様々な世代の人々が様々な場で、生涯を通して何らかの形で英語にかかわって仕事をしています。英語は人それぞれ、その場その場で違います。このシリーズでは、英語を使って活躍する方にお話を聞き、その人の生活にどう英語が根付いているかを皆さんにご紹介し、英語の魅力、生涯にわたる楽しさをお伝えしていきます。英語はこんなに楽しいもの、英語は一生つきあえるもの。ぜひ英語を好きになってください。
鈴木 佑治先生
立命館大学生命科学部生命情報学科教授
慶應義塾大学名誉教授
学生の皆さんは、将来、ライフ・サイエンティストとしてグローバル規模のプロジェクトに参加し貢献しなければなりません。それに備えるにはプロジェクトに参加できるよう発信型英語能力が是が非でも必要になります。本稿執筆中の2011年5月現在、2008年に入学した1期生は4年生になり、Freshman English、Sophomore English、Junior English l & 2を終了しました。この秋学期には、この内、希望者のみ卒業論文(日本語)のアブストラクトを英語で書き、プレゼンテーションすることになっています。更に、その内の何割かの人が2012年4月に発足する大学院生命科学研究科に進学し、Graduate Englishを履修します。それまでの折返地点にさしかかった今回は、成果の中間報告として、2008年から2010年までの3年間を振り返り、プロジェクト発信型英語力を吟味したいと思います。
前回、Projects(P)とSkill workshops(S)から成る本プログラムの構成を説明し、成果についても簡単に触れました。履修者全員が人前で自分の日常生活から学問分野の関心事についてリサーチして英語でプレゼンテーションしていること、1500語から2000語のterm paperを書けるようになったこと、それらがTOEICテストの結果の上昇に表れていることなど、述べさせていただきました。勿論、他大学の多くでもそれ以上の実績を上げているプログラムは多々あるものと思いますが、そうした成功例の中で理系の学生を対象にしたプログラムは数限られているものと推察します。前回でも述べたとおり、理系カリキュラムは、1年次より先に進むために不可欠な必修科目が目白押しに並んでおり、文系に比べると自由度が無くとてもタイトです。そんな中で英語のコマ数も少ない上に、予習・復習に割ける時間も限られています。とはいえ、英語は研究媒体言語として浸透しおり、ライフ・サイエンス専攻の先生方から、国際学会は言うに及ばず、日本の学会でも英語で論文を書く場合が多いと聞いています。そうした背景をひしひしと感じているのか、本プログラムの学生は、限られた時間をかなり有効に使い英語プログラムに取り組むカルチャーを根付かせてきました。
Project1(P1)からProject2(P2)に至る、全プロジェクト・クラスの到達目標(前回を参照)は以下のシラバスに記されている通りです。全てのプロジェクト・クラスでは、1週目から15週目まで週ごとに授業の活動としてプロジェクトを進め、英語で進捗状況を書きWeb上のコースツールにuploadします。授業内ではその課題も含め以下に示すような項目を中心に学びながらプロジェクトを進め、その成果についてプレゼンテーション、ディスカッションなどの活動をします。
(授業外活動報告をuploadし、コメントをし合えるコースツール)
これらの諸活動については、本プログラムのWebサイト(http://www.sk.pep.ritsumei.ac.jp)にて、FacebookやYoutubeを利用して公開しています。特に、現在進行中のProject1(P1)、Project2 (P2)、Junior Project1(JP1)の諸活動は逐次uploadされています。来る秋学期にはProject2(P2)、 Project3(P3)、Junior Project 2(JP2)をご覧いただけます。
Project1 (P1)1年次春学期 Do Your Own Project in English Volume 1(2008鈴木佑治著、郁文堂) Part Iに沿う。
到達目標・成果:Self-appeal、mini- project、mini -presentationができるようになる。
1週目 | (Unit 1) | 自己紹介と他己紹介を学ぶ 。 |
2週目 | (Unit 2) | 用意してきた資料を基に自己アピールをする。 |
3週目 | (Unit 3) | リサーチとは何かを学ぶ。 |
4週目 | (Unit 4) | リサーチの概要を考える。 |
5週目 | (Unit 5) | アイディアの整理とテーマを絞る。 |
6週目 | (Unit 6) | リサーチ方法の多様性を学ぶ。 |
7週目 | (Unit 7) | オーラル・プレゼンテーションの原稿を書く。 |
8週目 | (Unit 8) | 中間ミニ・プレゼンテーションをする。 |
9週目 | (Unit 9) | 中間ミニ・プレゼンテーションをする。 |
10週目 | (Unit 10) | 質問をして答える ‐ 割り込みと繰り返しの表現を学ぶ。 |
11週目 | (Unit 11) | 質問をして答える ‐ 確認と説明の表現を学ぶ。 |
12週目 | (Unit 12) | プロジェクトの報告書の書き方を学ぶ。 |
13週目 | (Unit 13) | ミニ・プロジェクトの成果の最終プレゼンテーションをする。 |
