TOEFL Mail Magazine Vol.65
 ホーム > TOEFL®メールマガジン > 第65号 > SELHi校の試行錯誤
index
今号目次
達セミに学べ
SELHi校の試行錯誤
HASSHIN!耳より情報
公式サイト お宝発掘隊
For Lifelong English

オフィシャルサイトへ
TOEFLテストトップページ
TOEFLテスト教材ショップ
TOEFL ITP テスト
Criterion

TOEFL WEB MAGAZINEへ

SELHi校の試行錯誤



それぞれのSELHi指定校は特色のある研究課題を設定しています。目標とする生徒の英語力は「読む・聞く・話す・書く」という4技能を駆使して自分の考えを発信できる力です。これはまさに北米大学が留学生の入学要件として期待している力であり、インターネット版TOEFLテスト(TOEFL iBT)はこの要望に応えるために開発されました。そのため、日本の英語教育とTOEFLテストの方向性は同じであると考えます。
本シリーズでは、指定を終了した学校にその学校ならではの成果に焦点を絞りそのエッセンスを報告していただくことを予定しています。高等学校のみならず、中学校・大学、更には小学校の教員の皆様にとっても有益な情報源となるものと期待します。同僚の先生方とも情報を共有し、皆様の授業改革の一助となれば幸いです。

今回は、「モティベーションを高めるための指導」と「「説得力、交渉力」のある高度な実践的コミュニケーション能力育成」にひたむきに取り組まれた兵庫県立三木高等学校の、神田周久先生にご寄稿を頂きました。


コースの活性化のために―兵庫県立三木高校SELHi研究を振り返って―
兵庫県立三木高等学校 英語科教諭 神田 周久
神田 周久(かんだ ちかひさ)先生 プロフィール
神田先生神田周久(かんだ ちかひさ)
神戸市外国語学部英米学科卒業。教師歴30年。
平成2年4月〜平成3年3月文部省「中等教員海外派遣事業」
でニュージーランド国ウエリントンへ派遣され、同国の日本語教育に1年間携わる。平成16年4月〜平成18年3月文部科学省スーパー・イングリッシュ・ハイスクール(SELHi)第3期校・兵庫県立三木高等学校における研究主任・コース主任。

1. きっかけ
 本校は、1986年に英語コースを1クラス設置し、その18年後の2004年にコースを国際コミュニケーションコースとして改編した。私は愛称MICと呼ばれるこの国際コミュニケーションコース第1期生の1年生の担任をした。当時兵庫県下には14校程度の国際文科系コースがあり、他府県と比べても数多くあった。本校も北播磨地区で唯一の同系コース設置校であるが、毎年入試の時期が来るたびに、国際文化系コースの定員を希望者が上回るかどうか心配せねばならない現状があった。そこでコースとしての特色を出し、志願者が増えることを願い、また地区の英語教育の拠点校となるべくSELHiの指定を受けて研究開発に取り組んだ。本校の兵庫県立三木高等学校 SELHiの取組実践が他のコース設置校の活性化に役立ち、他校の励みになればという願いもあった。
 本校の立地としては、兵庫県内陸部に位置し、ローカル線はあるが、JRの最寄の駅からは30分ほどかかるところにある。つまり、播州平野の豊かな田園風景が広がる地帯に位置し、英語を日常的に使用するような環境にはない。こうした田舎の学校でも、都会に負けない実践をしたいという意気込みもあった。

2. 目指すべきものを求めて
 三木高校のSELHiでは以下の点に取り組んだ。

1. モティベーションを高めるための指導
授業改善を通して、魅力ある授業を創造し、生徒の学習意欲を向上させる。さらに、生徒が授業で獲得した能力を発揮し、活躍するための発表の「場」作りとして、発表の機会を教室外活動にも拡げる。
2. 「説得力、交渉力」のある高度な実践的コミュニケーション能力育成のための4技能を高める指導法の開発
「説得力、交渉力」といってもいろんな下位技能が考えられるが、対象をスピーチ、プレゼンテーション、ディベート、ディスカッションにしぼり、最終到達目標としては、ディベートで証拠資料を用いて議論ができることとした。
3. 「説得力」、「交渉力」のある高度な実践的コミュニケーション能力の評価
スピーチ、プレゼンテーション、ディベート、ディスカッションそれぞれの評価基準・規準を作り、ポートフォリオ評価として、全体の評価に組み入れる方法を確立する。

