For Lifelong English

  • 鈴木佑治先生
  • 慶應義塾大学名誉教授
    Yuji Suzuki, Ph.D.
    Professor Emeritus, Keio University

第134回 「第8回科学の甲子園全国大会」優勝校2019 Science Olympiad National Tournament参加の為の事前英語研修報告(1)- Global Ambassador Team From Japan参戦し大健闘の5年!

毎年3月末に「科学の甲子園全国大会」(科学技術振興機構JST主催)が行われます。優勝校チームは、アメリカScience Olympiad(SO)が主催するScience Olympiad National Tournament(SONT)の高校生の部Division Cに、Global Ambassador Team From Japanとして招待されます。本コラムを掲載するTOEFL® Web Magazineの発行機関ETS Japanは、2015年の「第4回科学の甲子園全国大会」よりSONTに参加に向けた事前英語研修を提供してきました。

筆者は、その当初より本英語研修プログラムの企画、運営、担当に携わり、今年で5年目になります。ETS Japan根本斉氏(*1)からこの話を最初に伺ったのは、5年前の2014年の末です。「科学の甲子園全国大会」とSOの資料を提示しながら、根本氏は、以下のようなことを述べました。

「科学の甲子園全国大会」の優勝校がSONTに招かれている。これまでも競技に参戦してきたが、事前英語研修がないまま参加した。それでも善戦したが、事前英語研修を受ければさらに良い結果が期待できる。Global Ambassador Team From Japanとして招待されており、ETS Japanは副賞として事前英語研修を提供したい。それがまた日本の英語教育の向上に繋がるものと思う。その企画・運営に協力願いたい。

快諾した筆者は、早速、Science OlympiadのOfficial Siteを開け、その理念、趣旨、目的、沿革、実績を読み、ネット上にuploadされているSONT events関連の動画を見ました。どれも、問題発見・解決型で、個人競技ではなくチーム競技で、チーム・ワークを前提とした実用・実践的なプロジェクト型の熱気に溢れたeventばかりです。

当初からSONTに招待され見るだけではなく直接参加できたことは大変有意義であったと思います。また、交流も深まり貴重な情報を得たと聞いております。他方、甲子園の全国高校野球大会で活躍した高校球児たちは、選抜チームを組んで本場のアメリカの高校球児の選抜チームと交流試合をしているという事実があります。しかも、日本チームは何度も勝ち善戦しているのです。

「科学の甲子園全国大会」優勝校チームも、アメリカのサイエンスの精鋭が集まって戦うtournamentに参加し、事前に英語発信力をつけておく必要性を痛感したことでしょう。そうした高校生たちの声を受け、「科学の甲子園全国大会」を主催する方々、また、ETS Japanを含めた支援団体の関係者の方々が、事前英語研修を導入しようと決断されたのではないでしょうか。

改めて、Science Olympiad(SO)のMissionを開いて読んでみましょう。

Science Olympiad| Mission
SOは非営利団体で、そのゴールは、アメリカの幼稚園から高等学校までの義務教育(K-12=kindergarten-12th grades)のサイエンス教育の質を高めること、男、女、マイノリティ・グループのサイエンスへの興味を育くむこと、technologyに長けた労働力を創生すること、生徒、教員による優れた成果を評価すること、などである。これらのゴールは、地域大会そして全国大会で繰り広げられる中・高生用のSO events(competitive)や小学生用のSO events(non-competitive)に参加することにより達成される。その為にはSOをカリキュラムに取り入れることが望まれ、教員がトレーニング・プログラムに参加することが不可欠である。

SOの使命は、エキサイティングなトーナメント競技、および、STEM(Science, Technology, Engineering, Mathematics)のイノベイティブなコンテンツを国内の生徒、教員に紹介し、カリキュラムに活かせるよう教員向け開発ワークショップを企画・運営することである。

SOは以下のことがらに専心する:
・実践的(hands-on)かつ標準的(standards-aligned)STEMコンテンツを企業や教育関係のパートナーと共同で開発する。
・ボランティアやメンターがSTEMの専門知識を共有するプラットフォームを提供する。
・生徒のチームワーク、問題発見・解決、コラボレーションを育む機会を創生する。
・生徒と教員による優れた成果を正当に評価する。
・男女マイノリティの生徒がSTEMコースを履修するよう奨励する。
・強力なSTEM分野の労働力を構築する。

                    

(“Science Olympiad | Mission”より 筆者翻訳)

ここで強調されているポイントは、地域予選とSONTの全eventsは、参加することによってのみ上記のゴールを達成できるよう工夫されていることです。逆に、参加しなければこのような趣旨・目的を達成できないということになります。よって、「科学の甲子園全国大会」優勝校チームで構成されるGlobal Ambassador Team form Japanも「科学の甲子園全国大会」開始から競技に参加し、多くを学んできたことでしょう。そして、参加5年目からは、事前にしっかり英語研修を行い、上記のMissionを理解し万全な準備をしよう、と思うに至ったのは自然の流れであったと言えます。

