TOEFL Mail Magazine Vol.51
INDEX
今月号目次
SELHi校の試行錯誤
HASSHIN!耳よりエクスプレス!
TOEFL® iBTを受けてみよう
TOEFL® iBT全国津々浦々
e-Language in Action

オフィシャルサイトへ
TOEFLテストトップページ
TOEFLテスト教材ショップ
TOEFL ITP テスト
Criterion

TOEFL WEB MAGAZINEへ

SELHi校の試行錯誤


それぞれのSELHi指定校は特色のある研究課題を設定しています。目標とする生徒の英語力は「読む・聞く・話す・書く」という4技能を駆使して自分の考えを発信できる力です。これはまさに北米大学が留学生の入学要件として期待している力であり、インターネット版TOEFLテスト(TOEFL iBT)はこの要望に応えるために開発されました。そのため、日本の英語教育とTOEFLテストの方向性は同じであると考えます。
本シリーズでは、指定を終了した学校にその学校ならではの成果に焦点を絞りそのエッセンスを報告していただくことを予定しています。高等学校のみならず、中学校・大学、更には小学校の教員の皆様にとっても有益な情報源となるものと期待します。同僚の先生方とも情報を共有し、皆様の授業改革の一助となれば幸いです。

今回は、国際理解教育を学校の特色とし、国際交流も盛んな栃木県立宇都宮北高等学校から、
小関 直先生にご寄稿を頂きました。


栃木県立宇都宮北高等学校SELHi研究を振り返って
宇都宮北高等学校教諭 小関 直
小関先生 プロフィール

小関 直先生小関 直(おぜき ただし)
栃木県出身。筑波大学比較文化学類卒業。
教職暦は、埼玉県で12年、栃木県で15年の計27年。
平成15年度4月〜平成17年度3月文部科学省スーパー・イングリッシュ・ランゲージ・ハイスクール(SELHi)第2期校・栃木県立宇都宮北高等学校における研究主任。国際交流にも長年積極的に取り組んでいる。


1. SELHiは研究である。
 平成14年12月のある日、管理職と英語科3人でその前年度SELHi指定を受けた隣県の高校を訪れた。SELHi校は具体的にどんなことを行っているのか、果たして我々にもそのような事ができるのだろうか、を判断するためである。英語科教員自らではないものの、学校長から翌年からのSELHi申請の打診があり、結論を出さなければならなかった。SELHi 1年目の高校で丁寧な説明と授業等の見学の後、我々が下した結果は「自分たちにもできるのではないか、自分たちの学校も十分やれる勢いがありそうだ」というものであった。そのときからSELHiがスタートした。
 本校は創立24年目(当時)と伝統はないものの、国際理解教育を学校の特色として人気の高い進学校である。国際交流も盛んで、留学生の受け入れもスムーズであり、生徒の英語に対する意欲も高く、SELHi校なら県内では宇都宮北高という期待は大きかったようだ。そこで研究開発課題を「真の国際人の育成を目指して、国際理解教育と連携しながら英語コミュニケーション能力の伸長を効率的かつ効果的に図る指導方法の研究開発」とした。特徴である国際理解教育を充実発展させることがSELHiの中心という考えが我々の大部分にあった。しかし英語教育の分野において、この研究課題に合致した研究デザインが明確でなく、ましてや生徒の達成度を測定し評価する見通しや計画の必要性もわかっていなかった。
 1年目の5月に行われた連絡協議会において明確に指摘されなかったものの、本校の研究開発課題は国際理解教育関係の行事中心で研究内容は総花的な色合いが強いことに気づいた。具体的な英語教育の改善点や方法論に欠け、生徒のどんな力を伸ばすためにどんな研究をするのかという基本的な点が足りないのである(このことは最後まで我々を苦しめ、克服できたと思わない)。そこで国際理解教育だけでなく、英語教育も中心に据え、各年度ごとに英語コミュニケーション能力伸長の力点を定め、各学年ごとに共通の課題を持つことになった。最終的にはプレゼンテーション能力の伸長を目標とし、合わせて国際理解教育活動を英語のoutputの機会として利用、評価していくことになったのである。SELHi校の成果は様々な活動や行事について「研究内容に基づき、こんなことを行い、こんな記録が残りました」ということではない。教育活動を充実させて、生徒の英語コミュニケーション能力の伸長のために日々努力し、データに基づき評価、検証しなければならないのである。SELHiは研究だということにSELHiがスタートしてから初めて気づいた。結局最終的に、研究内容は次のような構想図に集約された。→参考資料:研究開発イメージ

