留学に興味がある、または留学をしたいという方が、その夢を実現させるにはなにが必要なのでしょう? このコーナーではTOEFLテストのスコアを利用して留学できる、英語が公用語の国をシリーズでご紹介しています。
第4回目の今回はオーストラリア。オーストラリア大使館の奈良部さおりさんにお話を伺いました。
オーストラリア政府国際教育機構
オーストラリア大使館
エデュケーション・オフィサー
奈良部 さおりさん
AEIは、オーストラリア政府教育・雇用・職場関係省の海外部門という位置づけになっています。世界に26拠点ある中の一つ、日本支部は、東京のオーストラリア大使館にあります。政府の代表機関として、文部科学省をはじめとする日本政府各省庁や教育機関、関連団体、民間企業と連携・協力しています。日本の教育関連情報や教育機関のニーズをオーストラリアの教育機関へ定期的に提供していくことも重要な業務の一つです。同時に、オーストラリアの教育機関が提供する情報を日本の教育機関や関連団体に伝える双方向の窓口的役割も果たしています。
オフィシャルWebサイト“Study in Australia”では、セミナーやフェア情報の提供のほか、学校やコースの検索機能があり、自分の興味のある学校やコースを探すことができます。また、留学プランのたて方を説明したページもありますので、留学を思い立った方はまず見ていただくと参考になるでしょう。
オフィシャルWebサイト”Study in Australia”
(http://www.study.australia.or.jp/)
オーストラリアから大学・大学院をはじめ職業訓練校、小・中・高校、英語学校など多数の教育機関が参加する留学フェアが今年も全国4箇所で開催されます。各校ブースにて、留学方法やコースについて日本語で留学希望者の相談に個別に応じます。AEIも基本情報の提供や、カウンセリング、プレゼンテーションなどを行います。ぜひお立ち寄りください。
http://www.study.australia.or.jp/fair/
*各会場のセミナースケジュールや出展教育機関など、詳細はWebサイトをご覧ください。
オーストラリア留学の一番の強みは、多文化そして多国籍のメリットを享受できることです。国民に移民が多く、留学生も世界各国から集まっています。留学生の数は年々伸びていて、2008年は54万3898人にのぼりました(学生ビザでの留学生のみ)。そのため政府も法律を制定するなど、留学生にメリットのある良い環境を築く努力をしています。
留学生を保護する法律として、「留学生のための教育サービス(ESOS)法」があります。これは、学生ビザで留学する学生を保護しており、例えば、学生ビザを取得しオーストラリアに行った後に、就学予定コースが開講されないことがあった場合に、他の学校の同様のコースに転校、入学させることが義務づけられています。また、授業料を払った後にそのコースが遂行されない場合は返金するということも法律で保障されています。このような留学生を保護する法律を制定している国は珍しく、オーストラリアは留学生を大切にしていることがわかっていただけると思います。
また、「留学生向け教育機関・コースの連邦政府登録(CRICOS)制度」というものがあり、留学生を受け入れる全ての教育機関は政府に登録をしなければいけません。登録するためには、政府が設けた一定の基準、例えば施設や教員数といったもの全てを満たしている必要があります。ですから留学する際にはCRICOS登録がされている学校・コースを選ぶようにしたほうがよいですし、学生ビザで留学する場合は登録校でないと留学はできません。ここで注意していただきたいのが、この法律に守られるのは、学生ビザで留学した場合に限られることです。
オーストラリアに留学できるビザには学生ビザ、観光ビザ、ワーキングホリデービザの3種類があります。就学期間が3ヶ月未満であれば観光ビザで入国し、学校に通うこともできます。ワーキングホリデービザでは、4ヶ月間学校に通うこともできます。ただし、観光ビザとワーキングホリデービザはESOS法が適用されないので、学生ビザであれば守られる権利がない点を注意していただきたいところです。こういった部分も考慮して留学を考えるとよいでしょう。
最後に、「オーストラリア教育資格システム(AQF)」というのがあり、これはある州で取得した学位や資格は、他の州に行っても認められることを保証する制度です。日本では当然と思われるかもしれませんが、州によって制度も異なるオーストラリアでは重要なことです。学位や資格を取得後、他の州の学校への編入や進学をフレキシブルに実現できます。
