TOEFL Mail Magazine Vol.59 July2007
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SELHi校の試行錯誤


それぞれのSELHi指定校は特色のある研究課題を設定しています。目標とする生徒の英語力は「読む・聞く・話す・書く」という4技能を駆使して自分の考えを発信できる力です。これはまさに北米大学が留学生の入学要件として期待している力であり、インターネット版TOEFLテスト(TOEFL iBT)はこの要望に応えるために開発されました。そのため、日本の英語教育とTOEFLテストの方向性は同じであると考えます。
本シリーズでは、指定を終了した学校にその学校ならではの成果に焦点を絞りそのエッセンスを報告していただくことを予定しています。高等学校のみならず、中学校・大学、更には小学校の教員の皆様にとっても有益な情報源となるものと期待します。同僚の先生方とも情報を共有し、皆様の授業改革の一助となれば幸いです。

今回は、「日本語・英語を生きた『ことば』としてとらえ、理論的に理解し、発信する力を養う研究」に取り組まれた奈良県私立帝塚山高等学校の、米崎里先生にご寄稿を頂きました。


「生きた『ことば』をめざして」
奈良県私立帝塚山高等学校 教諭 米崎 里
米崎 里(よねざき みち)先生 プロフィール
奈良県私立帝塚山高等学校 教諭 米崎 里氏奈良教育大学教育学部教育学科英語教育学専修卒業。教員歴11年。
平成16年度4月〜18年3月文部科学省からスーパー・イングリッシュ・ランゲージ・ハイスクール(SELHi)指定を受け3年間帝塚山高等学校でSELHi副主任を務める。
現在帝塚山高等学校英語科主任。

日本の英語教育を変えたい ― おこがましいのですがこれは学生のころから思い続けてきた夢です。文部科学省から本校がSELHiに指定され、全国の熱心な英語教員とともにこのSELHi事業に携われたこと、そして何より単なる一教員の研究ではなく生徒も含め学校全体として取り組めたことを嬉しく思っています。また今回はこのような原稿の機会をいただき、本校の取り組みを紹介させていただけることを大変感謝しております。

1. 出発点

 本校のSELHiの出発点は、個の連携からでした。たまたま学年が一緒だった国語科教員と読解の仕方に関して雑談をしていたとき、その読み方が同じであると発見したことがきっかけでした。つなぎ言葉をおさえて、キーセンテンスやキーワードを抜き出し、手がかりを持ちながら読み取る、そして最終的に文章全体に何が書かれてあったかを読み取る。英語も国語も同じような読み方をしていたのです。実際、ある評論文をもとに国語の授業でどのような指導をしているか体験させてもらいました。私にとっては目からうろこでした。このような指導を学生のころ受けていたら私の国語に対する苦手意識もなくなっていたでしょう。その教員とさらに話を続けると、結局、私たちは国語も英語もひとつのことばとして捉えており、ことばは自分の考えや思いを相手に伝える手段であり、我々はそのことばを使ってこそ価値があるのだという意識を持っていることに気づきました。
 そんな中、たまたまSELHiのことを耳にし、本格的にこの連携ができないか、それを個の連携から学校全体の取り組みとして行ないたいことを学校長に相談しました。学校長は専門は英語ではないのですが、以前から英語教育が変わってきていること、自分が受けていたのと同じような英語の授業をしていることを危惧し、まず教員自身に勉強してもらい、それを授業に反映して生徒のために活かしてもらいたいと願っていたので、即座に承諾をしてくれました。

2. 英語科と国語科で何が連携できるか

 ありがたいことに平成16年度文科省からSELHiが認定され、本校の研究課題は「日本語・英語を生きた『ことば』としてとらえ、論理的に理解し、発信する力を養う研究」に決定しました。これにより本格的に英語と国語の連携が始まりました。まず研究課題にのっとり、何が連携できるか考えました。これはのちのち文科省主催の連絡協議会でも指摘されたことなのですが、何を連携するか、連携したものをどう活かすかが大きなテーマになりました。試行錯誤しながら英語科と国語科とで以下3つの連携を組むことになりました。

1.
読みの連携
2.
要約の連携
3.
意見を述べる連携

 




 英語と日本語を「ことば」として捉えるなら、言語機能を重視した指導の連携は可能となります。文章は核となるメッセージを伝えることを意図して書かれています。何かを伝えるためにどのように文章を展開しているかを読み取らせること、そしてその読み取ったものを発展させることは英語、国語の共通目標と言ってよいでしょう。また両教科で生徒の思考能力を育成するための発問方略の工夫を行い、生徒達の表現力を養っていくことも共通の目標にすることができます。以下は国語と英語の指導領域と具体的活動、指導例です。

英語と国語の共通指導領域
 
具体的活動・指導例
1. 論理的思考を高める読みをする
−文章のつながりを理解する
−文章中の大事な点を抜き出す
−文章の構造を視覚的に捉える
パラグラフリーディングの指導
ディスコースマーカの指導
キーワード・キーセンテンスの絞り込み
文章構造パターンの指導
マッピング指導 etc
     
2. 文章を正確に読み取れたかどうか確認する
−限られた語数で文章をまとめる
キーワードの抜き出し
要約をまとめる
口頭でパラフレーズする etc
     
3. 読み取ったものを発展させる
−幅広い好奇心を持ち、自分の意見を持つ
−基本的な知識・情報を収集する
−論理的な文章を組み立てて発信する
意見交換
意見発表
意見文
リサーチプレゼンテーション
     
