For Lifelong English

  • 2014.06.10
  • 鈴木佑治先生
  • 慶應義塾大学名誉教授
    立命館大学客員教授

第71回 グローバル社会のプラットフォーム、ICTとグローバル英語

グローバル化が加速しています。ICT(Information Communication Technology)の進歩と普及がその要因です。国、市町村、企業、団体、そして個人もICTを避けてはグローバル化に参入できません。筆者は1990年に村井純氏(*1)がデジタル・テクノロジーにもたらされるであろうICT革命について話すのを何度か耳にしましたが、当初は絵空事としか思いませんでした。しかし、1994年の英語クラスでコンピュータ・プロジェクトを組んだ学生達が、The Mosaic Handbook for the X Window System (*2)という英文ハンドブックを読み、クラス用のサイトを立ち上げるのを見て考え方を変えました。現在のWeb サイトの前身で、新聞・報道・出版に頼らず個人が情報発信基地になる時代が到来することを直感したのです。その他の学生もコンピュータ・ショッピング、遠隔授業、電子出版、自動車の自動運転等などのプロジェクトをしておりましたが、今ではすっかり現実のものになりました。デジタル・テクノロジーを駆使したICT環境が更に進歩し、安価で提供されることになり、誰もが何時でもどこでも使えるようになりました。そうしたインフラがあってもコンテンツとグローバル言語を駆使した発信能力が無ければ宝の持ち腐れになってしまいます。コンテンツは創造性に富む独自なものが求められるでしょう。よって、地域の言語、文化そして個々人の個性に裏打ちされるものでなければなりません。グローバル社会はICTに呼応する汎用性の高い言語として英語を選んでしまったようです。一言で言えば、約72億人を抱えるグローバル社会のプラットフォームはICTとグローバル言語としての英語を中心に構成されており、その上で独自のコンテンツを開発して発信することで社会も個人も利することになります。

この感を強めたのは、4月に旅行をかねて筆者を訪ねて来てくれたアメリカ時代の教え子夫妻の何気ない一連の行動です。教え子と言っても50代後半の女性で、夫は60才です。4月3日に成田につき、それから約20日間、横浜→静岡→京都→奈良→大阪→神戸→岡山→愛媛→広島→博多→沖縄竹富島→東京の順に回り、4月26日にニューヨークに戻って行きました。旅行代理店に頼まず、自分たちで行きたいところを探して旅行計画書(itinerary)を作成したそうです。もちろん、事前に筆者の意見も聞いて来ましたが、大部分はネットで調べて決めたそうです。ネットには英語圏の人のみか世界中の人たちから、英語でそれぞれの観光スポットやレストランやホテルなどの書き込みが寄せられ、それらの情報を基に行くところを決めているようです。

教え子夫妻がネットで、日本には1日しか滞在できないとしたらどこを訪れるかという質問をしたところ、世界中の旅行者の多くが「京都」と答えていたそうです。筆者も過去6年間京都近郊におりましたが、確かに観光シーズンになると外国人の姿が目立ちます。恐らく、京都では訪れた人たちのみならず、市当局や市民もその魅力を英語で発信しているからでしょう。しかし、残念ながらそれは日本国内での比較に過ぎません。インターネットで日本の主要都市と欧米の主要都市を入力して2014年4月30日現在のヒット件数を比較してみました。

Japan
Tokyo → 188,000,000 件 (0.25 秒)
Kyoto → 24,000,000 (0.27秒)
Osaka → 36,100,000 件 (0.38 秒)
Fukuoka → 11,000,000 件 (0.36 秒)
Sapporo → 8,990,000 件 (0.37 秒)

Other Cities
New York City → 4,170,000,000 件 (0.40 秒)
Washington, D.C. → 1,390,000,000 件 (0.26 秒)
Los Angeles → 1,880,000,000 件 (0.30 秒)
Chicago → 305,000,000 件 (0.30 秒)
San Francisco → 1,670,000,000 件 (0.31 秒)
London → 478,000,000 件 (0.27 秒)
Paris → 433,000,000 件 (0.37 秒)
Rome → 89,900,000 件 (0.28 秒)

これらヒット数は、各都市のグローバル社会における情報発信度を示すものです。もちろん、そのまま都市の人気度、特に旅行先の人気度を示すものではないでしょうが、ネット上のインターラクションにおける各都市の趨勢を示していることは確かです。この夫婦のようにインターネットの情報を基に行く先を決めることを考えると、旅行もネット・インターラクションの一部で無視できません。日本にもう少し旅行者を呼びたいのであるなら、地方自治体だけではなく個々の市民もネットを使い、日本語のみならず英語で発信すべきでしょう。

教え子は決してICTに強いようには見えませんが、主人の方はマメです。携帯を使って写真や動画を撮りそれをFacebookにあげて、ニューヨークや世界各地に散らばる友達に送っていました。皇居(一般に解放された宮中の桜並木)、築地の寿司屋、日本平から眺めた富士山の写真をはじめとして、その後訪れた場所や生活風景の素晴らしさをFacebookにアップして行きました。かつて習った日本語を使いながら多くの人と出会ったことを宝にアメリカに戻って行きました。それを見た友人たちも行ってみたいと思うでしょう。

New Yorkのマンハッタン在住の彼らが旅の最後に選んだのは、日本の最南端の竹富島でした。厳しい寒さを避けて暖かい気候と透き通る海を求め、ネットで探していたところ、目に止まったのが竹富島の民宿のWebページだったそうです。筆者でさえ訪れたことのない小さな島の魅力が世界中に発信されているのですね。Facebookの写真を見て行ってみたくなりました。

さて、はじめてこのコラムを読む読者の中には、かく言う筆者が上記のことにどう対応しているのか疑問に思われる方がいるかもしれません。筆者はここ20余年「プロジェクト発信型英語プログラム(Project-based English Program (PEP))」を立ち上げて来ました。目標は、グローバル社会のプラットフォーム作り、その上で学生が独自のプロジェクトを行い成果を発信することです。かなり浸透して来ました。インターネットでproject、based、English、programと入力して検索してみてください。約53,900,000ものヒット数があります。筆者ら以外にも多くの方々が発信型の試みをされているようです。その中で筆者らのPEPが筆頭にあることは誇らしく思います。筆者らの学生や卒業生がこのプラットフォームでどんどん発信している結果でしょう。

「教え子」夫妻と筆者夫婦

築地寿司店にて教え子(女性)夫妻と筆者夫婦
築地寿司店にて教え子(女性)夫妻と筆者夫婦

>皇居にて教え子夫妻と筆者夫婦
皇居にて教え子夫妻と筆者夫婦

日本平にて教え子夫妻
日本平にて教え子夫妻

(*1)TOEFLメールマガジン「第49回 慶應義塾大学環境情報学部長教授 村井純先生インタビュー」はこちら
(*2)D. Doughty, R. Koman, and P. Ferguson. 1994. O’Reilly & Associates, Inc., Canada.

上記は掲載時の情報です。予めご了承ください。最新情報は関連のWebページよりご確認ください。