先にお話した、国を挙げて留学生をサポートするというシステムに加えて、その他の大きな魅力には、教育水準が高いという特長があります。イギリスの経済誌「TIMES」(Times Higher Education-QS World University Rankings)が毎年発表している、世界のトップ200校ランキングでは、2008年、オーストラリアの全大学39校のうち7校がトップ100校に入っていました。言いかえると、全大学の実に18%が世界のトップ100入りしているということであり、トップ500には、55%と半分以上がランクインしています。これはかなりの高水準であるという証明になるでしょう。
また、幅広い分野において、アジアを重視したアプローチがとられていることも魅力の一つです。例えばMBAはどこの国でも取れますが、経営学といっても様々なビジネスモデルがあり、アメリカではアメリカのビジネスモデルを、イギリスだとEU色の濃いモデルを学ぶことになります。オーストラリアは、アジア圏の一国として、アジアマーケットに焦点を当てたビジネスモデルを重視しており、日本をはじめアジアでビジネスをする場合には、オーストラリアで学んだ知識や経験が役に立つという評判をよく聞きます。やはり常に大きく変化しているアジアのビジネスは世界に注目されていますし、日本人はアジアで働く場合が多いので、帰国後、生かしやすいといえるでしょう。
学生ビザ発給数で見るとオーストラリアへの留学生数は年々増加しており、一番多く留学生を出している国は中国(127,276人)で、次がインド(97,035人)、韓国(35,376人)です。日本は残念ながら年々減っており、2008年の留学生数は13,445人で現在11位です。ただし、これに観光ビザやワーキングホリデービザでの入国者、修学旅行生を足すと91,804人がオーストラリアを訪れており、この合計数はここ数年であまり変動がありません。特に、海外の修学旅行先で一番人気があるのがオーストラリアです。時差が1時間程度なので行きやすいこと、比較的安全であること、そして英語に触れられるというのが旅行先に選ばれる理由となっています。また、勉強だけでなく、マリンスポーツや山登りといったアクティビティも豊富です。観光大国でもありますし、観光プラス英語の勉強ということで行きやすい国になっているのではないでしょうか。
【出典:AEI2008年資料】
他の国からオーストラリアに留学している学生と比較すると、日本人の留学生は、その留学目的、学ぶ分野が広いところに特長があります。中でも人気があるのは、ビジネスと、観光学・ホスピタリティの2分野です。オーストラリアは観光大国なので、ホテルなどの観光産業が盛んです。職業訓練校はインターンシップが組み込まれている場合が多いですし、ホスピタリティに特化した職業訓練校ではその学校が経営しているレストランで、学生をウェイターやパティシエ、調理師として職業体験が経験できるところもあります。実践的な教育が受けられ、社会に出てすぐに戦力になるよう育てられるので、そこにオーストラリア留学の醍醐味があります。
また環境学でも、オーストラリアは水資源の開発・管理といった分野で熱心に研究が行われており、功績をあげています。大自然が広がるオーストラリアでは、観光と絡めてエコ・ツーリズムといった分野での教育も盛んなのも特長です。
また、治安や気候がよいので、最近ではお子さまをつれての親子留学も盛んです。子供をプリスクールや幼稚園にいれ、英語学校に通う親御さんもいらっしゃいます。お子さまの教育に熱心で、英語教育は特に早いうちからと思っている方が多いようです。
また、日本では2011年には小学校英語が必修になることもあり、学校教員に向けてTESOL(Teaching English to Speakers of Other Languages) という第2言語としての英語指導法のコースをオーストラリアの多くの教育機関が提供しています。オーストラリアはもともと他の母国語を持った人たちが集まっている国なので、共通語である英語をいかに効率的に使えるようにするかを政府は常に考えています。移民には無料英語レッスンを行い、どのような教授法が一番効率的かというメソッドにも優れており、TESOL研究や開発が進んでいます。オーストラリアには歴史的にもそのようなニーズがあったからこその学問であり、強みであるといえます。
