TOEFL Mail Magazine Vol.66
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SELHi校の試行錯誤



それぞれのSELHi指定校は特色のある研究課題を設定しています。目標とする生徒の英語力は「読む・聞く・話す・書く」という4技能を駆使して自分の考えを発信できる力です。これはまさに北米大学が留学生の入学要件として期待している力であり、インターネット版TOEFLテスト(TOEFL iBT)はこの要望に応えるために開発されました。そのため、日本の英語教育とTOEFLテストの方向性は同じであると考えます。
本シリーズでは、指定を終了した学校にその学校ならではの成果に焦点を絞りそのエッセンスを報告していただくことを予定しています。高等学校のみならず、中学校・大学、更には小学校の教員の皆様にとっても有益な情報源となるものと期待します。同僚の先生方とも情報を共有し、皆様の授業改革の一助となれば幸いです。

今回は、「従来の教材によらない独自の工夫を凝らしたアプローチで、英語における各4技能を有機的に連動させて、統合的に運用できる高いコミュニケーション能力の育成を目指した科目」に取り組まれた関西学院高等部の、枝川豊先生にご寄稿を頂きました。


4技能を統合した言語活動―Oral Presentation―を通して
関西学院高等部 英語科主任 枝川 豊
枝川 豊(えだがわ ゆたか)先生プロフィール
枝川先生 関西学院大学経済学部出身。 
1998年にオーストラリアへの留学の機会が与えられ、クイーンズランド大学大学院で応用言語学を学び、Graduate Diplomaを取得。
公立校で6年間教鞭をとり、関西学院高等部に着任し17年。
2004年より英語科主任、国際交流部主任を務め現在に至る。そして、同年SELHiの指定を受け、3年間SELHi研究も兼任。

1. 改革のチャンス−SELHi
 本校は他の私学同様教員の大きな入れ替わりがなく、個々の教師の独立性が強い校風である。それは裏を返せば、SELHi指定を受けるまで科目間・教師間の連携によって授業を作り上げることがあまりなかったと言える。さらに学年を追った科目間の縦のつながりも、共有するシラバスもなく、最終目標が共有化されていない状態であった。外からは英語教育に力を入れている学校として見られてきてはいたが、実態はかなり保守的であったと言える。
  そのような本校に転機が訪れたのは、学校全体のカリキュラム見直しにより、2年から3年にかけて2クラス96名の生徒が選択できる、「従来の教材によらない独自の工夫を凝らしたアプローチで、英語における各4技能を有機的に連動させて、統合的に運用できる高いコミュニケーション能力の育成を目指した科目」、English Intensive(以下E.I.)の設定による。とにかく英語科で具体的にどのような授業にしていくかを話しあわざるを得ない状況が生まれ、シラバスの共同での作成が急務となり、SELHiへの申請へと至った。本校のような環境では、なかなか内発的には共同で何かに取り組む機会が生まれないと感じており、改革の端緒となるチャンスを逃さない、という思いでの申請であった。

2. 困難を極めたSELHiの船出−その要因は・・・
 いざSELHi校の指定を受けたものの、その直後から困難の連続であった。今まで特に英語において特化したプログラムを実施していたわけでもなく、先行する研究もなかったため全くゼロからのスタートで、暗中模索の真只中に置かれた。私自身も3つの主任をその年同時に任されることになり、不安とプレッシャーで押しつぶされそうになっていた。
  関西学院高等部は普通科のみの約930人の生徒からなる男子校で、関西学院大学に約95%の生徒が一定の条件を満たせば入試なしで進学する学校であるが、SELHi指定を受けた当時はSELHi指定校中唯一の男子校で、この男子校であり入試がないということが困難な要因でもあった。約70%が運動部に所属している男子生徒に、しかも入試という強い学習を促す動機付けの目標がない中で、どのような授業を提供することが彼らの興味関心を引き、自ら学習に向かわせるかということには苦心した。これは同じような学校におられる方の共通の悩みであると思われるが、今もって満足のいく答えはない。 

