For Lifelong English

  • 鈴木佑治先生
  • 慶應義塾大学名誉教授
    Yuji Suzuki, Ph.D.
    Professor Emeritus, Keio University

第126回 How to Say Years in English? 揺れる年号の読み方-“Tokyo 2020”どう読む?

外国に行って数字の読み方が分からないと相当不自由します。支払い金額、年月日、時間、電話番号、住所等々、みな数字が絡んできます。行く前に一通り習っておいても、いざ現地で早口に捲し立てられるとただ戸惑うばかりです。習うだけではなく実際に使ってみないと身につかないということです。

筆者が担当した大学の英語の授業では、3桁、4桁の数字までは何とか言えてもそれ以上の桁数になると大部分の学生がお手上げでした。(*1)アメリカでも、筆者が担当した日本語の授業では、アメリカ人の大学生が日本語の数字の読み方に苦労していましたし、(*2)同じ頃に筆者が履修したフランス語の授業では、フランス語の数字に四苦八苦しているのが印象的でした。(*3)Indo-European Languages群でありながらGermanic languages(の中のAnglo-Frisian languages)系の英語とItalic languages(の中のGallo-Romance languages)系のフランス語とでは大きな違いがあり、一筋縄ではいかないようです。(*4)

ただ、日本語やフランス語に比べると、英語の数字は0から999まで言えて、thousand、million、billion、trillionの単位を覚えれば比較的簡単です。それぞれの単位はカンマで区切られて最大で3桁、すなわち、1~100までの当該数を言ってその単位の名称を付ければ、どんな大きな数字でも簡単に言えます。(*5)

234,578,031,150,634

アメリカでも珠算が流行っているようですが、1級ではこのくらいの桁は出てくると思います。慣れてしまえば、“Two hundred thirty four trillion five hundred seventy eight billion, thirty one million one hundred fifty thousand six hundred thirty four”の方が「234兆5千7百80億3千百15万6百34」より計算し易いですね。日本語の数字の読み方は単位ごとに違うので英語のそれより複雑です。日本語を習う英語話者はそう感じているようです。(*6)

ただし、ただ数字が読めればいいわけではありません。英語の数字の読み方は、年号、住所、電話番号などにより異なるからです。いずれも生活する上で非常に重要な事柄です。例えば、アメリカに着いて最初に直面するのは入国審査や税関でのQ & Aです。氏名、性別、年齢、職業、国籍、生年月日、目的地、滞在中のアドレスや電話番号、滞在目的や期間、出航年月日、航空会社、場所、所持金、所持品などに関してチェックされ、数字について書き込んだり聞かれたりする項目が結構あります。(*7)

今回は年号の読み方に焦点を当ててみましょう。実はこれがなかなか一筋縄ではいかないようで、ネイティブ・スピーカーの間でも揺れているのです。Edward Sapir(1884-1939)は、名著Languageで“language drift”(言語漂浪)(*8)と称し、歴史的な言語変化の現象を取り上げていますが、年号の読み方もその一例かも知れません。言語は生物のように生きている証拠でしょう。使い手の意識とともに変わっていくのです。

日本語でも同じです。来年の東京オリンピックに向けて「Tokyo 2020」と表記されたロゴがあちこちで見受けられます。「Tokyo二千二十」ではなく、「Tokyo二ゼロ二ゼロ」とか「Tokyo二マル二マル」と読む人の方が多いようです。
「Tokyo二零二零」でも良いですよね。日本語では西暦年号、例えば、前回の東京オリンピックが行われた1964年を一つずつ分けて「イチ、キュー、ロク、ヨン」と読む読み方も定着しているのでいずれも違和感がありません。

英語では西暦年号を半分に割けて読むのが普通です。よって1964年は「19」と「64」に分けて“nineteen sixty-four”です。この定則に従えば、今回の東京オリンピックが行われる2020年は、「20」と「20」に分け、“twenty twenty”です。まず、西暦年号の基本的な読み方をおさらいしましょう。無料動画サイトの一つを紹介します。(*9)

How to say the YEAR in English

これを機会に世界史や日本史で学んだ重要事項の年号を英語で言えるようにしておくよう勧めます。論文発表でも、引用著書・論文は、例えば、上記Sapirが1921年に出版した書籍Languageは、Sapir(1921)のように著者と発行年号のみで表記されることが多いので、年号を言えて聞けるようにしておく必要があります。(*10)それでは上記の動画から年号を読む上で重要なポイントを確認してみましょう。

(1)1984年 → “one thousand nine hundred and eighty-four”ではない。最初の2つの数字と最後の2つの数字、すなわち、19と84の2つに分けて“nineteen eighty-four”と読む。では、1066年, 1652年, 1941年, 2017年は?