このMissionで強調されている重要ポイントは、SOがサイエンス教育の向上を使命とするということです。その為に、tournament eventsがサイエンスのカリキュラムの一環となることを目指し、教員の情報交換とトレーニングをサポートするシステム・プログラムを備えるなどの工夫を凝らしています。甲子園全国大会を目指す高校野球も高等学校教育の一環として取り入れられてきました。野球だけではありません。全ての課外活動もしかりです。そこで生徒が学んだことがその後の人生に大きな影響を与えていることは周知の通りです。サイエンスにおいても、オリンピック競技に見立てた競技種目を作り、カリキュラムや課外活動に取り入れることにより同様の効果が期待できます。

そこで、SOの地方予選と全国大会(SONT)におけるeventsが重要な鍵を握ることになります。上記“SO Mission”から、SOのeventsに関する重要ポイントを拾ってみます。

K-12のサイエンス教育の質の向上につながること。K-12における生徒(男/女/マイノリティ)や教員のSTEMコースの履修を促すこと。テクノロジー・リタラシーを付けた労働力を育むこと。学校のカリキュラムに反映できること。“Exciting”そして“competitive”であること。生徒にも教員にも“innovative STEM content”であること。企業や教育者と一緒に“hands-on”かつ“standards-aligned STEM content”の開発が可能であること。生徒の“teamwork”そして“problem solving”(問題発見・解決)“collaboration”を促進すること。

これらのポイントから、サイエンスを得意とする生徒のみならず得意としない生徒の参加を促し、サイエンスへの興味を高揚させるeventsであることが読み取れます。また、男女、マイノリティーも含めて様々なバックグラウンドの生徒にサイエンスへの関心を向けさせるeventsであること、生徒同士、そして、生徒と教員がコラボレーションすることを前提としているeventsであること、そして、文系・理系の枠を超え、様々な特技を結集させなければ立ち向かえないイノベイティブなeventsであること、等々が読み取れるでしょう。(*2)

教員は地方予選と全国大会(SONT)のeventsには参加できないものの、授業や課外活動を通し、より良い解決方法を探るために豊富な経験を活かしてコーチングをするよう促されています。また、教員以外にも企業を含む地域社会のexpertsの参加も示唆されています。生徒同士は言うに及ばず、教員、地域社会とのコラボレーションを推奨し、そうすることでサイエンス教育の質の向上への関心を高めようとしているのでしょう。

改めてSONTのeventsを見てみましょう。既に2020年度のSONTのeventsが公表されています。大枠は毎年ほぼ同じです。来年の「科学の甲子園全国大会」での優勝を目指すチームは下線部を一つずつクリックして読んでおくと良いでしょう。

2020 SONT Division C Events
LIFE, PERSONAL & SOCIAL SCIENCE−5
Anatomy and Physiology,Designer Genes,Disease Detectives, Ornithology,Water Quality
EARTH AND SPACE SCIENCE
Astronomy, Dynamic Planet, Fossils, GeoLogic Mapping
PHYSICAL SCIENCE & CHEMISTRY
Chem Lab, Circuit Lab, Forensics, Machines, Protein Modeling, Sounds of Music
TECHNOLOGY & ENGINEERING
Boomilever, Detector Building, Gravity Vehicle, Wright Stuff
INQUIRY & NATURE OF SCIENCE
Codebusters, Experimental Design, Ping-Pong Parachute,Write It Do It 

                    

(“2020 Division C Events” より)

Life, Personal & Social Science、Earth & Space Science、Physical Science & Chemistry、Technology and Engineering、Inquiry & Nature of Scienceの5分野に分け、それぞれに複数個のeventsがあり、合計23個のeventsで競われます。個々のeventは分野横断的、複合的、多面的、かつ、流動的です。殆どが、正解というより複数の解決案からより効果的なものを求めて競わせるeventsと言ってよいでしょう。多様な能力をもつメンバーが、知見と経験に富む教員らのアドバイスやコーチングを受けながら、持てるものを出し合い一丸となって準備できるチームが俄然有利と言えます。

旧来の知識伝授型から問題発見解決型、プロジェクト発信型へのパラダイム・シフトが不可欠です。これだけ広範囲で複合型のeventsを競うわけですから、実際に競技するのは生徒ですが、ちょうどスポーツのクラブの監督やコーチのように、教員が事前準備に積極的に参加するよう勧めています。また、地域社会、公的機関、企業などのexpertsにも参加してもらい、準備から実際の競技に相対するまで、生徒を中心とした一大プロジェクトとして展開することが勝者への道であることは明白です。

