TOEFL Mail Magazine Vol.64
 ホーム > TOEFL®メールマガジン > 第64号 > SELHi校の試行錯誤
index
今号目次
読者投稿:癒しのEnglish
達セミに学べ
SELHi校の試行錯誤
HASSHIN!耳より情報
テストセンターからのお便り
公式サイト お宝発掘隊
For Lifelong English

オフィシャルサイトへ
TOEFLテストトップページ
TOEFLテスト教材ショップ
TOEFL ITP テスト
Criterion

TOEFL WEB MAGAZINEへ

SELHi校の試行錯誤



それぞれのSELHi指定校は特色のある研究課題を設定しています。目標とする生徒の英語力は「読む・聞く・話す・書く」という4技能を駆使して自分の考えを発信できる力です。これはまさに北米大学が留学生の入学要件として期待している力であり、インターネット版TOEFLテスト(TOEFL iBT)はこの要望に応えるために開発されました。そのため、日本の英語教育とTOEFLテストの方向性は同じであると考えます。
本シリーズでは、指定を終了した学校にその学校ならではの成果に焦点を絞りそのエッセンスを報告していただくことを予定しています。高等学校のみならず、中学校・大学、更には小学校の教員の皆様にとっても有益な情報源となるものと期待します。同僚の先生方とも情報を共有し、皆様の授業改革の一助となれば幸いです。

今回は、「表現活動の基盤となる技術の習得・知識の獲得・態度の育成を通じて、英語表現力を高める指導方法の研究」に真摯に取り組まれた群馬県立伊勢崎高等学校の、橋本良晴先生にご寄稿を頂きました。


伊勢崎東高校のSELHi研究
群馬県立伊勢崎高等学校 教諭 橋本良晴
橋本 良晴(はしもと よしはる)先生 プロフィール

橋本先生群馬県出身。
都留文科大学文学部英文学科卒業。
現在、群馬県立伊勢崎高等学校勤務。群馬県の高等学校教諭に採用されて、22年目。
前任校群馬県立伊勢崎東高等学校にて、平成16〜18年度スーパー・イングリッシュ・ランゲージ・ハイスクール(SELHi)研究主任を務める。平成19年4月より、群馬県高等学校教育研究会英語部会事務局長。


1. 学校の状況
 私がSELHiの研究主任として研究を行っていた「群馬県立伊勢崎東高等学校」は、別の高校と統合して、今では「群馬県立伊勢崎高等学校」となりました。その統合前の、伊勢崎東高校最後の3年間をSELHiに指定されたわけですが、決して研究開発には恵まれた環境とはいえませんでした。
 なぜなら、一つの校舎に伊勢崎東高校の生徒と教員、伊勢崎高校の生徒と教員が混在していて、教員は他校の授業は受け持たずに、自分の高校の授業だけをしている状態です。つまり、二つの別の学校が一つの校舎に存在していたわけです。SELHiの研究指定は伊勢崎東高校が受けたのですが、SELHi2年目から伊勢崎高校も一緒に研究を行いました。交流がない教員間のコミュニケーションをとるのがとても大変でした。さらに悪いことに、伊勢崎東高校の英語科の教員の3分の1が毎年転出してしまい、その代わりに、他校から伊勢崎高校に転入してきた教員と共同で研究するという状況でした。よって、毎年、3分の1の英語科教員は研究1年目という状態でした。そんな中での研究開発は、本当に大変でしたが、先生方一人一人の中には素晴らしい経験と知識が残ったと思います。

2. 研究開発の概要
 伊勢崎東高校の研究開発は、多くの普通の高校で実践可能なことを中心に行われてきたと言えます。お金をかけるわけではなく、特別な環境があるわけでもなく、英語が出来る生徒は少ない状況での研究開発でした。4技能にわたる英語力をバランス良く高めるために、本校生徒の不得意とする「話す」、「書く」力を中心に伸ばすことを目指す研究を行いました。その概要は以下の通りです。

研究開発課題:

