TOEFL Mail Magazine Vol.49
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e-Language in Action〜次世代メディアとプロジェクト発信型英語教育〜
第13回
慶應義塾大学湘南藤沢キャンパスとメルボルン大学のLanguage & Culture Exchange (5)

鈴木 佑治先生
鈴木 佑治
慶應義塾大学環境情報学部教授  兼 同大学大学院 政策・メディア研究科委員

関口幸代  メルボルン大学 アジアン・インスティチュート・研究院、慶應義塾大学SFC
研究所・訪問研究員



 メルボルンはヨーロッパ調のとても落ち着いた大都会です。世界各国からの多くの移民が来てそれぞれの伝統を保ちながら共存しています。ヨーロッパからは、イングランド、アイルランド、スコットランドをはじめ、イタリアやギリシャなど、アジアからは、日本、中国、韓国、周辺の東南アジア諸国から多くの移民が集まり複合社会を形成しています。それぞれの母語が飛び交う中、Aussie Englishとピジン英語が街に溢れています。その喧騒の中でアボリジニの親子が奏でる民族音楽が物悲しく対照的でした。150年の歴史を誇るオーストラリアきっての名門メルボルン大学の建物があちこちに誇らしく聳え、今回の報告者である関口幸代氏は、そのキャンパスの一角で日本語を教えてきました。メルボルンの日本語熱は高く、多くの小学校・中学校、高等学校でも日本語の授業があると聞きます。様々な文化背景の人々が集まるこの国は、お互いの意思疎通無しでは成り立ちません。関口氏のクラスでも様々な文化背景を持つ学生がおり、その関心はコミュニティー形成です。関口氏は、慶応大学SFCの学生との遠隔授業を通してそれを実現するため、3Dのバーチャルな空間を使い大胆な実験に臨みました。

関口幸代さんの報告

関口幸代さん 今回は、メルボルン大学日本語クラス(関口担当)と慶応大学SFCスキル英語クラス(長谷部葉子さん担当)の2005年の後期のジョイント・プロジェクト授業を紹介いたします。
 参加学生は、3ヶ月間、Web上の3Dヴァーチャル・リアリティを利用して交流協働しながらコミュニティー空間を完成させました。交流授業にインターネットを使う利点は、情報交換はもちろんのこと、プロジェクトを通して協働することにより達成感を味わい、かつ相互理解を深めることのできる環境を築くことです。target言語のコミュニティーに参加し積極的な発信をすることで学習効果が促進されることは今更言うまでもありません。通常のクラス・ルーム活動だけではそのような環境を作り出すことは至難の業です。そこで、私たちは交流授業に3Dを導入しそのようなコミュニティーを作り出せないかと考えました。
 詳細は割愛しますが、使用した3D環境を簡単に説明します。写真1のように、参加者はアバターに変身して3Dの部屋に入ります。メルボルン大とSFCの学生は、幾つかの混合グループに分かれ、まず、写真2のようなあらかじめ用意された部屋を全グループに与えます。各グループは話し合ってテーマを決め、そのテーマにそって部屋の改装作業を進めます。週ごとに話し合い、考えをまとめ、それをもとに部屋の模様を変えて行きます。どのような話し合いがされてきたのか、その結果は3Dの部屋(空間)に捨象されビジュアル化されます。学生は自分たちが住む3Dコミュニティーを訪れ、チームメンバーに会い、どのように改装するかを話し合いそれを実行していきます。この作業が毎週繰り返されます。

ポップカルチャーのグループの完成した部屋
開始の部屋
<写真1:ポップカルチャーのグループの完成した部屋>      <写真2:開始の部屋>

 交流のチャットのログの記録やフィード・バックを見ると、3Dバーチャル空間での活動であるにもかかわらず、あたかも現実のコミュニティーを形成しているかのように、部屋の改装に無心に取り組んでいる様が一目瞭然です。各グループのメンバーそれぞれに特有な好みや考えが現れ、家具の形ひとつをとってもグループ内でしばしば意見が対立し、交渉や説得を駆使して最終的になんとか合意にたどりつく様子が見られます。話し合いが進まず悩んでいたグループもありましたが、交流するうちに活発な議論が交わされるようになりました。言語と非言語をうまく組み合わせてコミュニケーションをしながら、合意形成に至るコツを学んだのではないでしょうか。グループ内での役割分担も生まれ、現実社会に近いコミュニティーが形成されていったのではないかと思います。
 自発的にメッセンジャーやメールを使い、授業時間外にも交流をするグループも多数あり、学期が終わった後も活発な交流は続きました。3D環境の中で協働作業をすることにより、それぞれの考えを結集してグループの居場所が見る見るうちに出来上がっていきました。結果、メルボルン大生とSFC生から成る混成グループのメンバー内に強い仲間意識が生まれ、それが積極参加を促す原動力になったと思われます。
 今回の3Dプロジェクトの完成に至るまでには、長期の準備を必要としましたが、クラスにいながら、それぞれのtarget言語を使い活動することにより学習できる環境を構築できたものと考えます。これからも適切なタスクと最適なテクノロジーを組み合わせてproductiveな学習ができる環境を開発して行きたいと思っています。


 メルボルン大学の関口クラスの学生と、慶応大学SFCの長谷部クラスの学生は、学期終了後の2006年の春休みに、お互いの大学を訪問し合い肌と肌で触れる交流をしました。聞くところによると、インターネットによる交信はまだ続いており、この夏休みにも再会する計画を立てるなど、ポスト・プロジェクトの交流をしているようです。連載につきましてのご意見、ご感想はこちらまでお寄せ下さい。

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