  初年度は、まるで道なき道をゆくような手探り状態であった。最初に、SELHi一期校・先進校をまわり、話をうかがい、とりいれられるものは取り入れようとした。米原高校の山岡先生からは、全員でチームワークをとりながら研究を進めていくことの大切さを学んだ。岡山城東高校では、プロジェクト型学習とディベートの実践を学んだ。京都市紫野高校の皆川先生からは、コンピューターを使った授業の指導方法を学んだ。早速パソコンを20台設置し、ディベートの情報検索等の授業で役立てた。兵庫県立三木高等学校 SELHiの取組神戸市立葺合高校、福岡県香住丘高校のシラバスのすばらしさに感動し、本校のシラバスにとりいれようとした(資料1:MICシラバス(大綱)参照)。先進校を訪問させていただき謙虚に指導を仰いだことが、本校のSELHiの推進力となった。どこの先生方もたいへん熱心で、意欲的に取り組んでおられるので、自分たちもがんばらなければ、という元気をもらったような気がする。
 初年度(平成16年度)2学期に、文部科学省の実地調査があり、公開授業を見ていただき、厳しい指摘を受けた。

1. 教師は英語を使っているが、教師の英語の素晴らしさを見せつけるだけの授業になっていないか。もっと生徒に英語を使わせる活動をとりいれるべきだ。
2. それぞれの教師が4分野バラバラに研究に取り組もうとしているが、4分野を統合し、研究分野を集約すべきだ。

  今から考えると、この時の指摘が本当の意味での本校のSELHiの出発点であった。以降、授業改善研究会を定期的に持ち、運営指導委員の兵庫教育大学、吉田先生、今井先生、関西国際大学の有本先生に授業を見ていただき、指摘を受け、改善に生かしていった(資料2:授業公開週間と授業改善研究会)。授業改善に英語科教員全員で本気で取り組み始めたのであった。

3. てこの原理 ―高度な青とプットの活動はインプットへの意欲を加速する―
 授業改善研究会の議論により、本校のコースの独自科目国際コミュニケーションT・U・V(IC−T・U・Vと呼んでいる)のシラバスと授業方法が確立していった。最終到達目標としては、英語で証拠を用いたディベートができることとしたが、1年生では、ディベートの前段階として、スピーチ、プレゼンテーションができることとし、ディベートは2年生から段階を追って指導していくこととした。(資料3:MIC学年別到達目標
英語教育モデル(改善型)
従来型と改善型の違い

 インプットの活動は、従来からの科目である英語T・Uで和訳先渡し授業の実施や、シャドーイングなどの効率的な活動を通して充実させ、ICの時間(各学年週2時間)では、できるだけ実践的なアウトプットの活動を重視することにした。上の図の改善型授業モデルにあるとおり、レシテーションからスピーチ、プレゼンテーション、さらにディベートへと段階的にアウトプットの活動を配列し、活動の負荷をあげていくことで、生徒ができたという達成感を得るとともに、英語運用能力と自信を増していくと考えている。現状よりは少し高めのアウトプットの活動を用意することで、生徒の英語運用能力は無理なく階段を上っていくように向上するわけである。特にディベートの指導となると、実際には1段階で上がるわけではなく、立論・情報検索・反駁・対戦と少なくとも四段階に分けた段階別指導が有効的であった。
  評価は各段階の活動に応じたものを工夫し、活動のために獲得すべき技能を形成的に評価することをこころがけた。実際のディベートの対戦などの実技をテストとして評価した(資料4:ディベート評価表)。この実技テストを6割、ペーパーテストを4割として総合的に評価をつけた。比率的にも実技重視を打ち出したわけである。
 各段階に、より高度なアウトプットの活動を用意し、それを「てこ」としてインプットへの意欲を加速させていく。これが「てこの原理」と私たちが呼んでいる指導原理である。

