TOEFL Mail Magazine Vol.54
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SELHi校の試行錯誤

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SELHi校の試行錯誤



それぞれのSELHi指定校は特色のある研究課題を設定しています。目標とする生徒の英語力は「読む・聞く・話す・書く」という4技能を駆使して自分の考えを発信できる力です。これはまさに北米大学が留学生の入学要件として期待している力であり、インターネット版TOEFLテスト(TOEFL iBT)はこの要望に応えるために開発されました。そのため、日本の英語教育とTOEFLテストの方向性は同じであると考えます。
本シリーズでは、指定を終了した学校にその学校ならではの成果に焦点を絞りそのエッセンスを報告していただくことを予定しています。高等学校のみならず、中学校・大学、更には小学校の教員の皆様にとっても有益な情報源となるものと期待します。同僚の先生方とも情報を共有し、皆様の授業改革の一助となれば幸いです。

今回は、「世界で活躍できる人材を育成する」ための英語教育を推し進めておられる、東京都立国際高等学校の佐藤留美先生から、ご寄稿を頂きました。



都立国際高等学校でのSELHiの取り組み
東京都立国際高等学校 外国語科 第3年次SELHi委員長 佐藤 留美
佐藤留美先生 プロフィール

東京都立国際高等学校 外国語科 第3年次SELHi委員長 佐藤 留美佐藤 留美(さとう るみ)氏
高知県土佐市出身 青山学院大学文学部英米文学科卒業

教職歴は長く、多様な学校に勤務。どの学校に赴任しても、「授業法は変わらない、変えるべきでない」との信念を持つ。平成15年度にSELHi指定を受けた国際高校に赴任。SELHi指定3年目のSELHi委員長。現在、Post-SELHiの授業実践奮闘中。
【写真:エジンバラでの第1回J8会場にて】



1. SELHi指定をうけて

 本校では、平成15年度から17年度までSELHi指定を受け、「世界で活躍できる人材を育成する」ための英語教育を進めました。
「英語が使える日本人」という文科省の構想が発表され、英語で授業を実施することはごく当たり前になってきましたが、教師の英語の発話量は100%英語だが、生徒の発話量は皆無に近いという授業が多々あります。本校では、生徒のアウトプットを促すような工夫をして授業を組み立てようと研究しました。例えば、指定3年目の3年生の授業ではクラスを3つのグループに分けてdebateを行い、それぞれのグループで、肯定側、否定側、ジャッジと役割分担をし、勝敗をジャッジが決めた後、クラス全体でdebateされたことをジャッジがクラスに共有するという形式の授業を取り入れました。
英語の授業の様子 机を三角形に並べ、それぞれ一辺ずつ肯定側3名、否定側3名、ジャッジ3名が座ります。発言者は立って、電光掲示板の数字を見ながら制限時間3分以内に自分の意見を組み立て英語で発言します。立論は十分準備ができますが、2回目、3回目の反論になると、用意してきたステートメント以外に即興で意見を考えなければならないので大変になります。3年間学習してきた英語力を総動員して、少しでも説得力のある意見を述べようとどの生徒も努力します。そのあと、各テーブル順にジャッジが勝ち負けを宣言し、今度はジャッジがその理由を英語で述べます。
 つまり、授業中に他の生徒の発話を注意して聞き、それに対して自分の意見を言うということが必要となる授業の組み立てになっています。この授業では、誰か一人が主に発話するということはありません。誰もが授業に参加し、発話しないといけない工夫がされています。
【写真:2006年12月1日SELHi公開授業(3年生)】

  また、生徒の発話力を測るために、ヨーロッパで行われているspeakingテストのCommon European Frameworkをもとに、生徒のspeaking力が測れるテストを開発しました。更にSpeaking Testで測った生徒のspeakingレベルを書き留めておけるLanguage Passportも作成しました。Language Passportには学校実施のTOEIC IPのスコアや、外部で受験した外国語の能力試験の結果も3年間に渡って記入できるようになっており、英語学習のmotivationとなるよう工夫しています。Speaking TestとLanguage Passportがあるので授業者も生徒も、それを意識して授業に取り組むように、との思いもあります。


