For Lifelong English

  • 鈴木佑治先生
  • 慶應義塾大学名誉教授

第93回 “目指す分野の「本場」で学びたい!”がもたらす海外留学

本コラムでは過去4回(第89回第90回第91回第92回TOEFL iBT® テストとSATを紹介しました。日本の高校生に難しすぎるのでは、との声を耳にしますが、高等学校卒業までに英語学習に費やす約8年もの年月を考えれば、挑戦できる、否、挑戦すべきテストでしょう。確かに、従来の受信型の学習方法では無理ですが、発信型の学習に切り替えれば十分に挑戦できますし、第91回(アメリカの大学へ入学する為に必要な一斉試験SATについて(1))で紹介した通り、インターネットで無料または安価で提供されている英語online coursesを上手に使えば一人でできます。特にアメリカの主要大学が提供しているonline high school coursesは世界中から受講者が集まり、受講者同士、時には講師と意見交換ができます。

このことを念頭に、第92回(アメリカの大学に留学する際に必要とされる一斉試験SAT(2)TOEFL iBTテストに並行してチャレンジしてみよう。)で、これら2つのテストにチャレンジを促しました。そのチャレンジがアメリカ留学を射程に入れてのことであることはもちろんです。しかしながら、闇雲にアメリカ留学を推奨するわけではありません。自分が学びたい学問分野の「本場」がアメリカであることが前提です。これが今回のテーマです。アメリカに限らず、留学は「本場」で学んでいるとの確信が無ければ、現地の辛苦に耐えられず成功しません。学問分野の「本場」がアメリカ以外の国であるならそこに留学すべきです。日本でしか学べない学問は日本の大学で学ぶべきです。スポーツ界で、野球ならメジャーリーグ、相撲なら日本、サッカーならヨーロッパや南米での修行を目指すのと同じです。留学を考える際に自分の学問領域の「本場」がどこにあるかを念入りに調べるべきです。

とはいえ、学業や部活で多忙を極める高校生活では、空き時間を使って少しずつ調べていくしかありません。手っ取り早くできる例として、学術書がある大学図書館を利用することを勧めます。多くの大学図書館では高校生も含めて一般の人も登録すれば利用できる筈です。図書館の所蔵図書検索用のコンピュータに、該当する分野名を入力して検索すれば、その分野の書籍が収められているセクションが見つかります。最近出版された入門書、専門書、論文を収めた学術雑誌などの著者、それぞれの巻末にある参考文献の著者をメモしておき、インターネットで検索すれば所属大学や研究機関を調べられます。

図書館が利用できなければ、インターネットで調べてみましょう。単に該当分野を入力しても出てきますが、bibliography(著書目録)をチェックするのもよいでしょう。bibliography in___ に該当分野やテーマを入れて検索すると、分野を代表する著書と著者のリストが分かります。annotated bibliographyには著書の概要が掲載されています。各分野の専門家に直接会って聞くのもよいでしょう。大学、企業の公的・私的の研究機関、専門機関にそうした専門家がいます。貴重な情報や意見を提供してくれるでしょう。

科学ではノーベル賞など世界的権威がある学術賞の受賞者の学歴・研究歴・教育歴をチェックします。ノーベル賞ならネットで簡単に調べられます。list of Nobel laureates in ___に、physicsなどの分野名を入れて検索すると出てきます。国別でしたらlist of Nobel laureates by countryで検索してみましょう。ちなみに最多1位のアメリカの歴代受賞者の数は357名です。list of Nobel laureates by university(affiliation)で調べると、大学別に国籍関係なく卒業生をはじめ何らかの形で籍をおいた受賞者がリストされています。ちなみにリストのトップはアメリカの主要大学で占められ、Harvard大学は卒業生だけでも70名以上います。同様の手順で他の世界的な学術賞についても調べられます。

