このコーナーでは、TOEFLテストの実施運営団体であるETSのプロダクツをご利用いただいている高等学校・大学での導入事例を、現場の教室からお伝えします。
ETSプロダクツとは、TOEFL-PBT(Paper-Based Testing)テストの過去問題を使った「団体向けTOEFLテストプログラム:TOEFLテストITP」や、インターネットに接続できる環境があればどこからでもアクセスができ、短時間で採点とフィードバックを自動で行う、ライティングの授業には欠かせない「オンライン・ライティング自動評価ツール:Criterion」など、現在日本国内のみならず世界の教育現場の皆様に多くご利用 ・ご活用いただいているETS開発のテスト・教材です。
今回はCriterionを導入されている大阪女学院大学・短期大学のScott Johnston先生とWilliam Cline先生のインタビューをお届けします。
Johnston先生(以下、J):Criterionを導入したのは2005年度からです。大阪女学院は2004年に4年制大学が開学しました。短期大学・大学ともに授業の多くは英語で行われ、学生は多くのレポートを英語で書かなければならないため、学生のライティングをサポートする方法を探していました。するとある先生方が智辯和歌山高等学校でCriterionを使っていることを聞きつけ、クラスを見学に行き、当時の担当の先生と話して「これはいい!」ということで導入に至りました。
Cline先生(以下、C):その智辯の先生に本学まで来てもらい、Criterionに関するプレゼンテーションをしていただきました。
J:プレゼンテーションの後も何度もEメールでやり取りし、いくつかの資料もいただきました。私たちは彼女が実施していたノウハウを取り入れ、現在もそれがベースとなっています。
J:残念ながら初めのうちはそう簡単には進みませんでした。全てが初めてのことでしたからね。Criterion上でクラスや学生をどのように登録するかも試行錯誤しました。最終的には1年生全員が入ったクラスを一つ作り、その後実際の授業ごとにクラスを作って学生を振り分ける方法をとりました。そして2年生、3年生、4年生も同様にしました。現在は110クラス、50名の教員が担当しています。授業は前期・後期に分かれる、あるいは通年のクラスもありますが、実際には前期に始まるクラスを選択する学生が多いのが現状です。
J:そうです。1年目はAcademic Writingという3つのクラスでパイロットを実施し、どのようなことができるか確認しました。2年目からは全学生を対象にしています。現在はExcelで全学生の生徒名簿を作り、それをインポートしてCriterionに登録し、その後各クラスに分けていく、という方法に落ち着いています。慣れてくるとこの作業も簡単に素早くできるようになりました。
また、Criterionを導入した当初、日本人とネイティブの教員に何度もプレゼンテーションを行いましたが、1年目はなかなか理解されませんでした。1年ほどかけて理解が進むと、とくに日本人の先生方からCriterionの使い方に関する質問のメールが来るようになりました。一人ひとり丁寧に対応し、時間をかけてどう使えば良いかを伝えていくと、先生方もだんだんと使い方を理解して、「これはいい!」と言ってくれるようになりました。最初は全ての操作方法を覚える必要はありません。教員はまずCriterionで学生のエッセイを開いて内容を見ることから始めればよいと思います。今や私がやるのは必要な提出回数を購入するだけ。みんながスタートしたいと思ってもいないものをスタートさせるのは大変ですが、一度始めてしまえば、どんなふうに使うのか理解してもらえます。もちろん、Criterionではできないことも理解して、うまく工夫していく必要があります。
J:短大と大学の全学生が登録されていて、2008年度は973人です。2007年度は1000人以上でした。
J:英語の教員だけではありません。本学では、日本人教員によって専門分野の科目を英語で教えており、そういった授業でもCriterionを使用しています。この登録している50名のうち半分くらいは日本人教員で、Criterionを使うのは授業でライティングの必要がある教員だけです。ボキャブラリー担当の教員などはCriterionに登録されていません。ただ、Criterionに登録されている全ての先生が使うわけではありませんし、全てのライティングクラスでCriterionを使用しているわけでもありません。
J:その通りです。1年目のクラスでは、全学生が少なくとも1、2回は使うように教員から指示し、全学生が使いました。2年目のクラス、Academic WritingでもCriterionの使用が必須です。そしてそれぞれによって違う使い方をしています。
C:いくつかのクラスは必須で、共通のシラバスで行っています。いくつかのクラスでは必須ではなく推奨はしますがオプションなので、先生によって使うことを強く勧めたり、そうでもなかったり。使いたかったら使ったらという場合や、何も言わない先生もいるかもしれません。我々はできるだけ使うよう強く推奨していますが、実際必須でもあまり使おうとしない学生もいます。アンケートの結果では、Criterionは使うのが難しいという声も何人からか寄せられています。確かに私自身も初めて使ったときは難しく感じました。次はどこをクリックすればいいの?どこを押せば終了できるの?とかね。基本的にボタン等使い方も英語で書いてありますから。でも頻繁に使っていると慣れてきます。学生によっても使い方はまちまちですね。
J:そのような学生のために、日本語でCriterionの手引きを作成しました。いつでもこれを見て、簡単に使えるようになればいいと思っています。(*CIEE WebサイトのCriterionページに、5月よりユーザーアシスタントページを新設しました。Criterionの操作方法などを日本語で書いてありますのでぜひご利用ください。)
J:4年生の卒業プロジェクトでは、多くの先生がCriterionでまずチェックをすることを求めています。今年は恐らくもっと多くの先生にCriterionが使われることになると思います。
J:卒業論文です。リサーチして書きます。
C:20枚以上の内容で、Criterionには長文すぎるので、学生たちはパートに分けて何回かCriterionを利用します。