14週目 | (Unit 14) | ミニ・プロジェクトの成果の最終プレゼンテーションをする。 |
15週目 | (Unit 15) | ミニ・プロジェクトの成果の最終プレゼンテーションをする。 |
到達目標・成果:Research、discussion、presentationのスキルを学び、本格的なProjectを行う。
1週目 | (Unit 16) | リサーチとは何かを学び、プロジェクトを立ち上げる。 |
2週目 | (Unit 17) | インタビューによるデータ収集の方法を学び、インタビューを行う準備をする。 |
3週目 | (Unit 18) | アンケート(questionnaire)によるデータ収集の方法を学び、アンケート項目を作る。 |
4週目 | (Unit 19) | マルチ・メディア資料を収集しサマリーを書く。 |
5週目 | (Unit 20) | マルチ・メディア資料の収集を更に進めてサマリーを書く。 |
6週目 | (Unit 21) | プロジェクト成果の中間プレゼンテーションをする。 |
7週目 | (Unit 22) | プロジェクト成果の中間プレゼンテーションをする。 |
8週目 | (Unit 23) | パラグラフ構成を学び、収集した文献資料から情報を収集する方法を学ぶ。 |
9週目 | (Unit 24) | 収集した文献をパラグラフごとに読み、情報を収集する。 |
10週目 | (Unit 25) | 読んだパラグラフのサマリーを書く方法を学ぶ。 |
11週目 | (Unit 26) | 収集した文献のサマリーを書く。 |
12週目 | (Unit 27) | プレゼンテーションとレポートの構成を考え、アウトラインを書く。 |
13週目 | (Unit 28) | プロジェクト成果の最終プレゼンテーションをする。 |
14週目 | (Unit 29) | プロジェクト成果の最終プレゼンテーションをする。 |
15週目 | (Unit 30) | プロジェクト成果の最終プレゼンテーションをする。 |
到達目標・成果:Group projectを行い、discussion、debate、panel discussionができるようになる。
1週目 | (Unit 31) | グループで共通テーマを考える。 |
2週目 | (Unit 32) | グループで共通テーマを考える。 |
3週目 | (Unit 33) | グループ・プレゼンテーションの表現を学ぶ。 |
4週目 | (Unit 34) | ディベートとパネル・ディスカッションのフォーマットを学ぶ。 |
5週目 | (Unit 35) | ディベートの表現を学び、シミュレーションをする。 |
6週目 | (Unit 36) | ディベートの表現を学び、ミニ・ディベートをする。 |
7週目 | (Unit 37) | ディベートの表現を学び、ミニ・ディベートをする。 |
8週目 | (Unit 38) | パネル・ディスカッションの表現を学び、シミュレーションをする。 |
9週目 | (Unit 39) | パネル・ディスカッションの表現を学び、ミニ・パネル・ディスカッションをする。 |
10週目 | (Unit 40) | パネル・ディスカッションの表現を学び、ミニ・パネル・ディスカッションをする。 |
11週目 | (Unit 41) | 最終発表の準備をする。 |
12週目 | (Unit 42) | 最終発表の準備をする。 |
13週目 | (Unit 43) | 最終発表の準備をする。 |
14週目 | (Unit 44) | グループ・プロジェクトの成果について、ディベートかパネル・ディスカッションをする。 |
15週目 | (Unit 45) | グループ・プロジェクトの成果について、ディベートかパネル・ディスカッションをする。 |
到達目標・成果:Advanced project を行い、academic writingの手法を学びながら、term paper を書きプレゼンテーションする。
1週目 | (Unit 46) | Advanced project、 academic writing presentationに触れる。 |
2週目 | (Unit 47) | Academic writing の特徴を考える。 |
3週目 | (Unit 48) | Prewriting 活動1、Free writingを通してアイディアを練る。 |
4週目 | (Unit 49) | Prewriting活動2、情報を集める。 |
5週目 | (Unit 50) | Drafting 活動1、本論のパラグラフ・ライティングを書き始める。 |
6週目 | (Unit 51) | Drafting活動2、本論の次のパラグラフ・ライティングを行う。 |
7週目 | (Unit 52) | Drafting活動3、本論の次のパラグラフ・ライティングを行う。 |
8週目 | (Unit 53) | Drafting活動4、序論の書き方を学んで書く。 |
9週目 | (Unit 54) | Drafting活動5、結論の書き方を学んで書く。 |
10週目 | (Unit 55) | Drafting活動6、校正方法を学び、序論、本論、結論を校正し、参考文献を作成する。 |
