様々な世代の人々が様々な場で、生涯を通して何らかの形で英語にかかわって仕事をしています。英語は人それぞれ、その場その場で違います。このシリーズでは、英語を使って活躍する方にお話を聞き、その人の生活にどう英語が根付いているかを皆さんにご紹介し、英語の魅力、生涯にわたる楽しさをお伝えしていきます。英語はこんなに楽しいもの、英語は一生つきあえるもの。ぜひ英語を好きになってください。
鈴木 佑治先生
立命館大学生命科学部生命情報学科教授
慶應義塾大学名誉教授
生命科学と薬学を含むライフサイエンスは、最もグローバル化された先端分野のひとつです。グローバル規模で展開されるプロジェクトに参加し、様々な国の人々と情報と意見を交換しながらリサーチを進め、その成果をプレゼンテーションし、論文や報告書として発表しなければなりません。そこでの使用言語は、是非はさておき、英語であることは言うまでもありません。立命館大学の生命科学部・薬学部は、そうした英語能力を備えたライフサイエンスの専門家を養成すべく、「プロジェクト発信型英語プログラム」を実践してまいりました。
プログラムはProjects (P) とSkill workshops (S)の2つのモジュールで構成されています。前回解説したコミュニケーション活動を実現するために、前者を中心に後者を支援システムとして連動させてあります。Projectsでは英語でプロジェクトを行い、討論し、成果を発信し、Skill workshopsでは、プロジェクトに必要な英語のスキルを磨きます。大学1年生から大学院までの一貫プログラムで、1年生より以下の要領で履修すると、大学院レベルで専門領域関連のグローバル・プロジェクトに参加し、成果を英語で発表する能力がつくものと考えます。数名の学生が3年生で国際学会に応募し採択されたとの報告を受けていますが、そのことを考慮すると、それほど無理な期待ではないと考えています。なお、Projectsは、大学教員(専任、嘱託、非常勤)6名が担当し、Skill workshopsは、外部教育機関2社に業務委託をしています。
前期 Project 1 (P1) と Skill workshop 1(S1) の2コマを履修 必修科目。
後期 Project 2 (P2) と Skill workshop 2(S2) の2コマを履修 必修科目。
前期 Project 3 (P3) と Skill workshop 3(S3) の2コマを履修 必修科目。
後期 Project 4 (P4) と Skill workshop 4(S4) の2コマを履修 必修科目。
前期 Junior Project 1 (JP1) Project とSkill workshopが合体した専門英語 必修科目。
後期 Junior Project 2 (JP2) Project とSkill workshopが合体した専門英語 選択科目。
英語の授業としてではなく、卒業研究の一部。卒研のアブストラクトを英語で書いて発表する。
前期 Graduate Project 1 (GP 1) 大学院レベルの専門英語、各自の研究について書き発表する。
生命科学部、薬学部とも実験など専門領域科目が多く、英語に割く時間が限られており、英語の必修コマ数は通常の2分の1から3分の2程度です。限られたコマ数で最大限の効果を生むよう様々な工夫を凝らしました。その一環として、ProjectsとSkill workshopsそれぞれの授業活動と到達目標を明確にしました。
日常生活の関心事をテーマに、プロジェクトを組み、英語で自己アピールをします。自分の身の回りの情報を英語で集めて英語で説明できるようにします。
グローバル社会で求められる自己アピールができるようになり、英語の面接に対応できます。Coffee beans, Shinsengumi and Toshizo Hijikata, Great Barrier Reef, The terrific world of soccerなど、毎年、400人余の新1年生がそれぞれの関心事について調べて考えたことを世界に向けて発信しています。テキスト Do your own project in English Vol l. (Yuji Suzuki) Part l (self-appeal, easy presentation)
