留学に興味がある、または留学をしたいという方が、その夢を実現させるにはなにが必要なのでしょう? このコーナーではTOEFLテストのスコアを利用して留学できる、英語が公用語の国をシリーズでご紹介していきます。
第3回目の今回は英国。ブリティッシュ・カウンシルの田中 梓さんにお話を伺いました。
ブリティッシュ・カウンシル
教育プロモーション&パートナーシップ・マネージャー
田中 梓さん
定期的にブリティッシュ・カウンシルセンター内で大学院説明会や大学学部説明会を開催し、グループカウンセリングの場を設けています。個々の教育機関による説明会・個別相談、英国大学教授による講義も行っており、また、多数の英国の教育機関が来日する英国留学フェアも開催しています。そういった機会を利用してご自分にあった学校などを見つけていただければと思います。英国についての情報を提供しているEducation UK ウェブサイトでは、留学希望者にはどういう情報が必要なのか、留学によってどういう影響を受けるかなどについて常にアップデートしていくことが必要な要素だと考えています。なぜなら、ここ10年くらいで留学に求められるものが大きく変わってきたと感じるからです。いい意味で学生さんが現実的になってきていて、学校選択でも誰かが行ったからではなく、何が勉強できるのか、どのような経験ができるのか、大学ではどんなサポートが受けられるのかなどをきちんと事前に調べていく重要性に気付いている結果でしょう。
大学は学部が3年間であることが日本やアメリカなどと違う大きな特長で、これには色々な理由がありますが、5歳から初等教育が始まるため大学までの教育期間が日本に比べ1年長いことや、また一般教養過程がなく、専門分野をひたすら勉強するようになっていることが挙げられます。専門課程のレベルは非常に高く、やりたい学問が決まっていれば集中して勉強できる制度です。1年目からチュートリアルという個別少人数制の教育システムで、指導教官と5、6人の学生が、決められたテーマについて議論したり、エッセイを用意して発表するという、英国独特の教育が受けられます。ただし、スコットランドでは大学4年間です。
大学院に関しては、1年間で修士号をとることが出来ます。これは中身が薄いということではなく、10月からコースが始まり論文を書き上げる期間も含めると9月末までというように、まるまる1年集中して勉強をします。こちらは社会人としてある程度経験を得て留学をされる方が多いので、休職のブランクは1年だけで修士号を得られるという点が魅力的で、一番人気のあるプログラムです。コスト的な観点からも、1年間の学費で生活費で修士号が取得できますから留学しやすいといえるでしょう。
英国の大学教育制度について説明を補足するなら、教養課程がなく専門課程のみを勉強するという形は、高校の段階で、大学で専攻する分野をある程度決めて、それに関連した科目を高校の段階で履修し素地を身につけておくことで成り立っています。そのため、基本的に日本の高校生が卒業後そのまま英国の大学に留学することは出来ません。その場合は、「留学準備コース」に1年間行きます。大学が3年間ですから、1年間の準備コースと合わせて合計4年間と考えれば、日本と同様になります。準備コースは通常留学生のみが在籍するプログラムで、英語とこれから専攻する分野の素地となる基礎科目を学びます。
大学数は約100校で、全部国立です(1校だけサッチャー元首相が設立したバッキンガム大学が私立)。教育や研究の質は、国の管理下で審査され、保証されています。例えば学生の受けた試験や論文は、外部のその分野の専門家が審査し、公平に質を保っています。試験なども個人名ではなく番号だけで採点しますから、非常に公正だといえるでしょう。このような質という点で、英国留学は非常に安心できるといえるでしょう。
日本に比べると大学の数は六分の一程度ですので、大学数は少ないですが、コースの種類は2万コース以上あるといわれ、専門分化したコースが多いのが特長です。やりたいことが決まっていたり、ある分野のスペシャリストになりたいという方には、希望のコースが何かしら英国にあると思っていただいていいと思います。専攻分野が漠然としている場合には、例えば開発学の分野ですと、開発学の一般的なコースや、開発学の中でも教育に特化したもの、NGO運営や資金調達に特化したものなどがありますので、1年目は全体的に開発学を学ぶ一般的なコースに行って、2年目は開発経済のコースに行くという方法があります。大学院はさらにスペシャリストとなり、コースの数も多く、さらに細分化されています。