11週目 | (Unit 56) | Drafting活動7、アブストラクトの書き方を学んで書く。 |
12週目 | (Unit 57) | 書きあげたterm paperの最終プレゼンテーションの準備をする。 |
13週目 | (Unit 58) | Advanced projectの成果の最終プレゼンテーションをする。 |
14週目 | (Unit 59) | Advanced projectの成果の最終プレゼンテーションをする。 |
15週目 | (Unit 60) | Advanced projectの成果の最終プレゼンテーションをする。Term paper提出。 |
到達目標・成果:ライフ・サイエンスの専門記事を読んで理解し、テーマに関連するプロジェクトを組んで、アカデミック・ペーパーを書き、ポスター・プレゼンテーションをする。専門用語・表現を学ぶ。テキストに収録されている記事は以下のとおりである。
Unit 1 Lizards succumb to global warming. /Unit 2 Fossil rewrites early human evolution. /Unit 3 Cutting calories may improve memory. /Unit 4 Animal-rights activists invade Europe. /Unit 5 Brain implant allows mute man to speak. /Unit 6 Blood tests using sticky tape and paper. /Unit 7 Colour blindness corrected by gene therapy. /Unit 8 How aircraft emissions contribute to warming. /Unit 9 Malaria becoming more drug resistant. /Unit 10 Brain scan allows unconscious patient to communicate. /Unit 11 Ocean mercury on the increase. /Unit 12 Genetic test predicts eye colour. [In Appendix:Unit 13 Why spider webs glisten with dew. /Unit 14 Skin cancer on the rise. /Unit 15 Nanoparticle safety in doubt. ]
CIT、MIT、 Havardなど海外のライフ・サイエンス系のトップ大学インターネットで配信されている専門領域の講義を学生各自が探す。
到達目標・成果:ライフ・サイエンス系の講義を聞いて内容を理解し、関連するテーマをもとにプロジェクトを組み、term paperを書いてポスター・プレゼンテーションする。
受講者中98パーセント以上の学生が到達目標を達成できました。受講前は英語を話した経験が皆無であった学生が、身の回りのことから語り始め、3年間で専門領域についてプロジェクトを行い、アカデミック・ペーパーを書き、それについてポスターを作って発表できるまでに成長したことは、一応の成果と言ってよいでしょう。誌面が限られておりますので成果の詳細を省き、2年生後期のProject4(P4)、3年生前期のJunior English1 (JP1)、3年生後期のJunior English 11 (JP2)のアカデミック・セティングのプレゼンテーションとライティングの成果に焦点を当て説明します。
前述した通り、学生はP4では週2コマ、JP1とJP 2では1コマの英語の授業しかありません。上記のシラバスでアカデミック・プロジェクト、アカデミック・ライティング、アカデミック・プレゼンテーションについて学びますが、授業中に英語を直しペーパーの構成を考えて編集をしつくすのは不可能です。これらは課外活動として行わなければなりません。そこで本プログラムではEducational Testing Service (ETS)が開発したCriterion(*)というオンライン・ツールを採用しました。
Criterionには、TOEFL Essay Writing用とGRE(Graduate Record Examination)Essay用の2種類があります。前者は英語を母語としない人を対象にしているのに対して、後者は母語が英語であるか否かに拘わらず、米国の大学院進学希望者全員を対象にしたものです。前者では、指定されたテーマについて400語程度のエッセイを書きますが、後者では、Best issuesと称するものを選択すると、書き手が自由に選ぶテーマにつき1000語~5600語程度までの論文を診断できます。本プログラムのProject2(P2)、Project4(P4)、Junior Project1(JP1)、Junior Project2(JP2)では、提出するterm paperのテーマは自由で、1000語から2000語の長さであることから、後者のGRE Essay用のBest ideasを採用しました。以下はBest Ideasの指示です。“Present your perspective on the issue below, using relevant reasons and/or examples to support your views.”
