TOEFL Mail Magazine Vol.60
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SELHi校の試行錯誤


それぞれのSELHi指定校は特色のある研究課題を設定しています。目標とする生徒の英語力は「読む・聞く・話す・書く」という4技能を駆使して自分の考えを発信できる力です。これはまさに北米大学が留学生の入学要件として期待している力であり、インターネット版TOEFLテスト(TOEFL iBT)はこの要望に応えるために開発されました。そのため、日本の英語教育とTOEFLテストの方向性は同じであると考えます。
本シリーズでは、指定を終了した学校にその学校ならではの成果に焦点を絞りそのエッセンスを報告していただくことを予定しています。高等学校のみならず、中学校・大学、更には小学校の教員の皆様にとっても有益な情報源となるものと期待します。同僚の先生方とも情報を共有し、皆様の授業改革の一助となれば幸いです。

今回は、「積極的に英語を使う生徒を増やすための効果的な指導方法の研究開発」という課題を設定し、それに取り組まれた茨城県立藤代高等学校の、豊島卓先生にご寄稿を頂きました。


「English Day」の活動を通して
茨城県立藤代高等学校 英語科 豊島卓
豊島 卓(とよしま たかし)先生 プロフィール

茨城県立藤代高等学校 英語科 豊島卓先生茨城県出身
早稲田大学第二文学部英文学専修卒業
茨城県の高等学校英語教諭として勤務して今年で19年目
現在藤代高等学校勤務(第1学年主任)
平成16年4月文部科学省スーパー・イングリッシュ・ランゲージ・ハイスクール(SELHi)第3期指定校 平成17年度・18年度における教科主任 
平成17年4月から茨城県高等学校国際教育研究協議会事務局長も務める


1. 本校SELHi研究開発の特徴

 本校は昭和48年の開校以来、文武両道の実践を掲げ、国際化時代の到来を予見して国際教育を教育目標の重点項目に据え、創立11年目にMEF(文部省イングリッシュフェロー)の受け入れと合衆国への海外派遣プログラムを開始し、その翌年には県から国際教育の重点校としての指定を受けるなど実践を重ねてきた。その結果、海外生活への意欲の増大、外国人コンプレックスの減少、英語学習への意欲の増大、ALT(Assistant Language Teacher)の導入に伴うコミュニケーション能力の向上、自国文化への興味関心の増大、近隣中学生の本校志望者の増加等の成果が得られた。このような成果に伴い本校の学習環境が整い、大学合格率が上昇し、保護者や地域社会からは上位の大学への進学が可能な高校としての期待が高まった。この期待に沿う形で、本校の英語の教科指導は大学入試を念頭においたものとなった。
 平成14年に文部科学省から「『英語が使える日本人』の育成のための戦略構想」が発表されたが、これからの国際社会に生きる日本人にとって外国人とのコミュニケーションの手段として「積極的に英語を使えるようにする」ことはきわめて重要な課題である。しかし、国際教育を教育目標の重点項目に据えた本校での英語教育は先に挙げた理由から「積極的に英語を使う」生徒の育成に結びついていなかった。
 本校の生徒の潜在的な能力を考えると、開校以来の国際教育の各プログラムに加え、コミュニケーション能力の育成を重視した英語の学習指導が適切に行われれば、「積極的に英語を使う」生徒を増やすことができるはずであるとの考えから「積極的に英語を使う生徒を増やすための効果的な指導方法の研究開発」という課題を設定した。
 また、国際科や英語科、あるいは英語学習に特化した「〜コース」や「〜クラス」などの設置がない中で、従来から行われてきた国際教育の各プログラム等を英語科以外の教員が担当するなどの協力体制を整え、学校全体で「積極的に英語を使う」生徒を増やすことに取り組めるような組織作りを目指した。そのため「学校全体による実践研究開発への取り組み」というサブタイトルを付けた。
 英語の授業において、「よりコミュニカティブ」な授業の展開をめざし、ライティングの授業においてスピーチの導入を始めた。これにより4技能すべてを包括した授業に近づけたという感触を得ることができた。実際、スピーチをすることによって、英語を使って自分の意見を表現できることを実感し、英語を楽しみながら学習する生徒の数が確実に増えた。
 また、SELHi指定の前年の平成15年度から、「国際理解教育」をテーマとした「総合的な学習の時間」の実施を開始した。毎週木曜日を「English day」として、学年及び英語科が協力し、この日は教師も生徒も「できるだけ英語を使おう」という取り組みである。
 ここでは、「English Day」「国際教育委員会活動」「海外派遣」を中心に、本校の活動を紹介したい。ちなみに、これらの活動はすべて本校が文科省からSELHi指定される以前から行われてきたものであり、また、SELHi指定が終了した後にも継続されていく活動である。SELHiを契機としてこれらの活動内容がより充実し重要度が増したことを付け加えておきたい。