(2)ただし、最後の2つの数字が01~09の場合、0は“zero”ではなく、アルファベットの“O”と同じ発音で/ou/と読む。 → 1602年は、“sixteen zero two”ではなく、“sixteen O two”と読む。では、1508年, 1709年, 1804年, 1901年は?

(3)また、最後の2つの数字が00の場合は、前の数字に“hundred”をつける。1600年 → “sixteen hundred”と読む。では、1200年, 1500年, 1700年, 1800年は?

(4)2000年 → “the year two thousand”と読む。では、1000年は?

(5)2001年から2009年は、“two thousand and one”のように、“two thousand and~”に当該数字を入れて読む。 では、2002年, 2003年, 2004年, 2005年, 2006年, 2007年, 2008年, 2009年は?

(6)2010年以降は、“two thousand and ten”か、従来通り、“two thousand ten”の2つがあり、どちらも正しい。しかし、後者の方が優勢。では、2011年, 2012年, 2013年, 2014年, 2015年, 2016年, 2017年, 2018年, 2019年, そして2020年は?

(7)自分の誕生日の年を言ってみよう。また、幼稚園、小学校、中学校、高校の入学と卒業年は?

(“How to say the YEAR in English” Woodward Englishより翻訳・一部加筆:鈴木)

上述した通り、東京オリンピックのロゴとして使われている「Tokyo 2020」の日本語読みは、一つ一つバラバラに読んでいますね。日本語の「二」に、英語の「ゼロ」、日本語の「丸」や「零」を合体させて複合語にしたもので、語呂合わせも良く、上述したとおり全く違和感がありません。

とは言え、年号を含めて数字の読み方は公式場面では重大事です。私たちの日常生活から世界中で行われている公私の活動において数字を読み違えたら大変なことになります。日本人の多くは2020年をバラバラにして読むことに親しんでおり、英語を話す時に“two zero two zero”と言ってしまうかもしれません。2020年には多くの外国人が訪れますが、そのうちの多くは、「Tokyo 2020」を“Tokyo twenty twenty”と読むことに慣れているでしょうから、日本語読みに戸惑うかもしれません。また、このロゴの日本語読みに慣れ親しんでいる日本人は、外国人が“Tokyo twenty twenty”と言うのを聞いて戸惑うかもしれません。

しかしながら、どうやら英語のネイティブの間でも、2000年以降の年号の読み方はまさに“drift”中と見えてかなり揺れているのです。幾つかサイトを紹介します。まず、Liz Potterという人が9年前にMacMillan Dictionary Blogに寄稿した“Saying dates”と題する記事です。

Saying Dates| Macmillan Dictionary”(揺れていることを示す記事)

「1900年は“nineteen hundred”なのになぜ2000年は“two thousand”と言うの?」との質問がPotter氏に寄せられました。映画2012(“twenty twelve”)の封切りをきっかけに、改めてyearsの読み方に関心が集まったのではと彼女は推察します。質問者は、22世紀のyearsの読み方はどうなるのか、2101年は“twenty one hundred and one”なのか、“two thousand one hundred and one”なのか、あるいは、“twenty one oh one”なのかと尋ねています。

どうやらこの混乱の発端は、millennium(千年紀)に当たった“The Year Two Thousand”(2000年)にあるのでは、とPotter氏は考えて次のように推察します。

2000年以前の年、例えば、1955年は“nineteen fifty-five”、1221年は“twelve twenty-one”などと定石通り読んで全く問題なかった。しかし、1000年は“(the year)one thousand”、そして、2000年は“(the year)two thousand”と言い、“ten hundred”とか“twenty hundred”とは言わない。それに引っ張られる形で、それら直後の、例えば、2002年や2003年は、原則どおりの“twenty oh two”とか“twenty oh three”ではなく、多くの人が“two thousand and two”や“two thousand and three”と言うようになったのではないか。(*11)

ところが、2010年になるとまた元のパターンに戻り、殆どの人が“twenty ten”と言ようになり、それ以後の年も、2015年を“twenty fifteen”と言うようになった。それでは2100年を人々はなんと言うだろうか、“two thousand one hundred”なのか、“twenty-one hundred”なのか、それはその時にならないと分からない、あえて言えば、ヒントは、1777年を両方でいい比べ、どちらがより迅速かつ簡単に言えるかを考えてみればわかるかもしれない。

