、ITC(Intensive Training Camp:英語宿泊研修) を生徒が学習活動の有機的な統合を実体験する場として位置付けることにおいて、非常に大きな役割を果たした。


撤退する勇気
 SELHi校(岡山県立岡山操山高等学校)自ら掲げた実施計画に縛られ、研究開発課題の内容を絞りきれないでいるSELHi校が存在していると耳にすることがよくあった。本校はシラバスの研究開発において当初計画書に記載した「他教科の英語による授業」を最初から切り捨てた。SELHiはそもそも英語授業の改善そのものを目的とすると判断したからである。このことは、最初の連絡協議会の場で明言した。また、1年間実施したものに、「ITを活用した個別学習」「テレビ会議システムを利用した遠隔英会話授業」があったが、これらは、生徒へのアンケート結果などから、予想した効果が得られないと判断し、実施をとりやめた。このことを中間報告の場で述べたところ、意外にもこのような「撤退する勇気」も必要であると分科会の場で評価されたのである。

運営指導委員と二人三脚で
 SELHi研究開発が順調に進み、各方面でその成果が評価されたのも、この研究開発が運営指導委員の先生方との共同作業で行われたということが大きい。
 運営指導委員の人選にあたっては各校様々であるが、本校の場合、運営指導委員会(県教委が設置し、教育委員会、研究指定校、大学関係者の三者から成り、研究の過程において指導・助言にあたる組織)における大学関係者の人選は本校に委ねられた。そしてお願いした高塚成信教授(岡山大学)、沼本健二助教授(岡山県立大学)、高橋俊章助教授(山口大学教育学部)、今井裕之助教授(兵庫教育大学)の4名の先生方には実施希望調書作成時から、SELHiと運命を共にしていただこうと決めていた。
 このことにより、縦糸となる様々な研究開発の内容に横糸として教師全員が関わる一方で、本校の教師だけではなく、運営指導委員の先生方にも研究開発の横糸となっていただくことができたのである。幾度となくお願いした校内研修への講師依頼、ITCへの泊を伴う参加、突然の資料分析依頼、報告書への執筆依頼等、研究開発の本質的かつ実務的な側面において、深く関わっていただいた。

スピーキング・テストの共同開発

 研究開発の柱の一つに、「こうした発信型のコミュニケーション能力が育成されたかどうかを評価する方法の開発」を掲げた一方で、発信型コミュニケーション能力の育成はスピーキングに特化した。そのため、スピーキング能力がどのように伸長したかを測るために、パフォーマンスに現れる変化の測定方法を開発する必要が生じた。このことに関して本校は、兵庫教育大学とのスピーキング・テストを共同開発する手段を選んだ。理論構築、テスト方法の開発、テスト・マテリアルの作成を兵庫教育大学側が行い、テスト・データの収集、分析や教育現場で実際にテストを実施する際の問題点の洗い出しと改善を岡山城東高校側が行った。
 このスピーキング・テストは、理論背景は他に求めながらも、日本の中高生の英語学習状況を考慮し、教育現場で実施可能なインタビュー形式のテストとして開発された。開発されたテストは「HOPE(High school Oral Proficiency Examination)」と名付けられ、運営指導委員による研修会や試行テストを経た後、指定2年次の2学期末には実施することができた。
 このテストは、6分間のインタビュー形式である。インタビューの柱はpicture descriptionとrole playの2本であるが、さらに別のfunctionを引き出すためのfollow up questionsも重要な役割を持っている。

@ Warm Up(30秒)
挨拶や簡単な質問などをして、英語を話す雰囲気を作る。また、以後のtaskのためにその生徒のレベルの見当をつける。warm upの評価はしない。

A Picture Description(2分)
いわゆる絵の描写である。絵を見せて、それについて出来るだけ多く英語で説明させる。そして描写が終わると、生徒の発話内容に関連のある質問をfollow up questionsとして行う。
B Role Play(3分)
役割が書いてあるカードを見せて、それを試験官と生徒で演じる。3種類の場面と3段階の難易度を設定。その後、それに関連したfollow up questionsをする。
C Wind Down(30秒)
身近な話題に切り替えて、緊張感を和らげ、会話を楽しんだという充実感を生徒に味わってもらうように工夫している。wind downの評価はしない。

 評価規準は4つの観点(話の内容、ことばのはたらき、発話の洗練度、理解しやすさ)に分けられている。生徒が何を話したのかをみるのが「話の内容」と「ことばのはたらき」であり、生徒がどのように話したのかをみるのが「発話の洗練度」と「理解しやすさ」である。また、評価基準はStep 1からStep 8までの8段階である。


Collegiality
 SELHi研究開発実施報告書に運営指導委員の高塚成信教授が次のような言葉を寄せてくださった。
「SELHi研究指定1期校として分からないことが多い中で、学校全体としてcollegiality(同僚間の同等の関係、協同)を確立して研究開発課題に取り組まれ、(略)」(下線、筆者)
 SELHi研究開発に携わった3年間はまさにそうであった。一部の責任者のみが指定の重みを受け止めて、仕事量を勘案しながら分配するのではなく、一人ひとりがそれぞれ同じ重みを同等に受け止めて研究開発に臨んだ。
 毎週1回、お昼休みに昼食を持ち寄って行った「セルハイ・ランチ」という名のわずか30分間の情報交換会および連絡会。会議は3年間で約100回を数えた。しかしこのことで、研究開発は外国語科教師全員の協同作業として進んでいった。SELHi校(岡山県立岡山操山高等学校)
 岡山城東高校は「発信型コミュニケーション能力の伸長」を図るために試行錯誤した3年間で、様々な教育資産を残すことができた。その研究開発を大きく支えたものは、外国語科のみならず学校全体としてのcollegialityと運営指導委員の先生方からの想像を絶するほどの多大な支援であった。
 そして何よりも、研究開発の壁に突き当たるたびにくじけそうになった時、我々の背中をやさしく押して、前へ1歩でも踏み出させてくれたのは、英語を使って何かを達成した時に見せる生徒たちの「小さな笑顔」そのものであった。そうした「笑顔」をどうしたら見せてくれるだろうか、そんなことをいつも考えていた3年間であった。

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