留学手続きの際に必要なものとしては色々とありますが、その一つに英語力は欠かせません。英語を学びに行くとしても空港に降り立ったその日から英語圏で生活するわけですから、何もわからないよりはできるだけ英語を勉強してから行くべきだと思います。逆に英語力のベースがあれば、向こうに行ってからの伸びが早いと思います。せっかく勉強しに行っているのに、なかなか自分から話しかけられない、自分をアピールできないことが日本人気質としてあると思いますが、それを乗り越え、がんばって殻を破ることが必要だと思います。自分をアピールするためにはどうすればいいのか、何が必要なのか。そういうことに体験を通して気付くことができるでしょう。日本は単一文化で単一言語という稀有な国ですので、そこから踏み出すことで、それまでにない体験をすることができます。今は日本国内でもどんどんグローバル化が進んでいますので、異なったバックグランドの人たちとうまくコミュニケーションをとりながら共存していくためには、人や文化の「違い」を理解しているか否かで大きな差が出ると思います。多国籍、多文化国家であるオーストラリアの人々は様々なバックグラウンドを持っており、他人との「違い」を理解しているので、人にとても寛容です。外国人に慣れているので、誰が外国人で誰がネイティブなのか気にしませんし、日本人だからといって差別もしないしチヤホヤもしません。アジア人が多いので周りにすぐ溶け込めますし、精神的に疎外感を感じないので、留学先としては暮らしやすい国だと思います。
オーストラリアに留学して帰国した同窓生たちをalumniと呼んでいますが、彼らに就職情報を提供するためにリクルーティング会社の方とお会いし、同窓生の特徴について話をしたことがあります。英語圏に限らず海外では自己主張しないと生きていけないため、留学経験者はそれを帰国後も引きずってしまって、企業側からすると使いにくいという意見がよく出るのですが、オーストラリアの留学経験者はそういった強い自己アピールをせず、和をうまく保ちながら物事を進めていく能力が高いということでした。この理由を考えると、おそらく大学の授業などで、かなりの数のグループワークをすることにあるのではないかと思います。5~10人でグループを作り、課題を渡され、いつまでに発表するというスケジュールを決められます。あとはメンバーでスケジュール管理も役割分担もしていかなければいけません。すると一人だけが先走りしてもうまくいきませんし、ニコニコしているだけで何もやらないわけにもいきませんから、意見をきちんと言って自分の責任を果たし、最終的にそのグループが評価されるよう、よりよいものを作っていかなければいけません。こういったグループワークを通して自分の意見をいかに波風立てずに伝えつつ、相手を説得するかという協調性を重視した自己主張のスキルを自然に身につけることができるのでしょう。また、クラスメートには白人系だけでなく、先住民族、アジア、ヨーロッパ、南米系と様々な留学生がいて、それが一つのグループになります。その中でどのようにバランスをとって、どこに自分のポジションを置くか、自分自身というものを見極めなければいけません。こういったことがオーストラリア留学経験者の協調性を育てているのではないかと思います。
オーストラリアの大学では、TOEFLテストもIELTSも受け入れています。ただ日本国籍の方は問題はありませんが、国によってはビザの取り方が異なるため、IELTSが必要になる場合もあります。オーストラリアの高等教育機関ではTOEFLテストを受け付けていますので、日本人はTOEFLテストだけで留学することが可能です。
情報が氾濫する社会で、情報はすべてネットで得られると思いがちですが、やはりその場に行って身を置いてみないと分からないことが必ずあります。英語を勉強したいからオーストラリアに行く、それだけでも勿論動機としてはいいのですが、留学は英語を学ぶことだけではないことに、行けば気づくと思います。文化的背景の異なる人とどのようにコミュニケーションを取っていくか、自分の主張をどのように通していくか、すべてが試行錯誤の連続です。日本であれば、以心伝心で周りが自分の意見を汲んでくれるとても居心地のいい環境ですが、日本でも社会に出たらグローバリゼーションは始まっていて、外国人に限らず色々な人がいます。その中で、うまく自分というものを確立していくときに、事前にそういう体験をしているか否かで大きな差が出てきます。そういう意味でも早いうちに海外に、オーストラリアに行って、勉強や英語だけではない、コミュニケーションスキルや度胸、広い視野といった人生で必要なスキルを身に付けて活躍する人間になってほしいと思います。
「エンデバー奨学金」は、オーストラリア政府が提供している奨学金です。日本人が応募対象になっているものは4種類あります。大学院、研究、専門技術、そして社会人を対象にした短期間のエグゼクティブ奨学金です。日本人にとって奨学金というと高嶺の花と思いがちですが、海外では種類も豊富で身近なものです。何はともあれ挑戦してみることをお勧めします。経済的にも助かりますし、後に実績として残るものなので、キャリアにも有益だと思います。
エンデバー奨学金(http://endeavour.australia.or.jp/)