TOEFL Mail Magazine Vol.55
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e-Language in Action〜次世代メディアとプロジェクト発信型英語教育〜
第19回
プロジェクト発信型の評価−いかにしてコミュニケーションを評価するか?
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鈴木佑治氏

鈴木 佑治
慶應義塾大学環境情報学部教授  兼 同大学大学院 政策・メディア研究科委員

山中 司
慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科博士課程 (鈴木佑治研究室)、北陸大学未来創造学部非常勤講師



 外国語のみならずいかなる教科も評価基準に縛られます。評価は公明正大でなければなりませんからなおさらです。いい加減な評価法は教育自体を崩してしまいます。公明正大=客観的という図式から、評価基準は客観的でなければならないと考えがちです。客観とは、正確で、普遍的、すなわち、個人的ではなく一般化で、かつ、時代を超えて不変でなければなりません。それは相対的ではなく絶対的であるということです。そのような評価基準などありえません。さて、言語教育以外にも言語能力の評価基準について真剣に考えている分野があります。言語障害を引き起こす諸症状を研究している脳神経学です。脳の傷害による言語障害が認められるか否かを判断するためにいろいろな診断テストが開発されましたが、絶対的なものはなさそうです。私が読んだ研究書によると、言語障害をもつある高学歴の患者の言語(母語)能力は脳に傷害を受ける前よりは落ちたそうですが、他の正常の人の能力より高かったと書かれてありました。あくまでもこの患者の症状が現れる前後の能力の比較であり相対的であって絶対的なものではありません。外国語プログラムが、学生の創造力を掻き立てて魅力的なものであればあるほど、学生や生徒個人の独創力が活きてきますが、同時に、主観性の高いものになり、評価はますます難しくなります。それが、そうしたプログラムに否定的になり避けようとする理由の一つかもしれません。今回の報告者の山中君は、プロジェクト発信型英語教育に従事しながら、正面からこの問題に挑戦しています。

山中司君の報告
山中司氏 日本の英語教育は、一昔前の文法訳読型の受信型から、コミュニケーションを重視した発信型の英語教育へと大きく様変わりしつつあるように思います。今では大学のみにとどまらず、「コミュニケーションを重視した英語教育」と聞いて表立って反対する先生も生徒も、そして保護者の方もほとんどいないのではないでしょうか。こうした動きは日本では1990年代からさかんになったと言われていますが、とりわけ大学英語教育においては、慶應義塾大学SFCの「プロジェクト発信型英語教育」がその牽引役でもありました。現在の鈴木佑治研究室のCAMILLEプロジェクトはそうした歴史を引き継いだものです。
 さて、コミュニケーションを重視した「プロジェクト発信型英語教育」を行う際、どんな教育実践でもそうですが、避けては通れない重要な論点があります。それが「評価」の問題です。私は昨年度、慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科修士課程にて、「コミュニケーションを重視した大学英語教育における発信能力の評価: 基礎研究と評価モデルの提案」と称する修士論文をまとめ、この問題に正面から取り組みました。今回はその内容を簡単に紹介させていただきたいと思います。

 実は「評価」と聞くと、それは様々なイメージを含んだ概念であることが分かります。「評価」イコール「テスト」と考える人もあるでしょうし、「評価」は日本語の意味を引き継いだ形で、肯定的に褒めることを意味する考え方もあると思います。私の研究では、評価とはあくまで広い意味で捉えられるべきであり、ましてや「コミュニケーションを評価する」ということであれば、英語そのものの(狭い意味での言語的な)評価はもちろんですが、言葉を使った表現以外のものも含んだ、いわば「メッセージのやり取りの全体」が評価されなければならないという立場を取りました。
学生の英語コミュニケーション活動の評価シート
 私は現在、北陸大学の未来創造学部の英語プロジェクトの授業において、上記のような評価シート(クリックするとPDFで表示されます)を作成し、学生の皆さんのコミュニケーション活動を評価しています。『発信する大学英語(鈴木佑治、霜崎實他著)』でのアイディアを基に、それを大いに発展させたのが本評価法なのですが、大まかに説明しますと、外部の英語試験のスコア(TOEFLや英検、TOEIC等)の指標を参考に英語そのものの能力も(総合点の一部として)評価します。しかしそれだけではありません。「発信型コミュニケーション」として、プロジェクトにおけるリサーチの内容、独自性、その構成を評価します。また、発表(プレゼンテーション)の際に、それがどれだけ効果的だったか、メッセージは受け手に伝わったか、アピールは十分だったか、相手は内容を理解したか、言語以外のメディアも駆使し分かりやすい表現を心掛けたか等を評価します。そして質疑応答の際の相互応答(インタラクション)の評価も行い、総合的なコミュニケーション能力を評価できるようにしています。また記述評価も平行して行うことで、全体としての印象を含めた、次に繋がっていく評価となるよう工夫しています。
 もちろんこうした評価はまだ試行段階であり、さらに改良を加え、よりよいものにしていかなければならないことは言うまでもありません。是非読者の皆さんからもコメントやご意見をいただけたらありがたいです。
 現在の私の研究は、こうした学生の皆さんの評価をも含めた、英語プログラム全体の評価、いわゆる「プログラム評価」について取り組んでいます。英語教育がどういった理念に基づき、どういう英語を、どういったプログラムやカリキュラムで運営し、そしてそれはうまく実現できているのか、そしてそれはどのように評価するのか・・・。こういった英語プログラムそのものを評価する慣習は残念ながらこれまでの日本の教育にはほとんどありませんでした。いつの日か、こうしたプログラム評価が日本でも標準化され、学びたい人たちのニーズや希望にあった大学、教育プログラムが一覧表で比較でき、そして「いい英語教育」を行っている大学を選べる時代が来ることを祈りつつ、日々研究を続けているところです。

 要はコミュニケーションをどのように捉え、その一部である言語をどう捉えるかにより評価基準が変わってきます。言語的にはたいしたことはなくても、独創的でインパクトのある発表に何度も出くわします。また、先ほどの言語障害に当てはめてみると、言語能力が失われても他の非言語伝達メディアが正常ならそれが障害を受けた言語能力に取って代わり、コミュニケーション能力を回復させることは十分ありえます。これからはいろいろな分野の人が集まり評価基準を考えるよう努力したいものです。なお、山中君の修士論文は、慶應義塾大学湘南藤沢学会より優秀修士論文として選出され、修正を加えて『コミュニケーションを重視した大学英語教育における発信能力の評価: 基礎研究と評価モデルの提案』 (慶應義塾大学湘南藤沢学会 2006)として出版されました。連載につきましてのご意見、ご感想はnysuzu@sfc.keio.ac.jpまでお寄せ下さい。

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