リサーチとプレゼンテーションの基本スキルを学びます。学生各自がテーマを立て、それに関連する英語の文献を集め、読み、サマリーの書き方を学び、文献リサーチを行います。また、英語のアンケート(questionnaires)やインタビューを通してデータを集めます。序論、本論、結論、参考文献・資料が明示されたアウトラインに沿ってリサーチの成果をプレゼンテーションし、レポートを書いて提出します。scuba diving, early education, Ghibliなど、趣味から社会問題までの関心事をテーマに、内容の濃い発表を行っております。将来配属されるであろう企業や研究室の紹介、商品の説明、接客に必要な英語力を養います。 テキスト Do your own project in English Vol l. Part ll. (research, discussion, presentation)
アカデミック・セッティングのプロジェクトに移行します。ディベートとパネル・ディスカッションの方法を学び、4~5名のグループでテーマを立てリサーチを行い、英語でディベートとパネル・ディスカッションをします。
また、グループごとに、ディベートやパネル・ディスカッションを踏まえてペーパーを書いて提出します。good or bad effects of games, imported food, microbes, eating habitsなど、種々雑多なテーマをめぐり活発なディベートやパネル・ディスカッションが披露されました。アカデミックなテーマについて討論・交渉する英語力をつけます。Do your own project in English Vol ll. (Yuji Suzuki, et al.) Part lll. (group research, debate, panel discussion)
アカデミック・ライティングの手法を学びながらプロジェクトを進め、2000語程度のlong-term paperを書いてプレゼンテーションします。学術学会における論文発表を想定し、リサーチ・ペーパーを書きプレゼンテーションする英語能力を目指します。 このレベルまでくると、”Ideal sleep,” “How should we cut CO2 emissions?” “Guide dogs”など、ライフ・サイエンス関連のテーマが林立します。テキスト Do your own project in English Vol ll. (Yuji Suzuki, et al.) Part lV. (advanced research, academic writing)
Nature誌に掲載された記事を集めたテキストScience Reader ll (Yuji Suzuki, Kevin Cleary, et al.Mcmillan Language House)を使い、諸科学の著名な研究者の研究内容を読み、科学用語・表現を学びます。
同時に、読んだ記事に関連するテーマを基に、グループ・プロジェクトを行い、その成果をプレゼンテーションし、1500語のアカデミック・ペーパーを書き、提出します。専門英語科目であることから、英語教員と専門科目の教員がチームで担当し、専門科目の教員はプレゼンテーションを聞いてその内容を評価します。
学生各自が、海外の大学や研究機関がインターネットで配信している専門領域の講義を聴き、その内容をプレゼンテーションします。そして、講義に関連するテーマを見つけプロジェクトを組み、long-term paperを書いて要点をまとめてポスター・プレゼンテーションをします。
専門科目の教員も参加し内容を評価します。国内外の学術学会や企業発表会でポスター・プレゼンテーションをする英語力をつけます。
英語の聞き、話し、読み、書きの4スキルを訓練し使えるように磨く場です。Projectsと同様に、先生と学生との間で、また学生同士で、英語で密なコミュニケーションをとりながら授業が進められていきます。訓練効果を高めるために、英語能力別にクラスを編成しています。中学校や高等学校で習った文法・語彙・表現を活用して、4スキルを磨くとてもよい機会です。ここでつけたスキルは、Projectsの授業の情報交換、意見交換、プレゼンテーション、アカデミック・ライティングに活かされています。
listening能力に焦点を当て、英語の音に慣れます。簡単なspeaking、reading ,writing活動も含まれ、様々な活動をしながら、listening能力を徹底的に強化します。
speaking能力に焦点を当てます。インターラクティブ活動を取り入れてspeaking能力の向上を目指します。listeningやreadingで得た情報について自分の意見を話し、書きます。
readingに焦点を当てます。readingの宿題を含めて2つ以上の記事を読み、reading能力の向上を図ります。readingについて話したり、書いたり、また、読んだものを先生がレクチャーするのでlisteningの能力もつきます。
