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  • 鈴木佑治先生
  • 慶應義塾大学名誉教授
    立命館大学客員教授

第81回 留学生に好条件の財政援助を出す全米Top 10大学は?

アメリカの大学も多くの負債を抱えているようです。先日、Harvard大学のFiscal Year 2013-2014年の財政報告書(Annual Financial Report, Financial Administration, Harvard University, Fiscal Year 2013-2014)(*1)を読み驚きました。世界大学ランキングのトップのHarvard大学でさえ$5.7 billion(5,700億円=昨年時1ドル100円換算)の累積負債を抱えているとのことです。単年度で見ても、Harvard大学の2013年度の総収入は$4.214 billion (4,214億円)で総支出は$4.248 billion(4,248億円)$34 million(34億円)の赤字であったとか。総長も5年間で$6.5 billionの資金集め(fund raising)をすると宣言した矢先の赤字報告にはショックを受けておられるようです。

しかしながら、どんなに費用が嵩もうとも、老朽化した建物や設備を整備し、教育と研究の改革を推進し、世界トップのクオリティーを維持する努力を怠れません。そんな財政難の中で、政府や民間の研究資金はもちろんの事、寄付金(endowment)、資産運用(investment)、付属病院などの経営(付属病院など)等などの多岐のルートから資金を集めていることを克明に報告しています。格付け会社Moody’sのランキングも気にしなければならず、大変です。Harvard大学に限りません。他の著名大学も同じ問題を抱えています。

世界トップの座を保つには、国内はもちろんのこと国外からも優秀な学生を募らなければなりません。アメリカ人の学生は多額の教育ローンを抱えそれが社会問題化していることは以前にも触れました。(*2)そうした中で、国外から優秀な学生を集めることも、教育のクオリティーを維持するには大切です。世界大学ランキングを発表するUS Newsは、“10 colleges that award international students the most financial aid”(*3)と称して、全米で留学生に人数と額において最も多く奨学金(scholarships)を出す大学のリストを発表しています。みな一流総合大学かリベラル・アーツ・カレッジで、50名以上に年間1人平均$50,000(約540万円=2015年3月のレート)以上出す大学のみアットランダムに並べたショート・リストです。

  • *Yale University(349名) *Amherst College (155名) 
  • *Williams College (87名) *Wesleyan University (80名)
  • *University of Chicago (80名) *Skidmore College (98名) 
  • *Stanford University (135名) *Bates College (88名) 
  • *Trinity College (159名) *Harvard University(なんと540名!)

これら10大学以外にも、人数と額においてこれらには及ばずとも、留学生に奨学金を出している大学があるようです。調べてみる価値があります。まず、インターネットで該当する大学のofficial siteに目を通して、各大学が何を目指して、どのような学生を求めているかを押さえておく必要があります。また、各大学は、財政難の中でも敢えて留学生に対する奨学金の予算を確保している訳ですから、各大学のFinancial Reportを読み、どのような趣旨でそうしているのか知っておくとよいでしょう。

Harvard大学のFinancial Reportの冒頭には総長のメッセージがあり、財務担当の副総長のメッセージが続きます。大学の現在の状況と未来計画を具体的に述べており、大学の教育と研究に対する姿勢が伝わって来ます。その後で各項目につき30ページにわたる説明が続きます。特に留学生に関する項目に目を通しましょう。

そうしたバックグランドを理解した上で、具体的にどんなaidがあるか探ってみます。Harvard大学なら、Harvard University, financial aid, foreign(or international)studentsと入力します。その中の“How aid works?”(*4)を選択クリックします。Harvard大学では、アメリカ人にも留学生にも分け隔てなくaidを出していると書かれており、その結果が540名もの留学生が奨学金を受けているということでしょう。ちなみにサイトを読んで分からないことがあれば整理して、大学の担当部署にメールで質問してみましょう。返事がくるはずです。

前回と前々回でも述べましたが、インターネットなどでこうした情報を集め読みメールなどで質問する、その積み重ねで英語の発信能力が上達します。ちなみに、YouTubeでもFinancial Aidsについては沢山のサイトがあります。Financial aids for international studentsと入力してみましょう。良いものを選んで聞いてみましょう。

アメリカ主要大学がオンライン上に配信するFinancial Reportsを見ながら、これら自体がそれぞれの大学の宣伝も意図しているのではないかとの感想を持ちました。英語で書かれているので世界中の人が読むこと、その上、抜群の構成力と簡潔・明瞭な英文で綴られ、各年度の予算、収支、決算を大学の教育・研究の理念と目標に合わせ、懇切丁寧に説明しています。Harvard大学の上記のAnnual Financial Reportトップページでは、報告書の作成責任者が“I write to report on Harvard University’s financial results for fiscal year 2014”と顔写真を出して自己紹介しています。

収入源が多岐に亘り、その一つが民間の個人や企業・団体からの多額の寄付金で、奨学金の財源にもなっていることが分かります。こうした資金集めの為にもこのFinancial Reportsは一役買っているのでしょう。アメリカも国や州などの自治体の財政は決してよくないので、州立大学でさえ州からの交付金などは大幅にカットされています。California大学はBerkeley校をはじめ各キャンパスは火の車だと聞いています。その中でもどうして生き残るのか厳しい経営が続いているようです。

冒頭述べたように、Harvard大学も$5.7 billionもの累積赤字を抱え、私立の大学法人としてその返済も考えながらの経営です。財政難を乗り越えようとする気迫は、学生にも伝わるはずです。留学生の多くは、財政難に喘ぐ国から来ています。世界トップ・クオリティーを堅守しながら、自力で財政難を克服しようとするこれらの大学から学ぶことは多いと言えるでしょう。

(*1)“Annual Financial Report, Financial Administration, Harvard University.”の
    “2013-2014 Annual Financial Report”をクリックする。
(*2)第76回 アメリカの大学に留学するための年間総費用(cost of attendance)と財政援助
(*3)“10 colleges that award international students the most financial aid.
(*4)“How aid works

上記は掲載時の情報です。予めご了承ください。最新情報は関連のWebページよりご確認ください。