TOEFL Mail Magazine Vol.56 April2007
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SELHi校の試行錯誤



それぞれのSELHi指定校は特色のある研究課題を設定しています。目標とする生徒の英語力は「読む・聞く・話す・書く」という4技能を駆使して自分の考えを発信できる力です。これはまさに北米大学が留学生の入学要件として期待している力であり、インターネット版TOEFLテスト(TOEFL iBT)はこの要望に応えるために開発されました。そのため、日本の英語教育とTOEFLテストの方向性は同じであると考えます。
本シリーズでは、指定を終了した学校にその学校ならではの成果に焦点を絞りそのエッセンスを報告していただくことを予定しています。高等学校のみならず、中学校・大学、更には小学校の教員の皆様にとっても有益な情報源となるものと期待します。同僚の先生方とも情報を共有し、皆様の授業改革の一助となれば幸いです。

今回は、「英語で授業をするとはどんなことか」という視点から、「生徒のコミュニケーション能力をはかる独自のテストの開発研究」などに取り組まれた、富山県立富山南高等学校の仲井美喜子先生から、ご寄稿を頂きました。



SELHi指定を終えて−SELHiの反省とEx-SELHiとしての今後−
富山県立富山南高等学校 教諭 仲井美喜子
仲井 美喜子先生 プロフィール

仲井 美喜子(なかい みきこ)
富山県立富山南高等学校 教諭 仲井美喜子氏富山県立富山南高等学校教諭
お茶の水女子大学文教育学部外国文学科(仏文学・仏語学専攻)卒業
東京都立大学大学院人文科学研究科修士課程(仏文学)修了
富山県で英語教員となり今年で21年目。現任校の富山南高校での勤務は7年目。
平成15年から3年間のSELHi指定では2年目、3年目に主担当。


 平成15年から3年間のSELHi指定は、研究課題に取り組んだ英語科教員にとって、長い苦難の期間であった。しかし、その終了時には、たとえ確たる成功と言えなくとも、たとえ多大なる成果には見えなくても、できる限りのことをしたという自負と満足感があった。また指定後も3年間で培った英語教育の取り組みを継承しようという、今後への希望も見えていた。そして大修館書店からの依頼を受けて「英語教育」2006年8月別冊に次のような抱負を書いた。
 「SELHiを終えて、特徴も設備もなく、英語教育専門家もいない、普通の学校でも発信できる英語教育の取り組みがあるのだ、という自信が最大の収穫となった。今後もこれまでの研究成果をもとに、教科のチームワークとこれまで助言・協力いただいた多くの人の励ましを糧としていきたいと考えている。そして、Ex−SELHiとして全国に発信しつづける学校でありたいと願っている。」
 Ex−SELHiとしての発信 − それは対外的なプロジェクトではない。指定のあるなしにかかわらず、英語教育改善のための工夫や研究は常に行われるべきものであるから、SELHiで試みたことを継続的に生かし発展させることがEx−SELHi校の責務ではないかと考えるのである。そしてまた、SELHiの反省や課題を現在指定中の学校へ伝えていくことも責務の一つと思い、こうして報告書を書いているのである。

1. SELHiの成果として継承された英語教育
 この4月、新年度が始まり、本校の英語科では各科目の担当者同士で1年間の授業計画が話し合われた。SELHiが終わって2年目の今年度も、授業の進め方や目標はSELHiの時とほとんど変わっていない。英語による授業展開は言うまでもないが、英文和訳の作業はほとんど行わず、音読を重視したプラン、コミュニケーションを生かす活動やワークシートの工夫、オピニオン・ライティングを課す宿題などを、年間計画のなかに織り込んでいく。日本語訳は対訳のプリントで配布して、音読やペア・リーディング活動、語句・表現の確認などに利用しているが、関連のプリント類は担当者で分担しあって共用する。授業の進め方については、英語でのQ&Aやディクテーション、サマリーのさせ方などについて、効果的な方法を話し合う。また前年度で成果のあったハンドアウトや授業案などは、次の学年担当者に引き継いだりファイルで交換する。
  SELHi指定以前には、授業の進め方やワークシートなどについて、担当者同士が相談しあうことはほとんどなかった。せいぜい進度の確認程度で、授業内容そのものは相互に不可侵の領域であった。そして多くの場合、英文を日本語に訳させることが主な授業内容であり、それを生徒の英語力を測る基準ともしていた。自分の授業経験を振り返ってみると、取り扱う各課の内容や背音読活動。ペアワークなどで音読する生徒たち景を私が日本語で説明する部分と、生徒が1文ずつ順番に和訳する部分で、授業の大半を占めていたように思う。教師にも生徒にも、英語を使ってコミュニケーションする場面はなかったのだ。かつての英語教育は多かれ少なかれこのような状態であり、それは「英語が話せる日本人」構想で全体に大きく変貌してきてはいるが、自分としてはSELHi指定がなかったら現在の段階には至ることは困難であったと思う。
【写真:音読活動。ペアワークなどで音読する生徒たち】

