For Lifelong English

  • 鈴木佑治先生
  • 慶應義塾大学名誉教授
    立命館大学客員教授

第92回 アメリカの大学へ入学する為に必要な一斉試験SAT(*1)について(2)TOEFL iBT® テストに並行してチャレンジしてみよう。

今回のテーマも前回(第91回 アメリカの大学へ入学する為に必要な一斉試験SATについて(1)SATとはどんなテスト?無料SATオンライン・コースは?)に続きSATです。読者の中に、TOEFL iBT®テストならまだしも、SATはハードルが高過ぎではと感じる人もいることでしょう。そこでもう一度言いましょう。小学校、中学校、高校を通して英語学習に費やす8年以上の年月を考えたら、決して無理な目標ではありません。英語と同じくグローバル規模で展開されている他の習い事と比べれば一目瞭然です。世界各国で楽しまれている日本発祥の柔道はどうでしょうか?7~8年も柔道をやっていながら昇段試験のみか昇級試験さえ躊躇するようなものです。筆者のアメリカ人の親友は、大学で柔道を習いはじめました。早い段階で昇級試験に挑戦して4級から1級に合格するや、当然のごとく昇段試験に挑戦していたのを覚えています。英語学習も柔道と変わりありません。8年も英語学習に費やすのですから、結果はともかく、TOEFL iBTテストであろうとSATであろうと挑戦してみましょう。

では、前回に続きSATについて調べてみましょう。“2012-13 Getting Ready for the SAT”と称する「冊子」(本稿内では以降「冊子」と記述)(http://s3.amazonaws.com/KA-share/Toolkit-photos/sat/2012-getting-ready-for-the-sat.pdf)を開いてみましょう。前回はその「冊子」1~32ページを参考にSATの概要を述べました。今回は残りの33~85ページに収録されている“Official SAT Practice Test”(SATの公式練習用テスト)を見てみましょう。“2012-13 Getting Ready for the SAT”の解答用紙が34~41ページに、同年度出題された問題が42~79ページにあります。各問題の難易度と正解、採点方法(Essayも含む)、換算方法などは80~85ページにあります。

前回述べたようにSATは(1)Critical Reading(2)Mathematics(3)Writingの3項目をテストします。テストはSection 1~10まであり、3項目を以下のように交互に散りばめています。
Section 1: Essay, 25 minutes. (Writing)
Section 2: 20 Questions. 25 minutes.(Mathematics)
Section 3: 24 Questions. 25 minutes.(Critical Reading)
Section 4: 採点に入らない実験問題の為、この冊子には収録されていない。(*2)
Section 5: 35 Questions. 25 minutes.(Writing)
Section 6: 18 Questions. 25 minutes.(Mathematics)
Section 7: 24 Questions. 25 minutes.(Critical Reading)
Section 8: 16 Questions. 20 minutes.(Mathematics)
Section 9: 19 Questions. 20 minutes.(Critical Reading)
Section 10: 14 Questions. 10 minutes.(Writing)

「冊子」80ページにある正解表“Correct Answers and Difficulty Levels for the Official SAT Practice Test”に、3項目の割り振りが記されています。Section 3, Section 7, Section 9が(1)Critical Readingに、Sections 2, Section 6, Section 8が(2)Mathematicsに、 Section 1(Essay),Section 5, Section10が(3)Writingに属します。各セクションの問題の正解とそれぞれの難易度を1~5段階で記しています。

SATは(1)Critical Reading(2)Mathematics(3)Writingの 3項目を項目ごとに区切らず、10セクションに散りばめています。英語のセクションと数学のセクションが何度か交互に入れ替わります。正解表と難易度を見るとセクションごとに最初は難易度1か2の易しい問題で始まり中盤は3そして終盤に進むに連れて4と5の難しい問題が配列されています。途中一度の小休憩以外全セクションを通しで行いますが、このように配列することで気分転換が図れ、長時間の作業からくる精神的疲労を和らげるという効果があるからでしょう。

