TOEFL Mail Magazine Vol.68 June 2008
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SELHi校の試行錯誤

SELHiとは、Super English Language High Schoolの略で、英語教育の先進事例となるような学校づくりを推進するため、文部科学省に指定された高等学校のことです。SELHiに指定された学校では、英語教育を重点的に行うだけでなく、大学や中学校等との効果的な連携方策等についての実践研究を実施します。また、研究目的・手法・成果の普及のため、公開授業や成果報告会の開催や、ホームページ上での情報提供を行うことになっています。



それぞれのSELHi指定校は特色のある研究課題を設定しています。目標とする生徒の英語力は 「読む・聞く・話す・書く」という4技能を駆使して自分の考えを発信できる力です。これはまさに北米大学が留学生の入学要件として期待している力であり、インターネット版TOEFLテスト(TOEFL iBT)はこの要望に応えるために開発されました。そのため、日本の英語教育とTOEFLテストの方向性は同じであると考えます。
本シリーズでは、指定を終了した学校にその学校ならではの成果に焦点を絞りそのエッセンスを報告していただくことを予定しています。高等学校のみならず、中学校・大学、更には小学校の教員の皆様にとっても有益な情報源となるものと期待します。同僚の先生方とも情報を共有し、皆様の授業改革の一助となれば幸いです。

今回は、「「国際交流活動をもとにした、英語学習意欲の向上とコミュニケーション能力の育成に関する研究」〜地域連携を重視した国際交流活動の体系化とカリキュラム開発〜」に取り組まれた和歌山県立那賀高等学校の、吉本悦子先生にご寄稿を頂きました。


和歌山県立那賀高等学校SELHi研究を振り返って
和歌山県立那賀高等学校 教諭 吉本悦子
吉本 悦子(よしもと えつこ)先生プロフィール
吉本先生和歌山県海南市出身
大阪女子大学(現大阪府立大学)学芸学部英文学科卒業
和歌山県立那賀高等学校勤務10年目
平成17年度4月〜19年度3月文部科学省からスーパー・イングリッシュ・ランゲージ・ハイスクール (SELHi)指定を受け、SELHi副主任を務める。

1. 本校SELHiの出発点
 「スーパー・イングリッシュ・ランゲージ・ハイスクールのイングリッシュを取ってスーパー・ランゲージ・ハイスクールと考えてもいいんですよ。」当時の県教育長小関氏のお言葉が、なぜかその部分だけ思い出される。
 本校は19年前に国際科を設置。アメリカのシアトルへ国際科1年生全員を毎年2週間派遣し、また隔年に受け入れたり、オーストラリアのクリスチャンカレッジや中国山東省実験中学と姉妹校提携を結び、短期・長期の派遣・受入を行っている。県下には他にもう一校国際科を持つ県立高校があり、本校はその学校がSELHi研究を終えた翌年に、県下で2番目に文部科学省からSELHi研究校に指定された。平成17年度から19年度のこのSELHi事業に対し、県教委は多大な期待を寄せられていて、SELHi研究開始とほぼ同時に、当時の県教育長が、県立学校課長ら県教委の方々を伴って来校され、研究開発委員会はSELHiの進捗状況について説明を求められ、本校全職員は教育長から直接SELHi事業について訓話(?)を拝聴した。冒頭の言葉はその時教育長の発せられた一言であるが、教育長はSELHi事業が単に英語科だけのものではなく、全教職員のものであることを強調されたのであろう。今もその時のことが記憶に新しい。 
 さて、県教委から激励され、他教科の先生方が注目するというプレッシャーの中スタートしたSELHiであるが、SELHi研究の根幹をなす授業の改善に関わる部分で、本校の生徒に適した指導方法・指導内容等がなかなか定まらず苦慮するという壁にぶつかった。研究開発委員会のメンバーがSELHi先進校をいくつか訪問させていただき、その高度な英語教育に感嘆して帰ってきた。しかし、本校でディスカッションやディベートは無理だと研究開発委員会のメンバーが逡巡する。結論が出ないままいたずらに時間が過ぎた。
 その時、長年県教委英語指導主事として活躍し英語教育に造詣の深い本校校長が提案した妙案が、各教科で学習した内容に関して、最も関心を持ったことについて日本語でレポートを書き、英語に訳するという課題を全校生徒に課す、というものであった。これには他教科の先生が難色を示し、結局1年生だけということで同意にこぎ着けた。1年生は12月末にレポートを書き上げて提出、その後英訳して再度提出することになった。1年目はレポート提出がSELHiの研究内容となった。
 しかし、それと並行して、平成16年度に文部科学省に提出した本校の研究開発課題を念頭に置き、忠実に一つひとつ実行に移していった。研究開発課題は「国際交流活動をもとにした、英語学習意欲の向上とコミュニケーション能力の育成に関する研究」〜地域連携を重視した国際交流活動の体系化とカリキュラム開発〜で、以下の4つの研究開発の内容に対して、研究開発委員会主導で具体的な構想を練り、実践し、生徒の変容を観察したり、アンケートを実施したり、GTECのテストを用いたりして、その効果を検証していくことを確認した。本校SELHiの出発点はあくまでも当初の研究開発を忠実に具現化していくことにあった。

