For Lifelong English
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様々な世代の人々が様々な場で、生涯を通して何らかの形で英語にかかわって仕事をしています。英語は人それぞれ、その場その場で違います。このシリーズでは、英語を使って活躍する方にお話を聞き、その人の生活にどう英語が根付いているかを皆さんにご紹介し、英語の魅力、生涯にわたる楽しさをお伝えしていきます。英語はこんなに楽しいもの、英語は一生つきあえるもの。ぜひ英語を好きになってください。
第33回 Lifelong English – 明治大学法学部教授・堀田秀吾先生に聞く その1

堀田 秀吾先生 プロフィール
1991年 東洋大学文学部英米文学科卒業
1999年 アメリカ・シカゴ大学大学院言語学部博士課程修了
2000年~2008年 立命館大学 法学部・大学院言語教育情報研究科(助教授)准教授
2005年 カナダ・ヨーク大学オズグッド・ホール・ロースクール修士課程修了
2008年 カナダ・ヨーク大学オズグッド・ホール・ロースクール博士課程単位取得退学
2008年 明治大学法学部准教授
2010年 明治大学法学部教授

聞き手:鈴木 佑治先生
立命館大学生命科学部生命情報学科教授
慶應義塾大学名誉教授
英語との出会い
鈴木佑治先生:今回は明治大学の法学部の教授でいらっしゃる堀田秀吾先生にインタビューします。多方面でご活躍の先生です。ではまずプロフィールからお伺いしたいのですが、お生まれはどちらですか。
堀田秀吾先生:熊本県八代市に生まれ、幼稚園から埼玉県です。
鈴木佑治先生:英語は昔から好きだったのでしょうか。英語との出会いを教えてください。
堀田秀吾先生:
中学校のとき、まだ1年生で英語を勉強したことがなく全然分からなかったのに、授業で友達について英作文で書いてみろと言われたことがありました。その時、「彼は面白い人だ」ということを言いたかったのですが、例えば、”funny”という言葉を知らなかったので、とりあえず”happy”を使ったんです。“He is a happy guy.”と書いたら、英語の先生がすごく喜んで「これは面白い。こういうセンスは大事だ」と、誉めてくれたんです。人間そういう風に誉められると悪い気はしないので、何となく英語を好きになっていきました。この先生は本当に一生の恩師です。お陰さまで英語はその後もずっと好きで、その先生への憧れというのもあり、留学するまでは中学か高校の英語の先生になるつもりでした。それが英語との出会いです。
鈴木佑治先生:その先生が見たのは英語力というよりも、センスというか光るものですね。火花のような言語への発想力というか。幼稚園から始まって、小中高で子どもの光るものを見られる先生って本当のプロですよね。勉強が出来るか出来ないかは関係ない。
堀田秀吾先生:僕はどちらかと言うとやんちゃな方でしたから、勉強はからっきしでしたし。
鈴木佑治先生:私もそうだったんですよ。小中学校、机もなかったから勉強なんて(笑)。そういう原体験が誰にでも必ずあるんですね。
堀田秀吾先生:僕の場合は、先生といったらとにかく敵でした。怒られるばかりで、勉強のことで誉められるということはまず無かったのに、その先生は全く偏見なしに、たった一行の英作文を見て誉めてくれた。しかも、僕のいないところで他の先生にも「堀田は面白いセンスを持っている」と誉めてくれて、それを聞いた他の先生が「堀田、お前何か面白いものを書いたらしいじゃないか、すごく誉めてたぞ」と言ってくれる。それを聞いて調子に乗ってしまうんですよね、若いから。ただ、それからまた道は外れて行くんですけれど(笑)

英語から離れ 英語へ戻る
- 鈴木佑治先生:
- どういう風に外れて行くんですか。
- 堀田秀吾先生:
- バンドが大好きなので、バンドに力を入れていた時期がありました。
- 鈴木佑治先生:
- 音楽やったり、野山を駆け巡ったり?