こうしてみると、本コラムで何度か紹介してきた慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス、立命館大学生命科学部・薬学部、その他の大学、また、幼児、小学生、中学生、高校生を対象に筆者が構築し、実践したプロジェクト発信型英語プログラムProject-based English Program(PEP)の理念にぴったり合致すると思いました。(*3)根本氏は、筆者のSFCと立命館の授業に何度も参加され、(*4)このことを周知の上で筆者に声をかけたのでしょう。また、Lifelong Englishを掲げる筆者は、高校生用プロジェクト発信型英語プログラムを推進する上で絶好のチャンスと考え、企画、担当の任を取らせていただくことになりました。

かくして、2011年より「科学の甲子園全国大会」優勝校は、Global Ambassador Team From JapanとしてSONTに参戦してきたわけですが、SONTにしっかり定着し、SONTのサイトで大きく紹介されるようになりました。

GLOBAL AMBASSADOR TEAM FROM JAPAN
In 2009, Board Members Dr. Gerard Putz and Jim Woodland traveled to Tokyo, Japan, to present Science Olympiad concepts to Japanese education officials from the Ministry of Education (MEXT) and the Japan Science and Technology Agency (JST) at "Science Agora." A partnership between Science Olympiad and JST was born, founded on a shared passion for making science competition fun and exciting for all students. In March 2019, JST hosted its 8th Annual Japan High School Science Championships (JHSSC), where the Grand Prize for Kaiyo Academy in the Aichi Prefecture is a trip to the 2019 Science Olympiad National Tournament at Cornell University. In 2015, the JHSSC added a Science Olympiad tradition to the contest, the ever-popular Swap Meet! As they did at the 2012-2018 National Tournaments, Japanese students will meet their American peers and participate as unranked guests in selected Science Olympiad events. Pictured: 2019 JHSSC Winners from Kaiyo Academy in Japan!

第134回 「第8回科学の甲子園全国大会」優勝校2019 Science Olympiad National Tournament参加の為の事前英語研修報告(1)
2019 Science Olympiad National Tournamentより)

過去4回の「科学の甲子園全国大会」優勝校、渋谷教育学園幕張高等学校、海陽中等教育学校、岐阜県立岐阜高等学校、栄光学園中学校・高等学校チームの本研修での活動内容と善戦の成果については以下のサイトに記載されています。

(1)第86回 「平成27年第4回科学の甲子園」優勝校、渋谷幕張学園高等学校、米国Science Olympiad出場の為の事前英語研修の講師として
(2)第99回 「第5回科学の甲子園全国大会優勝校「2016 Science Olympia National Tournament 参加に向けた英語研修」について
(3)第112回 「第6回科学の甲子園全国大会」優秀校「2017 Science Olympiad National Tournament参加に向けた英語研修」
(4)第123回 「第7回科学の甲子園全国大会」優勝校「2018 Science Olympiad National Tournamentに向けた英語研修」の報告

また、参加した生徒の成果と感想については以下のサイトを参照してください。

「第4回科学の甲子園全国大会」優勝校スペシャル対談 ―前編―
「第4回科学の甲子園全国大会」優勝校スペシャル対談 ―後編―
「第5回科学の甲子園全国大会」優勝校スペシャル対談 ―前編―
「第5回科学の甲子園全国大会」優勝校スペシャル対談 ―後編―
「第6回科学の甲子園全国大会」優勝校スペシャル対談 ―前編―
「第6回科学の甲子園全国大会」優勝校スペシャル対談 ―後編―
「第7回科学の甲子園全国大会」優勝校スペシャル対談 ―前編―
「第7回科学の甲子園全国大会」優勝校スペシャル対談 ―後編―

さて、2019年「科学の甲子園全国大会」優勝校の海陽中等教育学校(Kaiyo Academy)は、上記の本コラム第99回にあるように、2016年にも優勝し、2016 SONTに参加しています。よって、今回の2019 SONT参加は2度目の参加です。しかも直近の3年間ですから、2016 SONTに参加した先輩たち、そして、コーチの先生からSONTについての情報を集めているに違いありません。SONTの常連校で2019年度も含めて何度も優勝している Troy High Schoolなどには、こうした伝統がしっかり根付いているようです。

Troy High School

ちなみに、Troy High Schoolは、文武両道の公立高校です。他の有力校をみても、先輩から後輩へとknow-howが伝えられ、地域予選から準備に準備を重ねてかなり意欲的に立ち向かっていることが分かります。