GRE Essay用のCriterionのチェック項目は、1.Grammar、2.Usage、3.Mechanics、4. Style、5. Organization & Developmentです。それぞれのチェック項目の詳細は以下の通りです。本プログラムの全プロジェクト・クラスおよびスキル・ワークショップ・クラスで取り扱っている項目です。本プログラムの履修者の実例とともにご覧ください。
これらの項目をチェックし6段階で採点します。4以上はGREのpassingポイントとみなされます。採点基準はこちら(http://www.ets.org/Media/Products/Criterion/topics/GREissue.htm)をご覧ください。
2010年度秋学期は、以下の要領で使用しました。
Project2(P2) 1回生後期⇒
全履修者の内、希望した25名の学生がそれぞれ提出したpaperを校正し、立命館大学生命科学部・薬学部父母教育後援会支援冊子に掲載した。
Project 4(P4) 2回生後期⇒
全履修者がそれぞれterm paper(1500-2000 words)を校正した。3回使用。
Junior Project 2(JP2) 3回生後期⇒
全履修者がそれぞれterm paper(1000-1500 words)を校正した。
以下、2010年秋学期のJP2のある受講生によるCriterion使用経過です。余白が限られているので、Grammarに焦点を当ててみると、1st draft後でかなりの間違いが指摘されており、自らが訂正し続け、5th draftの診断では間違いは1ヶ所だけでほぼゼロに近くなっているのが分かります。
(1st draftの診断)
↓
(5th Draftの診断)
同じようにしてUsage、Mechanics、Style、Organization & Developmentの項目を5回直しました。その結果、全項目において間違いは改善され、結果、Score5に格上げされました。そして、この最終draftが、ポスター・プレゼンテーション用のポスターに反映され、ポスターの質もかなり向上しました。
(最終draftの1ページ目、全項目で改善されている。)
(term paperの最終draftを反映したポスター)
ある程度の英語能力を有する学生(全履修者の90%)の場合、Criterionの使用回数と取り組みの質がpaperの質と一致し、Criterionの効果はあったものと思えます。実際、多くの学生が、4以上の評価を受けていることからもそのことが覗えます。他方、英語力が頗る欠如する学生(TOEICテスト350点以下、全履修者の10%)の場合は、Criterionの分析自体を理解するのに時間がかかり、最初の300語程度を添削するのに精一杯であったが、そこだけでも比較的読みやすい英文になったのは評価できます。
GRE Essay用は、英語だけではなく、論文の構成そして論理もチェックします。本プログラムでは、上記したシラバスが示すように、これらのことをかなり時間をかけて考えさせるので、その効果が出ているものと思います。少なくとも、本プログラムでA+と評価された全体の5%のterm papersは、GRE Essay Criterion最終使用回数目の採点で、6段階中6や5と評価されたものばかりです。また、それらのペーパーをベースに作成したポスター・プレゼンテーション用のポスターの英語の完成度もかなり高く、JP2の履修者の内、少なくとも3名はそのまま国際学会に採択されて発表したとの報告を受けています。
かくして学生諸君は発信し始めました。自分自身が発信基地になり発信し続けるでしょう。今の日本に必要なのは、全てのジャンルにおいて世界に向けて自分の考えを発信することです。これからの2、3年は、大学院のGraduate Projectを立ち上げて軌道に乗せ、受講者の多くが仕上げたterm paperを国際学会で発表できるようにしていきたいと考えています。世界中の人々とともにプロジェクトを行う場を創造できれば、そうした成果は自ずと産まれるものと確信しています。
立命館大学生命科学部薬学部「プロジェクト発信型英語プログラム」全3回
96号– 「プロジェクト発信型英語プログラム」 その1
97号– 「プロジェクト発信型英語プログラム」 その2