要は、目指す学問分野の「本場」を調べることが先決です。自分が目指す分野の「本場」がアメリカであることが確認できれば、留学先は迷わずアメリカです。さらに、自分が目指す分野の専門家がアメリカのどの大学にいるかも調べると良いでしょう。第一志望の大学を絞ることができ、application form(願書)の志望動機がしっかりします。調べて行くうちにアメリカ留学へのモチベーションはさらに高まり、当然TOEFL iBTテストやSATにチャレンジしようという意欲も高まります。難しいからチャレンジするのをやめようという消極性はいつしか消え去っているでしょう。

ここ数年の日本では、SATのみかTOEFL iBTテストにさえチャレンジする事を避けてしまう消極性が、高校生のみならず大学生の間でも際立っているように見えます。それはアメリカ留学への関心が薄れていることと無関係ではありません。どうやらアメリカだけではなく他の国への留学も芳しくないようです。言い換えれば、「本場」に身を置きチャレンジする精神が一時期より希薄になっているものと思えます。それを反映してか、ここ数年アメリカでは日本人留学生の数が著しく減っていることが話題になっているようです。

そこで、インターネットでHow many Japanese students are in US universities?(*1)と入力してみると、“Why are so few Japanese overseas students in the U.S, compared to the number of students from other Asian countries? ”(*2)との質問をしているサイトを見つけました。一般のアメリカ人が現地から4年前の2012年に掲げたものです。早速読んでみました。

この人は東海岸の大学で6年間(2006年から2012年の6年間)勉強していたそうですが、その時に見かけた日本人留学生の数が他のアジア諸国の留学生のそれと比べて極少数であったこと、The New York Timesの“Young and Global Need Not Apply in Japan”と称する記事(本文中のthis article)を読み、自分が見て感じた通りであったと述べ、次の2つの質問をネットで投げかけています。(1)日本人は海外留学を望んでいるのか?(2)日本人にとって海外留学に対する認識とモチベーションとは何か?

この人がこれら2つの質問をするきっかけになった、The New York Timesの記事“Young and Global Need Not Apply in Japan”(*3)は、2012年前後に海外留学から日本に帰り就活をした何人かの人たちのインタビューに基づいて書かれています。欧米のトップ校の学位を持ちながら日本の企業で冷遇されたこと等が記載され、それが海外留学へのモチベーションを下げていると結んでいます。ちなみに、この人が投げた2つの質問への反応もそのような内容のものでした。

具体的な人数を見てみましょう。2012年11月28日のCBS News“10 Most Popular Universities for Foreign Students”(*4)は、2012年におけるアメリカの大学や大学院の留学生の数を国別に分け、上位10か国を発表しています。

1位 China(194,029)2位 India(103,895)3位 South Korea(73,351)4位 Saudi Arabia(22,704)5位 Canada(27,546)6位 Taiwan(24,818)7位 Japan(21,290)
8位 Vietnam(14,888)9位 Mexico(13,713)10位 Turkey(12,184)

日本は7位に名を連ねているものの、実は、かつてのダントツ1位の座から大きく後退しています。

その激減幅については、上述のThe New York Timesの記事“Young and Global Need Not Apply in Japan”を筆頭に、The Washington Postの“Once drawn to U.S. universities, more Japanese students staying home”(*5)と称する記事、The Wall Street Journal誌の“Home Schooling: Fewer Japanese Head to U.S. Universities”(*6)と称する記事、ニューヨーク発共同では“Number of Japanese students at U.S. colleges dips 1.2%”(*7)と称する記事で扱われています。

この件に関するアメリカの大手新聞・報道の関心の高さが窺えます。共同の記事は2012年以降の最新データを基に、2013-2014年度の日本人留学生の数は前年度から更に1.2%減って約19,000人までに減少し、全米留学生の内の2.2%を占めるに過ぎないこと、1994年から1997年には47,000人を送って“the leading dispatcher of foreign students to the United States”であったことを報告しています。

