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For Lifelong English

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様々な世代の人々が様々な場で、生涯を通して何らかの形で英語にかかわって仕事をしています。英語は人それぞれ、その場その場で違います。このシリーズでは、英語を使って活躍する方にお話を聞き、その人の生活にどう英語が根付いているかを皆さんにご紹介し、英語の魅力、生涯にわたる楽しさをお伝えしていきます。英語はこんなに楽しいもの、英語は一生つきあえるもの。ぜひ英語を好きになってください。

第23回 Lifelong English – NHK「えいごであそぼ」の現場を見る!その1

吉田秀樹(よしだ ひでき)氏

吉田 秀樹(よしだ ひでき)氏
NHK「えいごであそぼ」プロデューサー
平成8年NHKエデュケーショナル入社
平成18年より現職

鈴木 佑治(聞き手)

鈴木 佑治 先生
立命館大学生命科学部生命情報学科教授
慶應義塾大学名誉教授

コンセプト

鈴木:
今回はNHK「えいごであそぼ」のプロデューサー吉田秀樹さんにインタビューしていきたいと思います。私は2001年から、この番組でアダム・フルフォードさんと一緒に英語監修をやらせていただいていますが、吉田さんは今までどのような番組を作られてきたのでしょうか。
吉田:
平成8年に入社して、子ども番組を中心に制作しています。健康関係、料理関係の番組も担当したことはありますが、「おかあさんといっしょ」「天才ビットくん」を経て、2005年から「えいごであそぼ」を制作しています。
鈴木:
それではまずは「えいごであそぼ」のコンセプトを教えてください。
吉田:
この番組は未就学児全般が対象になりまして、とりわけ5歳、6歳の小学校に上がる直前の子どもをターゲットにしています。実際は「えいごであそぼ」だけを特に見るのではなく、子ども番組が集まっている時間帯の他の番組と合わせてご覧になるというご家庭が多いようです。放送は月曜日から金曜日の午前7時50分からと午後5時15分からの10分間で、2回とも同じ内容になります。朝ですと、幼稚園の準備などをしている時に、午後はお母様が夕食の準備をされている時間だったり、小学生ですとちょうど帰宅してからの自由時間だったりという時にご覧いただくことが多いようです。
鈴木:
一連の子ども番組を見ながら、その続きとして、この英語の番組も見ていくようになっているわけですね。10分間というのは短く感じますが、子ども向け番組はこのくらいなのでしょうか。
吉田:
それぞれに違います。例えば「おかあさんといっしょ」は25分ですし、他でも15分番組があります。5分というのもあり、それぞれ番組が持っている特性を生かしたつくりになっています。番組としては長かったとしても、コーナーを区切って多彩なコンテンツを並べるなど、集中力を持続してもらえるよう工夫しています。それから前後の番組編成もありますので、それらも含めトータルで楽しんでもらえるようにしています。
鈴木:
この番組は言語としての英語を取り上げるだけでなく、コミュニケーションということにも力を入れているということですが。
吉田:
はい、コミュニケーションをとるというと、幅広くとられるかもしれませんが、我々が目指しているのは、番組を見ている間に、一言でも二言でも英語を発語して欲しいということ、そしてさらに番組が終わったあと、例えば朝幼稚園に行ったときや、夜お風呂に入ったときにその日聞いた単語が一つでも出てきたり、フレーズが一言でも出てきてくれたりしたら最高だと思っています。それから、その単語を言った子どもがほめられるシチュエーションがあれば、それが英語への興味の第一歩になるのではないかとも思っています。
鈴木:
子どもは、鉛筆やクレヨンという道具をつかって絵を描くことを喜ぶように、大人より道具が身近だから、それと同じような感覚で、英語も道具として一つ二つ手に入れて、触れてもらえればいいな、しゃべってもらえればいいなと。そういった発想ですよね。
吉田:
そうですね。そのためにも番組の中では、なるべく一つの言葉を繰り返し、興味を持ってもらえるような仕掛けや工夫をしています。また、歌やダンスなど、子どもの注意をひくようなものや、興味を持ってもらえるようなゲームを提供して、飽きられないよう、遊びながら番組を見てもらえるようにしています。