  英語による授業改善は本校SELHiの実質的な成果であり、指定中も教科内で最も意欲的に取り組んでもらえた課題であった。特に指定当初は英語で授業をするとはどんなことか、どのように授業を進めるか、定期テストをどうするかなど、学年担当者で何度も話し合いをして、試行錯誤で実践した。また公開授業などが予定されてくると、お互いの授業を参観したり(「互見(ごけん)授業」と言っていたが、「互研」と書くのかもしれない。他県にはない表現だと運営指導委員から指摘を受けた)、ビデオで撮影しあって研修会をすることが多く行われるようになった。これによって授業が変わった、自信がついたという声を多く聞いた。実際多くの教員が優れた実践を示して、何名かはその成果を県の研修会などで報告・発表している。そしてこのような授業の取り組みが今では、SELHi指定も公開授業も(運営指導委員や文科省関係者の訪問も)ないに関わらず、自然と受け継がれている。
  一方で、指定期間中に本校SELHiの研究課題としたものは数多くあり、特に生徒のコミュニケーション能力をはかる独自のテストの開発研究もその一つであった。しかし授業や校務で多忙な中で、たとえチームで取り組んでも、すべてに全力投球することは困難だ。実際のところ、4技能についてのテスト開発で、一番力をいれて取り組んだのがライティング評価テスト(「自由英作文」テスト)であった。これは本校独自の基準で生徒のライティング能力を測るというもので、SELHi研究の対象としたのが全校生徒であったため、実施は大きな負担ではあった。しかし、一定の基準をもって生徒のライティング力を測る観点をもつことは、教員側には採点・評価の指標となり、生徒にも具体的な到達目標を示すことになった。現在は全校一斉のライティングテストの形式では実施していないが、定期考査や課題テストなどに取り入れて、継続的に利用している。評価の基準を決めるというのは研究に不可欠なことであり、逆に研究指定などがないとできない作業であるから、本校のライティング能力評価基準は、SELHiでのチームワークと苦労の結晶として、今後も引き継いでいきたい。

2. SELHiの先輩校としてのアドバイス
 指定から一年を経てみると、以上のように継続していけることもあれば、実はもう二度と取り組めそうにないこともある。多くの失敗から学んだことを、さまざまな反省をこめて、振り返ってみたい。
 SELHiは文部科学省の指定であり、予算も伴うので勢い大がかりな計画を立てがちである。また何か目を引く 『スーパーな』 ことをしないとSELHiらしくないのではないかと、気がかりになる。しかしイベント企画やカリキュラムの改編は長続きしないし、学校全体の理解が得がたく、生徒の英語力に本当に還元できるものでなければ意味がない。また、お金のかかる研究やプロジェクトは、指定が継続しなければ3年間で終わってしまう。さらに、もっとも重要なこととして、普段の授業や校務に差し障りストレスや軋轢ばかり蓄積する研究課題なら、負担であるだけで英語教育に資するものとはならないであろう。本校では4技能の伸長をはかるための評価テストの開発など、指定中に取り組んだことは多いが、取り組みの度合いは別としても各担当者の負担感は大きかったし、足かせ的なextra work と思えたようだ。また、本校のように特定の学科やコースに限定せず、全校生徒を対象とするという研究は、英語教育の王道をいくものかもしれないが、調査や評価のための人数が多すぎて、取り組みの負担感はかなり重いものとなった。
このようなことは、SELHiの3年間、さらには指定後に少しずつ実感できるようになったもので、特に指定中は報告書の作成や実地調査、運営指導委員会などの対応に無我夢中で、がむしゃらに何かしなければと焦っていることが多かった。またSELHi指定は本校のように一教科の取り組みになっていることが多いと思うが、生徒を巻き込んだ行事や企画は他教科の教員にとって迷惑でしかない場合がある。また一教科に生徒の精力を集中させれば、他教科に弊害が及ぶこともある。独りよがりの研究では、実りある結果は期待できないであろう。
 失敗は多いながら、真剣に試行錯誤して正面からSELHiに取り組んだ 『しろうと』 校として、指定を受けられたばかりの学校へ多少アドバイスとなるかもしれないことを挙げてみる。もっとも、SELHi担当の評価委員の方々も、いまでは本校などの現場の数々の失敗やつまずきを他山の石とするよう、効果的な指導に当たっていることだろう。