筆者は、この3月末、2019年の「科学の甲子園全国大会」の表彰式を参観し、優勝した海陽中等教育学校の喜びの大歓声が上がる中、準優勝になった2018年の優勝校の栄光学園中学校・高等学校の生徒さんたちの顔に、準優勝になった喜びと同時に悔しさがにじみ出ているのを感じました。昨年優勝して2018 SONTに参加した栄光学園中学校・高等学校の生徒さんたちは、第123回コラムとインタビューにあるように、2018 SONTにかなりの準備をして意欲的に臨んだチームです。優勝メンバーの全員がSONTに参加し、2019 SONTに向けて一層の準備をしていたのに違いありません。それが叶わなかったことへの悔しさであったかもしれません。

2019年の「科学の甲子園全国大会」優勝校の海陽中等教育学校にも、表彰式の後、プレス・リリース後に設けられた筆者との短時間の挨拶と歓談で、前回優勝した時以上にSONTへの闘志と意欲を感じ、既に何らかの準備をしてきたことを感じました。優勝チーム全員が2019 SONTに参加し、Forensicsで6位入賞に僅かに届かなかったものの7位という好成績を上げるなど、Global Ambassador Team From Japanの名声を高めました。これは2015 SONTで渋谷教育学園幕張高等学校の生徒2人がBungee Jumpで4位に入賞した時以来の快挙です。

これまでの本英語研修報告書にあるように、2015年から2019年までに参加した競技で、Global Ambassador Team From Japanは、20位前後の成績を収めています。準備に許された総時間数の少なさを考えると大変な快挙です。筆者はふと考えました。上述した通り、夏の全国高等学校野球選手権大会が終わると優勝校を中心に全チームから優秀な選手が選抜され、アメリカや他の国々の選抜チームとの国際試合が行われます。SONTは5分野23eventsがあり米国チームは全種目にエントリーして競っていますが、日本からのチームは現段階では優勝校の生徒を中心に4eventsしかエントリーしていません。

「科学の甲子園全国大会」の優勝校を中心に全チームから優秀な生徒を選抜し、Ambassador Team from Japanを結成し、全23eventsにエントリーして競わせたら相当素晴らしい成績を上げるものと予想します。その中から世界のトップ研究機関で学び、将来のノーベル賞や他の国際科学賞をもらうような人材が出ると素晴らしいですね。(*5)次回の「第8回科学の甲子園全国大会」優勝校2019 Science Olympiad National Tournament参加の為の事前英語研修報告(2)」では、2019 SONT海陽中等教育学校チームの研修の模様を報告します。

(2019年8月9日記)

(*1)当時は事業統括本部長。現在は一般社団法人 CIEE国際教育交換協議会代表理事
(*2)“Fermi Questions”や“Write It Do It”と称するeventsはその良例です。前者は地理、社会、歴史、文化などの分野の幅広い知識を要し、後者は、文章表現、デザイン、工作、芸術、コミュニケーションなどの幅広い能力を要します。前者は人文科学、社会科学でも要され、後者はハイテク機器の分かりやすいマニュアルを書くのに要される能力です。
(*3)インターネットで“Project-based English Program”またはPEPと入力すると、筆者がこれまで行ってきたPEP授業や活動のサイトがいくつか出てきます。PEP用テキストである拙著『プロジェクト発信型英語-Do Your Own Project in English, Volume 1 & Volume 2』(鈴木佑治、南雲堂、Yuji Suzuki, Nan’undo, Tokyo 「テキストしようマニュアル」付き)、および『Readings in Science―in association with Nature 最新科学と人の今を読む』(鈴木佑治、南雲堂、Yuji Suzuki, Ph.D. Nan’undo, Tokyo)を参照してください。
(*4)筆者の学部・大学院の全授業は参加することを条件に国内外のビジター大歓迎でした。オンラインテレビ会議システムでの参加も含み、相当数の方々が参加されました。全授業がproject-basedであったため、ビジターも何らかの形で学生のprojectsに参加しました。
(*5)「全国高等学校野球選手権大会」や「全国高校サッカー選手権大会」などでも甲子園大会や全国大会への出場が決まると先輩などから寄付金が集まります。筆者の母校も全国高校サッカー大会で全国制覇をした年にはかなりの寄付金が集まったと聞いております。「科学の甲子園全国大会」やSONTでも先輩から浄財が集まると良いですね。公立のTroy High Schoolなどはどのようにしているのか興味が湧きます。「科学の甲子園全国大会」優勝校は、SONTのevents用に市販されているkitsや生徒・コーチ向けのマニュアルのCDを買う資金も不足しているのが現状です。これまではそれ無しでも、しかも、短期間の準備で善戦していますので、それらを入手できる資金があれば、参加の4つの全eventsで6位入賞することは夢ではありません。

上記は掲載時の情報です。予めご了承ください。最新情報は関連のWebページよりご確認ください。