留学に興味がある、または留学をしたいという方が、その夢を実現させるにはなにが必要なのでしょう? このコーナーではTOEFLテストのスコアを利用して留学できる、英語が公用語の国をシリーズでご紹介しています。
第6回目の今回はアイルランド。アイルランド政府商務庁 日本代表の Anne Laniganさんにお話をうかがいました。
アイルランド政府商務庁 日本代表
Anne Laniganさん
アイルランド政府商務庁は、アイルランド政府の貿易とテクノロジーを統括する庁で、ソフトウェア、医療機器、食品、そして大学やカレッジも含むアイルランド資本企業を増やす責任を担っています。国内では企業や大学と連携してビジネス政策を練り上げたり、R&Dのための財政支援をしたりすることもあります。
海外ではマーケットを広げるお手伝いをしています。人口420万人のアイルランドは、日本やアメリカと違って国内マーケットがとても小さいため、経済的な発展のためには輸出が不可欠で、アイルランド企業や大学にとって国際マーケットは大変重要です。つまりアイルランド政府商務庁の重要な仕事の一つは、アイルランド企業のための輸出支援で、それを日本オフィスでも行っています。現在日本にオフィスのあるアイルランド企業は35社で、日本と取引をしているのは105社です。その中で例えばアイルランドに9校ある大学は、日本人留学生を獲得することを目標としています。そこで、大学や留学のインフォメーションを提供することがアイルランド政府商務庁の仕事の一つということになります。
アイルランドには教育に対して伝統があり、中世には「聖人と学者の島」とも呼ばれ、政府も教育研究に毎年予算を割いています。James Joyceや小泉八雲など有名な作家も多く輩出しており、特に”Individuality”と”Creativity”が重要な要素となっています。例えば、日本ではグループで学ぶことが多いと思いますが、アイルランドでは個人個人がコンセプトを理解することに重きを置いています。日本では大学に入学さえすればその後はあまり勉強しなくても卒業できると言われていますが、アイルランドでは進学率が高い上に競争も激しく、学び続けることがとても大切だと認識されています。また、若い人たちはとてもクリエイティブかつ個性的で、大学や大学院で学ぶことを楽しんでいます。アイルランド人は人生を楽しむことが得意なので、勉強も楽しむ文化があり、それが他国と違う特徴だと言えます。そこで我々が使っているキャッチフレーズが、「Live, Laugh, Learn(生きて、笑い、学ぶ)」というものです。これは、アイルランドに留学したら一生懸命学ばなければいけないけれど、同時にそれは楽しいことなんだよ、ということを表しています。「Craic(クラック)」というのはアイルランド語で楽しい事という意味ですが、この「Craic」がアイルランドの生活の中で重要な要素となっています。昨年開催したフェアでも、他国のビジネス会議のようなブースとは違って、音楽やお茶を用意し、楽しい雰囲気が伝わったと思います。一生懸命勉強して働いても、やっぱり人生を楽しむ。その国民性を伝えたいですね。大学の授業は難しいですが、講義形式の授業であっても質問を促されたり、ディスカッションが多いので、先生の話を静かに聴くのとは全く違います。先生と生徒たちの間には、豊かな交流やコミュニケーションがあります。
ネイティブの留学生が多いアイルランドでは、他の学生の足を引っ張らないためにも英語力を高く維持することが大切ですし、かといって日本人を集めて特別クラスを作るとなると、留学生がアイルランド人と共に学ぶことができなくなり適切な教育といえません。そこで、充分な英語力のない留学生に向けて、多くの大学ではファンデーションプログラムを設けています。エッセイライティングやディスカッション、質問の仕方などの他、アイルランドでの学習姿勢といったことまでを学ぶ、大学で授業を受ける準備をするためのプログラムです。これによって実際大学に入学したときに、日本とは違う教育システムにも適応して居心地よく、早く学ぶことができるようになるでしょう。多くの大学がファンデーションプログラムを持っているので、1年長くなりますが、まずはそれに入ってからというのがいい方法だと思います。
アイルランドには美しい自然があります。多くの大学は素晴らしい環境のキャンパスを持っており、それが大きな特徴です。例えばアイルランド西部のリムリック大学は、その中でも特に美しいキャンパスを持っています。また、大半の大学が地域交流を推奨しており、地域の人々との交流があるので、留学生もコミュニティや社会の一部だということを実感できるでしょう。首都ダブリンでさえも、ロンドンやNYなどと比べると小さな都市ですから、街の中心にいてもそのようには感じないでしょう。小さなコミュニティと広大な自然というのが魅力の一つですね。そして、小さな島国ですが、自然環境や独自の歴史・文化だけでなく、優れたテクノロジーを持っており、多くの国が盛んにR&D活動を行う先進国ですので、学生も優れた技術に触れることができます。