- 堀田秀吾先生:
- その通りです。埼玉の山の奥の方なので、かなり。これは、人生の意味においては、大きな糧になっていると思います。
- 鈴木佑治先生:
- どんな音楽をやっていたのですか。
- 堀田秀吾先生:
- ロックですね、ロックンロール。あと、ヘビーメタルとか。聞くのはディープ・パープルも聞きますが、弾くときは、日本のバンドではラウドネス。彼らはものすごくうまいんですよ。向こうですと、ヴァン・ヘイレン、あとはオジ―・オズボーンなどをよく弾きます。
- 鈴木佑治先生:
- 堀田先生のウェブサイトのプロフィールページでもギターを弾いていらっしゃいますね。それではずっと中学高校でバンドを組んで、音楽に明け暮れていたのですね。
- 堀田秀吾先生:
- 写真を見るとびっくりしますよ。こんな(手で髪の毛を立てるように)髪型で、長いですし。ただ、高校では陸上部に入ったので、さすがに長髪が難しくなり少し短くなりましたけれど。でもその頃は洋楽ブームでしたし、歌詞は英語なので、英語から全く離れていたわけではなかったかもしれません。
- 鈴木佑治先生:
- どのような高校生活をおくられたのでしょうか?
- 堀田秀吾先生:
- これが勘違いなのですが、高校を受ける時に、親父が国立に行けと言うものですから、近くにあった筑波大附属坂戸高等学校に入りました。ところがそこは機械科だったんです。つまり理系です。物理とか化学とか流体力学とかをいろいろ勉強させられて、実習とかで毎日油にまみれる生活はイヤだな、これは合わないと思い、何か違うことをやりたいと思ったときに、英語があるじゃないかと気付いたんです。でも機械科から文学部の英文科を受ける生徒なんて普通いないですよね。機械科がやる英語のカリキュラムは、普通の高校の何分の一でしかありませんから。それで高校の後半になってちょこちょこと英語の勉強をやり始めました。そうしたら自分で言うのも何ですが、なぜか英語だけはまあまあ出来たんです。それで英語はやっぱり自分に合っているのかなというイメージで大学の英文科に入りました。

大学院留学を目指し猛勉強
- 鈴木佑治先生:
- 大学では英文学を専攻したと伺いましたが。
- 堀田秀吾先生:
- 東洋大学の英米文学部です。それがまた勘違いだったのですが、文学部って英語を勉強するところではなく、文学を勉強するところなんですよね。
- 鈴木佑治先生:
- そう。翻訳をさせられたりするし、逆に日本語に関心をもたされるというか。英文学部で英語が勉強出来ると思っていたら違うこともあるんですよね。もちろんそういう英文科もあるけれども。
- 堀田秀吾先生:
- 当時はまだバリバリに文学をやっている古き良き時代の、英語の発音なんてどうでもいいという先生がたくさんいました。でも、そんな先生たちの中に、アメリカのカリフォルニア大学バークレーに留学して帰ってきたネイティブみたいなかっこいい英語を話す言語学の先生がいたんです。
- 鈴木佑治先生:
- バークレーというとジョージ・レイコフのところに行ったんですね。
- 堀田秀吾先生:
- はい。あと、フィルモアとかもいましたよね。一番いい時代に留学されているんですよ。その先生にいろいろな話を聞きました。言語学の話では、まさに英文法とか生成文法で、文章を分析していくというのが、僕にはどちらかというと性に合っていたんですね。それで言語学は面白いなと思うようになり、これをもうちょっとやってみようという気持ちになりました。すると生成文法はアメリカが本場なので、留学を考えるようになりました。アメリカに留学して帰ってきたら、英語の先生になっても箔がつきますし、英語がしゃべれるようになるだろうと。
- 鈴木佑治先生:
- それでは留学を目指して、かなり英語を勉強されたのではないですか。
- 堀田秀吾先生:
- そうです。これは聞くも涙、語るも涙の話です。2年生の時にその先生に会い憧れて、最初はバークレーに行きたいと思いました。でもTOEFLテスト(当時はTOEFL PBT)では600点くらい取らなければいけないし、大学生の英語力なんて自分でもひどいものだとわかっていましたので、とにかく英語を勉強しなければと思いました。