4. 思考力を高めるための発問、活動を工夫する
なぜかを問う
段落と段落の関係を問う
疑問を提示する etc
     
5. 生徒中心のタスク活動
ペアーワーク
グループワーク etc



3. 本校の教師の授業力の変化

 上記の取り組みを行なう場合、英語教師は従来の文法や構文説明で授業がおしまいというわけにはいきません。具体的活動・指導例にあるような形で授業を進めなくてはいけません。教師自身が文章の「読み方」「要約の仕方」「発信の仕方」を学ばねばならず、それを生徒に指導することが必要です。そのためには教科書の内容に関する発問を工夫したり、教材を加工することが必要ですし、生徒の発言力をあげるためのプロセスを確立しなくてはいけません。つまり教師の授業力が問われることになります。
 帝塚山高等学校では教師個々の授業力をあげるために、まず公開授業を行い授業を見せ合い、授業力をあげるためにはどうしたらいいだろうという共通認識を持つようになりました。運営指導委員の先生方に助言をいただいたり、実際に運営指導委員の先生に授業を行ってもらったこともあります。授業を見せることに抵抗を感じる教師もいます。ベテランになればなるほどプレッシャーを感じます。それでも自分の聖域を作らないことを求め、SELHi委員は全員が公開授業を行いました。また、他校の先生方の指導法を学んだり、他校の公開授業も積極的に見学に行きました。次第に教師自身の意識改革が始まり、それにより授業力や指導技術が上がったように思います。
例えば授業を次のように改善した教師がいます。

従来なら訳の確認で終わっていたリーディングを、パラグラフリーディングの手法を取り入れ、それをライティングにまでつなげる
リーディングでマッピングを用い内容理解を図り、そのマッピングを口頭要約の際にも使いアウトプット活動につなげる
生徒達が積極的に自信を持って意見発表ができるように、まず個々で練習 し、次に ペアーでお互いの意見を言い合い、最後に クラス発表につなげていくプロセスを確立する

 本校では英語科教員は約20人いますが、決して全員がこのように自分の授業改革を行なったとは言えませんが、確実に新しい授業スタイルが広がり求められるようになりました。また授業を見る視点も変わってきました。今までは公開授業ではきちんと板書ができているか、生徒がおとなしく授業を受けているかという視点でしたが、生徒達が積極的に授業に参加しているか、どれだけ作業を行なっているか、どれだけの発話量があるか、そういう視点で授業を見るようになってきました。
 次の引用は我々教師に対して教訓だと思う英文です。

Teachers learn best by studying, doing and reflecting; by collaborating with other teachers; by looking closely at students and their work; and by sharing what they see.
(Darling-Hammond 1998, 8)

SELHi校授業の様子

4. 本校の生徒の変化

 保守的な教師がいるのと同じように保守的な生徒もいます。 受動的な授業を望んでいる生徒もいるようです。授業アンケートでも「ペアーワークが嫌だ」「意見発表は恥ずかしいから嫌だ」と書く生徒はいました。発信型の授業に経験のない生徒は最初戸惑うことは当然でしょう。しかし、こういう生徒達も自分の音読や英語に自信を持つようになってくると意識が変わってきます。クラス全体がそういう雰囲気になると音読や発信も積極的になります。授業が変わると生徒達も変わってくるのです。今まで下を向いていたのが、顔を上げSELHi校授業の様子て授業を受けるようになっていきます。耳を使い、頭を使い、手や口を動かし、授業が活発になります。そういう生徒の姿を見ることは教師として大変嬉しいことです。生徒達も自分の英語力に自信を持ってくると表情が明るくなり、それを指導する側にも自信になって相乗効果が生まれてきます。ありきたりのことばですが、教師が変われば生徒も変わる、このことが実感されました。私たちは、教師とともに成長してくれる生徒をよきパートナーとしていつも見ています。


5. 学校組織としての課題

 松本茂先生は「私立高校のうちいわゆる名門の受験校といわれている学校の中には、週1時間程度の英会話(外国人教師担当)を組み込んでいる以外は、何十年と同じようなコテコテの受験英語ばかりというところが多いようだ」(1997)と述べられています。このことばに私学の一教員として同感しておりました。もちろん受験英語を突破するための英語力をつけることは大切です。ただ英語教師としてそれだけではいけないように思います。生徒達の将来を見据えて学習した英語を使うこと、学習した英語を使える喜びと自信を与えることも教えていかなくてはいけないと私は考えています。SELHiはその両方が必要だと教えてくれたように思えます。どちらか一方しかできないという考えになりがちですが、決してそんなことはありません。両方大事ですし、両方できなくてはいけません。そういう認識を学校全体で高め、それを実践していくことが我々に求められているものではないでしょうか。


6. これからが本当の出発点

 帝塚山高等学校のSELHiの取り組みは、はじめはもたもたしていたかもしれません。本校はできるところからのスタートでした。それが本校のスタンスでした。1年目は高校3年生、2年目は高校1年生と2年生に広げ、3年目でやっと全学年に広める異例のやり方でした。ただ、3年目が経過したからといってSELHiを終了したわけではありません。授業力をあげるために、教員研修には特に力を入れ、公開授業をはじめ大学の先生方による教員研修を行なっています。新しいランゲージセンターもでき、CALL教室を使った効果的な授業のあり方も新たな研究課題で、現在それに取り組んでいます。SELHiにいつまでも固執する気持ちはありませんが、「新しい言語教育」を目指して、国語科との連携は今も続けています。次の仕事は若い世代の教員にSELHiがもたらしたものを積極的に伝えることです。SELHi認定中は注目もされていましたし、様々な支援を得ることができました。SELHiが終了したこれからが、本当のスタートです。


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