このコーナーでは俳人 灯声こと中村忠男さんに、世界で最も短い詩の形といわれる「俳句」について、日本語・英語のバイリンガルで俳句の魅力・楽しさを解説いただきます。
中村さんは、日航財団の常務理事として勤められるかたわら、世界に発信する文化として日本語・英語両方での俳句作りに取り組まれています。毎月の中村さんの季節感あふれる一句と、季語や句への思いがどう英語になっていくのかを是非お楽しみください。
今号は、7月と8月の俳句を詠んでいただきました。
灯声(中村 忠男氏)プロフィール
財団法人日航財団 常務理事
1950年生。東京大学法学部卒
1972年日本航空入社
2007年より現職
ジョージタウン大学大学院国際関係修士(1978年)
俳誌「春月」同人
7月の俳句
Fourth assignment overseas
favorite chilled tofu
simple taste of home
(解説)
三回というのはなにかと区切りに使われる数字です(仏の顔も三度など)。三回の海外勤務を終えて年齢的にももう退職まで国内にいるだろうと思ったら、四度目の海外勤務となった。いつもの冷奴を食べながら、心の中にいろいろな思いが去来している。そんな情景を詠んだ句です。冷奴は夏、湯豆腐は冬の季語。家庭的な食べ物で健康にもよさそうなので、海外でもよく恋しくなります。豆腐の訳のbean curd を使わずここではそのまま tofu を使いました。それで結構通じますし英英辞典に tofu で出ています。最近は若い人の間でも、海外勤務の人気が低下しているという話を聞きます。国内の魅力が増したのかも知れませんが、若い人たちの好奇心や冒険心の低下が気になります。
8月の俳句
The blinking wing lights are gone
starry autumn night
no moon
(解説)
8月7日は立秋。実際はまだまだ暑いのですが、この日を過ぎると残暑となります。盛夏の頃と較べると空気も澄んできます。新涼、秋めく、盆、花火、蜩(ひぐらし)、朝顔というような言葉がこの頃の季語です。星月夜(ほしづきよ、ほしづくよ)もそれに属します。秋らしく澄んだ夜空に星が輝き、月の光に照らされたように明るく美しい夜のことです。この句は、飛行機がライトを点滅させながら飛び去った後、美しい星月夜に見入っているという情景を詠んだものです。空港の近くと考えると分かりやすいかもしれません。Starry nightという表現が星月夜にぴったり当てはまりますが、季節性を帯びていませんのでautumn を追加しました。それと、月が出ていないことも。星月夜、きれいな言葉です。