以上Potter氏の推察です。要は、英語ネイティブ・スピーカーもyearsの読み方が一定せずに戸惑っている様子が見て取れます。他にも次のようなサイトがあります。

Saying years-how to speak, pronounce, year numbers...2020, 2090

スペイン語話者の次の問いかけで始まります。読んでみましょう。

Hello everyone!
I'm confused with years. We say 1994 (nineteen ninety-four) but 2001 (two thousand and one) But how do we say 2020? twenty twenty or two thousand and twenty? Does the same apply to 2090?
Thank you in advance!

この質問に何人かの英語話者が答えているので、クリックして読んでみてください。それぞれに微妙なズレがあり、英語話者の間でyearsの読み方が“drift”(漂流)している様子が見受けられます。

さらに、British English(BE)とAmerican English(AE)で多少のズレがあり、次のCambridge Dictionaryのサイトが両者の違いを比較しています。2017年10月4日付けのLiz Walterという人の記事です。

1066 and all that: How to Say Years”-Cambridge Dictionary

1345年はBEもAEも“thirteen forty-five”と読む。1407年など、3桁目に0が入る年号は、BEでは“fourteen oh seven”または“fourteen hundred and seven”と読むが、AEでは2番目の読み方は今では少々古めかしく、稀にしか使われない。1500年のように最後が00で終わる場合は、“fifteen hundred”、そして、1000年のように000で終わる場合は“(the year)one thousand”と読む。これはBEもAEも同じである。

ところが、2000年以後の年の言い方にBEとAEのズレが生じている。2003年はBEもAEも“twenty oh three”であるが、もう一つの読み方は、BEが“two thousand and three”であるのに対して、AEでは“two thousand three”と読む。London Olympicsが行われた2012年は、BEもAEも“twenty twelve”と読むが、もう一つの読み方は、BEでは“two thousand and twelve”であるが、AEでは“two thousand twelve”と読む。

1000年以前の年号の読み方、例えば、465年は“four sixty-five”で、BEでは“(the year) four hundred and sixty-five”とも読む。1桁や2桁の年号、例えば、15年には、AD(Anno Domini = in the year of the Lord)を数字の前または後ろに付けて、“the year one AD”“AD fifteen”または“fifteen AD”と読む。ちなみに、西暦0年はない。

紀元前BC(=before Christ)の年号の読み方はADに準ずる。350 BCは“three fifty BC”で、AD、BCが付けば年号と分かるので“the year”は必要ないが、特にBEスピーカーの中には“the year three fifty BC”と読むことにこだわる人もいる。ADとBCは1800年頃から使われ始めたが、現在の学術界では、CE(Common Era)とBCE(Before the Common Era)を代わりに使う。

Walter氏は、祖国英国にとって歴史上重要な年、1066年をこの記事のタイトルに挙げた理由を問うて閉じています。

And as for the title of this post – well, 1066 is the most well-known year in British history – do you know why?

この記事からも英語圏では年号の読み方でかなり揺れていることが分かります。言語が生きている証拠です。

さて、TOKYO 2020英語で正式にどう読んだらいいのでしょうか?ちなみに、Walter氏は“The 2012 Olympics”の公式の読み方は“the twenty twelve Olympics”であったとカッコ付けで指摘し、BEとAEの共通の読み方をベースにそう決めたであったことを匂わせています。これに倣うと、次回東京で行われる“The 2020 Olympics”の公式の読み方は、“the twenty twenty Olympics”ですね。

英語に比べると日本語では西暦でも元号でも読み方は一定していますが、英語では何やら大変のようです。これからTOEFL iBT® テストを受ける読者は、そんなことを織り込んだ上で歴史上の大事件の年号は英語で聞き取れ、かつ、スラスラ言えるようにしておきましょう。アメリカ留学生活で必須です。(*12)

(2018年12月3日記)

 