2. 「English Day」の実施

 「総合的な学習の時間」が割り振られている木曜日を「English Day」と呼び、朝の始業前や休憩時間・昼休み・「総合的な学習の時間」に友人や先生と積極的に英語で会話をするように工夫した。
茨城県立藤代高等学校「朝の校内放送の様子」 茨城県立藤代高等学校「職員室前のプリント入れ」
【朝の校内放送の様子】
【職員室前のプリント入れ】
   
 「English Day」の活動をより積極的に行えるよう、当日の課題となる中心的な会話を設定し、それを印刷したプリントを配布した。このプリントは職員室前に用意し、各クラスの国際教育委員が当日の朝取りに来て、朝のうちにクラスで配布するようにした。プリントには「Today’s Questions」とともに「Evaluation」の部分を設け、当日の活動に対する生徒本人の自己評価、生徒同士の相互評価、担任による総合的な評価ができるように工夫した。
 「English Day」の朝、始業前に校内放送で英語で歌われる音楽を流し、ALTと外国人講師を中心にネイティブの英語でメッセージを伝え、この日が「English Day」であることを生徒に印象付けた。また、昼食の時間帯にも当日の「Today’s Questions」をALTと外国人講師を中心にネイティブの英語で放送し生徒のモチベーションを高めるよう工夫した。
茨城県立藤代高等学校「ALTとの会話の様子」 外国人講師との会話の様子
【ALTとの会話の様子】
【外国人講師との会話の様子】
 
 更に、昼休みにはALTと外国人講師を中心に各ホームルームを回り、昼食中の生徒に対し、当日の「Today’s Questions」を中心とした英語による問いかけをした。
 毎年、1年生の最初の時期は、昼食中に英語で話しかけられると教室から逃げ出す生徒も多かったが、活動を続けているうちにネイティブの先生に話しかけられても、逃げ出さずに会話をする生徒が見受けられるようになっていった。また、2年生になると簡単な挨拶の表現などは突然ネイティブの先生に話しかけられても自然に受け答えができるような生徒が多く見受けられるようになった。
茨城県立藤代高等学校「突撃インタビューの撮影の様子」 茨城県立藤代高等学校「自己評価記入の様子」
【突撃インタビューの撮影の様子】
【自己評価記入の様子】

3. 「English Day」の評価と今後の課題

 平成18年度の「English Day」における生徒の自己評価(Excellent、Very Good、Good、So-so、Poorの5段階評価)を各回毎にグラフ化し、1年間の推移を検証した。1年生の最初の時期は「Poor」と「So-so」の割合が60%〜70%とかなり高いが、回を重ねる毎にその割合が減って行くのが分かる。1年生の最後の時期になると、この「Poor」と「So-so」の割合が30%〜40%に減少していることがグラフから読み取れる。これは「English Day」の活動だけによる効果とは言いきれないが、SELHiのその他のプログラムと連動して生徒の英語によるコミュニケーションのモチベーションや興味・関心が徐々に高まっていったことが推察できる。
 一方、2年生のグラフを見ると、最初の時期から「Poor」と「So-so」の割合が30%〜40%と低い結果になっている。このデータから、前年度のSELHiの諸活動によって高められたモチベーションや興味・関心が維持されていることがわかる。そして、2年生のグラフは後半になると「Poor」と「So-so」の割合が20%の後半にまで減少しており、2年生でも英語コミュニケーションへのモチベーションや興味・関心の更なる高まりが確認される。

茨城県立藤代高等学校「自己評価の表」
注)自己評価の変化を示したグラフ。回数を重ねるごとに(上方向)自己評価は高くなっている。
1学年と2学年の実施回数は、学年行事等の関係で異なり、同一回数目の課題は必ずしも同じではない。

 しかし、この活動は、あくまでも昼休みの時間帯に各ホームルーム教室にいる生徒を対象としているので、昼食を早めに済ませ体育館や特別教室(図書室等)に行ってしまう生徒は対象としにくいという問題点がある。また、「Evaluation」についても、あくまでも生徒自身の自己評価を記入させているので、教員側から見た評価とは若干の隔たりがあるように感じられる。これらの改善を今後の課題としたい。

4. 国際教育委員会活動の活性化と今後の課題

 SELHi指定をきっかけに、従来から存在した「国際教育委員会」の活動の重要度が増し、その活性化を図る為、毎年4月当初、各ホームルーム担任に活動内容を明示したプリントを配布し、選出に対しての協力を依頼するようにした。各クラス(全学年)男女1名、計36名の委員で構成される。第1回委員会において活動内容を再度確認し、役割の重要性を意識させた。
 主な活動は、毎週木曜日に行われる「English Day」の「Evaluation Sheet」を各自のホームルームで配布回収すること、JICA(独立行政法人国際協力機構)の研修員の来校の際に案内等の接待をすること、オーストラリアのダーウィン高校への派遣生の壮行会・ダーウィン高校生の歓迎会を企画運営すること等である。
 SELHi指定の3年間の活動を通して、国際交流の学校の顔としての自覚と自信が出てきて、役割が定着してきた。さらなる活動の活性化を図るために、委員会の中に研修委員を選出し、自己研修の場を企画させ、委員会活動がさらに充実するように考えていきたい。
 前述したように、この国際教育委員は生徒会の各種委員の一つとして、年度の初めに各クラスで各自の希望や互選によって選出される。その際に国際教育委員の活動内容をホームルーム担任に詳細に説明してもらっている。しかし、時として若干ではあるが役割を遂行しきれない生徒が選出されることがある。国際教育委員の年間の活動計画と役割が定着してきただけに、今後はより一層適任となる生徒の選出が望まれる。