  表現活動の基盤となる技術の習得・知識の獲得・態度の育成を通じて、英語表現力を高める指導方法の研究−地域・海外姉妹校・他教科と連携した英語表現力増強方法の研究−
   
研究1 英語で表現するのに必要な知識・技術を身に付けるための英語授業の研究
(1) 伊東(いひがし)モデルの作成・実践・検証
(2) 授業改善のための研修会(外部講師による研修会、校内教員が講師となる研修会)
   
研究2 様々な教科にわたる幅広い知識を身につけ、その知識に基づく思考内容を相手にわかりやすく伝達する力(国語力)の育成を、他教科と連携して指導する方法の確立
(1) マイ・オピニオン
(2) 他教科の授業にも表現活動を取り入れる協力要請
   
研究3 身に付けた知識・技術を、継続的に実践するための環境づくり
(1) 平成16年度の取り組み
  小学校訪問、中学生クイズ大会、夏休み親子英語教室、イングリッシュ・サロン、
  ENGLISH SEMINAR、British Hills英語研修、姉妹校への短期・長期留学
(2) 平成17年度の取り組み
  小学校訪問、中学生クイズ大会、オン・ライン・コミュニケーション
(3) 平成18年度の取り組み
  小学校訪問、オン・ライン・コミュニケーション
※ 「ENGLISH SEMINAR」、「British Hills 英語研修」、「姉妹校への短期・長期留学」、「小学校訪問」は、学校行事として現在も継続している。

3. 注目度の高かった研究内容
 SELHiフォーラムや研究公開で、質問や問い合わせの多かったものを以下にあげてみます。
(1) 共通の授業形態:伊東(いひがし)モデル
発信型・アウトプット重視、英語で指導、生徒主体・活動中心、学習へのモチベーション重視という共通コンセプトに基づいた授業実践の結果をまとめ、以下のような授業モデルを作成しました。このモデルに沿った形の授業の実践・検証を通して授業改善を行いました。1時間の授業をこの流れで組み立てる先生もいましたが、教科書の1レッスンの配当時間をこの流れで割り振り、授業を行った先生もいました。
@EE300*によるウォームアップ →  Aボキャブラリー、ストラクチャーのインプット →  B内容理解 →  C表現活動(ペアまたはグループ単位のディスカッション〜クラスまたはグループ単位のプレゼンテーション)
*「(2)EE300(「伊東モデル」のウオームアップ教材)について」を参照

 表現活動については、各学年で到達目標としている表現活動を授業の中に必ず組み込むことにしました。具体的には、スピーチ(暗唱、自作)、ディスカッション、ディベート、プレゼンテーション等の要素を含む活動を取り込むことにしました。その指導の際には、その表現活動の「指導手順と指導のポイント」を作成し、それに沿って共通理解をもって指導にあたりました。語彙やストラクチャーといった知識以外に、上記の表現活動のモデル・イメージとどんな点に注意したら良いかという知識、実際に行う技術を身に付けさせようと試みました。
群馬県立伊勢崎高等学校のSELHiの取組 本校で、年に1回実施したSELHi英語教育協議会(研究公開)において、他校の先生から、「伊勢崎東だからできるんだ」、「うちでは無理」という言葉をよく聞きました。「伊東モデル」をそのまま使える学校もあれば、そのまま使っても意味がない学校もあると思われます。その学校や学年での目標をしっかり持ち、その目標を達成するように教員が協力し合い、その学校のモデルを作っていけばよいと思います。本校の「伊東モデル」は、目新しい構成の授業ではないと思います。「これを基にみんなで授業をしていこう。そして、話し合いながらモデルを改善をしていこう。そして、生徒の力を伸ばそう。」と考えていく基になるものです。モデルそのものも重要だと考えられますが、チームで授業を行う一つのよりどころという意味でも重要だと考えられます。チームプレイの素晴らしさを経験できることは、SELHiの成果の中でも重要なことでした。