2. SELHiは学校全体の取り組み
 平成15年度当時は、英語科や国際科といった特定の学科のみを研究対象としたSELHi校が多かった。しかし本校はあくまでも普通科全クラスを対象にしている。さらにSELHiは学校全体で取り組まなければならないのである。どのように他教科の先生方に研究に参加してもらえるだろうか。
 まず初年度からの研究内容に、英語科と他教科との協同授業、横断的授業を計画した。例えば音楽の授業の中に英語科教員が入っていき、一部を英語で行う。また、英語の授業で歴史的な背景を地歴科教員が説明するなど本校独自のティームティーチングの型を作ろうとした。そのために各教科の主任からなるSELHi全体委員会を最上部に組織し、どんな授業が可能であるか各教科で検討してもらった。結果的には1年目、2年目を中心に数種類の横断的授業が実施できた。残念ながらこの独自の横断的な授業は最終的には大きな研究内容の柱に成りえず、竜頭蛇尾の感はある。しかし英語科以外の先生方にSELHi参加の機会を提供してくれたと思う。また英語科以外の先生方にもSELHi先進校視察に参加してもらい、どんな協同授業ができるか考えていただいた。
 SELHiの校内組織について触れたが、SELHi事務局が実質的な中心組織であり、校長、教頭2名、英語科5名、数学科1名、地歴科1名で構成された。毎週水曜日の6時限目を会議と決め、すべての活動の計画、運営、評価を行った。3年間ほぼ欠かさず開催し、アイデアを出すだけでなく、どんなことでも率直に話し合い、連帯感が深まった。さらに研究開発計画書の立案、研究開発報告書の原案作成などは、SELHi事務局の中から構成された教頭1名と英語科5名、地歴科1名のSELHiスタッフが担当した。休日や長期休業中もミーティングを行い、その回数は年間数十回以上にも及んだ。

3. SELHiは授業が勝負
 SELHiが英語教育の研究であるからには、生徒の英語コミュニケーション能力伸長を図るために英語授業改善と指導力の向上が必要となる。「生徒が英語の情報を的確に聞き取り、理解したことを相手に伝える」、「自分の考えを必要に応じて英語で表現する」という積極的な姿勢を、どのようにして授業中に養成するか。そして、それぞれの授業をもう一度見直し、そうしたコミュニケーション能力の育成のための指導力をどのようにつけていくか。
 まず英語科内で考えたのは、お互いの授業を見せ合い、意見を交換し、様々な授業を見ることで自分の授業のイメージを膨らませようということだった。そして授業改善のための科内共通理解を持つことだった。「英語でできるだけ授業をする」、「生徒の活動を重視し、発話の機会を増やす」、「プレゼンテーション活動を重視する」という3つの方針を合い言葉として、初年度からお互いに授業を見せ合った。うまくやらなくてはとか、ミスするのがいやだ、等の意識がなくなると気持ちが楽になるものだ。様々な校内の英語教員研修会を企画し、意見を交換することでチームワークを強めた。SELHiを3年間やっていくには研究の中心となる者の存在も大切だが、何と言っても英語科の団結力が不可欠であると思う。何か新しいことにチャレンジしたり、難しいことをやり遂げなければならないとき、チームワークが推進力になる。何よりも、どんなことも皆で楽しくやろうとするスタンスは気分がいい。
 1年目は英語科全員が各自英語指導法についてのアクションリサーチを実施した。今までの自分の授業を振り返り、問題点と課題を確認した。そして、生徒の実態を把握した上で各自が到達目標を設定した。どのような指導で生徒がどのような変容を示すかという仮説を立て、実際に1年間実践し、その結果を検証してみた。自分の授業を客観的に見直すことができたことで英語授業の改善の第一歩になった。
 1年目の5、6月に軌道修正を余儀なくされ、生徒の英語コミュニケーション能力伸長のための研究内容、評価については、2年目が「学習段階に応じたリスニング活動の工夫と評価」、3年目が「学習段階に応じたプレゼンテーション活動の工夫と評価」となった。各年度とも各学年(科目)で共通の指導法、活動内容を取り入れて継続的に実践し、成果を検証した。
SELHi授業の様子 英語授業の改善状況やSELHi内容の発信という点において最も効果的で大きな盛り上がりの一因となったのが英語科公開授業週間の実施であろう。3年間で年2回、3〜4日間、県内すべての高校、中学の英語科教員を対象に学校を公開した。もちろん運営指導委員や保護者も自由に来校できるようにした。参加人数は1日平均120人が来校し、恒例となった。英語科全員1科目以上公開し、授業研究会を毎日実施した。期間中の2年目は教育講演会を開催し、3年目は「SELHi評価のためのパネルディスカッション」を実施した。最終年の3年目は公開授業観察チェックリストで授業の外部評価も試みた。ある授業は100人を超える見学者があり、特設の部屋を利用したりした。こうした多くの研究授業を持つことで、我々のよりよい授業への意識が高くなり、結果的には大きな自信につながった。また授業研究会では足らないところを指摘するというより、自分ならこうしたいというような前向きな意見が占め、有意義な意見交換を持つことができた。さらに普段は交流の機会がない中学の教師や私立高校のスタッフとも知り合いになることができ、SELHiの意義や研究内容を発信することができた。ある私立高校の先生が研究会で「今日、授業を見学した後すぐに自分の学校で初めて英語だけで授業をして戻ってきた。案外できるもので、生徒も興味深く受けていた。これからは継続してやってみたい。」と感想を述べられたことがとても印象深い。SELHiの学校全体の盛り上がりを一番実感したのは公開授業週間であった。

