「SELHiはイベントではなく、授業の改善を目的とした研究活動である。」この認識が教員の間に共有されるまで、両校とも相当の時間を要した。国際科を中心に地域の国際教育をリードしてきた日立二高と英国生徒派遣プログラムが始まったばかりの日立一高、両校にとってSELHiは、海外交流活動を活性化するための好機と捉えられた。同時に、「国際友好の日」や日立サミットなど、両校が共催で留学生やALTと交流するイベントも数多く企画され、こうしたイベントの出来がSELHiの成否を決するという思いを抱く教員も多かった。実際、国際交流の活性化という面では、両校とも大きな成果をあげることができた。両校共同で開催した日立サミット、日立一高の模擬国連会議参加(英国ロイヤルラッセル校)、日立二高のハワイ・ニュ−ジーランド・タイ研修、国際交流の日など、詳細は報告書に譲るが、両校の国際交流活動はSELHi以前とは比較にならないほど活発なものになり、生徒の異文化に対する理解や関心を深めるのにも大いに役立った。
一方で、「授業の改善」という意識が浸透するのには、時間がかかった。それどころか、授業とSELHiは別物だと考える教員もいて、研究1年目は、様々なイベントに追われ肝心の授業の改善には手が回らないという実情が見られた。SELHiの研究助言者や運営指導委員の手厳しい助言を得て、授業の改善に向けて本格的な取り組みが始まったのは、研究2年目からだった。
日立二高の国際科では、総合英語及び英語理解の指導において、従来の訳読中心の授業スタイルからの脱却が図られた。授業の大半を英語で行い、パワーポイントの効果的な使用やペアリーディングの工夫などにより、視覚・聴覚を活用して内容理解に主眼を置く授業が展開されるようになった。授業の様子を平成16年8月の全英連関東ブロックの模擬授業で公開した際には、県内外の特に進学校の先生方から、生徒が積極的に活動に取り組む様子について評価する声をいただくこともできた。このような取り組みは国際科の指導のみならず日立二高英語科教員全体の研究課題として、SELHi終了後の定期的な授業改善のための指針となっている。平成18年度は東海大学から鈴木広子教授を招き、リーディング教材の指導のあり方について、定期的に授業改善のための研修会を行っている。
表現力の育成を目指し、1分間スピーチやプロセスライティングを導入し、これらとリンクしてディベートの指導も行われるようになった。当初は要領を得ない所もあったが、数次にわたるプレディベート活動を経て、年度末には活発な議論も見られるようになった。プロセスライティングについては、平成18年度から普通科におけるライティングにおいても採用され、指導者同士の共通理解のもと、指導実践を開始している。
日立一高では、ALTや外国人講師を活用して、音声を重視した指導やリーディングマラソンの活動などが行われた。日立二高と同様に、従来は主流を占めていた訳読中心の授業は、徐々に姿を消し、内容理解と自己表現を重視する形で、テスト問題についても大幅な見直しがなされた。中でも、校内考査の全てにリスニングテストを導入したことは、生徒の音声に対する意識と学習意欲を高めるのに大いに役立ち、全体的な聴解力の向上につながった。 模擬国連会議との関連では、参加生徒を対象に決議案の作成やディスカッションなどの事前指導を半年にわたって行い、研修の成果を授業のグループワークなどに反映させるように努めた。ALTや外国人講師の協力を得て、エッセーライティングとそれをベースにしたディスカッション活動も授業に取り入れられるようになった。
日立二高と同様、こうした取り組みは、SELHi以後の指導にも引き継がれ、教師主体の講義型の授業を、いかにして生徒主体の参加型の授業へとシフトするかという課題に、個々の教員が真剣に取り組み始めている。
SELHi指定以前と比べて、両校の英語授業は確かに大きく変わった。研究当初、具体的な授業改善の方向性があいまいであったために、生徒の英語力の二極化など予期せぬ壁にぶちあたることも多かったが、「よりコミュニカティブな授業を」という意欲は、研究が進むにつれて強まっていった。両校のSELHiは、授業改善の Best Example にはなりえなかったが、Good Example を提供することには成功したのではないかと自負している。 |