(1)海外研修や留学生との交流活動を通じて英語学習のモチベーションを高め、コミュニケーション能力を育成するための環境づくりを推進する
(2)地域の小中学校及び大学との連携により、コミュニケーション能力を高める英語教育を推進する
(3)スピーキングとライティングの基礎力養成からスピーチ及び視聴覚機器を活用したプレゼンテーションまでの指導方法に関する研究を進める。
(4)高校生による「高野・熊野ワールドヘリテージレンジャー(WHR)」への参画


2. 海外研修や留学生との交流活動を通じて英語学習のモティベーションを高めるために

  モチベーションという雲をつかむような研究内容を前にして研究開発委員会は頭を抱えていた。まず考えたことは、帰国留学生、本校に滞在する長期留学生、姉妹校からの短期研修団を活用することであった。帰国留学生は英語を流暢に話すことができ、異文化体験もしている。帰国留学生が、シアトル研修を控えた国際科1年生に、自分の留学体験を英語で発表することは、国際科生徒の英語学習のモチベーション向上につながり、シアトル研修の準備にもなると考えて彼らに発表の機会を与えた。帰国留学生自身も英語を使って発表ができ、留学生活のまとめにもなり、さらに英語学習に取り組むようになった。留学生には英語で自国の紹介をさせた。留学生は事前に原稿を用意し、Power Point を使用したり、写真を使った。英語圏以外の留学生にも英語が話せれば発表させた。また、本校へはシアトル、オーストラリア、中国から隔年短期研修団が訪れる。その機会を、英語を使ってコミュニケーションする機会とした。事前にe-mailで相手校に質問内容を聞いて、調べ学習をして答えを用意したり、相手校にも発表の準備をしてもらった。短期研修団は5・6名のグループに分かれて英語の授業に参加。本校生徒と文化をテーマに発表し合った。中国の生徒は流暢な英語で発表するので、本校生徒はかなり刺激を受けた。外国の高校生と直接対面して話ができるのであるから、これ以上のモチベーション向上の機会はないと思われる。

短期留学生

短期留学生

 海外研修とは、国際科1年生全員のシアトル研修と全校生徒対象の希望者によるオーストラリア姉妹校研修である。SELHi研究では、これらの研修が生徒のモチベーション向上にどの程度効果があり、実際の英語力向上につながっているかを検証する必要があった。ただ、モチベーション向上の測定は困難であり、それは本校SELHi研究の最終目標ではないため、研修後のアンケート実施と感想文の提出だけで、それ以上は追求していない。英語力に関して、シアトル研修団については、現地のコーディネーターの方や先生にお願いして、シアトル到着直後とシアトル出発直前に、同じスピーキングテストを実施していただいたが、その結果スピーキング力が向上していることがわかった。


3. スピーキング力の土台作りのために
 音抜きの言語教育はありえない。大学入試重視の英語教育では、ともすると音声指導がおろそかになりがちである。発音に留意して教科書を音読することは既習の重要構文、表現、文法事項の定着につながるという効果もあるし、何よりもスピーキング力向上に音読は必須である。発音することによって話せるようになるので、教科書を音読することから始めることにした。全校生徒に教科書のCDを持たせ、家庭での音読を奨励し、定期的に記名式の音読アンケートを実施して、音読を風化させないようにした。また、音読によって授業の改善を試みた。さまざまな音読の指導法を研究した。それは声を出そうとしない生徒たちとの戦いでもあった。まさしく戦いであった。素直に指示に従って一斉音読するクラスもあれば、てこでも動かないぞというクラスもあった。誰か数名が大きな声で音読すれば全体が唱和するのであるが、小さい声が数名だけだと他の生徒の無言の圧力に屈し、全員が無言になってしまう。とうてい正攻法は通じず、変則的なあの手この手で授業中の音読指導に取り組んだ。ときに力尽きて音読指導をやめることもしばしばであった。本校英語科職員14名はそれぞれのやり方で授業中の音読指導に取り組んだ。この音読指導が最も大変な指導であった。しかし、生徒の中には授業中の音読で正確な発音を体得し、家庭で音読することによって定期考査の得点が大幅にアップした者もいた。
 音読に終わっていたのではスピーキングの力はつかない。ALTの協力でインタビューテストを実施した。年5回のテストで話せるようになったかどうかは目に見えてわかりにくい。語数、発音・文法の正確さ、流暢さで測定したが、伸びは微々たるものであった。
 研究内容の詳細については紙面の都合上、省略させていただく。