3. あるこだわり−全英語科教員で取り組む
 教師自身の意識改革も容易ではなかった。長年培ってきたことを変えることは本当に大きなエネルギーがいる。最終的に英語科の教員の全員がSELHiとの距離が同じになったかというと疑問符がつくが、9名プラスATE(Associate Teacher of English)3名の英語科教員が、全員で何らかの形で関わることにはとにかくこだわった。全てのミーティング、公開授業や文科省の実地調査などは常に英語科全員参加で臨んだ。SELHiまでにすでに全英語科教員による会議に関しては、大学進学に必要な英語力を確認するテスト、そして入試作成のため年間最低20回程度ミーティングを持っていたことがミーティングへの抵抗感をなくさせていたと思われる。余談ではあるが、テスト作成に英語科を挙げて関わることは、知らず知らずのうちに互いが学びあうとてもよい研修の場になっていたことには間違いない。
関西学院高等部 SELHiの取組
関西学院高等部 SELHiの取組

4. 困難な中での支え、励まし
 このような困難な状況にあって特筆すべき点をいくつか挙げると、まずATEとの密接な協同(共同)、協力作業が挙げられる。彼らとどうチームワークの体制を作り上げていくかが大きなポイントであった。
  そして、何よりも支えになったのが、私たちが道を踏み外しそうになったとき、的確な見通しを示していただき、専門的な見地に立ったアドヴァイスをくださった先生方との出会いである。特に岡山大学の高塚成信先生には何度か本校にも足を運んで頂いた。先生からのご教示がなければ、私たちは路頭に迷っていたに違いない。ある研修会に参加していなければ先生との出会いはなかったかもしれない。また、立命館大学の山岡憲史先生からはお会いするたびにSELHiの意義を示していただき、元気と勇気をたくさんいただいた。さらに他校の先生方の真摯な取り組みを拝見し、そこから多くを学び、また共に抱える悩みを共有し励ましあえたことなどは、私たちにとっての財産となった。
  私学である本校は官製研修もなく、実際外の研修に足を運ぶ教師は限られていた。それがSELHi指定後、英語科教員全員が年何度か他校の公開授業や研修会に参加するようになった。これも大きな成果と言える。

5. 4技能を統合した言語活動―Oral Presentation
 今回改訂される新学習指導要領には「4技能の総合的な育成」という表現が見られるが、SELHiまで本校では3年間のそれぞれの科目を通して、最終的には4技能について学習できるという言い方を生徒にしてきた。しかし、果たして一人の生徒が異なる科目を通して、別々の技能について指導を受けたことで総合的に育成したことになりえるのか。それは私の大きな疑問であった。新しい科目としてのE.I.では、授業の中で4技能を相互に有機的に関連させた活動のある授業を目指した。そして、その中心をなす言語活動はOral Presentationである。Presentationに至るまでの過程を含んだOral Presentationを重視したのは以下の理由による。
1)
能動的な学び・動きのある学びができる
2)
production ・outputにつなげる活動ができる
3)
生徒にとって4技能の統合が実感できる
4)
教師と生徒、生徒同士の間でのinteractionが生まれる
   具体的には2年ではDebateを取り扱う。本校では2年生全員が1学期に日本語でのディベートを行い、最終的には1泊の校外学習の中で学年チャンピオンを選んでいる。その経験を活かしての英語でのDebate活動である。このDebateは高山西高校での取り組みを、本当によいお手本として参考にさせていただいた。3年の前半ではDebateの論題を個人の問題として掘り下げて、自分のホームページを作成し、自分の意見を表明する活動、そして、後半では’Business Plan Contest’を行っている。これは関西学院大学が大学生と本校ならびに系列の高校生を対象に行っているもので、社会科が夏休みの課題に課して日本語で発表をする。それをE.I.の受講生は英語でパワーポイントを用いて発表するのであるが、多くの生徒が経済学部、商学部に進学する本校では生徒たちの関心が高い活動である。