5. 海外派遣と今後の課題

 開校11年目の昭和58年に開始された合衆国への海外派遣は、平成9年から派遣先がオーストラリアのノーザンテリトリーの州都、ダーウィンに変わり、毎年夏季休暇中の20日間ほど、20名程度の生徒を派遣してきた。ホームステイをしながらホストブラザーやシスターと地元の高校に通学し、異文化交流を行い実践的な英語力を身につけると共に国際的な視野を広めることを目標とし、大きな成果を収めてきた。4月の入学式に、新入生の保護者に海外派遣説明会への参加呼びかけ、2学年には新学期が始まってすぐ、担任を通してプリントを配布した。筆記試験(基礎学力テスト)、100語以上による英作文、ALTによる面接、日本語での面接などの選考試験を通して、派遣生を決定した。
 現地に於いては各家庭一人でホームステイをしながら、通学し交流を深めた。ESL(English as Second Language)による英語授業、陶芸及び日本語は現地の高校生の授業に参加、ペインティングではアボリジニー絵画を学び、州議事堂表敬訪問など内容の濃いプログラムを体験した。参加者全員がこの貴重な体験から沢山のことを学び、大きく成長して帰国することができた。帰国後には帰国報告会を行い、感動をわかちあった。帰国後の派遣生の学校生活への態度は、より積極的、前向きなものとなり、英語学習への取り組みも意欲的である。
 平成18年度の海外派遣プログラムは、最少催行人数に足らず実施できなかった。ちょうどダーウィン高校との交流10周年という節目の年であった。また、全県に先駆けて海外派遣を始めて23年目になるが、応募者が少なくて実施できなかったのは初めてである。本校に於ける教育目標の重要な柱の一つである海外派遣が実施できなかったことを重く受け止め、全校生対象にアンケートを実施し、その原因を分析した。
 その結果、平成19年度は12名の参加を得て、無事実施することができることとなった。


6. SELHiが与えてくれたもの

(1)教職員に対して
 SELHiのテーマのサブタイトルが「学校全体による実践研究開発への取り組み」とあるように、本校では英語科以外の先生も積極的にSELHi活動の推進に携わってきた。SELHi主任も地歴・公民科の担当であるように、他教科からの協力体制が得られたのが大変よかったと感じている。その秘訣はとよく質問されるが、私はいつも「雰囲気作り」と答える。例えば、木曜日の職員朝会では、他教科の先生とALTとの英会話デモンストレーションの機会を設けた。毎回、笑いあり、歓声ありで、職員朝会が連絡伝達の場から、コミュニケーションの場へと変化してしまう。気軽に職員室で英語を使う雰囲気が、学校全体でSELHiに協力する体制を支えてきたと思う。

(2)英語科の教員に対して
 「英語の授業の目的を再認識できた」というのが一番の収穫であった。今までの授業は、どうしても大学受験を意識し知識を与える傾向にあった。しかし、「異文化理解」や「コミュニケーション」に重点を置くと、生徒とともに楽しみながら授業を行っていることが体得でき、生徒・教員双方とも、授業へ取り組む視点の変化が顕著に表れたと思う。また、「受験の英語」と「SELHiの英語」は、全く違うようで実は通じるところがあることも体感できた。例えば、「English Day」は「リスニング力」、「英語ジャーナル」は「作文力」、「訳先渡しの授業」は「速読力」など、入試で求められる英語力の向上につながっている部分も多くあることを学んだ。

(3)生徒に対して
 英語に対する抵抗感や違和感が薄らぎ、積極的にコミュニケーションを行う積極的な姿勢、自分の考えをまとめて英語で表現する姿勢が身についたと思う。それは、教師の一方的な講義形式の授業から、生徒が主体的に参加する授業への脱却が大きな要因といえる。また、高校英語を学習する初期段階で英語学習本来の楽しさを体感できたことは、大学受験を控えた3年生になっても「今の学習が使える英語につながっているのだ」と考えるようになり、受験英語に抵抗なく入っていける基盤となっていると思われる。

7. 最後に

 「積極的に英語を話す生徒を増やす」ためには、学校全体の取り組みと、「わかる授業」がきっかけとなっている。そのためには、教員自身が英語を率先して使い、楽しんで授業をする必要がある。その過程では多くの課題が生じるが、英語を学ぶ目的をしっかり生徒に理解させ、明確な「ゴール」を提示することで乗り越えられることがわかった。
 今後は、この成果の継承と残された課題の解決に向けた取り組みを行っていく予定である。

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