TOEFL Mail Magazine Vol.47
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  大学トップに聞く!玉川大学 小原芳明学長

本シリーズでは、特色ある大学のトップの方々に大局的な視点から大学の運営、指導方針、授業の改善などについてインタビューさせていただいた内容をご紹介しています。

今回は、国際感覚に溢れ、知識や経験が教育界にとどまらず、幅広い視野をお持ちの
玉川大学学長・小原芳明氏にお話を伺いました。


プロフィール:小原 芳明(おばら・よしあき)氏
玉川大学学長・小原芳明氏 1946年 5月13日生
1971年 アメリカ合衆国イリノイ州 マンマス大学卒業
1980年 アメリカ合衆国カリフォルニア州 
     スタンフォード大学大学院教育政策分析専攻修士課程修了
1982年 玉川学園国際教育室長
1987年 玉川大学文学部教授
     玉川大学通信教育部長
1988年 玉川大学文学部長
1991年 玉川大学副学長・玉川学園副学園長
1994年 学校法人玉川学園理事長玉川大学学長玉川学園学園長
自分自身が高校から大学院までアメリカで学び、またアメリカで学んだ3人の子供の父親でもある。現在もアメリカ各地の多くの学長たちと学問を通しての親交がある。

--- 大学を取り巻く環境は、熾烈を極める学生獲得競争、第三者評価の導入などめまぐるしく変化し続けています。その中で大学のあり方はどのように変わっているのでしょうか。
 今までの大学教育が目を向けていたのは、日本社会でした。しかし現代は、日本社会が世界の変化などの外的要因で常に変化するようになりました。従来は情報の発信地である大学が正しい情報を示唆してきましたが、これだけ情報化が進んでくると大学の地位も相対的に弱体化します。そのため、子供たちは従来どおり大学などの知識生産を担ってきた機関に情報を求めるだけでなく、ある程度自分で判断せざるを得なくなりました。判断基準は、法律等で定められているものに加え、人類が培ってきた正邪善悪の価値観もあります。近年は日本という小さな社会の中での価値に加えて、各国の価値観も考慮しなければなりません。したがってこれからの大学の役割は、権威ある知識・情報を提供するだけでなく、学生により良く、より正しい情報を自分の力で選んでいく自覚を促すとともに、情報の正邪善悪、価値の高低を測る尺度を次世代の子供たちに伝承していくことではないでしょうか。

--- 一般的に、学校はビジネス界に比べるとITの普及が遅く、先生方もITリテラシーへの意識が低いと伺っていますが、どのようにお考えでしょうか。
 ビジネス界に比べると学校のIT化は遅れていると思いますね。変化する社会からは常に新しい要望がでてきます。我々の学生時代には電子メールはありませんでしたが、今の学生はこれに対応しなければなりません。それは変化した社会が生み出した一つのデマンドです。これから5年後どのような新しいものがでてくるかはわかりませんが、技術的なものも含め社会が生み出す需要・デマンドをいち早く認識して、子供たちに準備させる役割を学校は担っています。その点では、日本の教師が逆の方を向いていることは否めません。「去年もうまくいったのだから、今年も来年も同じようにやりましょう」という考え方は、ビジネス界ではいち早く捨て去られましたが、大学ではいまだに残っているようです。大学側がもっとスピードアップして社会の変化に対応していかないと、いつまでもリーダーシップが取れません。そのために大学全体をリードしていくのが、学長学部長に課せられた課題でもあります。確かに、「大学は社会(企業含む)のためにあるのではなく、真理を追究する場」と言って昔ながらのスタイルを貫くことも一つの方法ですが、多くの子供たちが大学を経由して社会に出て行くのですから、大学で学習したことと社会との間に将来大きなギャップを感じさせないように、より多くの変化を大学側が起こして、ある程度社会とシンクロナイズさせていくべきだと考えています。

--- 多様化した社会の中で情報を取捨選択していくには、国際的なことも理解し、自分の中に取り入れていくことが不可避なのではないでしょうか。
 玉川大学学長・小原芳明氏インタビューの様子そうですね。「グローバル化」の一言も、そこには色々な意味を含みます。現在は、「すばらしい、進んでいる」といった、いい意味で使われていることが多いようですが、必ずしもそうではありません。ドラッグや犯罪もグローバル化しています。つまりグローバル化にも、善悪の面があり、その中で情報を選択するのは最終的に一人ひとりの責任です。その意識・プライドがないと、「みんなが行くから自分も」となり、気がついてみたら悪いことに手を染めていたということも起こり得ます。過去にもありましたが、今後ますますスケールの大きい波が押し寄せて来るでしょう。その中で大学では、情報の取捨選択術の指導が今まで以上に求められることになるのです。

--- 正しい情報を正しい尺度で測ることをより強化していかないと、自分では正しいことをやっているつもりでもずれてしまい、それが自己中心的な考え方にもつながりかねません。近年は「悪いこと」がわからなかったり、「自分さえよければ」という考え方も多く聞くようになりました。
 子供たちは家庭で18年間、小・中・高で12年間教育を受けてきます。過去にできなかったことを4年間でどれだけなし得るかを考えると、自己中心的な考え方を正すのは大学だけではできません。家庭、小・中・高すべてに関連してきます。自己中心思考の背景には、日本人が自分に宗教がないことを進歩のように考えているのではないでしょうか。確かに人間を縛りつける面もありますが、宗教は「所詮人間は力がない存在、知っていると言ってもたかが知れているちっぽけな存在」だと教えてきました。欧米人は、神の前では人間は非力だという感覚がありますから、自信がないのは当たり前でそれを培うためにどうしたらよいかを考えます。日本では「人間はすばらしいよね」と最初から言ってしまうので、世の中に出てそのギャップに苦しむのです。これが全面的に悪いわけではありませんが、宗教をもう一度見直し、いい意味での謙虚さを身につける必要があるのかもしれません。「人間はか弱い存在なんだ」と自覚できれば、ここからどう努力していけばよいかを自分自身の問題としてとらえることができ、少しは不安も和らぎます。