ロゴ

【アートディレクター佐藤可士和氏デザインの番組タイトル】

制作の工夫

鈴木:
テレビですから、対象が誰であろうとエンターテインメントは非常に重要な要素ですものね。基本的には、教えるのではなく、楽しみながら自然に英語を理解する内容としているということですね。昔僕らが中学で英語を習ったときは、英語というと状況設定は日常からかけ離れた外国だったんですよ。でも今は違いますね。
吉田:
この番組では子どもたちの生活に近いものを設定しています。それで英語を発語するチャンスを増やしたい。英語は自分達から遠いものではないんだということを理解するために、商店街で見つけたものの話をするなどして、そこでも英語をしゃべるチャンスはあるんだと気付いてもらいたい。遊んでいる最中でも、子どもたちは意外とたくさん英語に触れています。そういったものも英語だったのかと気付いてもらえたらいいですね。
鈴木:
生活の中に英語が入っているという現状がありますね。例えばウォーターとか。子どもが普通に使っているものを町で見せて、自然に英語を理解する。それでロケをやっていらっしゃるんですね。
吉田:
そうです。子どもたちがテレビと同じようなシチュエーションになった時に、あの時に言っていた○○だなと、思い出してくれればと思います。
鈴木:
でも自然にというのは実は結構大変なんですよね。例えば、金曜日にエリックさんがロケ先で子どもたちと一緒に歌うコーナーがありますが、自然に遊んでいるように見えますけれど大変でしょう。

エリックさん

【一緒に歌おう!エリックさん】

吉田:
やはり普段遊んでいるのとはわけが違います。大人が7、8人押しかけてきて、カメラが回っていますから。カメラが入った時点で普段のように遊ぶというのはちょっと難しいでしょう。エリックさんもテレビで見ている人がうちに来たという感覚でしょうか。それでも何回か歌ううちに、みんなが楽しく出来るようになっていきます。その時集まった子どもたちにもよりますが、1回でスッとできる場合もありますし、ある場合は2回、逆に何回もやると、新鮮さが失われたり、子どもたちの喜びや驚きが伝わりにくくなったり、ということもあります。エリックさんがやっているのは、日本の子どもたちはこういう風に英語を学んでいくのかもしれないという一つの形です。そしてテレビで見たあのような感じで英語と接することが出来たらいいなと子どもたちに思ってもらえればと思います。それからケボやモッチは、日本語を一切しゃべらないので、そんな彼らと会話をしたいなと思って英語を身につけようとがんばってくれたりしても嬉しい。実際、寄せられるイラストに一生懸命英語を書いてくれたりとかしていますね。それも視聴者との大切なコミュニケーションで嬉しいものです。番組内では基本的には英語を使っていて、日本語を使っているのは、タイトルと「えいごふだ」のコーナーくらいです。英語のセリフは、モッチが今なんと言ったかということまでは理解できないかもしれませんが、映像や音も含めたトータルで大意は理解してもらえるように気をつけています。やはり未就学児の場合、特に音楽は耳に残るし、楽しいものとして上手く機能するのではないかと思います。