writingに焦点を当てます。宿題も含めて多量のwritingをします。先生が添削して学生に返すので間違った個所を修正することによりwriting能力がつきます。聞いたり、読んだりしたものを書いたり、書いたものについて話したりすることで、聞き、話し、読み、書きの4スキルの基本をしっかりと身につけます。
ProjectsおよびSkill workshopsの全ての授業は定刻に始まり定刻に終わりますが、出席率は高く、遅刻も少ないのが特徴です。1回生や2回生のProjectsとSkill workshopsは、1、2限目に行われていますが、中には授業開始30分前に教室に来る学生もいます。欠席が3回続くと事務局を通して本人に連絡し出席を促します。また、宿題や自動学習システムによる課題も沢山出ますが、ほぼ全員が提出します。それを反映してか、多くの学生が授業外に90分近く勉強時間をとっているのも特徴です。2010年度春学期を例にとると、JP1の受講生の多くは90分以上180分の学習を授業準備のために行っています。授業中の発言も活発で、ほぼ全員がプレゼンテーションや司会をするなど、とても積極的です。
グローバル化を踏まえて、全授業はオンライン化されており、宿題・課題はオンライン上で行われています。また、オンライン教材を利用し、全Projects授業では、Power Point、YouTube, Facebookなどの多メディアを利用するプレゼンテーションが主流です。また、Video conferencing, Youtube, Facebookなどを活用して、プロジェクト成果を発信するなどして海外の学生と情報交換をしています。瞬時に情報を取り、瞬時に伝える次世代に対応した発信が展開されています。
http://www.pep.sk.ritsumei.ac.jp/を参照してください。
生命科学部と薬学部の授業ですから、学部のサポートは当然ですが、英語を両学部の基幹授業として、全面的にサポートしています。学部に英語担当の副学部長がおり、英語教員と共同でカリキュラムの運営を行っています。また、Junior Project 1、Junior Project 2では、専門科目の教員が参加し、プレゼンテーションの内容評価に加わっています。
生命科学部・薬学部担当の事務局とは、多くのことで密に協力してきました。1か月に1度行われる拡大英語プログラム部会には、事務局も出席し、英語教員とともに行政上の諸問題を討論し、英語プログラム運営上多くの建設的な意見を述べるとともにサポートしています。学生が不利をこうむることなく、つつがなく英語の授業を履修できるよう協力して英語授業の時間割を作成しています。事務局の専門家の意見は授業運営には必要不可欠です。保護者向けのパンフレットや1年生のレポート集の作成などは、事務局の提案で始めたもので、本プログラムを保護者に紹介する上でとても役に立っています。
Skill workshopsの全授業を外部教育機関2社に業務委託していますが、基本プログラムを専任教員が作成し、それに沿って2社の教育開発部と密に連絡を取りながら、教材・教授法の開発をしています。毎週1度の英語教員と2社による連絡会議、毎月1度の英語教員、副学部長、事務局、2社による拡大プログラム部会、毎学期1度の英語教員、学部運営委員会、事務局、2社による報告会を通して、協力体制を強化しながらかなり成熟したSkill workshopsに成長してまいりました。
プロジェクト発信型英語授業では、ProjectsでもWorkshopsでも、英語を聞き、読み、話し、書きながらコミュニケーションを図る活動が多量に組まれており、以下の表が示す通り、TOEICテストなどの結果に現われています。
現在はTOEICテストのみですが、グローバル30などを視野に入れて、海外の大学との交換留学を充実させるために、大学院ではTOEFL ITPテストの導入を検討中です。
次回は「プロジェクト発信型英語プログラム」の成果について、より詳しくお伝えします。学生も教員も活き活きと全授業に取り組んでいる姿をお伝えしたいと思います。学生の出席率の良さは記述しましたが、これまでの3年間で教員の遅刻・欠席は皆無です。当たり前と言えば当たり前ですが、全教員が時間前に教室に赴き、終了時間まで、時にはオーバーしてまで授業に取り組んでいます。このプログラムは、授業改善のために労力を惜しまず、自分のことのように一人一人の学生の成果を喜ぶ先生達の活気で溢れています。
立命館大学生命科学部薬学部「プロジェクト発信型英語プログラム」全3回
96号– 「プロジェクト発信型英語プログラム」 その1
98号– 「プロジェクト発信型英語プログラム」 その3