「『英語学習』は『スポーツ』のようなもの」とは、どこかで聞いたようなメタファーではある。上述の「障壁」を取り除こうという試行錯誤の中で、私たちはこの考え方に行き着いた。例えば、スポーツでは、基礎的な体力作りは欠かせない。筋力、持久力、瞬発力などのからだづくりは、競技のあらゆる側面で生きてくるすべての基礎・基本といえる。しかし、それにだけ専念していきなり試合に出ても、その競技・種目特有のルール、技術、戦略に通じていない限り、決して満足のいく結果とはならないだろう。そこで、「体力作り」と「公式試合」とを橋渡しする戦略的・戦術的な練習や活動が求められる(図1)。

図1.『スポーツ』における橋渡し練習・活動のイメージ
この考え方を英語教育にあてはめると、文法訳読、語彙暗記などのいわば「従来の授業」は英語の基礎体力を培う。また多くの先生方の職人の技が蓄積された分野でもある。しかし、ここで培われた基礎体力もまた、実践的なコミュニケーション活動に直接は繋がらない。そもそもコミュニケーションの実践を行わずして、本当の英語力を身につけさせたとはいえないだろう。これらは車の両輪のように相補的であり、その両輪をつなぐ強靱な軸、両輪を橋渡しする応用的な練習・活動が必要であると考えた(図2)。

図2.『英語学習』における橋渡し練習・活動のイメージ
私たちは、その「橋渡しとなる練習・活動」を「トレーニング型学習」と名づけ、その内容を「音読」「暗誦」「即興(発話)」の3つの領域に分けて、英語科の教員が一体となって役割を分担し、毎時間欠かさずに指導しようということになった。そのとき、次のことを取り決めた。
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「音読」はリーディング系の科目で指導すること(「英語T」「英語U」「英語理解」など) |
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「暗誦」はライティング系の科目で指導すること(「総合英語」「異文化理解」など) |
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「即興」はオーラル系科目で指導すること(「OCT」「英語表現」「コミュニケーション」など) |
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継続すること(授業では、毎時間必ず5〜10分はトレーニング型学習で声を出させる) |
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目標を示すこと(具体的なトレーニング内容と数値目標をシラバスに明記して下線を引く) |
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各自工夫すること(授業者ごとに指導法、評価法を工夫して、教科会で報告しあう) |
このように「音読」「暗誦」「即興」の3領域について全員で指導を行った。ペアワーク、グループワーク、ピア評価、タイムレース・・・。授業者一人一人が、担当する領域についてそれぞれの授業科目で独自の工夫を凝らした。その結果、生徒たちのスピーキング能力(とりわけ流暢さ)は飛躍的に向上した(図3)。
SELHi研究開発の2年目のことだった(詳細はSELHi報告書の二年次に掲載)。
図3.WSAテストにおけるスピーキングの流暢さの平均値(WPM=1分間の発話語数)
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