「中身のない」教材をいかに作るか。これが、私が発信型英語プロジェクトのための学習環境を作るときに常に考えていることです。私は鈴木教授のプロジェクトに参加してから国内外さまざまな中学校、高等学校の先生方の授業をお手伝いしてきました。特に教室の枠を超え、コミュニケーションの場を広げるためのインターネット環境の活用に取り組んできました。その一部を簡単に紹介したいと思います。 発信型のプロジェクトでは、言語だけでなくあらゆるメディアを駆使して相手にメッセージを伝えます。同じ場所にいれば、見せたいものを持って来ることもできますが、場所が離れていると見せることができません。しかし見せたいものをビデオカメラで撮影して簡単に編集したり、字幕をつけたり、ナレーションをつけたりしてビデオレターを作れば、英語で全部を説明しなくても伝わるかもしれません。一見準備が大変で時間がかかりそうなこの作業を、学校のコンピュータでも簡単にできる教材を開発しました。交流相手はビデオレターを見ながら、もっと詳しく見たい、聞きたいと思った場面にコメントを書き加えてくれます。普段の学校生活、当たり前だと思っていても、交流相手にとっては珍しく興味ある内容になることがあります。中身を用意しなくても、彼らのお互いの視点そのものが、いつの間にか教材の中身になっているのです。 生徒たちにとって、交流相手から送られてきたメッセージを読むのも最初は大変でした。でも少し助けてあげれば、いろんな文章が読めるようになるかもしれません。鈴木研究室では日常生活にあふれるカタカナ語をきっかけに交流をはじめるプロジェクト(e-Language in Action:第9回参照)があります。この発想を応用した教材も作りました。あるとき日本と台湾の生徒たちの間でお茶の話題が出てきました。ここで台湾の生徒がPearl Milk Teaの作り方を説明してくれたのですが、日本の生徒はPearlの単語を見ただけではその意味が解りませんでした。辞書で調べたり、先生に聞いたりもできます。しかしPearlの発音を、英語や、'パール'とカタカナ語で聞けると、元々カタカナ語で知っていた単語の意味と結びつけることができるかもしれません。グローバルに情報が行き来する中で、生徒たちの世代ではカタカナで共有できる文化がたくさんあります。生徒たちはこれをきっかけに、交流相手からのメッセージをどんどん読み進めていきました。 このような交流授業の最後のイベントとしてテレビ会議を行ったとき、最も面白かったのは予定していたシナリオを全て終えた後でした。テレビ会議ですっかり打ち解けて、終わったあともずっと話し続けているのですが、気が付いたときには、彼らはテレビ会議を通してできるゲームを考え出していました。テレビ会議のカメラで雑誌を写し、写真を元にその内容を当てるというものです。テレビ会議の画像が悪く、雑誌の絵がきれいに見えないのを逆に利用していました。終わった後も、気が付いたら英語でやりとりするきっかけを、自分たちで作っていたのです。 「中身のない」教材を作るのは、生徒の等身大の日常生活を相手に伝えるため、生徒に中身を作って欲しいからです。そしてその活動の中から次の発信のきっかけを作ってくれるのを期待しているからです。インターネットは広く普及しました。Webで検索すればいろいろな情報が瞬時に見つけられます。しかしまだまだ大人が作ったコンテンツばかりです。生徒たちの発信するオリジナルな視点がインターネットに還元されていき、もっと魅力的なインターネットになっていくのは、まさに発信型プロジェクト授業の魅力ではないでしょうか。