各大学の国際化度からいうと英国は他国に比べ上回っており多様な国だといえます。留学生比率は、学部で10%、修士課程で31%、大学院は42%にもなります。研究員の割合も15%というデータがあります。私自身国際関係学の50人くらいのコースで学びましたが、約25カ国から学生が来ていました。こういった多様な留学生を受け入れる経験が大学としても豊富にあることが魅力のひとつです。ヨーロッパ、アフリカ、中近東に近く、文化的、歴史的にも経験が豊富です。また文献が簡単に手に入る環境ですので、国際的に研究レベルをあげていきたい人や、世界レベルで活動したい人には最適だと思います。学部レベルで特に人気が高いのがアート・デザインの分野ですが、すべての分野でいえることは、今までにないアイディアを周りにとらわれず面白がる土壌があるということです。そういう考え方が科学分野の発展や多くのものを生んできた土台にあるのでしょう。日本人としてはそういう場に身を置くことで、自分の違った良さが出てきたり、そういった人たちと同じ場で議論をすることで、議論の力をつけるということも出来ると思います。
世界的には英国への留学生数は毎年増加傾向にありますが、残念ながら日本からは減少しています。このところ日本では就職も比較的しやすかったので、あまり留学への動機付けがなかったのかもしれませんし、円安が続いて留学しにくかったという要因もあるかと思います。逆に今は円高で1年半くらい前に比べると半額ぐらいで留学できます。そういう意味では今がチャンスですね。
世界的な数としては大体37万人が、現在英国へ留学していて、日本からは大学・大学院合わせて6千人ちょっとです。2006~2007年の統計では、大学学部が3365人で、大学院が2750人という数字になっています。大学学部は、アート・デザイン、言語学・外国語、ビジネス・マネージメントが人気で、大学院ですと、社会科学、圧倒的に政治・国際関係・開発学、それから言語学・外国語という順番になっています。
出典:Higher Education Statistics Agency 2007
英国の教育機関が日本人留学生を非常に魅力的に思う理由として、幅広い分野に留学するということが挙げられます。これは日本はある分野の勉強をすればすぐにキャリアルートがある国ではないということに関係があると思いますが、それだけでなく英国という国に行くことに対してきちんと理由をもっている学生が多いというのも傾向としてあるようです。少子化の傾向が他国にもある中で、日本だけが人口減少率より留学生数が減ってしまっているということを懸念しています。もっとインターナショナルな環境で学ぶことを希望する学生が増えることを期待しています。
最低限英語力は必要です。英語力は行けばある程度は必ず身につきますし、飛躍的に伸びてることを感じるときもあると思いますが、ある日起きたらいきなりしゃべれるようになっているということはなく、やはり地道なものです。日本でどれだけレベルの高い語学力を身につけておくかで、向こうでの成長が決まります。だから出発の前日まで努力を惜しまない、これに限ると思います。留学生だから英語が出来なくてしょうがないと思われるよりも、対等に議論できたほうがやはり面白いし、得られるものも多いといえるでしょう。
2つ目はコースの内容をきちんと知ること。1年や3年過ごすところですので、どういった経験になるのかきちんと情報収集をすること。多様なコースがあるので選ぶのは大変ですけどそのプロセスが重要で、大学に問合せをしたり、納得するまで答えを得たりするのは大変ですが、このプロセスからも学ぶものがとても多く、ここからが留学のスタートだと思っていただきたいのです。
先日アート留学経験者と話をしていたのですが、日本の文化では、アートは自然発生的に生まれてきたものをよしとする、自然に生まれるものを形に仕上げていくものを美しいとする考え方があるので、自分が生み出したものに対して、1つずつ説明をつけていくことに全く慣れていないそうなのです。なぜこの素材を使ったのか、なぜこの色を使ったのか、なぜここにこれを持ってきたのかとどんどん質問攻めになると、後付の説明になってしまう。対照的に、英国だとまずコンセプトづくりから始めて、そこに到達するために形作っていくというプロセスを重視します。ここで徹底的に議論して進めていくわけです。どちらが良い悪いというのではありませんが、そういう日本とは違う場に身をおいて議論すること自体が新鮮で面白いそうです。日本人としての感覚を持ちつつ、違った環境でもアーティストとして仕事をやっていけるレベルに到達すること。これはアートだけでなくほかの分野、例えば科学の世界でも同じで、目指す目標地点を設定して、それを立証していくというプロセスを体にしみこませることによって、世界スタンダードの仕事が出来るようになるということです。完全に英国風のやり方に染まるというわけではなく、こういうやり方もあるということを知ることによって、自分の日本人としての感性を世界レベルで発信出来るようになる。日本にいるだけだったらそういう自分にはなれなかったという話を聞きました。