--- 外国の価値観を認識するには、他文化との直接的な触れ合いが重要であり、ツールとしての外国語が必要になってくると思いますが、英語教育についてはどのようにお考えでしょうか。
 日本の外国語教育は有名な大学に入るための切符としてとらえられてきましたから、非常に細かいことを気にします。極端な話をすれば、As I saidと言おうが、Like I saidと言おうが欧米人は気にしません。意味が分かればいいのです。ある程度基本的なことは身につけなければなりませんが、大学全入時代を控え、入試英語という考え方から、コミュニケーションの手段、異文化を通して自分たちの文化を知る手段としての英語に変わってくるでしょう。
 そうしたことから玉川大学は、文学部にこれまでの国際言語文化学科にかわり、比較文化学科を開設しました。今までの学科名に含蓄されていたのは言語の習得が目的でした。しかしこれから先はジャパニーズイングリッシュでもいいと思います。アメリカに行けばドイツ系、フランス系、スペイン系とみんな違う英語を話しているのですから、ジャパニーズイングリッシュがあってもなんの問題もないのです。その代わりに、相手の文化を分かった上で自分たちの中身を提供できる能力が問われてきます。大切なのは自分の文化と相手の文化のことであって、英語は手段に過ぎません。英語が堪能でも自分の国のことを知らなければ相手だって質問してきませんし、相手の国のことも話せません。
 また、海外に行けば確かに英語は身につきますが、"How do you do?'' "It's a fine day!"といった基礎会話を学ぶのであれば日本で十分です。日本でできないことを学ぶために海外に行くのです。そのためには日本でマスターできることは日本できちんとしておかなければ、海外に行ってもコストパフォーマンスが低いものになってしまいます。

--- TOEFLテストでは2006年、新たにスピーキングセクションを加えた「読む・聞く・話す・書く」の4技能を総合的に測定するテストが導入される予定です。TOEFLテストのスコアは現在多くの留学先大学に要求されていますが、まさにこれこそが他文化での生活・学習をより実り多きものにするために「日本でマスターできることは日本でする」ことにあたるのではないかと思います。
 私自身、海外に早くに出る機会に恵まれ、その結果多くの情報源へのアクセスが可能になりました。海外に出て勉強することのメリットは十分にあると体感しています。それを次世代の子供たちにも経験してほしいというのが基本的なスタンスです。今までは海外に出て行くDeparture(出向)ポイントは大学でしたが、グローバリゼーションが高まっていった結果、現在は高校、中学、小学生へと低年齢化しています。6・3・3制の区切りですら海外と必ずしも一致しません。
 幼稚部から高等学校までの一貫教育を進める玉川学園としてはより早い段階からの準備が必要となってきます。そのため、海外にも通用する教育スタイルの導入を推進しています。子供たちが自分の進学したい学校へアプリケーションを出した時に、"Tamagawa"がはたして物の名前なのか人名なのかも分かってもらえない状況は志願者にとってデメリットになるからです。
玉川大学学長・小原芳明氏インタビューの様子 玉川学園は2005年に"Round Square"(イギリス、アメリカ、オーストラリア、インドなどの学校が加盟している国際的な私立学校の連盟)の正式メンバーとして認定されました。どの学校でも加盟できるわけではなく、教育方針、教育レベルなどが審査され、認定されます。したがって、"A member of Round Square"と言うだけで信用され、玉川学園が私立学校で、どのような活動をしているかが分かってもらえるのです。
 同様にCITAの認定も取得しました。CITAは、私立学校が自ら点検と改善をして質の向上を図るとともに、私学同士が教育を点検し、競い合うことで世界各国の教育の向上を図るため1996年に設置された世界的な学校認定組織です。
 次のステップとして現在玉川学園が推進しているのは、International Baccalaureate Course(IBC)で、幼稚園から高等学校までの15年間を、英語を主要言語として授業展開することです。このコースを終了し、国際バカロレア資格(国際的な大学入学資格)を取得することによって、海外の名門大学への入学も可能になります。
 これからの学校は、自校を世界に対して自己紹介する努力、すなわち地域を越えて学校としてのAccreditation(認定)を取り、学校や教育レベルを認知してもらわなければなりません。カリキュラムを整備することによって、子供たちがより積極的に海外の学校あるいは大学に進学できるようになるでしょう。日本国内のAccreditation(認定)はある意味で改善活動ですが、今我々は改善という枠からbreakthroughしようとしているのです。枠からいかに飛び出して行くかがグローバル化ですが、そのためには海外で認められる基準(Trans Regionally Accredited Curriculum)を満たすことが必要です。そうして学校教育の国際化を推進していきます。

--- 玉川学園という文化を身につけた卒業生が多数社会で活躍されています。最後に、卒業生に対するメッセージをお願いします。
 所詮人間はちっぽけな存在に過ぎません。だから失敗を恐れないでほしい。無謀になれということではありませんが、人間だから許されるのが失敗。人間だからこそ失敗から学んで次の手を打っていくことができます。自分を過大評価することなく、前へ前へと進んでいってほしいですね。"Proactive"、これがこれからの日本人の一つのキーワードになるでしょう。ただ単に"Active"ではなくて"Proactive"へ。より積極的に、チャレンジという意味です。日本が世界で互角に戦っていくために、この"Proactive"精神を期待します。

--- ありがとうございました。
(インタビュー:2006年2月27日 TOEFL事業部 部長 高田幸詩朗)
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