6. もう一つのねらい−全ての生徒に研究の成果を
 本校の研究課題の一つは、「English Intensiveにおける実践的コミュニケーション能力を高めるための有効な言語活動を構成するシラバス作成の研究開発」であったが、実はねらいは他にあった。これを機に他の科目も授業改善に向かうという流れを作ることである。
 本校の生徒は大学への進学はほぼ100%であるので、入試はないが大学で必要とされる英語力をつけなくてはいけない。そこで、当初から全ての生徒がこの研究の恩恵をうけることができることを含んで研究を進めた。特化したE.I.の工夫を重ねても、基礎となる全ての生徒が受ける授業そのものが改善されないと週2時間のE.I.では効果が出ないと、狙いどおりにE.I.の担当者から声が上がった。それは当然のことで、全ての生徒が受けるOral Communication(以下O.C.)とReadingの授業のシラバスも併せて研究することになる。意識したことは同じ様なサイクルを少しずつ形を変えながら、段階を追って発展的に能力の向上を図ることができるような授業改善である。O.C.を例にとると、
1年: Recitation―コンピューターを用いての発音矯正の指導を行なう
Show-and-Tell Speech (My School Life)
2年: Discussion (My Opinion)
3年: Speech Presentation & Interview (My Future)
と、各学年で全ての生徒が前に立って英語で発表する機会を設けた。

7. 生徒の自信につなげる
 他の高校から大学に進学する生徒と比べて文法力や語彙力が劣っていると感じて、自信を失いがちな生徒に対し、何よりも英語を使って人前で発表する自信をつけてほしいとの願いが強くあった。年度末にとるアンケートで、「自分は内気であまり人前で話すのが得意ではないが、スピーチをしかも英語でできたことが大きな自信となり、大学でも積極的にやっていこうと思う。」というような感想が多く見受けられるようになった。また、大学が隣にあるので卒業生がやってくることも多いが、高等部で学んだことが大学でとても役に立ち、活かされているという声もよく聞くようになった。さらに高大連携プログラムで大学生がTOFEL ITP 450点あるいは500点以上取得者が履修資格のあるコースに本校生が10名程度参加しており、Presentation能力において高い評価を得ていることからも一定の成果が得られていることを感じる。
 本校の生徒たちはSELHiの実地調査で文部科学省の方が来られても、あるいは公開授業であっても、来られた方が驚くほどいい意味でも悪い意味においても普段と変わらない姿勢・態度で授業を受けていた。そして、日常から奇をてらうことなしに自分の意見を述べる生徒が多い。このことはPresentation能力と大きく関わっているようである。

8. SELHiを終えて
 先日2007年度末の英語科会を持ったが、SELHiを終えて1年が過ぎ、改めて確認したことの一部を挙げておく。これらはSELHiを通して学んだことであり、post-SELHiとなった現在も絶えず確認し継承すべき事柄である。
1)
目指すべき目標の設定とそれに照準を合わせた授業、テスト作成、評価。
2)
それぞれの科目で重点を置く技能は異なるが、4技能統合を意識した授業作り。
3)
それぞれのタスクや言語活動などを常に連続した、有機的なつながりのあるものにする。
4)
一つ一つのタスク、言語活動を漫然とやるのではなく、それがどのような意義を持って設定され、なぜそのような活動が流れの中で必要かを常に念頭に置く。
5)
必ず検証の作業を行い、次につなげる。
6)
研究会、研修会への積極的な参加。学んだことの共有。

9. 最後に
 私自身、他校の優れた授業を見せていただいても、かつては「これは、自分の学校では無理だ。」と諦めていた。しかし、そのままでは当然うまくいかなかったが、工夫次第で絶対に何か応用できる、使えることがあると実感することができたSELHiの3年間であった。とにかくやってみようとチャレンジしたことの中には、最終的には一貫性がないなどのためやめてしまったこともあったが、やってみたからこそ何が必要か、大切かが見えてきた。いろいろな試行錯誤に耐えてくれた生徒たちには感謝している。これからも、いろいろやってみようという先生方の取り組みに学ばせていただきながら研鑽を積みたい。最後に、つたない私たちの取り組みではあったが、このような機会を与えていただいたことに深く感謝したい。


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