2. 授業のあり方についてのコンセンサス

 3年間のSELHi研究で、職員間で忌憚のない意見交換ができ、本校での授業のあり方についてコンセンサスが得られたのは大きな収穫だったと思います。

学年全体の共通ワークシートを作成し、授業の共有を図る。
授業の進め方の研究協議を行う。
授業は原則として英語で行う。
ディベート・ディスカッション等の手法を適宜取り入れ、スピーキング力が伸ばせるような授業の工夫をする。
テストづくりを工夫する。
Language Passportを所持させ、学習のモチベーションを高める。
スピーキング・テストを更に改善し、生徒のスピーキング力を定期的に測定する。
授業力、英語力を向上させるため、教員全員で支え合い、協力し、自己研鑽に励む。
できるだけ生徒を学校外での Mock国連やJ8等の行事に参加するように励まし、世界的な視野を広げるように手助けする。また、外部のスピーチコンテスト、ディベートコンテスト、英作文コンテスト等にも参加を呼びかけ、英語力を向上させる一助とする。
学校行事も生徒の英語力が伸びるよう更に工夫していく。
他教科も含む科目間の連携を更に深めていく。

 このコンセンサスを元に、今年の一年生からチームを組んでの”all English”の授業が始まりました。チームを組むと良いことがたくさんありました。ワークシートも単語テストも宿題も分担してでき、仕事の量が減りました。また、”all English”はかなり辛いですが、皆で進めていますので、自分一人だけやめるわけにもいかず、苦しいけれど頑張るしかないと思っているうちに、授業者自身の英語力もかなり向上しています。生徒と同じように夏を迎える頃から、英語が苦にならなくなります。また、本校では習熟度別のグループ分けを行っていますが、どのグループでも同じ授業方法(進度が異なるだけ)なのでグループ移動も違和感なく行えています。今のところあまりデメリットは思いつきません。
 今年度は、1年生の英会話の授業で、debate contestを2月に行うように、12月から取り組んでいます。どんな結果がでるか楽しみです。
 なお、現在の1年生はSELHi研究の成果である授業を受けていますが、授業評価アンケートに、「英語の授業は、非常に充実している」、「英語の授業のレベルが高くて、ついていくのは大変。でも英語を勉強しようと思って国際高校に入学したのだから、頑張る」、「日本にいて外国と変わらないような、こんな授業を受けられると思わなかった」との記述が多くありました。保護者からの意見にも肯定的な意見が圧倒的に多く、3年間の努力が報われ、とてもうれしく思っています。同時に、これから更に生徒の力を伸ばし、将来世界で活躍できる優位な人材を育成していく責任の重さを実感しています。


3. SELHi研究の成果

 SELHi研究は大変でしたが、授業の共有ができ、授業力を向上する機会に恵まれたことは大きな成果でした。学校現場は多忙でSELHiの授業公開でもなければお互いの授業を見る機会もなかったからです。また今まではそれぞれの先生方は自分の授業のシラバスは考えていましたが、学校全体、生徒全体を、3年間を通してのシラバスを考えることはしていませんでした。生徒の英語力を伸ばすというのであれば、どの程度、いつ、どうやって、を常に考えていく必要があります。それはひとりひとりの先生では、達成できないことなのです。学校全体で先生方がチームとして取り組む必要があるのです。またチームで取り組めば、他の先生に助けを求めることが出来るということでもあります。それを確認させてくれたのがSELHi研究でした。
 そのほかにも、SELHi指定を受けて良かったことがあります。それは、SELHi指定校には必ず、指導助言者の先生がつくということです。本校には東京外国語大学大学院教授の根岸雅史先生が指導に当たって下さいましたが、先生を囲んでのSELHi委員会では、教師が生徒に戻り、学ぶ喜び、教わる喜びを味わいました。また授業実践がアカデミックな裏付けのある授業だということは、授業をする上で大きな自信になりました。

  いまSELHi研究に取り組んでいる先生方、是非、指導助言の先生になるべく多く学校に来ていただいて、学生に戻った気分で、楽しく研究に取り組んで下さい。また、一人より二人、二人より三人の方が仕事の量が減ります。チームワークで乗り切って下さい。チームワークで養った団結力は明日への仕事の意欲に繋がります。大いに研究を楽しんで下さい。ご健闘を祈ります。



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