では、TOEFL iBTテストと比較しながら英語に焦点を当ててチェックしてみましょう。外国語としての英語のテストであるTOEFL iBTテストにあるListeningとSpeakingはありませんが、Reading(SATではCritical Reading)とWritingがあります。インターネットのETSのTOEFL iBTテストの公式サイト“TOEFL iBT Test Questions”(*3)にあるReading Sectionのサンプルと、SATのCritical Readingのサンプル、例えば、「冊子」52ページにあるSection 3のサンプルを比べてみると、長さも内容の難易度もほぼ同じです。恐らく、TOEFL iBTテストのサンプルには設問も含めて20分割り当てられますが、SATのSection 3では、当該サンプル以外に2つのReading passagesと1つの穴埋め問題で25分しか割り当てられないので、当該サンプルを読んで設問に答えるのに6、7分しかありません。大量の資料を読みこなす機能的読解力が試されているわけですが、英語能力はもちろんのこと、それ以上に、読んで理解する能力が鍵です。普段から日本語でも読解力をつけておくと役立ちます。前回述べたリサーチをする過程で育つ能力です。

Writingを見てみましょう。まず、「冊子」のSection 5とSection 10などのいわゆる文法や語彙表現に関する問題は、Writing に分類されています。77~79ページのSection 10にある全問題はTOEFL iBTテストや日本の大学入試問題によくある文法や語彙表現の正誤問題や用法と大差ありません。全14問題中11題は難易度1~3で、2題は難易度4、1題は難易度5ですから、読者の多くは十分対応できます。難易度4か5とされるQuestion 13(難易度5)やQuestion 14(難易度4)を見ても、読者の多くは十分対応できると思うことでしょう。

概して、文法的には正しい(grammatical)がそうは言わない(but not acceptable)という、いわゆる、スタイル(styles)に関する問題は、外国語としての英語を学習している非英語圏の学習者には難しいかもしれません。筆者が1960年代に受験したTOEFL® PBT テストでさえ見受けられました。もっとも、SATでもこれまで英語圏の受験者にとって大学に入って初めて接する語彙表現などを出題したことがあり、このケースに該当するかもしれません。しかし、前回述べたように、そうした難問題は2016年の4月以降は出題されないと思われますから、安心してよいでしょう。

SATのWritingにもEssayがあります。TOEFL iBTテストではWriting SectionのIndependent Taskに該当します。2つを比べてみましょう。「冊子」42ページにあるSATのEssayのサンプルを見てみましょう。まず、次の短いpassageを読みます。

Nowadays nothing is private: our culture has become too confessional and self-expressive. People think that to hide one’s thoughts or feelings is to pretend not to have those thoughts or feelings. They assume that honesty requires one to express every inclination and impulse. Adapted from J. David Velleman, “The Genesis of Shame”

そして、それに関する以下のAssignmentに答える形で24分内にエッセイを書きます。

Assignment: Should people make more of an effort to keep some things private? Plan and write an essay in which you develop your point of view on this issue. Support your position with reasoning and examples taken from your reading, studies, experience, or observations.

TOEFL iBTテストのWriting Section: Independent Taskのサンプルを見てみましょう。
“TOEFL iBT Test Questions”の25ページにあります。次の質問に答える形で30分以内にエッセイを書きます。

Question: Do you agree or disagree with the following statement? A teacher’s ability to relate well with students is more important than excellent knowledge of the subject being taught. Use specific reasons and examples to support your answer.

SATのエッセイとTOEFL iBTテストのエッセイはテーマの難易度はほぼ同じです。SATのEssayの評価基準は「冊子」81ページ“SAT ESSAY Scoring Guide”見ると1~6段階評価です。TOEFL iBTテストのWriting: Independent Taskの評価は“TOEFL iBT Test Questions”(*3)の29ページと30ページをみると1~5段階評価です。5と4の模範解答を見ると300語以上のものでSATの評価基準とあまり大差ないように思われます。(*4)

これに関連して、筆者が前任校で立ち上げた「プロジェクト発信型英語プログラム」では、2学期目以降の全クラスでETSのCriterion(*5)を導入し、全学生がそれを使ってペーパーを修正し提出しました。CriterionにはTOEFL iBTテスト用の300語前後のEssayとそれ以上の長さのGRE(Graduate Record Examination)用のEssayをチェックする2つのソフトがあります。GREは大学院入学用ですが、もちろん、SATのEssayにも適応します。筆者のプログラムでは後者を使用しました。GRE/SATのEssayのみならず、当然、TOEFL iBTテスト/TOEFL PBTテストのEssayの評価基準で、書いた物をチェックし、満たない部分を指摘しヒントを与えてくれます。学生はそれを参考に自分で考えて修正しました。その結果、多くの学生が、GRE用Essayの6段階評価で3、それどころか4や5と評価されたacademic papersを提出しました。