また、日本人はビザが必要ありません。ただし、お隣の英国は必要なので、英国以外の国を経由して来ることをお薦めします。ワーキングホリデービザもあり、短期間だけ学びたいという人は働くこともできます。長期留学の学生も、授業期間中は週に20時間まで、夏休み4ヶ月はフルタイムで働くことができます。最後に、ヨーロッパのどの国にも近いので、アイルランドに留学しながら他のヨーロッパの雰囲気を味わえるのも、魅力の一つです。大西洋に浮かぶ島ですが、ヨーロッパ諸国への旅費は安く、ダブリンから英国、スペインやイタリア、フランス、チェコなどへの飛行機代は時には無料になり、支払いは税金のみでよいという場合もあります。つまり、先進技術と文化や歴史、自然、そして「Craic!」全てが楽しめる国なのです。
留学生の総数は増えています。日本人留学生は少数ですが、恐らくその原因は英語力だと思われます。また日本では留学が就職にプラスになるとは限らないため、留学したいという動機付けが難しいということも言えるでしょう。またデータはありませんが、語学学校などで学ぶ日本人はもう少し多いと思います。
留学生出身国1位はアメリカで、これは英語が通じるという理由のほかに、歴史的につながりが強く、アイルランド系アメリカ人が5000万人もいることが挙げられます。アイルランド国民が400万人だということを考えるとこれは大きな数字です。中国やインドは人口が多い上に、最近留学熱が上がっている国です。その他はEU諸国が多く、これは地理的な要因が大きいでしょう。珍しいのはマレーシアで、これは伝統的に薬学部門で強い関係性を持っています。薬学博士を取得するマレーシア留学生が多く、卒業後もアイルランドにとどまり病院に勤めるケースが多いようです。ある大学ではマレーシアにもキャンパスを持っているくらいです。また最近EUに加わり、アイルランドと似た部分が多いポーランドは、今は経済不況ですけれど、昔経済が好調だったときにはたくさんの人がアイルランドに来て働いていたため関係性が強いです。
キャリアパスにも関係あるようですが、留学生に最も人気があるのは、国際関係学を含めたビジネスです。次が薬学、そして文学を含めた人文科学です。人文科学が多いのは、やはり有名な作家が多いからでしょう。James Joyceやイエーツ、小泉八雲など、アイルランドは国際的に文学が有名ですし、文化や文学に興味を持っている留学生は多いようです。また、日本人学生は、大学でも英語を学ぶ割合が大きく、人文科学がそれに続きます。
アイルランドを含めEUの学生は、全てCentral Application Office(CAO)を通って大学に入学します。CAOが毎年大学各部の入学に必要なポイントを定めていて、学生は高校の最終試験の成績によってそのポイントを得ます。ビジネスが人気で、学生の希望が多い時には必要ポイントが高くなりますし、薬学は今でも難しく、ポイントが高い学部です。EUの学生はこのように競争率の高いシステムを通るわけですが、他国の留学生はそこまで競争は激しくなく、一番大切なのは語学力です。「留学パーフェクトガイド」にも、必要なTOEFLテストのスコアが書いてありますが、だいたいTOEFL PBT550点(TOEFL iBT79点)以上と考えていいでしょう。中にはTOEFL PBT600点(TOEFL iBT100点)以上の大学もあり、これだけでも語学力のハードルが高いことがわかると思います。一般的に日本は教育水準が高いので、高校でいい成績をおさめていて語学力さえあれば、アイルランドの大学に入るのはそれほど難しくないでしょう。ただし、専攻コースにもよりますが、中には、例えば薬学部に進むためには科学で何ポイント以上必要といった細かい条件がつく場合もあります。日本にはこういった最終試験がありませんが、アイルランドの大学も、高校の成績がよければそれを評価するというように柔軟に対応しています。
アイルランドの大学の大半でTOEFLテストスコアは有効です。「留学パーフェクトガイド」に明記していない大学もありますが、皆認めていますし、どの程度の英語力かということも理解しています。ただし、アイルランドの大学が要求するTOEFLテストスコアはかなり高いため、高校を卒業してすぐアイルランドに留学したいという日本人学生には難しいレベルかもしれません。
帰国者はみな留学をとても楽しみ、何かしら関係のある仕事をしたいと思っていたり、また旅をしたり、頻繁に友人を訪れたりというように、アイルランドとの関係性を強めているようです。留学は学ぶだけでなく、将来にわたってもアイルランドとのコネクションをもってビジネスを展開することができます。先ほどの「Craic」に表されるように、楽しい大学生活や生活そのもの、温かい人との交流や文化も楽しむようです。パブに一人で行っても必ず誰かが声をかけてくれる、そんな雰囲気が学生にもいい影響を与えているのだと思います。アイルランド人は話すことが大好きなので、友人もたくさんできるでしょうし、留学体験はとてもいい経験となるでしょう。 日本人初のアイルランド留学生で全過程を修了した方とよく話しますが、彼は初め英語があまり話せなかったのですが、勉強して留学し、アイルランドで勤めながらボランティアで警察官もしており、日本人観光客を助けるなど活躍しています。
アイルランドに来て、Live, Laugh, Learnしてください!これが皆さんへのメッセージです。世界第2位の経済国である日本が、その地位を守るためには、もっと国際的になる必要があります。アイルランドに限らず、色々な国で学ぶことは、日本人がビジネスで成功するために必要なことだと思います。だからいつでも何度でもアイルランドにいらしてください!天候も温暖で、雨は降りますが湿気があまりなく、1年を通して過ごしやすい国ですよ。