英語教師による英語教師のための情報シェアの場「達人セミナー」通称「達セミ」をご存知ですか。毎週のように自発的かつボランティアで全国各地にて開催され、それぞれの授業方法を公開しシェアしています。基本的には中学・高校の教師の方々が中心ですが、その授業には英語を楽しく学ぶヒントがたくさん隠されています。その中から毎号1名の先生にレポートしていただきます。
今回のヒントはこれ:
和田 玲 先生
単語・文法・構文の勉強は沢山積んでいるのに、リーディングは苦手だという人たちはとても多いですよね。途中で息切れして最後まで読み通せなかったり、テスト時間内に解答を終えられなかったり、あるいは先を読み進めていく内に最初の方の内容をすっかり忘れて何を読んでいたのか全くわからなくなってしまったりといった悩みを抱えた学生たちが毎年後を絶ちません。僕の用語で言うと、「疲れてグッバイ」、「遅くてグッバイ」、「迷子でグッバイ」という症状の人たちです。略して、3大グッバイね(笑)。リーディングが苦手な人たちの多くは、この3大症状のいずれかにかかっています。大抵、次の2つの力の内のどれかが欠けているのだろうと思います。
【リーディングが苦手な人に欠けている力】
以下に、それぞれの処方箋をご紹介します。
英語を英語の語順のまま理解していく力のことです。「疲れてグッバイ」と「遅くてグッバイ」の人たちは、大抵英語を読むときに頭の中で一生懸命日本語に訳す作業をしたり、SとかVとか格好悪いカッコをつけたりして必死に格闘しています。こんなことをやっていれば、当然疲れるし、遅いしで嫌になっちゃいますよね。だから、できる限り英語は書かれてあるまま左から右にスラスラ読めるようにならないといけません。それにはズバリ、【サイトラ→音読→暗唱】というステップが有効です。これは復習の中で行います。一度理解した英文を徹底的に読み込む復習をすることです。
これは、チャンク毎に区切り目を入れて、語順通りに意味を掴んでいく練習のことです。こんな感じで練習します。
Nigirizushi, / which originated in Tokyo, / is a simple variety of sushi / consisting of small oblong balls of vinegared rice / topped with a thin slice / of raw fish or shellfish.//
「にぎり鮨というのは / 東京で生まれたものだが / それは簡単なタイプの寿司である / 小さな長方形の酢飯の塊からできている / その上に薄い切り身をのせている / 生の魚介類の。」
これを声に出しながら行います。英語をかたまりごとに音読し、すぐ日本語の意味を浮かべてみる。わからなければすぐに訳を見て確認します。それを数回行うと慣れてくるので、今度は英語のまま理解できるか試し、徐々に日本語から離れていくようにします。
次に、発展的な音読練習に移ります。サイトラで語順通りに読むことに慣れたら、次にセンテンス音読というのをやってみましょう。今度はチャンク毎ではなく、文頭から文末までを英語のまま一気に理解できるようにする試みです。まだ難しいと感じれば、チャンク2つ分くらいのまとまりからスタートし、徐々に2つ、4つと広げていって、最後にはピリオドまでを一気に音読して理解できるようにしていきます。
これもできたら、次はスピード音読です。意味理解が可能なギリギリの最高速度で音読します。これによって、英文の理解速度を高めます。速読力・リスニング力のUPにも有効です。
このように一つの英文を徹底して読み込んでいくと、やがて暗唱状態に入ります。英語が頭に残る状態です。僕の経験からすると、大体20回以上音読し終えたあたりから徐々に英文が頭の中に残っていくようになりました。直読直解力を伸ばすには、この暗唱状態を作り出すことが圧倒的に有効です。
例えば、皆さんがこんな文章を暗唱したとしましょう。It has been more than 10 years since the first consumer hybrid car started running in 1997.(1997年に大衆向けのハイブリッドカーが走り始めてから、10年以上が経つ。)そこで皆さんは、別のテキストでこんな一文に遭遇したとします。Since it has been more than 30 days since you received this request, I am requesting the medical records again. (この要請を受領されてから30日以上経過しておりますので、カルテの送付を再度お願いする次第です。)すると、皆さんはすでにit has been more than … since [S+V過去形]~(~してから…以上が経つ)という表現をかたまりで理解できるはずだから、Sinceから始まる副詞節は一気に理解できるはずですね。あとは主節をシンプルに読めればいい。つまり、本当の速読力というのは、決して目を早く動かしたり、頭を高速回転させたりすることではなく、表現の習熟度を高めることなのではないかと僕は思います。
最後に日→英トランスレーションに仕上げます。日本語訳を見た瞬間に、同時通訳さながら一気に英文を口で言うという挑戦をしてみます。これがスラスラできるところまでいったら、「復習は完了」ということにします。
以上が、直読直解力を高める学習法です。「疲れてグッバイ」・「遅くてグッバイ」の人たちへの処方箋でした。
「迷子でグッバイ」の人たちはどうしたらよいのでしょうか?この人たちにはズバリ、論理を読み解く力を伸ばすことが求められています。長文の論旨をシンプル、かつ正確にキャッチする力のことです。ここが、中級者から上級者へとステップアップしていくための壁なんですね。ここを克服できると「迷子でグッバイ」も治ります。が、おっと・・・、残念ながら、どうやらここで紙面の都合上お別れの時間となりました。残念です。このお話についてもっとお知りになりたいですか?もしそうである方は、拙書『論理を読み解く英語リーディング』(アルク)をご一読ください。いい本です(自分で言うな…笑)。
≪参考文献≫