去年の留学フェアのトークショーに靴デザイナーのジミー・チュウ(ロンドン芸術大学名誉教授)を呼びました。彼は現在世界的に活躍する英国留学経験者ですが、もともとマレーシアのペナン出身で、留学した当初は英語が得意ではなかったそうです。でもこんな自分が、故ダイアナ妃など多くの著名人に靴を作るような、そういった人たちがいつも自分のアトリエに来てくれてオーダーしてくれるような、そんな自分になれた。これも英国留学という経験があたえてくれた教育やその時の先生たちとの出会いのお陰だ、と常に思い出していて、だから今若い人たちに惜しみなく自分の経験や専門知識を伝えていきたいと話していました。
ジミー・チュウをはじめ、英国留学について“Creativity”という言葉を使う経験者が多いと思います。今までなかったものを発想していくCreativeな教育ということです。発想というのは、いきなり思いつくということとは違い、経験や考え方に裏打ちされた創造力であるべきで、そういった思考回路を英国は教えてくれます。少人数制教育だからこそ先生との会話の中でも、考え方を組み立てながらCreativityを満たし、発想の転換を強いられます。確かに英国の教育をあらわすのに“Creativity”というのは一つのキーワードになっていて、芸術のことだけでなく、科学でも国際関係学でも必ず出てきます。留学後、物事を論理立てて話をするとか、文章をまとめるとか、そういった思考回路が日常生活で活きているなと感じることが多いというのは、留学経験者に共通している部分だと思います。
また、Education UK(英国留学)の魅力をお伝えするために、私共がお伝えしているメッセージの中に “Tradition Matched By Innovation” があります。革新Innovationが続いてきたことによって出来た伝統Tradition、伝統に裏打ちされた革新性という意味で、その時その時に常に革新的なもの、例えばクローン羊とかwwwといったWebサイトの原理といったものを生み出して、それを伝統にまで高めていっているイギリスの歴史を表しています。そういう新しいものを生み出す考え方が伝統です。ロンドンの街にも、ガーキンといわれる新しくてモダンな面白いビルがありつつ、ビック・ベンがあったりと新しいものと伝統的なものが共存しています。
専攻分野を選ぶ際に「何をやれば役に立ちますか」という質問をよく受けますが、自分自身が情熱をもてることを選んでくださいとアドバイスしています。好きなことでしたら楽しんでがんばることができます。留学中は、英語能力試験の必要スコアを超えて留学してもまったく太刀打ちできない経験に直面することがあります。でもその中でもなんとかがんばって食らいついていかなければいけない。そもそもネイティブの学生でも、学部レベル、大学院レベルの勉強には相当苦労します。そういう中で英語というハンディを抱えながらさらにがんばって行くには、好きでやってきたんだという思いを持ち続けることが励みになると思います。
英国で教えられる新しいものを発想していく思考回路は、いろいろな人との会話や議論、多様な経験の中でひとつの形になり、自分のものとなりますので、留学という機会がそれをより深いものにしていってくれると思います。日本にいれば、日本の位置からものや世界を見ますから、韓国、中国などアジア諸国のニュースについて敏感になりますし、英国に身をおけば、ヨーロッパやアフリカなどの視点から世界を見ることができます。そういったものの見方は、これからどういった仕事をしようとも、生きていくために大切で、最終的には自分がより良く楽しく人生を生きていくための一つの方法になると思います。
留学というのは旅とは違って、その国に自分の部屋があると思えるところに良さがあると思います。母国でもないのに、自分自身に帰る場所が、ほっとできる空間ができる。これは留学をすることで得られる生活体験です。好きな国で勉強することが自分を成長させる機会にもなるし、人生も豊かになると思います。そういった経験を色んな人にしてもらいたいと思います。