- 鈴木佑治先生:
- TOEFLテスト600点ですか、これはもう大変な高得点ですね。帰国子女レベルの点ですから。
- 堀田秀吾先生:
- はい。大学としても前例がないということで、ノウハウもありませんでした。当時は、大学院に入ってから留学した人はいても、学部から海外の大学院に直接行った人はほとんどいなかったので、絶対無理だと。ただ僕は負けん気が強いので、それなら俺がやると(笑)。ここで成功しなければと、とりあえずやみくもに、本当に朝から晩まで勉強していました。これは自分の一生の中で一番勉強したのではないかというくらい。受験勉強の10倍は勉強していました。TOEFLテストだけでなくGREもあり、これが恐ろしいほど難しくて、世の中にこんなに難しい試験があるんだと思うくらいでした。25,000語ぐらいの単語を覚えなければいけませんでしたからね。
- 鈴木佑治先生:
- バークレーを目指すとなるとね。
- 堀田秀吾先生:
- もう毎日、寸暇を惜しんで勉強です。自慢話ではなく苦労話として聞いて欲しいのですが、いまだに「お前は温泉に行ってもバイクの後ろに乗っても常に単語を覚えていた、勉強していた」と友人に笑われます。でも当時はそうでもしないとこれはまずいと、とりあえずがむしゃらにやってやろうと思っていたんですよね。大学から家に4時か5時に帰ったら、朝3時まで勉強のスケジュールを組み、60分やったら5分休むというのをご飯とお風呂の時間以外は、とにかく毎日やりました。本を2メートルぐらい積んでいましたね。あの時は本当に勉強したと思います。
- 鈴木佑治先生:
- どのぐらいの期間ですか。
- 堀田秀吾先生:
- 留学する前の1年半ぐらいですね。
- 鈴木佑治先生:
- ヒアリングはどのように勉強しましたか。
- 堀田秀吾先生:
- とにかく本当にずーっと聞いていました。話すのも必要だと思ったので、日曜日の時間のある時には、横田基地に出入りしていた友人に基地に連れて行ってもらいました。それと独り言を英語でたくさん言いました。
- 鈴木佑治先生:
- 英語に浸る、ということですね。
- 堀田秀吾先生:
- そうですね。朝から晩まで電車に乗る時も。そうしないとあちらに行ってもたぶん話せないだろうなと思ったのですが、これはいろんな意味で活きました。当時ちょうど吉田研作先生の「起きてから寝るまで表現」シリーズが出て、まさにあのつぶやきをずっとやっていました。吉田先生のNHKテレビ「英会話Ⅰ」もよく見ていました。
- 鈴木佑治先生:
- あらゆる勉強方法を全てやっていたんですね。
- 堀田秀吾先生:
- 何も分からなかったので、何でも試さなきゃいけなかったんです。独り言は口で文章作れるようになりますから留学後もいろいろ活きました。でもどうしても違うなと思ったのがタイミング。文は作れるけれど、相づちのタイミングがわからない。“uh huh~”にしてもどのタイミングで入り込んでいくのか。しゃべれるし聞けるけれど、コミュニケーションというのはそれ以上のものがあると思いました。最初はそれに苦労しました。でも口語表現を勉強するとTOEFLテストにも活きるし、かつ向こうに行ってからコミュニケーションをいい感じに取れる。面白い表現を知っていると、アメリカ人が喜んでくれるんですよ。そんな表現、おじいちゃんがよく使っていたとか(笑)。話の種になるんです。そういった表現を学ぶのが趣味なのですが、それが続いてこの間出版したフレーズ集(*)になりました。私は監修で文自体はネイティブが書いていますが、日本語と英語に差がある表現を意識して3000個入れています。面白く仕上がっていると思うので、TOEFLテストの勉強にも活かして欲しいですね(笑)。

TOEFLテストの勉強が留学中に活きる
- 鈴木佑治先生:
