TOEFL Mail Magazine Vol.51
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e-Language in Action-次世代メディアとプロジェクト発信型英語教育-
第15回
プロジェクト発信型英語教育を理解するテクノロジーの専門家の重要性

鈴木佑治先生
鈴木 佑治
慶應義塾大学環境情報学部教授  兼 同大学大学院 政策・メディア研究科委員

谷内 正裕  
(慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科 博士課程所属、慶應義塾大学21世紀COE 次世代メディア・知的社会基盤RA[Research Assistant]、千葉商科大学非常勤講師)



 これまでお読みになられた読者はお気づきになられたかもしれませんが、プロジェクト発信型の英語プログラムを立ち上げること自体が一大プロジェクトです。学生諸君、教員、事務局のプロフェッショナル、そして何よりもコミュニティーのコラボレーションがなければ実現しません。様々な能力を持っている人達が持てるものを出し合うからこそ実現できるのです。私は言語学、英語学、英語教育の専門家ですが、テクノロジーに関してはまったくの素人です。E-learningといってもどの機械をどのように使ってよいのかも皆目見当がつきません。1990年の初頭に慶應義塾大学SFCで同僚とともにプロジェクト発信型英語プログラムを立ち上げた時は、コンピュータの前に立つ赤子のようでした。それをみかねて、高崎航也君(現千葉商科大学講師)らの学生諸君が、コンピュータ・プロジェクトを立ち上げて授業で使うテクノロジーを整備し、現在のテクノロジー・プラットホームの原型を残してくれました。今回紹介する谷内正裕君は、高崎君らの後を引き継ぎ改良を重ねて今ある形にしてくれました。谷内君自身も近隣の公立中学校や高等学校の生徒らと『「中身の無い」英語教材を作るプロジェクト』を起こし、その活動を通してテクノロジーの開発にいそしんできました。今回はその一部を紹介いたします。

谷内正裕君の報告

谷内正裕氏 「中身のない」教材をいかに作るか。これが、私が発信型英語プロジェクトのための学習環境を作るときに常に考えていることです。私は鈴木教授のプロジェクトに参加してから国内外さまざまな中学校、高等学校の先生方の授業をお手伝いしてきました。特に教室の枠を超え、コミュニケーションの場を広げるためのインターネット環境の活用に取り組んできました。その一部を簡単に紹介したいと思います。
 発信型のプロジェクトでは、言語だけでなくあらゆるメディアを駆使して相手にメッセージを伝えます。同じ場所にいれば、見せたいものを持って来ることもできますが、場所が離れていると見せることができません。しかし見せたいものをビデオカメラで撮影して簡単に編集したり、字幕をつけたり、ナレーションをつけたりしてビデオレターを作れば、英語で全部を説明しなくても伝わるかもしれません。一見準備が大変で時間がかかりそうなこの作業を、学校のコンピュータでも簡単にできる教材を開発しました。交流相手はビデオレターを見ながら、もっと詳しく見たい、聞きたいと思った場面にコメントを書き加えてくれます。普段の学校生活、当たり前だと思っていても、交流相手にとっては珍しく興味ある内容になることがあります。中身を用意しなくても、彼らのお互いの視点そのものが、いつの間にか教材の中身になっているのです。
 生徒たちにとって、交流相手から送られてきたメッセージを読むのも最初は大変でした。でも少し助けてあげれば、いろんな文章が読めるようになるかもしれません。鈴木研究室では日常生活にあふれるカタカナ語をきっかけに交流をはじめるプロジェクト(e-Language in Action:第9回参照)があります。この発想を応用した教材も作りました。あるとき日本と台湾の生徒たちの間でお茶の話題が出てきました。ここで台湾の生徒がPearl Milk Teaの作り方を説明してくれたのですが、日本の生徒はPearlの単語を見ただけではその意味が解りませんでした。辞書で調べたり、先生に聞いたりもできます。しかしPearlの発音を、英語や、'パール'とカタカナ語で聞けると、元々カタカナ語で知っていた単語の意味と結びつけることができるかもしれません。グローバルに情報が行き来する中で、生徒たちの世代ではカタカナで共有できる文化がたくさんあります。生徒たちはこれをきっかけに、交流相手からのメッセージをどんどん読み進めていきました。
プロジェクト発信型英語教育を理解するテクノロジーの専門家の重要性-参考資料 このような交流授業の最後のイベントとしてテレビ会議を行ったとき、最も面白かったのは予定していたシナリオを全て終えた後でした。テレビ会議ですっかり打ち解けて、終わったあともずっと話し続けているのですが、気が付いたときには、彼らはテレビ会議を通してできるゲームを考え出していました。テレビ会議のカメラで雑誌を写し、写真を元にその内容を当てるというものです。テレビ会議の画像が悪く、雑誌の絵がきれいに見えないのを逆に利用していました。終わった後も、気が付いたら英語でやりとりするきっかけを、自分たちで作っていたのです。
 「中身のない」教材を作るのは、生徒の等身大の日常生活を相手に伝えるため、生徒に中身を作って欲しいからです。そしてその活動の中から次の発信のきっかけを作ってくれるのを期待しているからです。インターネットは広く普及しました。Webで検索すればいろいろな情報が瞬時に見つけられます。しかしまだまだ大人が作ったコンテンツばかりです。生徒たちの発信するオリジナルな視点がインターネットに還元されていき、もっと魅力的なインターネットになっていくのは、まさに発信型プロジェクト授業の魅力ではないでしょうか。

プロジェクト発信型英語教育を理解するテクノロジーの専門家の重要性の図



 将来の外国語教育は、テレビ会議なしでは語ることが出来なくなるでしょう。しかし、多くの先生方が、テクノロジー・サポートが得られず困っているようです。谷内君はそのような先生方へのサポートシステムも考えてくれるものと思います。これからの外国語教育を効果的なものにするためには、外国語教育の教員だけではなく、テクノロジーも含めた様々な分野の専門家の協力が不可欠です。谷内君はテクノロジーの専門家として外国語教育を考えておりその意味で貴重な存在です。尚、谷内君は、千葉商科大学の情報処理の授業でも同様のプロジェクトを行っております。近い将来、その報告も兼ねてもう一度登場してもらいます。
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