研究はデータ的な実証を伴うので、かならず「初期値」となるものを測っておく。数値は大切である。
数値的な評価としては外部の模試やテストは推奨されないが、比較や検証のための価値は大きいので、十分利用できる。
数値的な変化が期待値ほど伸びないことで焦ったりするが、データとしてはアンケートなど、生徒の意識変化を数値的に示すことができるものがある。アンケートは早期から多く実施するとよい。
指定がなくても教員は多忙である。無理を強いるとチームでの研究は難しくなるし、長続きしない。普段の授業に結びついて、かつ教員自身が達成感の得られる研究課題に取り組むのがよい。
予算は3年のみ。指定後に継続できない計画はなるべく避ける。指定後に生徒の自己負担となっても可能な行事や企画を考える。(多読教材として児童書の洋書やペンギンリーダースなどの教材を揃えることができたのは、実に有り難かったし、継続利用している)

 どのような取り組みであろうと、生徒の英語力を高めるものでなければならない。決して生徒を利用するだけに終わらないこと。生徒がSELHiでよかった、と満足できる感想や結果が出れば、SELHiは成功したと言えるのではないだろうか。指定をうまく利用することは、難しいながら工夫次第で大いに可能であった、と振り返って思う。

3. 終了後2年目を迎えての抱負

 三年間のSELHi指定中は、苦しいながらも貴重な出会いや体験ができたし、成果として手応えが感じられたものもあった。教科内では共通の方針や到達目標が設定されたことで、チームとしての体制が出来てきた。シラバス作成や音読テストの実施など、担当学年や科目を超えて全員で協力することができた。中でも、全校生徒を対象に実施した「自由英作文」テストは、評価基準や採点方法などの話し合いに2年の月日をかけた。そして3年目、実際の採点評価にはALTを含む全員が参加し、全ての生徒の作品を読み、評価した。これには多大な労力を要したが、やり終えたときの達成感も大きかった。
「通訳講座」外部講師を迎えて、生徒が英語で通訳の実践練習 最後に、生徒なしでSELHiは成り立たない。本校では素直で柔軟な生徒たちに助けられ、支えられての研究開発となった。生徒たちはさまざまな取り組みに熱心に参加して、授業の試みや調査を受け入れ、協力してくれた。「SELHiの学校で学んでいる」という自負が、教師側の熱意に応えてくれたとも言えよう(これは”SELHi効果”だそうだが)。そして指定期間の三年間在籍した生徒たちは、培われた英語力を大学入試等で示してくれた。本校は過去にセンター試験で全国平均に並ぶまでも超えることがなかったが、指定三年目の18年度センター試験では、全国平均を10点上回り、多くの生徒が国公立大学や難関私立大学に合格を果たした。これは一つには、コミュニケーション能力育成を目指した指導、すなわちSELHi指定は、必ず真の英語力につながることを実証したことになる。また一つ、より重要なこととして、SELHiの取り組みの成果を生徒たちに還元できたのである。Ex−SELHiとしての今も、生徒のコミュニケーション能力を高める指導を続けて、成果を示していけるよう、継続的に努力をしていきたいと思う。
【写真:「通訳講座」外部講師を迎えて、生徒が英語で通訳の実践練習】


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