J:まずは序論をチェックして、そして次は方法論というように。Criterionには大きく分けて、採点と分析の機能がありますが、この場合私たちは主に分析機能を利用していて、採点機能は使っていません。
J:主にオリジナル問題を使っています。大阪女学院の四つの知的課題であるPeace(平和の追求)、Human Rights(現代と人権)、Science and Religion(科学と宗教)、Crisis of Life(生命の危機)に関連した問題を与えることが多いです。ただし、Criterionの問題文を入力する欄には具体的な質問は入力していません。例えば、Crisis of Lifeとだけ入力し、それに対して学生は地球温暖化やリサイクルに関するエッセイを提出します。
C:学生に選択権をもたせるため、基本的には問題をあまり限定しないようにしています。Academic WritingのクラスではCriterion付属のトピックを使うこともあります。
C:その通りです。カリキュラムによってすでに10個くらいのトピックがプリントに載っていて、その中から学生が自由にトピックを選択する方法をとっています。学生に選択の幅をもたせる場合には、皆が違うテーマについて書くという私たちの方法も一つのやり方として役立つかもしれません。
J:本学にはCriterionに加えてライティング・センターがあり、学生をサポートする熱心な教員もいます。それら全てがあって、ライティングの上達につながっていると思います。英語ライティングの取り組みの中でCriterionは自宅でも使えるツールとして存在し、導入に値すると考えています。
J:大阪女学院には英語学習の全ての面においてサポートを行うSelf Access & Study Support Center(SASSC)があり、ライティング・センターはその一部です。SASSCの中には他に日本人チューターデスクや文法ワークショップ、フォニックスワークショップ、スピーキング・ラウンジがあります。スピーキング・ラウンジでは海外からの留学生と英語を話す事もできます。ライティング・センターは2004年に週六日での本格的運営を開始しました。それ以前は週一日の運営でした。現在週6日、プレライティングを手伝ったり、文章構成、パラグラフの書き方、トピックセンテンスの選び方を指導したり、文法を自分で修正させたり、主旨を明確にさせたりといったライティングの基本的な指導のほか、プレゼンテーション、留学手続書類、ディスカッション・プロジェクトなどについてサポートしています。学生が来ると、まずサインアップして文章について1対1のサポートを受けます。最も短くて1セッション15分です。文法的な問題がたくさんあるようであれば、まずCriterionを使用することもあります。年間約700セッションを行っています。Center & Tutor Programと呼ばれる、日本人チューターがライティング・センターに来た学生の手助けをする、本学のSASSCならではのユニークな取り組みも行っています。
J:文法や文章構成、アイディアまとめといった分野の質問がもっとも多く、この傾向はCriterionと一緒ですね。ボキャブラリーや単語選びはその次で、ディスカッションや会話、ブレーンストーミングといった質問もあります。文章校正については実際あまりありません。
J:フィードバックをくれる学生は多くはありませんが、例えば、「どのように書けば正しいのかわかった」、「どのように言葉を使って組み立てればいいのかわかった」、「文法が良くなった」、といったコメントが寄せられています。要望としては、「セッションあたりの時間をもっと長くして欲しい」、「もっと昼間の時間に開いていて欲しい」、「チューターの人数を増やして欲しい」、といった声もあります。中には「チューターが不親切で私のために文章を書いてくれなかった」、というようなライティング・センターについての誤解もありました。ライティング・センターはその学生のために書くのではなく、学生が書けるようになるためのサポートをする場です。問題は、セッションを受けた後にどう直したらいいのか分からない、という学生がまだまだいること。彼らは何かが正しくないことはわかっているけど、何が正しくないかわからず、そのためチューターもどう助けてあげれば良いかわからず問題が解消されません。ライティング・センターもCriterionも、一度使った生徒はまた使います。そして使えば使うほど質問がより明確になり、問題点も明確になっていき、ライティングについてわかっていくのです。
J:2007年からは文部科学省の科学研究費補助金(通称「科研」)を受け、「大学ライティング・センター構築と運営に関する研究 EFLの視点から」という研究を行っています。この3ヵ年の研究の1年目はまず、ライティング・センターのことを知るためにアメリカやアジア、日本の大学のライティング・センターを視察しました。我々の知る限り3年前の時点では日本には早稲田、東大、上智、そして本学の4箇所しかありませんでした。現在は日本に11箇所あり、そのうちのいくつかは日本人のための日本語のライティング・センターです。2年目の昨年は、大阪女学院でいくつかの新たなことに挑戦し、東京大学で日本のライティング・センターについての会議(Writing Centers in Japan Colloquium)も開催しました。3年目となる今年はこれまでのことを継続しつつ、さらに新たな取り組みを行います。メインは色々な情報を集めてアジアのライティング・センターのリストを作り、様々な人が情報交換を行うことができるWebサイトを作ることです。ライティング・センター発祥の地であるアメリカではアメリカ人学生が母語である英語のライティングのサポートを受ける場所としてできたのに対して、アジアにおけるライティング・センターの多くは、外国語としての英語のライティングについてサポートを受ける場になっています。このアジアのユニークな側面をアメリカと比較して行きたいと思っています。
ライティング・センターの目的は文章を直してあげることではなく、学生が自立した学習者になる手助けをするため、「自分で自分の間違いを見つけられるようになる」、「ライティングのプロセスを知る」サポートをすることです。これはCriterionの利用においても同じことが言えるのではないでしょうか。本学の大きな展望の中で、ライティング・センターとCriterionが学生たちのライティング上達の一助となることをこれからも期待しています。
ありがとうございました。