ケボとモッチ

【人気キャラクター ケボ&モッチ】

鈴木:
音楽と同時に音もですよね。言葉の音というか。子どもはそれにすごく興味を持つ。そういう時期だと思いますね。ですから何のことだかわからなくても、音が入ってくるというのは大きい。僕が小さいときはこんな番組はなかったから、中学からいきなり英語を勉強しました。そうすると、中学高校になってから、余計な時間を発音に費やしてしまう。番組を見ていてもわかるけど、エリックさんと英語の歌を歌うコーナーなんて、だんだん歌っているうちに、子どもたちがエリックさんに近い音になっていくんですね。耳で聞いてそれを言わせるという方法は、なかなか重要です。
吉田:
大人が聞いたらそうは言わないだろうという音を子どもは出しますね。よりネイティブの発音に近い感じなのだと思います。でも子どもたちが何人かいる中で一人ひとりが違ったように発音しているのも面白いです。例えば”Splash”という言葉を聞いて、それを知らない場合、大人はなんとか自分の知っている音に置き換えようとしてしまいますが、子どもたちにはそれがありません。
鈴木:
聞いていると思っているままに発音して近づけていく。エリックさんの口元とか良く見ているもの。音の次に、文字はどのように考えていますか。
吉田:
英語の文字はそれほど理解していなくても、内容は理解できるようにと思って作っています。歌のときもテロップは出しますが、子どもたちは耳だけで聞いて歌っているようです。また、キーワードの部分では、例えばUp/Downというキーワードをここで言っているんだ、ということの合図くらいのつもりで文字を出しています。
鈴木:
カラフルだったりして、視覚的にもエンターテイメント性がある。
吉田:
番組全体のアートディレクターが佐藤可士和さんなので、キャラクターのケボとモッチをはじめ、番組タイトル、文字フォントなども作っていただいたのですが、子どもが親しみやすい、かっこいい、惹かれるようなものになっています。
鈴木:
目と耳、ビジュアルと音で非常にうまく訴えていますね。あとはアニメーションの部分、えいごふだのコーナーですよね。あれはどういった効果を狙っているのでしょうか。
吉田:
子どもたちはアニメーションが好きですし、それから人間では表現できない部分をアニメーションでやったり、シチュエーションの設定などがよりストレートでわかりやすくなるという効果があります。例えば危険な状況で発する”Help!”という言葉は、知っていたほうがいい大事な言葉ですが、それを使う状況を説明する場面などは、実際の映像でつくるのは非常に難しいことです。また、キャラクターとして札を使っているのは、英語だから西洋文化にありそうなものをというよりも、あえて和っぽいイメージでギャップを作り、子どもたちに親しみを持ってもらえるようにと制作しています。自分で作って家で遊んでくれている子どもたちもいるよ うです。

えいごふだ

【アニメーション「えいごふだ」のキャラクターたち】

キーワード方式

鈴木:
毎回キーワードを紹介していく方法をとっていますが、あれは作るのが大変だったよね。今、いくつくらいありますか。
吉田:
現在40ペアあります。1年間でこの40ペアを繰り返し手法を変えて紹介しています。「GO/STOP」というような対比の言葉を組み合わせたものが多いですが、「1.2.3・・・」といったものもあります。ただ、1年で、というのは番組の気持ちであって、これらを全部覚えなければいけないというものではありません。例えば、「PUSH/PULL」を最初の月曜日にやったから、木曜日には「PUSH/PULL」はもうわかったよね、というような番組作りはしていません。毎日放送しているからと言って毎日見ているとは限らないので、その日だけ見ても理解してもらえるように作ろうと思っています。
鈴木:
このキーワード40ペアに入っている言葉は、実はネイティブ社会でも重要な言葉なんですね。イギリスの出版社が出している、小学校に入るまでに習っておきたい基本語1000の中にすっぽり入る言葉たちです。もう一つは、英語のありとあらゆる発音、母音、子音をカバーしています。そういうものを習っていると意識させないで、繰り返し出てくるようになっている。恐らく日本の子どもたちが日本語を学ぶときも、よくわからない言葉を聞きながらもいつの間にかなんとなく覚えて理解していく、ということを、英語でも同じ手法でやられていますね。
吉田:
そうですね、ネイティブの家庭でも、赤ちゃんに英語を教えるときにこういう風にやっているようです。ケボとモッチのやり取りでは、設定ではモッチが年下なので、例えば”Bird!”と単語だけで言うんですが、ケボがその後に”Yes, it’s a bird!”と言ったりするのは、一般のネイティブの家庭でもやっていることを参考にしています。

鈴木の感想

「えいごであそぼ」は1990年に始まった長寿番組の一つです。私は2001年から英語監修という立場で参加しています。私も時々番組制作の会議や収録に立ち合わせていただきますが、10分程の番組を作るのに色々な分野のプロが集まり話し合い協力しながら番組を作ります。英語を勉強するのではなく英語で遊ぶという発想を番組に定着させるのは簡単ではありません。時間を掛けて関係者の意見を聞き番組制作の責任者として決断しながら滞りなく番組を作らなければなりません。私が始めて参加した当時こども幼児部部長の中澤俊哉氏が、その後エグゼグティブ・プロデューサー松村浩志氏が、そして現在チーフ・プロデューサーの吉田秀樹氏がそうした責任を負ってきましたが、一緒に制作会議に参加しながら私自身「じっくり手間と時間を掛ける」ということの大切さを改めて実感し授業に活かしております。吉田さんの言葉の節々には幼児が親しめる番組の制作の為に日夜時間と労を惜しまずに励んでいることが滲み出ています。

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