4. 発表の場の拡充 ―フォーラムの開催
 「生徒のモティベーションを上げるにはどうしたらよいか?」これは、SELHi申請前によく英語科で議論した話題であった。教材面では、生徒の興味・関心に合ったコンテンツを開発することも重要であった。これは生徒と年齢的により近いALTたちにインターネットから情報を取り込み、教材化してもらった。
兵庫県立三木高等学校 SELHiの取組 一方、授業の中では、運用能力の高い生徒がいわゆるPeer Role Model となり、まわりの生徒のモティベーションが上がることがよくある。生徒に発表の機会を与え、そのパーフォーマンスをほめて評価すること。これは平凡なことだが、生徒に達成感を与え、さらに意欲を持たせる一番良い方法である。教師のパーフォーマンスよりも、生徒同士の中でお互いのパーフォーマンスを見ることの方が生徒の意欲を呼び覚ますようである。
 こうしたPeer Role Modelを目の当たりにする機会を校内だけにとどまらず、校外へと広げていくために高校生英語フォーラムを持った。平成17年度は、ディベート大会とディスカッションの2本立てで実施し、県外からも参加者を集め好評を博した。このフォーラムは形を変えて、兵庫県のディベート大会へと受け継がれていった。

5. たどり着いた道 ―少人数協同型授業
 SELHiの期間中、ディベートの指導をしていて、私が特に影響を受けたものが二つある。ひとつは慶応義塾湘南藤沢高等部のSELHi報告書の中で見つけたレイブとヴェンガーの「正統的周辺参加理論」であった。この理論の「学習とは社会実践の一部であり、個人の頭の中でおこるものではない」という考え方は、本校の実践重視や実践を評価するパフォーマンス評価の考え方の中に生かされていった。またこの理論はAI(人工知能)の開発にも役立ったそうであるが、ディベートの指導で、パーツとパーツに分解し(立論→情報検索→反論)、それぞれの技能を別々に指導し、最後に対戦として組み立てていく段階的指導法を生み出す上で役立った。更に「教師・教材の役割は実践の本場を見せて、そこへ学習者を導く足場を作ることである。」という考え方は、実践の本場であるフォーラムやディベート県大会の創設へとつながっていった。
兵庫県立三木高等学校 SELHiの取組 もうひとつは、フィンランドの教育である。ご存知のように、2003年度OECDの国際学習到達度テスト読解力部門で世界1位であり、世界経済フォーラム調査の国際競争力でも世界1位であった。フィンランドでは、習熟度別クラス編成を廃止し、24名までの少人数クラス編成にし、混合クラス方式、異質生徒集団方式をとったそうだ。マインドマッピングの手法や少人数の班を作り、班別で学習する方法を本校では、吉田達弘先生の指導もあり、早くから取り入れていった。教師が生徒集団に一方的に教え込む授業から、「学び」を少人数グループ毎に別々に取り組ませることで、教師が側面からサポートする「少人数協同型授業」に切り替えていった。教師が一方的にしゃべりまくる授業に慣れていた私にとっては、最初は「もの足りなさ」や生徒同士の学びがなかなか進まない様子を見て「もどかしさ」を感じつつも、一方では自分の中学校時代(もう半世紀近く前になるが)に受けた班別学習を思い出させる「なつかしさ」もあった。(資料5:単元のながれ)(資料6:フォーマットと対戦表)(資料7:MIC用進行表Vending machine

6. おわりに
 道なき道を突き進んでいくうちに、ふと後ろを振り返るといつのまにか自分の後ろに道がついていた。この3年間、英語教育の情報をお互い分かち合い、共有し、共に進んでいくことの大切さを学んだような気がする。SELHi3年間を通じて本当にいろんな方々のお世話になった。あらためてこの場を借りて感謝したい。

参考文献:
平成16年度Super English High School 研究開発報告書 兵庫県立三木高等学校
平成17年度Super English High School 研究開発報告書 兵庫県立三木高等学校
平成18年度Super English High School 研究開発報告書 兵庫県立三木高等学校
「コミュニケーション能力育成のための効果的なデイベート指導」
兵庫県高等学校教育研究会英語部会会報「はくぼく第31号」


上記は掲載時の情報です。予めご了承ください。 最新情報は関連のウェブページよりご確認ください。
© CIEE, 2008 All Rights Reserved.