これら全ての記事に共通してみられるのは、中国、インド、韓国からの留学生の急激な増加に比較して日本からの留学生が急激に減少したことに対する驚きです。The Washington Postの記事とThe Wall Street誌の記事のデータを総合すると、2000年からの10年で、中国からの留学生の数は約164%伸びて全留学生中18%、インドからの留学生は190%伸びて全体の15%、韓国からの留学生は日本人留学生の2倍半の10%を占めるのに反して、日本からの留学生は逆に52%減り全体の3%を占めるに過ぎないと報告しています。例えば、Harvard大学では、中国、インド、韓国からの留学生が2倍に増えているのに、日本からの留学生は減り続け、2009–2010年度の入学者はとうとう1名であったと嘆いています。“Just one Japanese undergraduate entered Harvard's freshman class last fall (Fall, 2009).”(*8)

The Washington Post誌の記事の以下の文には、これらアメリカの主要新聞の論調のbottom line(要点)が隠されています。
It is a steep, sustained and potentially harmful decline for an export-dependent nation that is losing global market share to its highly competitive Asian neighbors, whose students are stampeding into American schools.
すなわち、競争相手のアジア隣国に貿易グローバル・マーケットのシェアを奪われつつある貿易立国日本にとって、この減少傾向は高くつくであろうということです。アメリカの大学から撤退することは、グローバル競争から撤退することになりうると見ているからでしょう。

そうした見方に同意するか否かは、冒頭で述べたとおり、グローバル社会においてそれぞれの学問分野を学ぶ「本場」がアメリカの大学であるか否かにあるかでしょう。多様化するグロ—バル社会にあって、目指す分野も多様化し「本場」がどこにあるのかは一様ではなく、それぞれが真剣に考える必要があります。もしその「本場」がアメリカにあるとしたら、今は挑戦してみる絶好機かもしれません。というのは、これらの記事のどれを見ても、優秀な日本人に来て貢献してもらいたいとの願望が間接的に読み取れるからです。前述の2009年の秋に入学した日本人留学生がついに1名になってしまったとの報告は、Harvard大学の総長が直接日本を訪問して行った講演で伝えられたものです。(*9)もっと日本の高校生に留学してもらいたいからでしょう。

アメリカは、人文科学、社会科学、自然科学、ハードサイエンスなど多くの分野における先端的研究が盛んなところです。先端的な研究テーマは縦割り型ではなく融合型で、様々な分野がコラボレーションしなければ達成できません。世界中から様々な国の人たちが集まるアメリカには、先端研究が芽生える素地があります。多くの先端研究の分野の「本場」がアメリカの大学(leading universities)である可能性は高いと思われます。 それぞれの目指す学問分野の「本場」がまずどこにあるか確認し、アメリカであると判断したら、もう一度過去4回(第89回第90回第91回第92回)のTOEFL iBTテストとSATについて拙稿を読み直していただき、これらのテストにチャレンジすることを切に願います。

最後に、今回もここで揚げた資料を読んでみましょう。Critical ReadingとWritingの練習になります。

 

(*1)How many Japanese students in US universities?
(*2)https://www.quora.com/Why-are-so-few-Japanese-overseas-students-in-the-U-S-compared-to-the-number-of-students-from-other-Asian-countries
(*3)http://www.nytimes.com/2012/05/30/business/global/as-global-rivals-gain-ground-corporate-japan-clings-to-cautious-ways.html?_r=0
(*4)http://www.cbsnews.com/news/10-most-popular-universities-for-foreign-students/
(*5)http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2010/04/10/AR2010041002835.html
(*6)http://blogs.wsj.com/japanrealtime/2010/11/18/home-schooling-fewer-japanese-head-to-us-universities/
(*7)http://www.japantimes.co.jp/news/2014/11/17/national/number-japanese-students-u-s-colleges-dips-1-2/#.Vsv
(*8)上記の“Once drawn to U.S. universities, more Japanese students staying home”を参照のこと
(*9)上記の“Home Schooling: Fewer Japanese Head to U.S. Universities”を参照のこと

上記は掲載時の情報です。予めご了承ください。最新情報は関連のWebページよりご確認ください。