(2) EE300(「伊東モデル」のウォームアップ教材)について
 基礎となるスピーキング力を高めるために、本校でEE300(Everyday Expression 300)という日常会話表現集を作成し、共通ウォームアップ教材として授業の中で活用しました。その内容は、重要会話表現を含んだ台詞を1〜2度ずつ交わした後に、生徒がロールプレイをしながら会話を続けていくという形式の会話集です。「EE300」については、本校ではウォームアップで使用していますが、使い方は多様です。本校の「EE300」を参考にして、その学校の表現集を作成してもいいのではないかと思います。また、どうしても訳読式の授業を行わなければならない科目があったとしても、ほんの5分程度でもコミュニケーション活動を毎時間取り込めれば、その授業で扱う4技能のバランスという点で大きな意味があると思われます。

(3) 小学校訪問(小学校の授業(英語活動)への参加)
 どこの高校も、学校の周りに英語を使う環境がたくさんあるとは限りません。群馬県立伊勢崎高等学校のSELHiの取組しかし、実際に英語を使う場は身近にあったのです。どこの高校の近隣地域にも必ず「英語活動」をする小学校が存在するではないか、という発想でこの企画を立ち上げました。どこの高校でも実行可能だと思います。小学校、市・町・村教育委員会との連携を密にして、お互いの利益につながることを前提に準備を進めることが、肝心でした。とにかく、小学生に大変喜ばれる企画でした。

(4) マイ・オピニオン
 他教科と連携し、幅広い知識に基づく国語力としての日本語表現能力を身に付けさせる「マイ・オピニオン」を、朝のSHRで用紙を配布し、帰りのSHRで回収するという形で行いました。これは、短い文章(日本語、英語)を読んで、自分の意見や感想を書く活動です。この出題と採点を各教科持ち回りで行い、「マイ・オピニオン通信」を発行し、生徒へのフィードバックを行いました。さらに、年間優秀者を表彰しました。
 学校全体で行うので、他教科の協力体制が必要でした。しかし、この効果は絶大で、英語のみならず他教科にも発揮されることが大いに予想されます。生徒が提出する感想文等の量、質ともに向上するのが実感できました。

(5) 校内教師が講師となる研修会と「教科書を使った表現活動(アイデア集)」
 SELHiで得た成果の一つとして、教員集団が変なプライドを捨てて授業を見せ合ったり、率直に相談し合ったことがあげられると思います。校内教員が講師になる研修会も、そのような雰囲気作りができたからこそ実現可能になったのではないでしょうか。「教科書を使った表現活動」は校内教師が講師となる研修会の資料集で、本校の生徒を相手にした工夫・アイデアをまとめたものなので、すべての工夫・アイデアが、他校にも当てはまるとは限りません。しかし、他校の役に立つヒントを与える可能性はおおいにあると思われます。4技能をバランスよく伸ばしていこうとする英語の教員は多いと思いますが、表現活動を授業に取り入れるのは、実際には難しい場合が多くて、ついあきらめてしまうことが多いのではないでしょうか。そんな時に、教科書を利用して、生徒に表現活動を行わせるヒントになってほしいと思います。

4. SELHiを終えて・・・
 SELHiで研究してきたことは、現在も続いています。現在、伊勢崎高校では、グローバル・コミュニケーション科と文理総合科があります。グローバル・コミュニケーション科のプログラムの一つとして、「小学校訪問」を継続しています。また、国語科が「マイ・オピニオン」を引き継いでくれています。3年生はもう受験問題演習中心の授業になってしまいましたが、1、2年生のいくつかの科目では「伊東モデル」の授業を行っています。驚いたことに、伊勢崎東高校から他校へ転勤した先生が、転勤先の学校で公開授業を行いましたが、その中でしっかりと「EE300」を使った活動を行っていました。校外にも普及しつつあります。
 そして、なによりも、「チームで指導するすばらしさ」を経験でき、「授業を見る目を養えた」ことは、本当に英語の教員として良かったと思います。

 

上記は掲載時の情報です。予めご了承ください。 最新情報は関連のウェブページよりご確認ください。
© CIEE, 2008 All Rights Reserved.