- 留学するためにTOEFLテストの勉強をしたわけですが、その勉強は全然無駄になっていないですよね。
- 堀田秀吾先生:
- まったく無駄になっていませんし、ものすごく役立ちました。向こうへ行っても、そういう経験なしに留学してきた人達と比べれば少しはしゃべれたので、良かったと自分で感じました。先ほどの口語表現も、学校では習わない口語表現が、実はTOEFLテストのなかには結構出てくるんです。ある時こんなの習ってないなと気付いたんですね。だからスラング表現や口語表現の本を買い集めて、それをとにかく聞きまくり、耳から覚える。例えば”I have it in for you”という表現なんて、みんな知っている単語で出来ているけれど、パッと聞いても意味が浮かんでこない。実際にはつなげて発音されるから、知っている単語さえもよく聞き取れない。だから耳から勉強したらまた違うのではないかと思ったんです。こういった勉強は当然TOEFLテストでも活きたし、もちろん会話でも活きました。それでその時学んだのが、音の変化がかなり起こっている表現。日本の教材はあまり音の変化が起こっていないんですよね。例えば”in there” も、日本のだときちんと「インゼア」と発音するけれど、向こうだと「イネア」でしょう?だらしない(=わざわざ聞き取りやすくしない)発音がいっぱい入った教材があったので、あ、こんなふうに音って変わっていくんだというのを体験として学びました。これもTOEFLテストの勉強のためにやったことなんですよ。
- 鈴木佑治先生:
- それをやることによって意識させられたんですね。
- 堀田秀吾先生:
- そうなんです。例えば文中の”would” も、実際にはすごく弱く発音されていて、聞き取れるか取れないかくらい。でもTOEFLテストはそこを聞いてくる。”would”が過去の習慣を表していたりするからですね。先ほどの”I have it in for you.”も、見た目では意味が分からないじゃないですか。「恨みを持っている」という意味なんですけれど。そういう表現こそTOEFLテストで狙われるんだということが見えてきた。なんとなく聞き取りにくく、聞き取れたとしても見た目と意味が全然違う表現。こういったフレーズは、実際の会話でも使えるものばかりなんですよ。
- 鈴木佑治先生:
- 例えばね単純なフレーズ”Is it yours?”も、人が着ているシャツを指差して言ったら、「これはお前盗んできたのか?」ということになってしまうじゃない。日本の教科書だと所有格を教えようとする方が先行して、コンテクストを無視するからおかしなことになってしまう。
- 堀田秀吾先生:
- ”You are on the grass.”も、直訳すると「あなたは芝生の上にいます」なんですが、「芝生からどけ!」という事なんですよね。「芝生を踏んでいるよ、入っちゃいけない」という、実は注意なんです。こういうおかしい例文はかなりありますよね。
*堀田秀吾先生が4月出された新著:
「ネイティブあたまで・何でも・言える英会話フレーズ辞典」(新星出版社 ジェフリー・トランブリー著/堀田秀吾監修)
鈴木佑治先生の感想
次号でも触れますが、外国に住んでいると驚くべきことがあります。ある分野で一流の人が、それだけではなく他の分野でも優れた才能を持っていることです。生成文法の発案者であるチョムスキーは言語学で雲の上の存在ですが、ラジカルな政治学者としても有名で、一時期はそちらの方の活動が目立っていたほどです。脳神経学者のダニエル・デネットは意識を研究する脳神経学の巨人ですが、一流のバリトン歌手でもあります。堀田先生は、言語学、法律、そして音楽と多彩な才能をもつ大学人です。日本で縦割り学問の枠を突き抜けて活躍する学者が出てきたことはとても心強いですね。これから世界を目指す若い方々には一つの指標になると思います。次号をお楽しみに。

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