4. 生徒の変化

 最初の年度は普通科・国際科の1年生全体を研究対象としていた。1年目、日本語レポートを提出し英文に訳する取組は生徒の印象に残ったようで、SELHiは、レポート提出のことだと思いこんでいる生徒が多かった。2年目は普通科・国際科の1・2年生対象であった。この年度は特に音読指導が印象に残ったようだ。音読カードの記入、音読アンケートの実施、教科書の日本語訳を見て英文を言うというような活動を通じて、音読に積極的に取り組む生徒が増加した。また、短期研修団との交流授業、英語落語等を通じて、モチベーションの向上が見られ、英語力をつけていく生徒が増加した。3年目は全学年が対象となった。音読に力を注ぐようになり、スピーキング力を伸ばし、英語でブログを書く生徒も現れた。海外研修や交流授業の機会の多い国際科が力を伸ばし、共通テストで普通科を抜いたときは本当に驚いた。国際科の生徒はプレゼンテーションが上手でもの怖じしない生徒が多くなった。


5. 本校英語科教員の変化
 本校生徒数は1,150名を超えている。このような大勢の生徒に14名の英語科教員と2名のALTが立ち向かっていったのである。数が多いということは何をするにもエネルギーを費やす。音読然り、エッセー然りである。例えばエッセーライティング。2名のALTの机上にはエッセーの冊子が山と積まれている。かろうじて、すき間からALTの顔が見えるというような状態であった。ALTに依存しすぎていたと言えるかもしれない。ALTの負担を慮ってか1年担当の英語科教員はエッセーライティングにせっせと取り組んでいたが、2年担当はエッセーライティングが遅々として進まなかった。
 手探り状態であった1年目、11月に文部科学省の実地調査があり、2名の教員が公開授業を行った。そのうちの1名が英語教育理論やストラテジーをじっくりと学びたいと一念発起。3年間の休職が認められ、2年間のアメリカ留学に飛び立った。もし、本校がSELHiに指定されていなかったら彼女はアメリカ留学を思い立ったであろうかと思う。
 14名の英語科教員のうち、常勤講師が5名いるという状態がずっと続いている。この常勤講師の方々がSELHi研究にしっかりとついてきてくれたから、3年間の研究を続けることができたのだと思う。本校生徒を率いて小学校や保育園を訪問し、英語を教えるということができたのも常勤講師のおかげであるし、SELHi3年目英語科教員全員が公開授業を実施した3年間の締めくくりも、講師の先生の存在無くしてはできなかっただろうと思う。
  運営指導委員会の方々には適切な助言をいただいて研究を助けていただいた。岡山大学教授の高塚先生には厳しい助言をいただいた。信州大学の酒井教授には研究内容の決め方、数字の読み方等研究を進めるときのポイントをお話いただき、参考になった。和歌山大学の奥田教授、海津教授、東准教授、京都外国語大学斉藤教授、関西大学静教授。。。枚挙にいとまがない。
 他校訪問も活発に行った。その中には本当に目を見張るようなすばらしい取組をされている学校が多く、生徒の英語力のすばらしさに圧倒されて帰ってきた。しかし、本校はそのような学校の真似はできない。本校の実態に即した英語教育を今後も追求していかなければならない。SELHiに取り組んで、英語の授業の深さ、面白さに開眼した先生も多い。もちろん反対の先生もおられる。文法・訳読の授業の長所に固執される人もいる。でもそれでよいと思う。公開授業を行ったことは各人の心の中に残っている。授業を見直すことの大切さもわかっている。SELHiの本当のスタートはこれからなのだから。
 たまたま、本校は学力向上フロンティアハイスクールにも指定されていたので、両方に関わっていた先生は大変だったろうと思う。校長はSELHiの研究にあまりにも没頭すると本来の受験英語の指導がおろそかになると心配していたようである。実際はどうだったのだろうか。




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