4. 身近な存在としての運営指導委員
 SELHiを常に意識し、毎日の活動を充実させ、報告書の作成など膨大な仕事量をこなしていくと、どうしても物事をある方向からしか見られない時があった。また発想が尽きてしまい、プレッシャーに潰されてしまいそうな時もあった。そんな時、我々を支えてくれたのは運営指導委員の1人の宇都宮大学教授渡辺浩行教授であった。3年間、常に指導助言をいただき、アドバイザーとして精神的な支えになってくれ、心から感謝している。英語授業の改善のために定期的に授業を見てもらい、前向きなコメントを常にいただいた。自信がなくなってしまった時など次の段階に踏み出す勇気と今後の方向性まで明るく指導していただいた。近くに運営指導委員がいてフットワーク軽く学校に来てくれるのは何と有り難いことかと実感した。
SELHi授業の様子 渡辺教授は自ら模範授業を行い、生徒からも人気があった。「授業中にコミュニケーションしようとする雰囲気作りが大事であり、生徒の気持ちをつかみ、授業で良好な人間関係を作り上げよう。」、「先生方一人一人がどのように変わったかをお互いに指摘し合おう、そしてどれだけ協力しあうことができたか振り返ろう。」、「英語コミュニケーション能力を伸ばす授業は大学受験に対応する力も養成する、自信を持ってやっていこう。」など名言も多い。

5. 生徒の意識は変わったか
 3年間のSELHiで生徒はどのように変容したか。英語コミュニケーション能力がどのくらい伸びたかについては外部テストや授業中の生徒の活動を記録したビデオ等で十分確証を得ることができた。ここでは生徒の意識がどのように変わったのか、SELHiをどのように評価しているかを述べてみたい。
 最終年度の11月にSELHi 3年間の評価というテーマのもとで、全体会としてのパネルディスカッションを開催した。この中で3年生2人がパネラーとして意見を述べた。次のようなものである。

SELHiになって授業が変わった。受験に対応する英語力だけでなく生きた英語を学んだと思う。
英語による英語の授業に最初は戸惑いがあったが、次第に慣れ、単語を英語で説明されても当然と思うようになった。 
国際理解教育の充実で、留学生との交流などの機会で英語を使う機会を多く得た。と同時に英語の難しさも実感した。

 もちろん生徒全員がSELHiに対して肯定的な意見だけを持っていることはないだろうが、かなり多くの生徒がSELHiになってからの英語授業の改善を意識し、その授業内容を評価してくれていることがわかった。SELHi初年度の1年生は3年間SELHiの環境の中で英語を学習してきた。その結果、我々は彼らをSELHi students と呼んでいたのだが、彼らは例えば、「英語の授業は英語で大部分行われるべきである」という意識を強く持ち、常に高いレベルの英語授業を求めてくるようになった。コミュニケーション能力伸長を目標とした授業のあるべき姿を生徒が望んできたと言ってもいいだろう。
 この3年間で生徒一人一人が受けた授業内容や授業中の活動、英語授業の影響などについて自己評価をしてもらった。対象は9クラス約360人で、これはその結果の一部である。

★ 英語を好きになったか。
1 入学時より好きになった。
2 入学時より英語を身近に感じ、わかるようになった。

「英語を好きになったか。」アンケート結果

★ 英語で行われている授業をどう思うか。
10 英語で行われている授業は効果的である。
11 先生の使う英語がだんだんわかってきた。

「英語で行われている授業をどう思うか」

★ 授業に対する総合的な評価はどうか。
17 本校の英語の授業は英語コミュニケーション能力がつくと思う。

「授業に対する総合的な評価はどうか」アンケート結果

数字的にみても本校の英語の授業を評価し、大きな期待を感じていることがわかった。こうした意識によって教師に対する信頼も生まれる。

6. 最後に
 3年間のSELHiが終了した今年度も11月に公開授業を行う予定である。3年間で得たものを今後も継続して実行していく。それがSELHi成果の発信につながる。英語教育拠点校としての責任もある。今考えればこうした方が良かったと反省する点も多い。もう一度担当すればもう少しはましな研究ができるかもと考えないでもない。しかし、確かに生徒だけでなく、自分自身も変わった3年間であった。次々と大きな仕事の連続で大変なプレッシャーに悩まされる日々だったが、SELHiに関われたことを感謝しなければならないかもしれない。

上記は掲載時の情報です。予めご了承ください。 最新情報は関連のウェブページよりご確認ください。
© CIEE, 2006 All Rights Reserved.