最後にMathematicsの問題で使われている英語について触れます。数学の内容そのものは日本の大学入試問題の数学の問題から比べるとずっと易しいのではないでしょうか。ただし、簡単な問題でも英語が分からないと大変です。例えば、「冊子」Section 2のQuestion 1:

If 10 + x is 5 more than 10, what is the value of 2x?
(A)−5 (B)5 (C)10 (D)25 (E)50

あるいは「冊子」Section 6の3:

The average(arithmetic mean)of t and y is 15, and the average of w and x is 15. What is the average of t, w, x, and y? 
(A)7.5 (B)15 (C)22.5 (D)30 (E)60

などは、それぞれ難易度は5段階中の1と3の問題ですが、どんなに簡単でも英語の文意が分からなければお手上げです。(*6)また、その他の問題にも関連しますが、数学用語を英語で知らないと大変です。インターネットで和英数学用語集を調べれば無料のリストがありますので勉強してみましょう。また、free online math gamesと入力すればゲーム感覚で数学用語が覚えられます。小学校で習った算数でも英語表現となると分からないものがあるかもしれないので、そこから始め中学校、高校レベルに進むのも良いでしょう。これも英語学習の一環になるでしょう。

筆者は野球をしますが、この頃使い慣れたバットが重く感じることがあります。そんな時にそれより重いマスコットバットで素振りをすると、何と重く感じていたバットが軽くなります。TOEFL iBTテストが難しいと思えたら、アメリカの大学入学にはSATも必要なのですから、同時に挑戦してみることです。TOEFL iBTテストがそれほど難しくないと思えるかもしれません。何よりも小学校から8年以上も英語を勉強するのですから、目標としたら決して高過ぎる事はありません。ちなみにこの冊子の3ページに“Student Search Service”があり、SATを受ける際に登録すれば、自分の得点に見合う大学から応募するようにとの連絡をもらったり、スカラーシップへの応募を促す連絡をもらったりすることができると書いてあります。

 

(*1)College Board, The SAT(http://professionals.collegeboard.com/testing/sat
(*2)“2012-13 Getting Ready for the SAT®”の33ページ“Official SAT Practice Test”の‘About the Practice Test’の最後の段落を参照のこと。The College BoardではSAT内のあるセクションの問題を実験問題として出題している。採点には入れない。
(*3)“TOEFL iBT® Test Questions”
https://www.ets.org/Media/Tests/TOEFL/pdf/SampleQuestions.pdf
(*4)SATとTOEFL iBTテスト/TOEFL PBTテストのessay writingのsoringの詳細については、以下のサイトを参照してください。SATとTOEFL iBTテストや特にTOEFL PBTテストのscoringに大差ないように思えます。
 (1)SAT essay writingの scoring:https://sat.collegeboard.org/scores/sat-essay-scoring-guide
 (2)TOEFL iBTテスト/TOEFL PBTテストessay writingのscoring:https://www.ets.org/toefl/institutions/scores/guides/
(*5)ETSの Criterionはオンラインでできる有料サービスです。
https://www.etsjapan.jp/toefl/criterion/
これに関連して、以下のような興味深い情報も得ましたので、チェックしてみましょう。https://criterion.ets.org/Content/topics/topics.htmと入力し、12th/college preparatoryを開け、各エッセイのscoring guideをクリック、テーマ種類別にDescriptive, Narrative, Persuasive, Expositoryとある、それぞれのEssayの6段階評価を見てみましょう。12th Grade(高校年生)用のテーマなどは、SATのEssayテーマと評価基準と近く、かなり参考になります。
(*6)「冊子」ページ43のSection 2と同ページ63より、そのまま抜粋。

上記は掲載時の情報です。予めご了承ください。最新情報は関連のWebページよりご確認ください。