(*1)英語での数字の聞き取りに苦労していました。数字を聞き取れないと日常生活で支障をきたします。筆者自身1968年に渡米し最初に感じたことです。渡米直前に受けたTOEFL®テストのlisteningセクションで、様々な状況下に出てくる数字が聞き取れずお手上げ状態でした。現地生活で飛び交う数字に対応できるようになったのは、その1年後であったと記憶しています。
(*2)アメリカ留学中にTAとして担当した日本語クラスの学生さんのことです。アメリカ人は日本語には算用数字以外に漢数字があることを知ると、その読み方と書き方に興味を抱いていました。アラビア数字の0、1、2、3しか知らないアメリカ人には、零、一、二、三、四、五、六、、、百、千、万、億、兆などの漢数字の表記は新鮮に映るのでしょう。
(*3)フランス語では、例えば、1~60までの数え方はスムーズですが、70~99までの数え方は一捻りされています。70は60+10にして“soixante-dix”、80は4x20にして“quatre-vingt”、90は4x20+10にして“quatre-vingt-dix”と言います。71は60+11、81は4x20+1、91は4x20+11にすると理屈は分かってもその場で言ったり聞いたりするのに慣れるまで時間がかかります。筆者も何度かパリに行きましたが苦労しました。
(*4)Georgetown Universityの博士課程では、博士号取得の一条件として英語以外に2カ国語の能力を有することというforeign language requirementがありました。筆者は日本語とフランス語で登録しました。日本にいた頃も慶應義塾大学の英米文学科選抜試験や早稲田大学大学院英文学研究科入学試験で外国語(筆者はフランス語選択)の試験があり、文法書を読み、Maupassant, Camusなどの作品を原作で読んだ経験が活きました。アメリカの大学院留学を考えている読者は英語以外にもう一つの外国語をきちんと学んでおきましょう。何語でも良いです。オンラインで学習できます。
(*5)筆者担当の英語授業では、数字がスラスラ言えないとproject、presentation、discussionで支障を来たします。よって最初の時間に必ず取り上げて訓練し、授業で使いながら覚えられるように配慮しました。
(*6) 最近珠算が脚光を浴びているようです。筆者も高校時代に珠算の授業があったので一通り習いました。特に暗算はアメリカ留学中に大変役に立ちました。3、4級を取得すれば結構の桁数の暗算ができるようになります。日本の珠算教室でも英数字でされてはどうでしょうか。既にされているかもしれませんが大変役に立ちます。1級や段持ちになると大変な桁数を立ち所に暗算で計算してしまいます。
(*7)筆者は1968年にホノルルで入国審査を受けましたが、日本はまだ戦後復興中で貧しくアメリカへの入国審査は今では考えられないほど厳しかった時代です。矢継ぎ早に浴びせられる質問にドギマギしたのを鮮明に覚えています。
(*8)Edward Sapir(1884-1939)主要著書Language(1921)。アメリカ留学を考えている読者は読んでおきましょう。
(*9)このサイトを開いて聞いてみましょう。TOEFL iBTテストのlistening comprehensionでは難易度の低いlisteningに該当します。ところで、「Tokyo 2020」の「2020」を「二ゼロ二ゼロ」と読めるのなら、「昭和80年代」を「昭和八ゼロ年代」とバラバラに読んでも良いはずですが違和感があるのは何故でしょうか。本コラム(「第65回」「第91回」)ではネットを利用して触れることができるこのような英語自動学習サイトや方法も紹介しております。高額な英語学習教材を買わなくても無料で空き時間にアクセスして利用できるサイトを探してみましょう。幼児から成人まで無数のEFL/ESL教材があります。中にはinteractiveなものもあり、聞くだけ、読むだけのものとは違い、より効果的なものがあります。英語以外の外国語の自動学習サイトもあります。Swahili語も学べます。
(*10)表記の仕方は学術学会により違います。本コラム第125回で紹介したWriting Style Guidesに具体的な表記法があります。また、重要な年号を実際に口に出して言ってみましょう。聞くだけでは上達しません。
(*11)1000年より前のyears、例えば、800年は、“The Year eight hundred”または“eight hundred AD”と、“the year”または“AD”をつけて言うことにより、単なる数字の800と差別化していること、何か決まったルールがあるわけではなく単にアドホック的であること、などを指摘しています。
(*12)TOEFL iBTテストを受験しようと考えている読者は、今回も、本稿で引用したサイトの記事や動画をしっかり読み、見てください。いずれも中級レベルです。余白の関係で筆者がまとめたのは要点のみで、詳細は自分で把握してみましょう。他の関連サイトもチェックしましょう。尚、本稿中引用した記事の表記の仕方はできる限り当該記事のままにしました。

上記は掲載時の情報です。予めご了承ください。最新情報は関連のWebページよりご確認ください。