達セミに学ぶ 英語学習のヒント

全国の熱血教師による授業に学ぶ英語学習方法伝授

岐阜県立加茂高等学校 定時制 渡部正実先生
  • 岐阜県立加茂高等学校
  • 渡部正実先生
今回のヒント
Debateで養う「問題解決」的思考 ―前編―

Debate素人の私が、様々な御縁が重なって「高校生英語ディベート大会」に関わることになり約10年が経過した。今回このような場を与えていただき、前任校の県立商業高校やサポートしてきた岐阜県内の高校の生徒さん達や指導されている先生方と、共に苦悩しながら少しずつ掴んだ「勘所」から「Debate的思考法」を紹介したいと思う。

1. Debateの目的

Debateには大きく分けて2種類ある。Parliamentary Debateという英国議会を模倣した方式とAcademic Debate・Policy Debateという方式とに大別される。「高校生英語ディベート大会」では後者を採用しているため、ここでは後者について述べる。Academic DebateやPolicy Debateは米国において弁護士を養成するために発達したと聞いている。首尾一貫した主張を行う様は法廷の様相を呈する。

前者については2007年公開、Denzel Washington監督・主演の映画「The Great Debaters」を観ていただくと理解が深まると思う。これを観れば “Speech or Debate?” ではなく、両者が密接に関わっていることも、理解していただけると思うのでご覧いただきたいと思う。ちなみにDebateで重要なのはJudgeをConvince(説得)することが目的であり相手を論破することではない。それを表す言葉が前述の映画で出てくる。www.imdb.comサイト内 (http://bit.ly/imbd_thegreatdebaters) より引用する。Tolsonはチームを指導する指導者、後者4人はメンバーである。

Melvin B. Tolson: Who is the judge?
Samantha, Henry Lowe, James Farmer Jr., Hamilton Burgess: The judge is God.
Melvin B. Tolson: Why is he God?
Samantha, Henry Lowe, James Farmer Jr., Hamilton Burgess: Because he decides who wins or loses. Not my opponent.
Melvin B. Tolson: Who is your opponent?
Samantha, Henry Lowe, James Farmer Jr., Hamilton Burgess: He does not exist.
Melvin B. Tolson: Why does he not exist?
Samantha, Henry Lowe, James Farmer Jr., Hamilton Burgess: Because he is a mere dissenting voice of the truth I speak!

「Debateとは相手を論破するのではなく、相手との議論を通してジャッジを説得すること」という視点をまずご理解いただければこの原稿の果たす役割の半分は達成されている。

2. 「Constructive speech(立論)」~問題認識力+問題解決力~

2-1. 現状からゴールまでを示す~論理力・一貫性~

DebateというとAffirmative side(肯定側)が「~すべきである」と、Negative side(否定側)は「~するべきではない」という主張を行う。そして、各々の立場には「前提」がある。それがPresent Situation(現状分析)である。Affirmative sideは「現状には問題がある」立場を取り、「問題が深刻であるほど解決した時の社会的インパクト=Advantageが大きい」と考える。だからこそ、「現状を変える “Resolution” を取るべきである」というのが肯定側の主張である。逆にNegative sideは「現状に問題はない。そして “Resolution” を取ることで現状よりも悪化する=Disadvantageが発生する」事を論証する。
実際、Debateを行うと一貫して同じ立場を取ることに最初は苦痛を感じると思う。またDebate上級者にことごとく反論を受けることもしばしばである。しかし、そのような経験を通じてより説得力のある立論が出来れば、現在注目されている「プレゼンテーション」にも活用できる。実際に私の尊敬するDaniel PinkがTED (www.ted.com/talks/dan_pink_on_motivation.html‎) で行ったプレゼンは、彼が冒頭で言うように “Evidence Based” かつ魅力的なSpeechに圧倒される。

2-2. Cost & Benefit(費用対効果)

善意に捉えれば世の中の主張は「現状を良くする」ために主張されている。しかし、ある政策や行動を行う場合、より良い成果をもたらす方を選ぶべきである。または現状が悪化するような政策は最初から行わない方が良い。では、「より良い」または「より悪化する」というのはどう定義するべきだろうか。Debateでは “Cost & Benefit” という方式が取られている。どれだけコストをかけて、どれぐらいの成果が得られるか。非常にシビアな視点ではあるが有限である社会リソースを有効に活用する意味では非常に有益な視点と言える(しかしそれだけで論じ切れない論点も存在する。そこが目下のところ私の課題である)。

2-3. The impact of the argument(論点の重要性)

しかしこの視点に於いても、まだ不十分な部分が二点ある。一点目は各々が提示するAdvantage、Disadvantageを受ける主体者 (Target) が誰で、どれ位の人数なのか (Who is the target? / How many are they?) を明示する。二点目は現状からAdvantage (disadvantage) が本当に発生するのかを段階的に証拠 (evidence) を示しながら論証する必要がある。これをDebateではEffect(発生過程)という。
Present Situation ⇒ Effect 1 ⇒ Effect 2 ⇒ ⇒ Advantage (Disadvantage) と一本の線で繋がって初めて「Advantageが発生すると論証した」ことになる。ジャッジの際も

The strength of argument = reliability × value (How many / How much)

を基準に議論を分析する。よってこの要素の一つでも欠けていれば重要な論点とは言いがたくなる。しかし実生活の中では一般論で議論される場合に、こういう視点を省いて論じることによって議論が曖昧になることはないだろうか。日頃よりこのような視点で物事を考えることによって「議論が噛み合ない」といったことは避けられるのではないかと思う。

 

渡部先生にご寄稿いただきました「Debateで養う『問題解決』的思考 ―後編―」は、12月24日にUPします。お楽しみに!

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